転生したら竜でした。が、マスターが性的に俺の上に乗っかろうとしています。

曙なつき

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第五章 懐かしい友との再会

第十三話 魔道具店に行きたい!! (下)

 ことが終わった後、二人は寝台の上で、心地よい疲労感に微睡んでいた。
 ルーシェは、王子の胸の上に頭を載せてうとうととしていた。
 王子の左胸の上に頭を置くと、トクントクンと王子の心臓の音が聞こえる。
 幼い頃、紫竜は王子に布の袋に入れられて、それを王子は胸の前に掛けていた。ぴったりと王子の胸に密着して過ごしていた。
 王子の温かな体温にウットリとした気持ちで、寝入ってしまうこともしばしばだった。
 その時からそばで聞こえる音。とても落ち着いて安心できる。

 上体をゆっくりと起こすと、王子はルーシェの頬に手をやる。
 その大きな手に、ルーシェは自分の頬を擦りつけ、それから王子の唇に自分の唇をそっと重ねる。
 ペロリと王子の唇を舐めた後、離れる。

「……あの魔道具店に行きたいのか」

 王子が聞いてきた。

 棚から地図を取って欲しいとせがんだルーシェ。
 カタログの表紙に、大事そうに手で触れるルーシェ。

「うん。行きたい」

「買いたいものがあるのか?」

 再度の問いかけに、ルーシェは少しばかり考え込んだ。

(会いたい人がいる。俺と同じ、おそらく転生した生徒の奴)

(会いたい。会ってみたいんだ。それで、本当に俺と同じようにこの世界へ転生した奴か確かめたい。……でも)

(そのことを王子には話せない)


 自分が、他の世界から竜の体に転生したんだと話したら、王子はどんな顔をするだろう。

(…………きっと、おかしな奴だと思われる)

『他の世界から転生してきた? 何を言っている、ルー。頭でもぶつけたのか。大丈夫か』

 そう言って、紫竜の頭を撫でて心配そうに覗き込んでくる王子の姿まで想像できるくらいだった。
 この世界には、ラノベ小説はない。
 恋愛小説はたくさんあるみたいで、リヨンネ先生が黒竜にそれをたくさんあげている話は聞いている。
 でも、現世のように、異世界で生まれ変わるとか、召喚されて悪い奴を倒すとか、そういう話の小説はないと思う。
 だから、王子に「俺は転生して竜になったんだ!! よろしく!!」とか言えない。
 そうした知識に免疫のない王子達に「……大丈夫か、ルー」と心配されるのがオチだ。頭の中身をな!!

 だから、ルーシェは話せなかった。
 代わりにこう言った。

「調理用の魔道具に興味があるんだ」

 それは本当のことでもあった。
 前世で料理をすることが好きだったルーシェは、この巣にやって来た時、王子のために料理をしようと思った。
 簡単なカマドも作って、そこで肉を焼いて食べさせてやろうと思ったのだけど、火の調節がなかなか難しい。
  
(ちょっと火に焦げてしまった肉を、王子は喜んで食べてくれたけど、固くなって食べにくそうだった。「美味しい」と言ってくれたけど、あの目は、本当はそう思っていないような目だった)

 まるで小さな子が、一生懸命に作った、崩れた形のホットケーキとか、形の変なおにぎりを出して、それをどこか優しい温かな眼差しで見つめる慈愛に溢れた母親のような目付きだった。
 
(私のために一生懸命に料理を作ってくれたんだな、と感動しているような)

(ちが――――――――――――――――う!!!! 違う意味で感動させてどうする!!!!)

(俺は王子に、美味しい料理を食べてもらいたいんだ!!!! この世界でも美味しい料理はあるけど、俺のいた元の世界の方が断然美味しかった)

 転生したばかりの頃、ルーシェは小さな竜に転生したものだから、その鋭い爪のある小さな手では料理はできなかった。
 スプーンだって握れずに、小さな竜の姿の時には王子に給餌してもらって食事をしていたくらいなのだ。
 ようやく人の姿を取ることが出来るようになって、その人の手でいろいろなことが出来るようになった。
 スプーンを持つことも、字を書くことも、そして料理も。

(ま、エッチもいろいろと出来るようになったんだけどな!!!!)

 自分でその発想をした後、バカバカバカと自分の頭を叩いたり、枕に自分の頭を激しく打ちつけているルーシェだった。
 その顔は真っ赤だった。

 小さな竜であった少年が、顔を真っ赤にさせて挙動不審の行動をとる様子を、王子は少し驚いたように眺めていた。

「………………大丈夫か、ルー」

 枕から顔を上げ、ルーシェは大きな声で答えた。

「大丈夫!!!! 頭はすごくしっかりして大丈夫だから!!!! 心配しないで王子」

 もうすでに、王子から頭の中身が大丈夫か心配されているような気がするルーシェだった。


 アルバート王子はしばらくルーシェをじっと見つめた後、こう言った。

「西南地域は遠いから、すぐに行くことは難しいな」

 自分の頭の中を心配する話にならなくて良かったと思いながら、ルーシェは寝台の上に広げられた地図を見た。
 王子は西南地域を指さす。
 なお、この世界の地図は随分とアバウトに描かれている。
 山や川などの位置もおおざっぱだし、地図に書かれているのは国の名前と大きな都の場所くらいだ。
 詳細な地図は、軍事機密上、他の国に流してはならないとされているのだ。
 言われてみれば、確かにそうだと納得できる。

「いくら速く飛ぶことの出来るルーでも、行って帰って来るのに五日はかかるだろう。天候によってはもっとかかるかも知れない」

 五日も竜騎兵団の拠点を空けることは出来ない。
 ルーシェはしょんぼりとしていた。

「…………そうなんだ」

「騎兵団長に頼んで、夏の休みをまとめて取らせてもらおうか」

 竜騎兵になって二年目の王子が、まとめて休みを取りたいと上の者に言うことは、マズいのではないかと思う想像が、ルーシェも出来た。
 だいたいそういう休暇は、上のものがとった後、間を埋めていくのが新人の役目だった。
 なのに、二年目の王子がそう言うのはダメだろう。

「いいんだ。ちょっと店に行って、料理用の魔道具を見てみたいだけだったんだ。最新の魔道具がその店にはあるみたいだから」

「ルー」

「王子、ありがとう」

 ルーシェはそう言ってニッコリと笑みを浮かべ、その話はおしまいとばかりに地図を畳んで棚に仕舞った。
 それからルーシェは、その西南地域にある魔道具店に行きたいと話すことはなかったが、なんとなしに、沈み込んでいるような雰囲気があったのだった。



 それから数日後、リヨンネが観察地の建物から戻って来た時、アルバート王子はリヨンネに尋ねた。
 「先生の下さったカタログに掲載されている魔道具を、どうにか手に取れる機会はないのか」と
 おそらく無理であろうとあまり期待していなかった王子であったが、リヨンネは言った。

「実際にあの店の魔道具を見たいのですか。確か……」

 リヨンネはキースに、王都から持ってきた書類を持ってこさせると、ガサガサとその中を漁り、一枚の紙を取り出した。

「あ、ありましたね。持ってきて良かった。カルフィー魔道具店では大きな街に、カタログに掲載されている最近の魔道具商品を幾つか持参して、見せて回ることがあるんですよ。そこで受注を取ることもあります。ただ、非常に人気の店なので、巡回先で受注出来たとしても、商品を実際に手にするためには年単位で待たなくなるそうですが……」

 リヨンネから渡された一枚の紙には、地図が載せられており、カルフィー魔道具店がやってくる日付とその巡回ルートが記されている。
 話を王子の抱き上げた腕の中で聞いていた紫竜は、目をパチクリとさせた。

 巡回予定ルートはこの王国内にも伸びており、なんと、辺境伯の城のある街で止まっている。

「今年初めてらしいですよ。辺境伯のところまで来てくれるなんて凄いですよね。元から、カルフィー魔道具店の巡回は、何故か地方のほうぼうの方まで行くようです。別に西南地域だけでも十分商売になるでしょうし、移動費だって相当かかっているでしょう。新規顧客の開拓に余念がないのですね」

(違う)

 ルーシェは、王子の手の中にある紙の地図を見ながら思っていた。
 その紙にも、カルフィー魔道具店の名前と、店のマークがあった。
 あの、三つの葉のマーク。
 かつての高校の校章と同じマーク。

(新規顧客の開拓なんかじゃない。こいつはずっと探していたんだ)

 そう思うと、小さな竜の胸の中は苦しくてたまらなくなった。

(ずっと、ずっと自分と同じように、この世界へ転生した奴を、ずっと探していたんだ。いったい、こいつは何年前からこうしたことを続けていたんだろう)

 おそらく、人気のある魔道具だって、現世にある生活家電を参考に作ったのだろう。
 異世界で洗練されたデザインで、便利な生活魔道具が作れるのは当然だ。
 だって、現世の知識があるのだから。

 そしてそれを持って、ずっと探していた。
 同じように転生した人間を。

(会いたい)

(会ってそいつと話をしたい。きっとこの店の奴は、同じように転生した仲間だ。今までそいつはどんな苦労をして来たのだろう)

 竜に転生した自分と違って、そいつは人間に転生しただけ運がいいのかも知れない。
 それでも、どこの国に転生したかによって、その後の生活ぶりは大きく違うだろう。
 キース少年のように戦乱に巻き込まれ、難民のように逃げ惑う国なら大変だったはずだ。
 でも、こいつはそうではなく、こんな人気の魔道具店にいるようだから、うまいこと前世の知識を活かして異世界で立身出世した方なのだろう。

(なんとか会いたい)

 ぎゅっと王子の腕を掴む小さな竜に、アルバート王子は微笑みかけて、リヨンネに言った。

「この紙を頂くことはできないでしょうか」

「どうぞ。殿下がもし、カルフィー魔道具店の魔道具に興味があり、この機会に見てみたいと言うのなら、バルトロメオ辺境伯にお話しを通しておいた方が宜しいでしょう。専ら、貴族や富豪向けの商品です。内覧される場所も辺境伯のお屋敷で、辺境伯のお知り合いの貴族を呼んでの内覧会になります」

 それについては、ウラノス騎兵団長に頼んでおけばいいだろうとアルバート王子は思った。
 バルトロメオ辺境伯と仲の良いウラノス騎兵団長である。辺境伯がウラノス騎兵団長に声を掛けるのは間違いないだろう。
 それに同行させてもらえばいい。

 そう王子が頭の中で思っていると、紫色の小さな竜は大きな黒い目で王子の顔を見つめ、それからぎゅっとなおも腕に抱きついてきた。
 それは、小さな竜が感謝の気持ちを表しているようだった。
 だから王子はそっと竜の頭を撫で、小さな竜は気持ち良さそうに目を細めたのだった。
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