転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第一章 幼少期の王宮での暮らし

第二十三話 古代における魔素のコントロール方法

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 空気中の魔素をコントロール出来る魔術師は、現在存在しない。
 そう、紫竜ルーシェ以外、空気中の魔素を操ることの出来る者はいないのだ。
 だから、王宮魔術師レネがそのコントロールの方法を調べる先として選んだのは、古代の文献であった。
 
 太古、まだこの地上に濃厚な魔素が溢れ、妖精達が飛び交い、神々がこの世を闊歩していた時代、魔術師達は空気中に膨大として在った魔素を魔法の源としていたという。
 それは遠い遠い昔の話で、文献も難解な古代の言語で書かれている。
 読むことも一苦労であったが、レネは古代の魔法事情について詳細に書かれている文献を見つけ出し、解読した。
 それには非常に時間がかかった。

 紫竜ルーシェの話を聞いてから、レネが文献を探し出し、解読を終えるまで四か月超の時間がかかっていたのである。
 その間、紫竜は非常にやきもきしていた。
 あと二か月で北方に行くのに、未だにルーシェは大きな竜に変わることが出来ていなかった。
 このままだと柴犬サイズで、王子を背中に乗せることになるのだ。
 そんなことになったら、きっと王子の母親であるマルグリッド妃は怒り狂って、ルーシェを魔術師達に叩き売るのではないかと思って、ルーシェは怯えていた。

 連日解読作業にいそしんでいた王宮魔術師レネが、ルーシェ達の前にやつれた様子で現れた。
 元から細い男であったが、その時の彼はすっかりやつれ果て顔色も悪かったが、目だけがギラギラと興奮したように輝いていた。

「殿下、ようやく解読できました」

 そう言って、レネは人払いを求めた。
 部屋にはまた、アルバート王子、護衛騎士バンナム、リヨンネ、そして王宮魔術師レネと紫竜が残される。
 レネはテーブルの上に、一枚の紙を広げた。

「魔素について書かれた文章を見つけました。膨大な文献からその部分を探すのが大変でした」

「でかしたぞ、レネ」

 王子がレネを褒めると、レネは「有難うございます」と答えながら、その紙の文字を指でなぞりながら話し始めた。

「これはその魔素の話の部分を私が転記したものになります」

 ミミズがのたくったような、くねくねとした古代の文字はとても判読出来ない。だから、レネが解説することを皆、固唾を飲んで待っていた。

「空気中にある魔素は、魔素で制するのです」

 そのレネの言葉が理解できず、リヨンネも王子も、そして紫竜もぽかんとしていた。

「なんだそれは、わけがわからないぞ」

「ピルピルル(そうだそうだ)」

「もう少し詳しく説明してくれ」

 それにレネは、紙に描いてある絵を指さした。

「紫竜は、直接魔素を掴んでコントロールしようとしていませんか」

 そうである。
 ルーシェは空気中の魔素を、魔法に必要な分だけ掴んで練り上げて、それを魔法に使おうとしている。だが、制御がうまくいかずに湖に落としている。そして湖の中で弾けさせている。
 レネはそうではないと言った。

「魔素は魔素によって扱うしかないのです。いいですか、古代での、魔素の訓練はこういう感じでやります。空気中の魔素の大きな包みをつくるイメージで、そしてそれで必要な魔素を包み込むのです。魔素は魔素でしか扱えません。包みのイメージの他はコップや鍋という容器が使われたようです。魔素で作った包みや容器のその中に魔素を入れて、それを使うのです」

「………………………ピルル(えっ、マジ?)」

 紫竜はなんとも言えぬ表情をしていた。
 魔素のコントロールが難しいのに、それで器を作るとか包みを作るとか、そんなことがそもそも出来るはずもない気がした。
 だか、レネは言った。

「いいですか、この文献にもハッキリと書いてありますが、魔素を使おうと最初から直接こねくり回したりするのがダメなのです。心中は清明で、ただそこに魔素があることを認め、そしてその魔素の袋に魔素を入れるイメージをするのです。魔素の袋の中に入れた魔素は、魔法の源として扱うことが出来るのです。最初からそれを直接使おうとするのはダメです。そこに魔素を入れる袋があり、その袋の中にある魔素を使うのです」

「……………ピルゥ(なんだそりゃ)」

 とりあえず、実際にやってみるのがいいだろう。
 紫竜は一人、尖塔に行って試してみると王子に言った。
 王子もついていこうとしたが、紫竜は一人で大丈夫だと告げた。
 紫竜も半信半疑であったのだ。そんな魔素で袋を作るイメージをして、その袋の中に詰め込んだ魔素なら使えるとか、なんだそれはという思いがある。
 
 そして紫竜は尖塔に向かって一人飛び立って行った。



 それから一刻ほど経った時、戻って来たのは、一頭の美しい紫色の成竜であった。
 当然、王宮の女官や侍従達は突然の大きな竜の飛来に大慌てで、近衛騎士が呼ばれる騒動になりそうなのを、アルバート王子が止めた。
 
「ルーシェなのだろう」

 王子は問いかけた。
 青空の下、竜は静かに王子の部屋の前の中庭に降り立っていた。
 首の長いどこか優美な紫色の竜は、いつものように「ピルルル」と返事をした。
 柴犬サイズであったルーシェが、救急車サイズにまで成長している。
 十分、背中に王子を乗せるに耐えられる大きさであった。

 塔に飛んでいった小さな竜は、望んだのだ。
 魔素で作った袋の中に、詰め込めるだけの魔素を詰め込み、そしてそれを使って望んだ。
 ここずっと考えていた望みだった。

 王子を背中に乗せることの出来る大きな大きな竜になりたい。
 柴犬サイズはダメだ。
 それは違う。しっかと王子を背中に乗せて、空を飛ぶことのできる竜になりたい。





 変化が始まった時、紫竜はすぐに塔の窓から飛び出した。
 塔の中にいたのなら、その成長した大きさで塔を壊してしまうと思ったからだ。その判断は正解だった。
 空中に飛び出した瞬間、彼は変化した。
 小さかった翼は更に大きく広がり、一枚一枚の鱗が艶やかな紫色の輝きをたたえ、大きな黒い瞳は黒曜石のような光を放っていた。それは美しい竜であった。

 王子の為にようやく大きく成長した紫色の竜は、いつものようにアルバート王子の胸に頭を擦りつける。
 今や大きな体の紫竜に、そうされると押されるようになったアルバート王子は少しよろけてしまったが、いつものように愛し気に竜の頭を撫でるのだ。

「よくやったな、ルー」

 その言葉が何よりも嬉しくて、紫竜は喜びの声を上げていた。


    *


 大人のサイズに成長した紫竜は美しかった。
 王子の部屋の前の中庭に、紫竜ルーシェは降り立った。
 薄い皮膜の翼を広げた様子は、神々しいまでの姿である。
 竜に関して目のない学者のリヨンネは、成長した紫竜の姿を見て棒立ちになっていた。
 口は大きく開いたままである。

 間違いなく目の前の竜は、リヨンネがこれまで見たことがないと思うほど、美しく優美な竜であった。
 北方地方には多くの竜が野生のものも含めて生息している。大きくてがっしりとした巨体の竜達は、リヨンネはそれぞれ野性味もあって美しいと思っていたが、こんな宝石のような優美さのある竜は初めて見た。リヨンネは成竜となったルーシェから一瞬たりとも目が離せなかった。
 
「はぁ……すごい」

 その目はうっとりとしていた。
 早速、アルバート王子が紫竜の背に跨ろうとしていた。現在九歳の少年のアルバート王子が一人でルーシェの背に乗るのはなかなか大変なようである。ルーシェが膝を曲げて座り、首を下げてアルバート王子がその背に登りやすいようにする。
 それを、護衛騎士バンナムが手伝っていた。
 
「鞍も用意しなければなりませんね」

「それは竜騎兵団で用意されるのではないでしょうか」

 バンナムとレネがそう話し合っている横で、ただただリヨンネは美しい竜の姿に見惚れていた。
 やがて紫竜の背に跨った王子は、思っていた以上に自分が座っている場所が地上よりも高い位置にあることに驚いていた。

「この高さに慣れる必要があるな」

「殿下、落ちないようにご注意して下さい」

「分かっている」

 そしてルーシェが立ち上がると、更に視界が上に上がった。

「おお、すごいな」

 驚きつつも、喜んでいる王子。
 そこで本当なら、その背に王子を乗せたまま王宮上空を一周してみたかったが、やはり鞍もない中では不安定すぎる。
 ルーシェが一度翼を広げ、またそれを閉じたのを見て、アルバート王子は残念そうな声を上げた。

「仕方がないな。今度までに鞍を用意しておこう」

「ピルルル」

「そうですね。竜騎兵団から取り寄せましょう」

「以前、リヨンネ先生がお借りした鞍はもう竜騎兵団に返却してしまったのでしょうか」

 そう皆が話し合っている声も、リヨンネの耳にはあまり聞こえない。
 リヨンネは紫色のそばまで近づくと、滑らかなその鱗の表面に触れていた。

「なんて綺麗な竜なんだ」

 呟くような声を漏らす。
 文献などでも、紫竜はとても美しいとその容姿を絶賛されていたが、その記述は間違いなかった。
 幼い時はその愛らしさにばかり目がいっていたが、大きく成長した後はこうも美しい姿になるとは想像を超えていた。

 そこに、妹姫マリアンヌが飛び込んで来た。

「兄様、紫竜が大きくなったって本当ですか!!」

 息を弾ませている。一報を聞いて、自分の住んでいる王女宮から真っ直ぐ走って来たのだ。
 見れば後ろから女官達が慌てて追い駆けてきている姿が見える。
 大きく成長した紫竜を見て、マリアンヌ姫も口を開けていた。

「すごいわ……ルーシェが大きくなっている」

 その言葉に、紫竜が「ピルルピルル」と鳴くと、「声はあまり変わらないのね、ルーシェ」と言って笑った。
 兄王子と妹姫が、笑顔で話し合っている中、リヨンネはずっと紫竜の姿を見つめ続けていた。

 それはそれは、何かに取り憑かれたような熱い視線で。
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