転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第二章 竜騎兵団の見習い

第八話 先生とお茶会

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 アルバート王子は紫竜を連れて、レネの暮らす青竜寮に足を向けた。
 この竜騎兵団の拠点には幾つもの建物がある。
 見習い達が暮らす緑竜寮。
 現竜騎兵の多くが暮らす赤竜寮。
 そして竜騎兵団長や副騎兵団長達上層部が暮らす青竜寮である。

 なお、騎竜達が暮らす建物には特に名はなく、騎竜達は竜達のために用意されているドーム型の石造りの建物か、若しくは山々にある無数の洞窟の中で暮らしており、主たる竜騎兵が呼べばいつでも馳せ参じる状態になっている。
 ちなみに竜達の食事は、竜騎兵団でとっても良いし、背後に広がる広大な森林地帯で勝手に狩りをして自給自足をしても良いことになっており、多くの竜達は自給自足を選択していた。

 青竜寮のレネの部屋に入ると、相変わらずガンガン暖房の魔道具を使用しているのだろう。
 部屋の中はとても暖かい。迎えてくれたレネも、この竜騎兵団の拠点に来た時の防寒具で膨れ上がった姿ではなくなっていた。裾の長い魔術師らしきローブをまとっている。

 紫竜は、アルバート王子の肩から斜めに掛けられた布袋の中から飛び出して、床に着地するとトコトコと歩いて用意されている小さな机と椅子に座った。
 その可愛らしい様子に、レネもアルバート王子も、そして護衛についているバンナムでさえも目を和ませて小さな竜を見つめている。

「おはようございます、ルーシェ。随分とやる気満々ですね」

 レネは、ルーシェの魔法の勉強を、この竜騎兵団に来てからも週に二回行うことになっていた。
 その一番最初の授業になったこの日、小さな紫竜は随分とやる気を見せており、黒い目をキラキラと輝かせて魔術師のレネを見つめていた。

 ルーシェの隣に椅子を用意して座ったアルバート王子は、なんとも言えぬ表情でいた。

「まだレネ先生は聞いていらっしゃらないようですが、昨日の訓練の際に、その……」

 小さな紫竜が、話し始めたアルバート王子をギョッとして見つめる。
 それは(ええ、レネ先生に話しちゃうの!?)と言っているような目付きであった。

 だが王子は、そうした事件があったことをレネにも知ってもらった方が危機感を持ってもらえる上、熱心にルーシェに魔法を教えてもらえると思ったのだ。

「他の竜が、ルーシェの背中に乗ろうとしたのです」

「…………………」

 だが、“背中に乗る”の言葉の示す意味をまだ知らぬレネは(ああ、竜同士でふざけて遊んでいたのか)とでも思ったようで、なおも微笑ましいことを聞いたような顔をしている。
 それには護衛騎士のバンナムが、咳払いをした後、ハッキリと言いづらい王子に代わって伝えた。

「竜達の間で、“背中に乗る”という行為は、交尾することを意味します。魔法で成竜の姿になったルーシェに、周りの竜達が興奮して発情してしまったのです」

 その言葉に、レネの目が見開かれ、今は幼竜の姿を取っているルーシェを凝視していた。

「……………ええ? 本当に?」

「…………はい。それで、エイベル副騎兵団長から、ルーシェは攻撃魔法をよく教えてもらった方が良いと言われました」

「それでお願いします。言い寄って来る竜達に大きくダメージを与えるような強い魔法をルーシェに教えてやって下さい」

 竜騎兵団に来て、まさかそんな魔法を紫竜に教えることになるとは思いもしなかったレネであった。
 効果的に竜達にダメージを与える魔法を今は思いつかないということで、レネはそのことを宿題とし、その日は通常通りの授業を行うことになった。

 しかし、レネは驚き冷めやらぬ状態である。

(確かに、紫竜は他の竜達とは全然姿が違っていて、成竜になった姿は本当に美しいと思っていたけれど)

 王子もまだ十歳、そしてルーシェにいたっては生まれて一年経ったくらいである。竜達の前に姿を現したらすぐに、そんな交尾を求められるなどとは驚いただろう。
 そして初回がそうなのであるから、今後、他の竜達の前に姿を現わせば、やはり上に乗っかろうと竜達に迫られる可能性が高いというのだ。
 なんともそうした話を聞いたことが気恥ずかしくて、レネは耳を赤く染めている。

(そうか、竜はそういうことをする時は、“背中に乗って”するわけか)

 いわゆる後背位と呼ばれる体位である。
 竜に限らず多くの生き物達が、性交の際にとる姿勢であった。
 雌が雄の下となり、雌がよつんばいになったところで、雄が跪き後ろから挿入をする行為。
 
(人間でも同じような体位で行為をする。そう男同士で性交する場合は、その方が正常位よりも挿入しやすいと聞いた)

 何故かその時、レネの頭に浮かんだのは、自分が裸でよつん這いになり、後ろからバンナムがゆっくりと自分を抱こうとしている姿だった。
 たちまちレネの顔が真っ赤に染まり、彼は急いで頭を振った。

(何を考えているんだ。今は授業中なのに)

 その雑念を急いで払おうとする。
 だが、その雑念は授業を続けていても、なかなか頭の中から離れることはなかった。



 それでもなんとか紫竜への魔術の授業を終えた後、レネは王子達と一緒にお茶をした。
 その時にはだいぶ、そんな淫らな想像も落ち着いていた。
 温かなお茶を飲み一息つきながら、王子はこの日の午前中の授業はないと言った。

「一年目の竜達はまだ小さくて、この一月は餌やりだけで授業が始まるのはまだ先だと聞いています」

「そうなんですか」

「二年目の竜騎兵達の座学が今、開かれているのですが、僕が王宮で習ったことのある座学で、今日の午前中は出席しなくても良いと言われています」

 レネはとっておきの焼き菓子を金属製の缶から取り出して、皿にのせて王子とその膝の上のルーシェに差し出す。
 花の形をしたその焼き菓子の真ん中には真っ赤なイチゴのジャムが載っているのだ。
 小さな紫竜は焼き菓子を見て黒い目をキラキラと輝かせて、早く自分の口に入れてくれと王子に催促して鳴いていた。

「では、今はまだ随分と余裕があるのですね」

「はい。先生はいかがですか」

 問いかけに、レネは苦笑いする。

「だいぶ騎兵団長には我儘を言わせてもらいました。見習いの六学年を教えるのですが、毎日半日で終わるくらいで予定を組ませてもらっています。それに、紫竜の授業の時間を入れる形なので、余裕があります。研究もこれで捗りそうです」

「それは良かったですね。先生があまりにも忙しくなると、こうして一緒にお茶をする時間も無くなるのではないかと思っていました。バンナム卿もそうでしょう?」

 そう話を向けられると、長身の護衛騎士の青年も頷いた。

「ええ」

 酒を飲み交わす貴重な時間が無くなることをきっと彼は惜しんでいるだろうと思っている。 
 そう、バンナムとレネは単なる酒飲み友達なのだ。
 彼にとってレネはそれだけの存在なのに、でもレネにとって彼は本当に“特別な人”だ。
 そんなレネの想いを彼は気が付いていない。

 いや、気が付かれない方がいいのかも知れない。
 婚約していた女性との手酷い婚約破棄を経験したバンナムは、もう恋などしないと言っている。
 その彼に対して、レネが恋心を抱いていると知ったらどうだろう。
 煩わしいと思われて、敬遠されてしまうのではないのか。

 今のバンナム卿との心地の良い友人関係が無くなることを、レネは恐れていた。
 知られてその関係が壊れるくらいなら、知られずにいた方が良いのかもしれない。

「ルー、こぼしちゃダメだよ」

 紫竜の口の中に入れられた花形の焼き菓子が鋭い歯に砕かれ、ボロボロと破片が床に落ちる。
 紫竜は(ああ、やっちゃった)という顔で足元の焼き菓子の破片を見下ろしている。
 それに慌ててバンナムがハンカチを取り出して拭こうとする手と、レネもまた布でそれを拭き取ろうとする手が、触れた。
 途端、レネの顔が真っ赤になる。
 だがレネは黙って、床を拭いていた。

(もう、赤くなるの、鎮まれ)

 自分でも嫌になるくらい、すぐに顔が真っ赤になってしまう。色白だから赤くなると目立つのだ。
 そしてそのことを、いつもリヨンネにからかわれていた。

 この想いは気付かれちゃいけないと思っている。
 こんな狼狽することも、赤くなることも、彼におかしく思われるだけだ。
 気付かれちゃ、いけないんだ。
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