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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第十章 蝶の夢(下)
第九話 結界の指輪(上)
獅子面の魔族の騎士ローエングリンは、ユーリスがシルヴェスターの卵を身籠っていると聞くと、ゴルティニアの王城に、白銀竜達を討つために攻め込むことを、とりあえずは中止した。
万が一にも、ユーリスに矛先が向いては困るからだ。
ユーリスは、ローエングリンにとっての主君、シルヴェスターの子を孕んでいるのである。
その身は大切に守られなければならない。
「グルグルグルルルゥグルゥ(卵を無事に産み落とした後、もしユーリス殿に私の加勢が必要ならば声を掛けて下さい)」
そうローエングリンは言って、魔の領域に帰っていったが、ユーリスは無事に卵を産み落としたとしても、ローエングリンに加勢を頼むつもりはなかった。
高位魔族ローエングリンとその配下の魔族達を率いて、ゴルティニア王国の王城に行き、白銀竜達と戦うとなれば、王城は元より都は大荒れとなり、巻き込まれて命を落とす者達も次々に出てくるはずだ。シルヴェスターを取り戻したいとは考えていたが、国を内戦状態にすることは避けたかった。
とにもかくにも、シルヴェスターの現状を確認して、そして彼の記憶を取り戻す方法を見つけなければならなかった。武力で強引にどうこう出来る問題ではないのだ。
卵を産み落とした後、ユーリスは今の自分に出来る方策を考えた。
一つは、白銀竜達の精神支配の魔法から逃れる術を見つけることだった。
シルヴェスターに会いに行くとしても、王城に足を踏み入れた瞬間、白銀竜達の魔法に支配されてはたまらない。副官のセリム達も王城にいた時にはおかしくなっていた。その自覚が彼らにはあったからこそ、白銀竜達を強く警戒していた。
ユーリスは、自分につけられた小さな黄金竜ウェイズリーに、セリム達を含め自分に、精神支配の魔法を防ぐ、防御の魔法をかけられないか尋ねたが、小さな黄金竜ウェイズリーは「キュルー(出来ない)」と答えた。一生懸命小さな竜が説明したことによると、その場、その瞬間で防ぐことが出来ると思うが、継続的に、複数の人間に対して加護のようなものを小さな黄金竜ウェイズリーがかけることは出来ないようだった。
そもそも、小さな黄金竜ウェイズリーはユーリスの身を守るためだけに作られたのだ。さらにその魔法の力を分散させるような、他の人間に対して加護を与えるようなことは出来ないと言う。
何かしら、身を守る防御の魔法のことを考えている中で、ユーリスは思い出した。
かつて、ユーリスの父ジャクセンの身を結界で守った指輪の魔道具があったことを。
毎朝、ジャクセンの寝室にやってくるルドガーに、怒っていたジャクセンのために作り上げた、非常に強力な結界の魔道具の指輪だった。
それも黄金竜ウェイズリーの鱗から作り上げた指輪だった。
そのことを思い出して、ユーリスはすぐにラウデシア王国にいる妹コレットと連絡をとった。
コレットは、婿取りをしてバンクール商会を継いでいた。彼女はバンクールの屋敷と父ジャクセンの財産の管理も行っていた。当然、父が持っていた魔道具なども彼女が把握しているはずだ。
長い間、ユーリスが連絡をとっていなかったことを、コレットは文句を言いつつも、彼女はその指輪がバンクールの屋敷にあることを教えてくれた。細身の銀の三連の指輪。遠話魔道具を通じて、ユーリスが、急ぎ、その指輪が欲しいと頼むと、彼女は、早急にその指輪をユーリスのいるゴルティニア王国のバンクール商会の支店まで送ってくれることになった。
そして妹コレットは、ユーリスの身をひどく案じていた。
彼女はこの一年の間、何度もユーリスの安否についてゴルティニア王国の王城に問い合わせていた。突然、一年程前からユーリスからの連絡がパッタリと途絶えたからだ。ラウデシア王国のバンクール家の者達は、ユーリスの身に何か起きたのではないかと考えた。
しかし、問い合わせをしても「そのような人物はいない」と答えられるだけで、まともな返事がもらえなかった。バンクール商会の者を遣わせても、王城に入れてもらえることはなかったという。
そのことを聞いて、ユーリスは内心胸を撫で下ろしていた。
もし、そのバンクール商会の者が王城に足を踏み入れて、ユーリスのことを問いかけようとしたならば、最悪、“白銀の芽”で貫かれて絶命しただろう。または白銀竜の精神を支配する魔法にかけられて、ユーリスのことを聞くことも出来ない状態にさせられたはずだ。
ユーリスの身に起きている異変を気にかけていたが、遠いラウデシア王国にいるコレット達ではどうすることも出来ず、コレット達バンクールの者達はひどくやきもきした気持ちでいたらしい。そこにようやく一年近く経ってユーリスから連絡が来たのである。驚くと共に、長い間連絡をとらなかったことに対して文句の一つも言いたくなったのだろう。
同時に、心配する声が、遠話魔道具から響いた。
「何があったの、お兄さま」
遠話魔道具の向こうから聞こえる声は、大人の女性の声だった。
ユーリスの瞼の裏のコレットの姿は、亜麻色の美しい髪をした、華奢な少女の姿である。
しかし歳月は流れ、遠話魔道具の向こうのコレットは、年を感じさせる声をしていた。
その彼女が、ユーリスのことを心配している。
「王城にもいないというじゃない。今、どこにいるの?」
ゴルティニア王国の空を漂う城の中だとは、ユーリスは答えられない。
ただ、安全な場所にいると心配する妹に答えた。
「もしお兄さまが、ラウデシア王国にお戻りになりたいのなら、いつでも私達は歓迎するわ」
ユーリスの身に起きている異変が只事ではないと感じているのだろう。コレットはそんなことを言う。
ユーリスは「大丈夫だよ、コレット」となんでもない風を装って答えた。
そして結界の指輪を出来るだけ早く送ってくれるように求めたのだった。
それから一週間後、バンクール家の護衛に守られながら、ジャクセンの遺品である結界の指輪がユーリスの手元に届けられたのだった。
万が一にも、ユーリスに矛先が向いては困るからだ。
ユーリスは、ローエングリンにとっての主君、シルヴェスターの子を孕んでいるのである。
その身は大切に守られなければならない。
「グルグルグルルルゥグルゥ(卵を無事に産み落とした後、もしユーリス殿に私の加勢が必要ならば声を掛けて下さい)」
そうローエングリンは言って、魔の領域に帰っていったが、ユーリスは無事に卵を産み落としたとしても、ローエングリンに加勢を頼むつもりはなかった。
高位魔族ローエングリンとその配下の魔族達を率いて、ゴルティニア王国の王城に行き、白銀竜達と戦うとなれば、王城は元より都は大荒れとなり、巻き込まれて命を落とす者達も次々に出てくるはずだ。シルヴェスターを取り戻したいとは考えていたが、国を内戦状態にすることは避けたかった。
とにもかくにも、シルヴェスターの現状を確認して、そして彼の記憶を取り戻す方法を見つけなければならなかった。武力で強引にどうこう出来る問題ではないのだ。
卵を産み落とした後、ユーリスは今の自分に出来る方策を考えた。
一つは、白銀竜達の精神支配の魔法から逃れる術を見つけることだった。
シルヴェスターに会いに行くとしても、王城に足を踏み入れた瞬間、白銀竜達の魔法に支配されてはたまらない。副官のセリム達も王城にいた時にはおかしくなっていた。その自覚が彼らにはあったからこそ、白銀竜達を強く警戒していた。
ユーリスは、自分につけられた小さな黄金竜ウェイズリーに、セリム達を含め自分に、精神支配の魔法を防ぐ、防御の魔法をかけられないか尋ねたが、小さな黄金竜ウェイズリーは「キュルー(出来ない)」と答えた。一生懸命小さな竜が説明したことによると、その場、その瞬間で防ぐことが出来ると思うが、継続的に、複数の人間に対して加護のようなものを小さな黄金竜ウェイズリーがかけることは出来ないようだった。
そもそも、小さな黄金竜ウェイズリーはユーリスの身を守るためだけに作られたのだ。さらにその魔法の力を分散させるような、他の人間に対して加護を与えるようなことは出来ないと言う。
何かしら、身を守る防御の魔法のことを考えている中で、ユーリスは思い出した。
かつて、ユーリスの父ジャクセンの身を結界で守った指輪の魔道具があったことを。
毎朝、ジャクセンの寝室にやってくるルドガーに、怒っていたジャクセンのために作り上げた、非常に強力な結界の魔道具の指輪だった。
それも黄金竜ウェイズリーの鱗から作り上げた指輪だった。
そのことを思い出して、ユーリスはすぐにラウデシア王国にいる妹コレットと連絡をとった。
コレットは、婿取りをしてバンクール商会を継いでいた。彼女はバンクールの屋敷と父ジャクセンの財産の管理も行っていた。当然、父が持っていた魔道具なども彼女が把握しているはずだ。
長い間、ユーリスが連絡をとっていなかったことを、コレットは文句を言いつつも、彼女はその指輪がバンクールの屋敷にあることを教えてくれた。細身の銀の三連の指輪。遠話魔道具を通じて、ユーリスが、急ぎ、その指輪が欲しいと頼むと、彼女は、早急にその指輪をユーリスのいるゴルティニア王国のバンクール商会の支店まで送ってくれることになった。
そして妹コレットは、ユーリスの身をひどく案じていた。
彼女はこの一年の間、何度もユーリスの安否についてゴルティニア王国の王城に問い合わせていた。突然、一年程前からユーリスからの連絡がパッタリと途絶えたからだ。ラウデシア王国のバンクール家の者達は、ユーリスの身に何か起きたのではないかと考えた。
しかし、問い合わせをしても「そのような人物はいない」と答えられるだけで、まともな返事がもらえなかった。バンクール商会の者を遣わせても、王城に入れてもらえることはなかったという。
そのことを聞いて、ユーリスは内心胸を撫で下ろしていた。
もし、そのバンクール商会の者が王城に足を踏み入れて、ユーリスのことを問いかけようとしたならば、最悪、“白銀の芽”で貫かれて絶命しただろう。または白銀竜の精神を支配する魔法にかけられて、ユーリスのことを聞くことも出来ない状態にさせられたはずだ。
ユーリスの身に起きている異変を気にかけていたが、遠いラウデシア王国にいるコレット達ではどうすることも出来ず、コレット達バンクールの者達はひどくやきもきした気持ちでいたらしい。そこにようやく一年近く経ってユーリスから連絡が来たのである。驚くと共に、長い間連絡をとらなかったことに対して文句の一つも言いたくなったのだろう。
同時に、心配する声が、遠話魔道具から響いた。
「何があったの、お兄さま」
遠話魔道具の向こうから聞こえる声は、大人の女性の声だった。
ユーリスの瞼の裏のコレットの姿は、亜麻色の美しい髪をした、華奢な少女の姿である。
しかし歳月は流れ、遠話魔道具の向こうのコレットは、年を感じさせる声をしていた。
その彼女が、ユーリスのことを心配している。
「王城にもいないというじゃない。今、どこにいるの?」
ゴルティニア王国の空を漂う城の中だとは、ユーリスは答えられない。
ただ、安全な場所にいると心配する妹に答えた。
「もしお兄さまが、ラウデシア王国にお戻りになりたいのなら、いつでも私達は歓迎するわ」
ユーリスの身に起きている異変が只事ではないと感じているのだろう。コレットはそんなことを言う。
ユーリスは「大丈夫だよ、コレット」となんでもない風を装って答えた。
そして結界の指輪を出来るだけ早く送ってくれるように求めたのだった。
それから一週間後、バンクール家の護衛に守られながら、ジャクセンの遺品である結界の指輪がユーリスの手元に届けられたのだった。
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(ムーンライトノベルにも掲載しています)