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外伝 ある護衛騎士の災難 第一章
第五話 強固な呪い
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アンリ王子が恋の呪いを受けてから、一週間が過ぎた。
王子が常に私をそばから離さないという弊害はあったが、それ以外は普段通りで、問題なく政務につくことも出来ていた。妻であるアビゲイル妃との関係も変わっていない。
ただ、以前は週に一度や二度、アビゲイル妃の宮を訪ねていたのだが、呪いを受けてから一度も夜の生活の為に渡っていなかった。
それはやはり、呪いで私に恋をしているからだろうか……。
私は王子に直接尋ねた。
「殿下、アビゲイル妃殿下の宮を夜にお渡りにならないのは」
「そなたがいるのに、渡るわけがなかろう」
キッパリ答えられた。
同室の護衛騎士達は、予想通りの回答に、やっぱりという顔をしている。
これは、早く呪いを解かなければマズいのではないだろうか。
アビゲイル妃としては、アンリ王子と仲良くして、ゆくゆくは王子の子を身籠ることが仕事である。
私に恋している王子が、アビゲイル妃の元へ渡らないと、コウノトリも飛んで来ない。
「…………殿下、アビゲイル妃は殿下の伴侶です。どうか、夜にはあちらに渡られて下さい」
「そなたは……」
アンリ王子は私の顔をじっと凝視している。何故か感動している面持ちだ。
「私の事を想って、心配してくれてそんなことを言っているのだな。なんと健気な!!!!」
あまりにも斜め向こうの発想に、私の口は開いたままになっていた。
妃の元へ行け。王子が行かないと妃が困るだろう。
↓
本当は私(王子)のことが好きな癖に、その想いを隠して耐えて、妃の元へ追いやろうとしている。
愛い奴め!!!!
いや、本気でその発想を止めて欲しい。
何をどう考えたら、そんな発想になるのか理解できない。
私はため息をついて額に手をやる。
項垂れる私の様子に、王子はなおも言った。
「ハヴリエル、そなたは耐えずとも良いのだ。そなたが私のことをどれほど想ってくれているのか、その愛の大きさを再確認した思いだ」
何を言っても、この王子は自分の良い様に解釈してしまう気がした。
「殿下、アビゲイル妃殿下の元へお渡り下さい」
「ハヴリエル!!!!」
いつの間にか私のことを呼び捨てにしている!!!!
そして彼は私の手を両手で掴み、こう言った。
「ハヴリエルが望むなら、そなたを私の妃にしてもよいのだぞ」
「絶対に望みません」
誤解されないようにキッパリと告げた。
護衛騎士の自分がどうして王子の妃になるのだ。
それに、彼はいつかその呪いが解ける。解けたときに元護衛騎士の立派な男が妃としてそばにいた時には、何を思うだろう。きっと私への殺意に違いない。
それから、私は彼の肩を掴んで引き上げると(ちなみに私の方がアンリ王子よりも体格も良く力もあった)、その背中を押して、大きな扉から外へ押しやった。妃の元へ渡る道中、廊下は寒いと思い、ちゃんと暖かな上着も押し付けてやる。
「どうぞ、妃殿下とごゆっくりお過ごしください」
そうして扉をバタンと閉め、鍵も下ろす。
外からドンドンと扉を叩く音が響き渡る。
「ハヴリエル、ここを開けるのだ!! ハヴリエル」
「殿下、さっさとお渡りになってください」
「渡らぬと言っているであろう」
「それが殿下のお仕事なのです」
そう言うと、アンリ王子は扉を叩く手を止めた。
「……………私の仕事だと?」
「そうです」
以前の彼は、そのことについては非常に割り切っていた。
二番目の王子として生まれたアンリは、一番目の王子のスペアだ。
幼い頃から、一番目の王子を支えるべく英才教育を施された、見目麗しい、そして温厚な王子。
絵を描くことが好きで、芸術に造詣が深い。
優しく、誰からも好かれている王子だった。
その彼は、母妃に勧められるままアビゲイル妃を娶り、彼女と仲睦まじい振りを上手にしていた。
求められるままに、夜も彼女の宮へ渡っていた。
それと同時に、美しい少年達を侍らせ、楽しんでいた。
そんな生活が、アンリ王子の仕事のようなものだった。
「今は違う。ハヴリエル、そなたを愛してからは、私は今までのように生きることは出来ない」
扉の向こうで熱く語り出すアンリ王子。
いや、まったく今まで通りでいいのだが。
今まで通り、アビゲイル妃の元へ渡り、そして趣味の美少年たちを侍らせても構わないのだ。
「殿下、殿下は今、私に恋する呪いを受けているのです。それでおかしくなっているだけです。呪いが解ければ、私のことなど」
そう、元から気に入らない様子だったから、言い寄っていた過去を恥じて追い出そうとするだろう。
そんな未来も予想できていた。
だからこそ、私は殿下の呪いが解けた後は護衛騎士を辞めて、旅に出ることにしていたのだ。
「どうでもよくなるのです。殿下、少しずつその事実を受け入れて下さい」
自分が呪いを受けて、おかしくなっていると自覚することが大事なのだ。
しかし、アンリ王子にかけられている呪いは非常に強固だった。
「私は、例え呪いを受けていなかったとしても、お前を愛しているぞ!!!!」
言い切った。
いや、それはあり得ません。
私は断言できた。
だが、扉の前で延々とアンリ王子に騒がれ続けるのはさすがに外聞が悪い。
仕方なしに、渋々と私は扉を開け、彼を部屋の中へ入れた。
そしてアンリ王子がまだ上着を身に付けていなかったことに気が付いて、その冷えた手を掴んで、暖炉の前に連れていく。
「廊下は寒かったでしょうに」
「お前に追い出されて、妃の元へ行けと言われたことの方が、ずっと心が冷えた」
そんなことを言われたのだった。
王子が常に私をそばから離さないという弊害はあったが、それ以外は普段通りで、問題なく政務につくことも出来ていた。妻であるアビゲイル妃との関係も変わっていない。
ただ、以前は週に一度や二度、アビゲイル妃の宮を訪ねていたのだが、呪いを受けてから一度も夜の生活の為に渡っていなかった。
それはやはり、呪いで私に恋をしているからだろうか……。
私は王子に直接尋ねた。
「殿下、アビゲイル妃殿下の宮を夜にお渡りにならないのは」
「そなたがいるのに、渡るわけがなかろう」
キッパリ答えられた。
同室の護衛騎士達は、予想通りの回答に、やっぱりという顔をしている。
これは、早く呪いを解かなければマズいのではないだろうか。
アビゲイル妃としては、アンリ王子と仲良くして、ゆくゆくは王子の子を身籠ることが仕事である。
私に恋している王子が、アビゲイル妃の元へ渡らないと、コウノトリも飛んで来ない。
「…………殿下、アビゲイル妃は殿下の伴侶です。どうか、夜にはあちらに渡られて下さい」
「そなたは……」
アンリ王子は私の顔をじっと凝視している。何故か感動している面持ちだ。
「私の事を想って、心配してくれてそんなことを言っているのだな。なんと健気な!!!!」
あまりにも斜め向こうの発想に、私の口は開いたままになっていた。
妃の元へ行け。王子が行かないと妃が困るだろう。
↓
本当は私(王子)のことが好きな癖に、その想いを隠して耐えて、妃の元へ追いやろうとしている。
愛い奴め!!!!
いや、本気でその発想を止めて欲しい。
何をどう考えたら、そんな発想になるのか理解できない。
私はため息をついて額に手をやる。
項垂れる私の様子に、王子はなおも言った。
「ハヴリエル、そなたは耐えずとも良いのだ。そなたが私のことをどれほど想ってくれているのか、その愛の大きさを再確認した思いだ」
何を言っても、この王子は自分の良い様に解釈してしまう気がした。
「殿下、アビゲイル妃殿下の元へお渡り下さい」
「ハヴリエル!!!!」
いつの間にか私のことを呼び捨てにしている!!!!
そして彼は私の手を両手で掴み、こう言った。
「ハヴリエルが望むなら、そなたを私の妃にしてもよいのだぞ」
「絶対に望みません」
誤解されないようにキッパリと告げた。
護衛騎士の自分がどうして王子の妃になるのだ。
それに、彼はいつかその呪いが解ける。解けたときに元護衛騎士の立派な男が妃としてそばにいた時には、何を思うだろう。きっと私への殺意に違いない。
それから、私は彼の肩を掴んで引き上げると(ちなみに私の方がアンリ王子よりも体格も良く力もあった)、その背中を押して、大きな扉から外へ押しやった。妃の元へ渡る道中、廊下は寒いと思い、ちゃんと暖かな上着も押し付けてやる。
「どうぞ、妃殿下とごゆっくりお過ごしください」
そうして扉をバタンと閉め、鍵も下ろす。
外からドンドンと扉を叩く音が響き渡る。
「ハヴリエル、ここを開けるのだ!! ハヴリエル」
「殿下、さっさとお渡りになってください」
「渡らぬと言っているであろう」
「それが殿下のお仕事なのです」
そう言うと、アンリ王子は扉を叩く手を止めた。
「……………私の仕事だと?」
「そうです」
以前の彼は、そのことについては非常に割り切っていた。
二番目の王子として生まれたアンリは、一番目の王子のスペアだ。
幼い頃から、一番目の王子を支えるべく英才教育を施された、見目麗しい、そして温厚な王子。
絵を描くことが好きで、芸術に造詣が深い。
優しく、誰からも好かれている王子だった。
その彼は、母妃に勧められるままアビゲイル妃を娶り、彼女と仲睦まじい振りを上手にしていた。
求められるままに、夜も彼女の宮へ渡っていた。
それと同時に、美しい少年達を侍らせ、楽しんでいた。
そんな生活が、アンリ王子の仕事のようなものだった。
「今は違う。ハヴリエル、そなたを愛してからは、私は今までのように生きることは出来ない」
扉の向こうで熱く語り出すアンリ王子。
いや、まったく今まで通りでいいのだが。
今まで通り、アビゲイル妃の元へ渡り、そして趣味の美少年たちを侍らせても構わないのだ。
「殿下、殿下は今、私に恋する呪いを受けているのです。それでおかしくなっているだけです。呪いが解ければ、私のことなど」
そう、元から気に入らない様子だったから、言い寄っていた過去を恥じて追い出そうとするだろう。
そんな未来も予想できていた。
だからこそ、私は殿下の呪いが解けた後は護衛騎士を辞めて、旅に出ることにしていたのだ。
「どうでもよくなるのです。殿下、少しずつその事実を受け入れて下さい」
自分が呪いを受けて、おかしくなっていると自覚することが大事なのだ。
しかし、アンリ王子にかけられている呪いは非常に強固だった。
「私は、例え呪いを受けていなかったとしても、お前を愛しているぞ!!!!」
言い切った。
いや、それはあり得ません。
私は断言できた。
だが、扉の前で延々とアンリ王子に騒がれ続けるのはさすがに外聞が悪い。
仕方なしに、渋々と私は扉を開け、彼を部屋の中へ入れた。
そしてアンリ王子がまだ上着を身に付けていなかったことに気が付いて、その冷えた手を掴んで、暖炉の前に連れていく。
「廊下は寒かったでしょうに」
「お前に追い出されて、妃の元へ行けと言われたことの方が、ずっと心が冷えた」
そんなことを言われたのだった。
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