上 下
1 / 1

鳥人と野営って・・・

しおりを挟む
俺は普通の高校生、五十嵐竜斗いがらしりゅうと、15歳だ。
俺は今、家族と山でキャンプをしている。
もう、すでに深夜の2時だった。
昼メシに食べた鳥の丸焼きの加熱が足りなかったのか、俺だけ腹痛になり、少し離れた場所のトイレで1時間ほどこもっていた。
トイレから出ようと手を洗おうとしていると突然、突風が吹いてきて目に砂が入ってしまった。
目が、目が、痛い!
決して擦ってはいけない。
とっさに目に水道水をかけ、砂を洗い流した。
さっきよりは良くなった。
ハンドドライヤーで手を乾かし自分たちのテントサイトに戻った。だが目の前には、家族で泊まるために持ってきたビニール製のテントではなく、真っ白で丈夫そうな布でできたテントと、その前で焚き火を囲む3人の鳥人。
鍋で何か煮ているようだ。
「お前らは誰だ!」
すると鳥人がこちらを振り向いてきた。
全員ワシの鳥人で、鋭く鍵状に先が曲がった嘴には動物の血が炎の光で輝いていた。
「いや、なんでもありません!」
「おい、ちょっとそこの君! 足と嘴と羽毛と風切り羽根と尾羽がないぞ。何があった?」
鳥人に、呼び止められてしまった。
「怪しいものではない。何か、悩みがあったら話してくれ」
「え?」
凶暴な戦闘種族ではなさそうだ。
「こっちだ」
「なかなか見ない種族だな」
「こいつは、だ」
「おい! 初対面の坊主に何を言う!」
「君の名前は?」
「五十嵐、竜斗・・・」
「竜斗か、いい名だ。さっきはすまないな。私はウォルフガング、アマデウス・ウォルフガングだ、よろしく。
さっきお前に悪口を言ったのはネイサン・キンドルだ。なんか言ったらどうだキンドル」
「さっきは、すまないな・・・」
「キンドルはのことを考えずに物事を言ったり、自分で自分のことを『イケメン』と言って、周りのメス達からキャアキャア言われている、変なカザノワシ鳥人だ」
「で、こっちでずっと鍋をかき回しているのはトム・クリストンだ」
「私はクリストンだ。よろしく。私は彼の執事をしているんだ。私の頭が白いのは白羽しらうではなく、もとからの色だ。季節によって色が変わる。私共、ハクトウワシの特徴だ。だがな、彼も自分がイヌワシ鳥人だからっていつもいい気になっている」
俺はさっきから気になっていた。クリストンは何を混ぜているのか。ここはどこなのか。
「あの、すみません。さっきからクリストンさんは何を混ぜているんですか?あと御三方の名前は全員外国人っぽいですけど、ここってどこです?」
「ここはニッポンのはずじゃないか? お前もニッポンから来たはずだろ」
ニッポン? 鳥人が目の前にいるのなら、ここは異世界のはずだ。
ラノベでもこう言う展開の時は、聞いたこともない王国の名前が出てくるものだ。
「私がずっと混ぜているものは、野山の山菜と『トリキオスタジオシンVXRF』っていうクスリみたいなもののスープだ。最近では一部の鳥人が毛のないサルのような生物に変身してしまうという病気が流行していて、世界中では大規模なパンデミックと医療崩壊が起きている。患者は全員、感染前の記憶を完全に失っている。
君も恐らくその病気に感染している。何も覚えていないか?」
「はい、何も覚えていません・・・」
「やっぱり感染しているな。このスープを飲めばすっかり元の鳥人の姿に戻る」
「じゃあ、飲んでみます」
俺は一気にそのスープを飲んだ。
「思ったよりはやく変身したな。おっと・・・」
「おっとって、なんだ?」
「君は今鳥人ではなく、まるでドラゴンとイヌワシのキメラ、『鳥外』だ」
鳥外? 人外ではないのか?
今、竜斗は体にふさふさした羽毛が生えていて、足はタカ。
頭はヴェロキラプトル。腕は皮膜のある大きなドラゴンの翼になっている。
おまけにシッポ付き。
 実は、今まで人外が出てくるラノベを読みすぎていつか自分も人外になりたいと強く願っていたのだ。
やっと、カッコいい人外になることができた。自分には大きな翼がある。もう、家に帰る必要はない。
キャンプ場の崖は麓の夜景が見えるように木が全て伐採されていた。
「ここから飛び立てる」
「待つんだ竜斗! 記憶を失っている状態では飛ぶことは不可能だ! あ! 危ない!」
竜斗は崖から飛び降りた。
うまく気流に乗れた。
だが、風が急に強くなり竜斗はそのまま木に衝突し、気絶した。

「はぁ!」
目を覚ましたのは自分の部屋だった。
鳥人との出会いは夢だったのだ。
「竜斗、起きた? 早朝にローブを着た3人組の男の人が家に届けてきてくれたんだから!」
竜斗は階段を降りた先にある洗面所へと向かった。
「竜斗! その姿・・・ なにがあったの!?」
寝ぼけていて聞こえてない。
彼は気づかなかった。夢の通り、自分が本物の人外になっていることを。
洗面所の鏡を見るまでは・・・


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...