SCAPEGOAT ~人の生命力を使って絶大な力を得る怪物、業魔~

アフロマリモ

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第3話 不安定な正義

3-6 黒い狂気

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    俺の黒い拳が、“鎧鼠”の頭を砕く。

 顔面がへこみ、バランスを崩した“鎧鼠”は倒れこむ。

 俺は馬乗りになり、容赦なく顔面にもう一度拳を叩きこむ。

 頭が完全につぶれたのを確認すると、すぐさま“鎧鼠”の左腕を引き千切る。

 再生しようとしている頭を潰し、次は右足、また頭を潰し、手持ち無沙汰になったら、内臓を引きずり出す……その繰り返し。

悪を裁いている。その実感が、心に活気と快楽を巻き起こす。


「アハハ! アハハハハハハハ!!」


俺は夢中で、“鎧鼠”を嬲り続ける。


 俺は心の中で、四肢をもいだ回数をカウントする。そのカウントが18になる頃、“鎧鼠”は業魔化を保てなくなり、人に戻った。

 あたり一面は血の海になっていて、その血が誰の血なのか分からないくらいに混ざり合い、平原に満ち満ちていた。


俺は、人の姿になった“鎧鼠”を血だまりから拾い上げ、握りつぶそうとする。骨が砕ける感触が手の平に広がっていく。


「あ“ぁあぁぁぁっぁぁ!!」


 苦痛に悶える“鎧鼠”。トドメを刺そうと力をもっと籠めようとするが、思うようにいかない。苛立ち声を上げる。


「クソっ! どうして!?」


 俺の業魔化も解除されていく。とうとう再生の限界を超えたようだ。

体は徐々に溶け、人の姿に戻る。

溶けた業魔の体から、ティモが一瞬形作られるが、すぐに溶けた肉塊へと変貌する。


「早く、この業魔を……悪を殺さないと!」


 俺は周りを見渡す。すぐそばにあった潰れた死体が、剣を持っている。


(これで止めを!)


 すぐにそれを拾い上げ、“鎧鼠”のもとへ行く。

 鞘から剣を取り出し、突きつける。

 その様子を見ながら“鎧鼠”は笑い出す。


「アハハハハハ! あ、痛てて!」


 折れた骨に響いたのだろう、痛がる。最後の最後までふざけていやがる、こいつは。


「何が可笑しい!」


 死にかけの業魔を怒鳴りつける。


「俺を……殺すのかぁ。お前は俺と何ら変わらない……自分の快楽のために人を殺す俺と……お前は立派な業魔だ」


 そう言い、嚙み殺すようにクツクツと嗤う“鎧鼠”に、俺は反論する。


「俺は違う、快楽のために力を行使しない! お前みたいな悪に正義を下すために行使している! お前とは違う!」


「嘘をつくなよぉ“黒ヤギ”、快感だっただろ! 自分の目的のために他者をねじ伏せるのは、気持ちいだろ! やめられないだろ!」


「そんなことはない!」


「ならどうして……お前はそんなにも笑顔なんだ?」


 “鎧鼠”のその言葉に、体が硬直する。血だまりに映る自分の顔は、これまで見たことのないくらい笑顔だった。

俺は……俺は……どうしてこんなにも笑顔なんだ。

 俺はずっと笑顔だった、こいつをいたぶっている最中も、戦っていた時も。

 悪を裁けることに、快楽を感じざる負えなかった。こうして止めを刺すことにも。


「ち……違う……これは」


俺は否定しようとするが、手が震え目の焦点が定まらない。

 無意識のうちに変わっていた、自分の目的が……こいつを殺して快楽を享受することに。


「あぁ……気持ちよかったね」


 俺の向かいには、いつの間にか幻覚の少女が居て、そうつぶやいた。

 俺は震える声で、その快楽を否定する。


「違う……俺は、みんなが望んだことを……」


「みんなって? そのみんなはもう死んじゃったよ」


 少女が微笑む。

 周りには誰もいなかった。物言わぬ肉塊ばかりが、平原に転がっていた。誰も救えなかった。そんなこと今の今まで忘れていた。

真っ先に悲しむべきはずだった。俺はそんなこと忘れ、悪を裁くことに夢中になっていた。

 俺は急いで否定する。


「じゃあ、父さんのため……父さんが望んだんだ!」


「お父さんが言ってたの? 悪人を殺せって? お父さんは悪人に成るなとしか言ってないし、望んでないよ。

それに……フフフ……その父さんも、もうすぐ死んじゃうしね。もうお仕事できないから」


(父さんは、あれ?……望んで……ない? じゃあ誰が、望んだんだ。この結果を。この快楽を)


俺のすぐ傍まで近づき、少女は囁く。


「それはね……あなたが望んだのよ、ギデオン。あなたがこの結果と快楽を望んだのよ。

どこまで行っても業魔は業魔、衝動には逆らえない」


 俺は……人……心だけは……

呆然とする俺に、“鎧鼠”は叫ぶ。


「さぁ! 俺を殺せよ! そうすることでお前は心身共に、業魔として覚醒する!

 俺を殺して、快楽をかみしめろ! “黒ヤギ”――」


 少女は、剣を持つ俺の手にそっと触れ囁く。


「さぁ、この悪を殺して。一緒に快楽に浸りましょう……フフフ――」


「「アハハハハハハハハハハ!!!」」


 少女と、“鎧鼠”の嗤い声が、不気味に重なる。


「俺は……、業魔なんかじゃ……ない!」


 俺は歯を食いしばり、無理やり声を絞り出す。

 剣を投げ捨て、その場から逃げ出す。後ろから、“鎧鼠”の声が聞こえる。


「逃げるなぁ! 俺を殺せ!! ここで殺さなかったことを、必ず後悔させてやるからな!! “黒ヤギ”イィィィィイイ!!!」


 あのケガならもう助からない。そう自分に言い聞かせ、後方からの叫びを無視した。

家までの帰路は息が切れようが、足がつろうが関係なく走り抜けた。その間俺はひたすら否定し続けた。心に沸いたあの快感と、俺が業魔であることを。


家に着くころには、太陽が顔を出し、皆が夢から覚めていた。





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花雨
2021.08.10 花雨
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2021.08.10 アフロマリモ

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