転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第三章 古えの竜達と小さな竜の御印

第十七話 制止(下)

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 翌日、魔法の授業の際、受講する紫竜に同席したアルバート王子は早速、レネ魔術師に尋ねた。

「竜の人化は通常、何歳くらいの竜が行うんだ? 勝手に人化するとマズイのか」

 すでに恋人でもあるバンナムから、そうした質問が投げかけられることを事前に聞いていたレネ魔術師は、チラリと王子の後ろに控えるバンナムを一瞥した後に答えた。
 このあたりの情報は、隣室にいる竜の生態学者リヨンネから聞いて仕入れていた。

「魔力の豊富な竜は、人化するのも早いですが、通常、主の発情に合わせて人化します」

 その答えに、アルバート王子は首を傾げていた。

「それはおかしいだろう。竜の主であるのは人間で、人間は発情しない」

 竜は毎年春になると発情するが、人間は春になったからといって発情しない。
 竜が交尾できるようになるのは通常、誕生から三年目以降だ。
 だから、三年目以降に人化するのが普通ではないか。

 しばらくの間、アルバート王子は首を傾げたまま止まっていた。
 やがて、何か考えついたような少年の耳がみるみる赤く染まっていく。
 それで、レネは咳払いをした後に答えた。

「竜は、人化する必要はそもそもないのです。人化するのは、あくまで主に望まれてそういう姿を取るのです。竜同士の交尾は、竜の姿で行うのが普通です。多くの場合、人間である主に求められるから、竜は人化します。そうでない場合は、会話を人間と人語でする必要がある時などに、人化します」

「……そうか」

 レネの説明は尤もであった。
 そもそも竜は、竜という生き物であり、人間の姿はあくまで仮の姿なのだ。
 常に共に居る竜騎兵とそのパートナーである竜は、共にいるからこそ、互いを求め合うようになることも多く、竜騎兵の欲を慰めるために人の姿に変わる竜は多い。
 実際、バンナムの弟の竜騎兵ベイグラムは自身の竜イレッサを恋人にしている。

「竜に充分な魔力があり、主である竜騎兵に求められれば竜は人化します。そうでなければ人化しないのです」

「分かった」

 急速に恥ずかしさを覚えたようで、アルバート王子は真っ赤になっていた。
 王子のそんな姿を見たのは初めてで、レネはなんとなしに微笑ましさを感じていた。

 紫竜は小さな椅子に座ったまま、王子を見つめ、それからレネを見つめて「ピルルピルルル」と鳴いている。
 言葉の分からないレネがアルバート王子に問いかけると、王子はぎゅっと握り締めた手を膝の上に置いたまま答えた。

「ルーは、人間になって僕のことを手伝いたいと言っている。人間の姿になれば、僕が困っている時にも助けられると」

 その言葉に少し感激したようにアルバート王子は、紫竜の黒い目をじっと見つめる。
 王子と紫竜の間には、一切性的なものを感じさせるものはなく、あまりにも清らかなその様子に、レネとバンナムは尊さすら感じていた。

 レネは内心、自分達はもう汚れてしまっているな……と苦笑していた。
 恋人であるバンナムを前にすると、今だって彼のことを求めてしまう。
 その声も、視線も好ましく、今でも本当は手を伸ばして触れてしまいたい。
 前日の晩にも、彼と短い間求め合ったことを思い出して、少しだけレネは頬を赤く染めていた。

「でも、ルーは生まれてまだ二年だ。人の姿に変わったとしても小さな子供だろう? 有難いけど、僕のことを手伝うなんて出来ないだろう」

 その言葉に、紫竜は少し憤慨したように、ビタンビタンと尻尾を椅子に打ち付けていた。

「ピルピルルピルピルルル!!」

「竜の姿で大人になったように、大人の人間の姿にだって、変身できるだって!? 本当か」

 王子が驚いたように言った言葉に、バンナムは短く言った。

「なりません!!」



 その強い言葉に、部屋の中が一瞬静まり返った。
 レネも驚いたようにバンナムを見つめ、紫竜も黒い目を大きく見開いていた。

「どうして反対するのだ。昨日も、バンナム卿は反対したな。理由を言ってくれ」

 アルバート王子の問いかけに、バンナムは静かに答えた。
 昨日からずっと考えていたことだった。

「…………殿下、竜の姿で成長したルーシェは、子竜達に求められました。背中に乗せてくれと集まって来た子竜達のことを覚えておいでですよね」

「ああ」

 忘れられるはずがない。歌うように近づいてきた子竜達は、紫竜のことを求めて背中に乗ろうとしていた。
 その不愉快な光景が思い出され、アルバート王子は眉間に皺を寄せる。

「ウラノス騎兵団長も話していました。ルーシェは飛び抜けて美しい竜であり、人化した時にも、それは美しい人の姿になるであろうと。そしてそれは人の心を惑わせるほどに美しいと」

 それから、バンナムは言った。

「ここは、男ばかりいる竜騎兵団の拠点です」

「…………」

「竜だけではなく、人間の竜騎兵までもが、紫竜の人化した姿に惑う可能性があるのです」
 
 そのバンナムの言葉に、ルーシェとアルバート王子は顔を見合わせていた。
 ルーシェは「ピルルピルピル(そんな馬鹿な)」と言っていたが、アルバート王子は腕を組んで黙り込み、考え込んでいる。
 レネ魔術師も同様だった。
 目の前のバンナム、レネ、アルバート王子の三人がどこか深刻な表情をしているのに、ルーシェもまた不安そうな様子になる。

「ピルルピルピルルピルルル!!(俺、人化するのマズイなら、人化しないよ!!)」

「バンナム卿、僕の前でだけ、ルーが人化すればいいのだろう。他人の前で人化しなければいい」

「……最低限、そうするしかないでしょう。ですが殿下、今はまだ早いと思われます」

 その惑わされる人間の中に、王子が入らないわけはないのだ。
 今だって、少年の王子と紫竜はとても仲睦まじい。
 紫竜が人の姿になったのを目にした時、王子の態度がどうなるのか想像がつかない。
 可能なら、できるだけその瞬間を遅らせたい。
 そうもバンナムは考えていた。

「慎重だな、バンナム卿」

「殿下は今、竜騎兵の見習いとして学習している段階です。そのお心が乱れることのないようにすることも、家臣の務めです。どうぞご理解下さい」

 バンナムの言いたいことをなんとなしに察した王子は、小さくため息をついて、それから紫竜の頭を撫でた。優しく微笑みながらこう言った。

「ルーに手伝ってもらうことはまだ先になりそうだな。その時を楽しみにしているよ」
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