転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

文字の大きさ
50 / 711
第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第七話 先生の助手

しおりを挟む
 紫竜が竜騎兵団の拠点に戻ってきた翌日、リヨンネもまた拠点に帰還した。
 彼は、野生の青竜の背に鞍もなしに跨ってやって来た。
 
 離着陸場に降りた青竜は、リヨンネと小さな子供を降ろした後、荷物を取るため再び洞窟に向かって飛んでいく。
 リヨンネが戻って来たことに気が付いたエイベル副騎兵団長が、足早に近づいて来た。

「リヨンネ先生、あれは」

 あれは、野生の青竜である。
 日頃、人に近づくことのないソレが、何故、リヨンネを背中に乗せてやって来たのかと問い詰めるような視線である。先日も大森林でリヨンネを見た時、彼はあの青竜の背中に跨っていたのだ。 
 リヨンネは六歳くらいの幼く痩せ細った子供を連れていた。
 子供はエイベル副騎兵団長を見ると、サッとリヨンネの背中に隠れている。そして小さな手でぎゅっとリヨンネの服の端を持って、大きな目でエイベル副騎兵団長を見つめていた。
 エイベル副騎兵団長は、ジロリと子供とリヨンネの顔を見て言った。

「ご説明頂かないといけないようですね」

「そうですね」

 リヨンネは、再びやってきた青竜が運んできた荷物を受け取り、そして青竜の背中にポンと手をやって言った。

「じゃあ、また後で頼むね」

 青竜は、少しばかり不機嫌そうな様子で鼻を鳴らし、また空へと飛んでいってしまった。
 その姿が消えるまで見送った後、リヨンネは子供の手を引いて、「ウラノス騎兵団長にご説明申し上げたいと思います。騎兵団長は、お時間はおありでしょうか」とエイベル副騎兵団長に問いかけ、副騎兵団長は、見習い竜騎兵を走らせて確認を取らせたのだった。


 そして団長室にてリヨンネは、観察拠点へ向かっていた時に起きた出来事をウラノス騎兵団長らに報告したのだった。
 野生の青竜が人化して近づいて来て、遥か遠くで起きた戦火から逃れてきた避難民の子供を助けたこと。青竜に連れて行かれた結果、雪崩に巻き込まれることなく助かったことを報告した。
 ウラノス騎兵団長は、避難民達が危険を承知の上で、命を顧みずにこの大森林に入り、なんとか逃れようとしつつも命を落としている現状の話を聞いて、眉間に皺を寄せていた。
 この竜騎兵団の拠点の北方には大森林が広大に横たわっている。そのため大森林を越えた先にある国々とほとんど交流を持つことが無い。そこから更に西方にいった先で戦争が起きている話も、遠い世界の話のように思えるほどである。
 だが、この避難民の子供の存在は、現実に大森林へ逃げ込む避難民がいるという事実を突きつけたのだった。
 
 ただそれを知ったとして、この竜騎兵団で出来ることは何もなかった。
 避難民を助けるには距離がありすぎるし、危険を冒してまで遠い西方の国々の民を助ける理由もない。

「ウラノス騎兵団長にお願いがあります」
 
 テーブルの向こうで、リヨンネは助けたその避難民の子供を身体にしがみつかせたまま話し続けていた。

「王都の学舎に、観察地の拠点の建物が雪崩で消失したことを報告せねばなりません。そしておそらく、学舎からは観察地の建物を再建するよう求められるはずです」

「そうだろうな」

 野生の緑竜と揉めている中で、建物の再建作業をすることになる。
 ウラノス騎兵団長は内心、ため息をついていた。
 
「幸いにも、私は野生の青竜に知り合いが出来ました。彼に再建作業を手伝ってもらうことにします」

「……………」

 そのリヨンネの言葉に、ウラノス騎兵団長とその傍らにいるエイベル副騎兵団長も驚いていた。
 再建作業を手伝ってもらえるほど、その野生の青竜と親しくなったということなのかと。
 
 リヨンネは青竜に観察地の建物の再建作業を手伝うようにねだり、そして青竜は大層渋々とであったが、その作業を手伝うことに同意していた。
 その際、「ラバは全頭逃げてしまった上、置いていった荷物も全部雪崩に巻き込まれてしまったんだよ……」とチロチロと青竜を見上げ、暗に彼のせいであることをチクリチクりとリヨンネは責めたのだ。青竜が連れていってくれたおかげでリヨンネは雪崩に巻き込まれることなく助かったのは事実ではあったが、「ソレはソレ、コレはコレ」である。

 そして青竜は不機嫌そうな態度を常に見せているが、押しに弱かった。そもそも彼は、避難民の子供を助ける人の良さを持っている。だから情に訴え、押していくと最後は文句を言いながらも頼んだことはやってくれるいい野生竜だった。

「再建する間、竜騎兵団の青竜寮にまたご厄介になりたいのです。そして、この子も一緒に置いて欲しいと思っています」

「その子供は、リヨンネ先生がお引き取りになるのですか」

 そうエイベル副騎兵団長が尋ねると、リヨンネは頷いた。

「はい。王都へ行った際に孤児院へ入れようと思いますが、王都へ戻るまでの間は私が面倒を見ようと思います」

「竜騎兵に、王都の孤児院まで連れて行かせることも出来ますが」

 そのエイベル副騎兵団長の言葉に、子供はぎゅっとリヨンネの胴体にしがみついて離れまいとしていた。
 その様子にリヨンネは苦笑しながら言った。

「まだこの子も落ち着かない様子です。しばらくの間、私が面倒を見たいと思っています」




 ウラノス騎兵団長は、青竜寮で子供とリヨンネが生活することについて許可を出した。
 リヨンネは礼を述べた後、子供を連れて青竜寮へと向かって行った。
 立ち去るその姿を見送りながら、エイベル副騎兵団長は言った。

「随分とお人よしな先生ですね」

「受け入れる余裕があるのだろう」

 リヨンネがウラノス騎兵団長やエイベル副騎兵団長らのことを、事前に情報として調べ知っていたことと同様に、ウラノス騎兵団長らもリヨンネのバックグラウンドを知っていた。
 リヨンネはただの竜好きの学者であるだけではなく、彼の生家は王都有数の資産家であるバンクール商会であるのだ。
 子供の一人や二人、引き取ってもどうってことはないだろう。

「孤児院に入れると話していましたが」

 エイベル副騎兵団長の言葉に、ウラノス騎兵団長は頭を振った。

「賭けてもいいぞ。あの先生は、一カ月もしない内に、そうした言葉を口にしたことも忘れるだろう」

 ウラノス騎兵団長は笑いながらそう言う。
 そして事実、リヨンネはその後、その子供を孤児院に入れると口にすることは無くなっていた。
 六歳、七歳だと思われていたその子供は、実際には十歳で、名前をキースと言った。
 その後、キース少年は一生懸命に、どこか健気なほど、リヨンネの助手として何くれと彼の手伝いをするようになるのだった。



 紫竜は、竜騎兵団の拠点に戻って来たリヨンネから叱られた。
 リヨンネは、雪崩が起きたことを知ったルーシェが後先考えずに、ただリヨンネを助けたい一心で拠点を飛び出したと聞いて、嬉しい反面、やはりそれはしてはいけないことだと戒めた。

「いいかい、君は殿下の竜だ。殿下から離れてはならないよ。殿下は君の主なんだ」

 王子の膝の上に座った小さな竜はしょんぼりとした様子で頷いた。

「ピルルルゥゥ(ごめんなさい)」

 その様子から、王子が通訳せずともルーシェが何を言っているのかリヨンネには分かっていた。
 そして王子もまた、ルーシェを庇うように言う。

「もう何度も謝ってくれたんです。先生、叱るのは許してやって下さい」

「殿下は甘いですね」

 それにアルバート王子の後ろに立つ護衛騎士バンナムも無言で頷いていた。
 王子は紫竜に甘い。甘すぎる。
 見ていても分かる。王子は紫竜に甘々ですぐ許してしまうし、甘やかしてしまう。
 だが、ここはピシッと言っておかなければならない。王子が言わないのであれば、自分が言うしかないだろうと、リヨンネは心を鬼にして言った。

「ルーシェ、君は殿下の竜としての自覚を持たなければならない。君がいなくなれば、殿下は目指している竜騎兵になることも出来ない。君は殿下の将来も摘んでしまうことになる」

「ピルルゥ……」

 全くもってその通りである。

「そして、殿下から聞いたのだけど、君は野生の竜に乱暴されて怪我をしたのだって?」

 そう、テリトリーを侵した紫竜は、野生の大きな緑竜の尻尾で打ち付けられ、雪の中に落とされた上、踏みつぶされそうになった。何故、小さな幼竜の姿を取っている自分に対してそんな行為をするのか理解出来なかった。

「ピルルル、ピルピルル」

「先生、ルーシェがどうして幼竜の姿をとっていた自分にあんな乱暴を、大きな竜からされるのか分からないと言っています。何故なんですか。僕も知りたいです」

 リヨンネは紫竜の頭に手をやり、優しく撫でた。

「まずは君が助かって良かった。ルーシェ、野生のその竜は、君を殺すつもりはなかったと思う」

「ピルル?」

「君を抵抗できないように痛めつけた後、君の“背中に乗ろう”としたんだよ。いや、小さな君を巣穴に連れ去って、手許に置いて支配しようとしたのかも知れない。いいかい、竜は甘く鳴いて、相手を求めるだけではない。弱いものを力で支配しようとする竜もいる」

 その言葉に、ルーシェは、沢谷雪也としての意識は愕然としていた。
 あんな痛めつけた挙句に、小さな自分を支配しようとしていた?
 信じられない思いだった。
 そしてそれはアルバート王子も同じようで、彼もリヨンネの説明に衝撃を受けている様子だった。

「ルーシェ、君はおそらく竜達の世界では現在、たったの一頭しかいない、貴重な紫竜だ。“魔術の王”と呼ばれるほどの豊富な魔力と多くの属性の力を持つ。竜達だって、自分の群れの巣穴に君を迎えたいと思うだろう。そうすれば群れの地位が上がるからね。竜達の世界でも群れ同士の争いがある。力ある竜は弱い竜の上に立つことができる。ウラノス騎兵団長のウンベルトがあの時、野生の緑竜達に手出しされなかったのは、ウンベルトが圧倒的に強く、上位に立つものであったからだ」

 あの時、リヨンネが見たウラノス騎兵団長の巨竜ウンベルトは並の竜ではない存在だった。
 とても普通の竜では立ち向かうことなど考えられないだろう。一目でわかる格の違い。
 この竜騎兵団の竜達も一つの群れを形成しており、群れの長であるウンベルトは、紫竜を庇護している。それゆえ、この竜騎兵団にいる間は、誰もルーシェに手出しすることはない。
 けれど一歩、この竜騎兵団を出てしまえば、ルーシェは野生竜達にとって狩りの対象になるのだ。

「だから、ルーシェ。君はできるだけ単独でこの竜騎兵団から出ない方がいい。もし出ることを望むのなら」

 望むのなら?
 
 ルーシェが、リヨンネの次の言葉に期待する。
 
「相手を倒せるくらいに強くなるんだ」

 相変わらず、結論として、脳筋解決だということだった。
 やはり拳で相手を倒すしかないのだった。
しおりを挟む
感想 276

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

悪役令息に転生したらしいけど、何の悪役令息かわからないから好きにヤリチン生活ガンガンしよう!

ミクリ21 (新)
BL
ヤリチンの江住黒江は刺されて死んで、神を怒らせて悪役令息のクロエ・ユリアスに転生されてしまった………らしい。 らしいというのは、何の悪役令息かわからないからだ。 なので、クロエはヤリチン生活をガンガンいこうと決めたのだった。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。 挿絵をchat gptに作成してもらいました(*'▽'*)

王様お許しください

nano ひにゃ
BL
魔王様に気に入られる弱小魔物。 気ままに暮らしていた所に突然魔王が城と共に現れ抱かれるようになる。 性描写は予告なく入ります、冒頭からですのでご注意ください。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード

中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。 目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。 しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。 転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。 だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。 そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。 弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。 そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。 颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。 「お前といると、楽だ」 次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。 「お前、俺から逃げるな」 颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。 転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。 これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。 続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』 かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、 転生した高校時代を経て、無事に大学生になった―― 恋人である藤崎颯斗と共に。 だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。 「付き合ってるけど、誰にも言っていない」 その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。 モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、 そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。 甘えたくても甘えられない―― そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。 過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。 今度こそ、言葉にする。 「好きだよ」って、ちゃんと。

処理中です...