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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 終章
第十話 懐かしい人物(上)
ジャクセンが王城に来て二か月が経とうという時、アリアナはジャクセンから頼まれた。
「ラウデシア王国の王都に連れて行って欲しい」
アリアナは、親であるウェイズリーと一緒に、この大陸の各所に行っていた。
それは“転移”魔法の飛び先を増やすためだった。
先日の白銀竜の騒動の際、アリアナが卵の中に閉じこもっていた原因の一つに、彼女が逃げようとしても“転移”先が無かったことがあった(アリアナは空中城しか知らなかった)。“転移”魔法は一度行ったことのある場所にしか飛ぶことは出来ない。そのことに気が付いたユーリスは、ウェイズリーに頼んでアリアナを連れて、大陸の各所に飛んでもらっていた。
また何かあった時、アリアナが即座にどこかへ逃げることが出来る必要があった。
その一つには、当然、ラウデシア王国が含まれる。
ラウデシア王国は、この大陸で竜の生息する唯一の場所だ。
当然アリアナが知ってしかるべき場所である。
そしてラウデシア王国の王都は、ジャクセンとユーリスの出身地である。ここも“転移”先のリストからは外せない。
ジャクセンに頼まれ、アリアナは頷いた。お安い御用だと小さな胸を張っている。
「王都のバンクールの墓所には飛べるか?」
アリアナは頷く。
バンクールの屋敷は元より、ユーリスが墓参りがしやすいようにと墓所も“転移”先リストに含んでいる。
アリアナが小さな手を差し出すと、ジャクセンはその手を握る。
そしてアリアナは“転移”した。
墓所の建物内は、入口の扉が閉まっているせいで暗い。
アリアナは魔法で明りの光を灯す。
ジャクセンは、つい先日もルドガーに連れて来られた墓所内を見回した。
今回は自分や妻の墓石を見るためにやって来たわけではない。
彼は、墓所内を歩き、灰色のタイルの床を見て回る。
そしてある個所に来て足を止めると、そのタイルをポケットから取り出したナイフで持ち上げようとする。タイルとタイルの隙間にナイフを差し込むと、テコの原理を使って少し持ち上げ、それから剥いだ。
アリアナは、ジャクセンの肩に止まり、彼が何をしようとしているのか興味津々と眺めていた。
ジャクセンは、服が汚れることも構わず、腕を、外したタイルの中の空洞に差し込んだ。
それから何かを掴んで引き上げる。
「キュルルルゥ?(それはなぁに?)」
アリアナの問いかけに、ジャクセンは答えた。
「私の隠し財産だ。まだ誰にも見つかっていないようで良かった」
屋敷内の金庫とは別に、ジャクセンは屋敷の敷地内の何箇所かに財産を分散して持っていた。
ジャクセンの死後、見つけられたものもあるだろう。
しかし、ここは見つかりにくい場所であったこともあり、残っていた。見つかりにくい場所であることから、ジャクセンは特殊な魔道具や宝石、金貨などを置いていた。
ジャクセンが床のタイルの中から引き上げたのは、金属製の縦に長い長方形の箱だった。
その箱の蓋を開けると、布袋が幾つか現れる。
その布袋を、ジャクセンは用意していたバックに全て詰め込んだ。
それから空になった金属製の箱を、再び元通りにタイルの穴の中に入れ、そしてタイルをピタリと床に合わせてはめ込む。
そして一枚のタイルが外れたとは思えない、元通りの滑らかな床になっていることを確認すると、ジャクセンは言った。
「では行こうか。せっかく、ラウデシア王国に来たのだ。ユーリスに土産でも買って行こう」
「キュルゥ」
「アリアナの好きな菓子も買って行こう」
「キュイキュイ!!」
アリアナは大喜びで、ジャクセンの胸にぺったりと張り付いたのだった。
ジャクセンはアリアナを胸元に入れると、アリアナに頼んで王都の街の中に“転移”した。
アリアナに“転移”魔法を使ってもらいながらも、つい先日、ユーリスから話されたことを思い出していた。
その日、ジャクセンのいる客室で、ユーリスは人払いをした上でこう話を切り出した。
「父上と私は、白銀竜の竜珠で生き返りました」
先日、ジャクセンと同じようにユーリスも一度死んで、蘇っていた。
白銀竜達との争いの中、ユーリスはその身を“白銀の芽”で貫かれて死んだのだが、シルヴェスターとウェイズリーが望んで、彼は生き返っている。
その際に使われたのが、白銀竜の命の珠、真っ白い竜珠だった。
そしてジャクセンも復活の際、ルドガーがその竜珠を使っていた。
「私は竜珠で生き返ったせいか、今まで魔法が使えなかったのに、使えるようになりました。どうやら竜珠の源になった白銀竜の能力が、私に移行したようです。つまり私が言いたいのは、父上の身の上にも、同じことが起きている可能性があるということです」
ジャクセンも魔法が使えるようになっているという話。
それでジャクセンは、ユーリスに頼んで自分に魔術の教師を付けてもらっている。
実際、確認したところ、驚いたことにジャクセンの身は白銀竜の膨大な魔力を帯び、属性も備わっていた。
今まで魔法など使うことが出来なかったのに。
それは嬉しい驚きだった。
ジャクセンは“転移”魔法も使える。
高度なそれを、竜と同じように、呪文を唱えずとも使うことが出来るのだ。
そのことをジャクセンは、ユーリスに他の者に対しては内密にするよう求めた。
特に、ルドガーには知られたくなかった。
何かあった時には、ジャクセンは“転移”して逃げることが出来る。
それは大きな隠し玉になるだろう。
ジャクセンは、胸元に小さな黄金竜の雛アリアナを潜ませたまま、王都内の有名菓子店の幾つかを回った。そしてユーリスや娘達が子供時代に好きだったという菓子をアリアナに小声で紹介しながら、アリアナの求めるままたくさんの菓子を買い求めていく。アリアナは他の者達に聞こえないように「キュイキュイキュイ!!」と大喜びで、何度もジャクセンの胸元に頭を擦りつけていた。
そんな風にアリアナと小声で話して、ジャクセンがたくさんの菓子の入った袋を持って歩いていたため、反応が遅れたのだろう。
彼は突然、肩を掴まれた。
驚きの声がかかる。
「ジャクセン様」
振り向いたジャクセンの前に立つのは、大柄な一人の老人だった。
「ラウデシア王国の王都に連れて行って欲しい」
アリアナは、親であるウェイズリーと一緒に、この大陸の各所に行っていた。
それは“転移”魔法の飛び先を増やすためだった。
先日の白銀竜の騒動の際、アリアナが卵の中に閉じこもっていた原因の一つに、彼女が逃げようとしても“転移”先が無かったことがあった(アリアナは空中城しか知らなかった)。“転移”魔法は一度行ったことのある場所にしか飛ぶことは出来ない。そのことに気が付いたユーリスは、ウェイズリーに頼んでアリアナを連れて、大陸の各所に飛んでもらっていた。
また何かあった時、アリアナが即座にどこかへ逃げることが出来る必要があった。
その一つには、当然、ラウデシア王国が含まれる。
ラウデシア王国は、この大陸で竜の生息する唯一の場所だ。
当然アリアナが知ってしかるべき場所である。
そしてラウデシア王国の王都は、ジャクセンとユーリスの出身地である。ここも“転移”先のリストからは外せない。
ジャクセンに頼まれ、アリアナは頷いた。お安い御用だと小さな胸を張っている。
「王都のバンクールの墓所には飛べるか?」
アリアナは頷く。
バンクールの屋敷は元より、ユーリスが墓参りがしやすいようにと墓所も“転移”先リストに含んでいる。
アリアナが小さな手を差し出すと、ジャクセンはその手を握る。
そしてアリアナは“転移”した。
墓所の建物内は、入口の扉が閉まっているせいで暗い。
アリアナは魔法で明りの光を灯す。
ジャクセンは、つい先日もルドガーに連れて来られた墓所内を見回した。
今回は自分や妻の墓石を見るためにやって来たわけではない。
彼は、墓所内を歩き、灰色のタイルの床を見て回る。
そしてある個所に来て足を止めると、そのタイルをポケットから取り出したナイフで持ち上げようとする。タイルとタイルの隙間にナイフを差し込むと、テコの原理を使って少し持ち上げ、それから剥いだ。
アリアナは、ジャクセンの肩に止まり、彼が何をしようとしているのか興味津々と眺めていた。
ジャクセンは、服が汚れることも構わず、腕を、外したタイルの中の空洞に差し込んだ。
それから何かを掴んで引き上げる。
「キュルルルゥ?(それはなぁに?)」
アリアナの問いかけに、ジャクセンは答えた。
「私の隠し財産だ。まだ誰にも見つかっていないようで良かった」
屋敷内の金庫とは別に、ジャクセンは屋敷の敷地内の何箇所かに財産を分散して持っていた。
ジャクセンの死後、見つけられたものもあるだろう。
しかし、ここは見つかりにくい場所であったこともあり、残っていた。見つかりにくい場所であることから、ジャクセンは特殊な魔道具や宝石、金貨などを置いていた。
ジャクセンが床のタイルの中から引き上げたのは、金属製の縦に長い長方形の箱だった。
その箱の蓋を開けると、布袋が幾つか現れる。
その布袋を、ジャクセンは用意していたバックに全て詰め込んだ。
それから空になった金属製の箱を、再び元通りにタイルの穴の中に入れ、そしてタイルをピタリと床に合わせてはめ込む。
そして一枚のタイルが外れたとは思えない、元通りの滑らかな床になっていることを確認すると、ジャクセンは言った。
「では行こうか。せっかく、ラウデシア王国に来たのだ。ユーリスに土産でも買って行こう」
「キュルゥ」
「アリアナの好きな菓子も買って行こう」
「キュイキュイ!!」
アリアナは大喜びで、ジャクセンの胸にぺったりと張り付いたのだった。
ジャクセンはアリアナを胸元に入れると、アリアナに頼んで王都の街の中に“転移”した。
アリアナに“転移”魔法を使ってもらいながらも、つい先日、ユーリスから話されたことを思い出していた。
その日、ジャクセンのいる客室で、ユーリスは人払いをした上でこう話を切り出した。
「父上と私は、白銀竜の竜珠で生き返りました」
先日、ジャクセンと同じようにユーリスも一度死んで、蘇っていた。
白銀竜達との争いの中、ユーリスはその身を“白銀の芽”で貫かれて死んだのだが、シルヴェスターとウェイズリーが望んで、彼は生き返っている。
その際に使われたのが、白銀竜の命の珠、真っ白い竜珠だった。
そしてジャクセンも復活の際、ルドガーがその竜珠を使っていた。
「私は竜珠で生き返ったせいか、今まで魔法が使えなかったのに、使えるようになりました。どうやら竜珠の源になった白銀竜の能力が、私に移行したようです。つまり私が言いたいのは、父上の身の上にも、同じことが起きている可能性があるということです」
ジャクセンも魔法が使えるようになっているという話。
それでジャクセンは、ユーリスに頼んで自分に魔術の教師を付けてもらっている。
実際、確認したところ、驚いたことにジャクセンの身は白銀竜の膨大な魔力を帯び、属性も備わっていた。
今まで魔法など使うことが出来なかったのに。
それは嬉しい驚きだった。
ジャクセンは“転移”魔法も使える。
高度なそれを、竜と同じように、呪文を唱えずとも使うことが出来るのだ。
そのことをジャクセンは、ユーリスに他の者に対しては内密にするよう求めた。
特に、ルドガーには知られたくなかった。
何かあった時には、ジャクセンは“転移”して逃げることが出来る。
それは大きな隠し玉になるだろう。
ジャクセンは、胸元に小さな黄金竜の雛アリアナを潜ませたまま、王都内の有名菓子店の幾つかを回った。そしてユーリスや娘達が子供時代に好きだったという菓子をアリアナに小声で紹介しながら、アリアナの求めるままたくさんの菓子を買い求めていく。アリアナは他の者達に聞こえないように「キュイキュイキュイ!!」と大喜びで、何度もジャクセンの胸元に頭を擦りつけていた。
そんな風にアリアナと小声で話して、ジャクセンがたくさんの菓子の入った袋を持って歩いていたため、反応が遅れたのだろう。
彼は突然、肩を掴まれた。
驚きの声がかかる。
「ジャクセン様」
振り向いたジャクセンの前に立つのは、大柄な一人の老人だった。
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