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EP:1 暴かれた墓場
第12話 音が聞こえる
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しゅううううぅ――……。
辺りには濃霧が発生していた。
それは、あの爆弾の液体がもたらしたものに間違いはない。
それは緑色で徐々にではあるものの。
ここ――《グレース・セメタリー》を覆おうとしている。
その状況に三人も気づいていたんだ。
それによって起きた――《屍》の叫びが。
悪い方向へと、胸を騒がせていた。
もしも。生きている人間が、これを浴びたのなら? とかもだ。
◆
「しっかし! でもだ!」
マサルが声を上げた。いい加減黙っていられないのかな? すかぽんたんは。
ばさばさ、とカエデのコートをヒラつかせ、大きく胸を弾ませて。
「――……う゛」
それにカエデが鼻先を抑えた。
「如何したでござるか? カエデ殿」
「放ってて置いていいよ! そんな変態なんか!」
僕も、腹が立ってそうスミタに言った。心配に値しない連中だ。
「エドガー殿。辛辣な言い方でござるなぁ」
「だって! 変態なんんだよ? あいつ!」
「しかし。ものには言い方があってでござるよ?」
「いいんだよ! もう! 一刻の猶予もないのに!」
「む? どういう、意味でござるか? エドガー殿」
スミタがそう僕に訊き返したから。
僕も、
「蔓延しているんだよ? あの毒煙が至るところに! 全部言わなくたって分かるよね?! スミタは頭が回るんだから!」
スミタに言い返した。
顔を横にしてスミタも首を撫ぜながら、軽く頷いた。
「遺骸が甦り。化け物となっておるのでござろう」
「はぁ?! ッな、何なのよ! っそ、それは‼」
ジノミリアがやかましくも、話しに割り込んでくる。ちょっと、来ないでくれないかな?
「何か来てるって音とか! 声は! ここで埋葬されてる《屍》ってことなの??」
「ちょっと。考えたら分かることだと思うんだけど」
鼻先を抑えながら、カエデも話しに加わった。
袖口も赤くて、どこに血がついているのは見えない。
「鼻血は収まったの? 変態さん」
「ああ。なんとかね、エドガー君」
じじじ――……。
「‼ っひゃん‼‼ ぁづづづづぃ~~‼」
「!? かかか、カエデ殿‼ エドガー殿の貝に煙草の火を当てるのは止すでごっざー~~る‼」
制止してくれるスミタを他所に、カエデは僕を見下ろしながら。その行為を止めてくれない。大人げないにもほどがあるぅううう‼
「食べるなら焼かなきゃ無理だからね。自分は」
「「よっしゃ!」」
カエデの言葉によりにもよって! ぺちゃぱい女とすかぽんたん男が歓喜に声を同調させた‼
「人でなしでござるな!」
「ま。それは食料でもあるしね。ここの国のお宅には分からない台所事情ってやつよ」
「っし、しかし! しかしでござるよ!?」
「分かった! 分かったから! もう君の性格的欠陥を言わないし! 君の命令も訊くから! 家を焼かないでッッ‼ 僕も食べないで‼」
僕も必死にそう許しを乞った。ここまで言わないと、お願いをしないと。こういう頑固で、禁欲的な役所勤めの堅い職業の人間の雄は自身の根本的な意思は揺るがないし。
信念を貫くという、概念を崩すこともしないから。
あえて、その雄の弱みに付け込むんだ。それが生きるための手段だからだ。
ただね。その弱みが雄にとってどれだけの部分が、自身のグラフを占めているかにもよる!
「じゃ。食べるの保留するよw これからも宜しくね? エドガー君?」
意地の悪い笑顔を向けて。
また煙草を口に含んだ彼を、僕はスミタの懐から見ていた。
「お主も大概でござるよ? エドガー殿」
「もういい! 言っても無駄だもん!」
「無駄ではござらん。ほれ、申してみよ」
「「近い」」
僕の声と――すかぽんたん男の声が同調した。
「? む。マサル殿」
「ああ。かんなり近いんだよな、あいつらーほら? 外に出られないっぽいから。食料はお前らじゃん? あのゾンビ連中の食料ってさ」
へらっと微笑みながら耳に手を添えた。
目を細めて、ヤツは言う。
「ほら。たくさんの足音だw」
ヤツはにこやかにこう言った。
「ほら。たっくさんの足音だぜぇw」
耳に手を当てて、足音と息遣いを感じている。そして、額には汗が滲んでいるのも、心臓が高鳴っているのも、僕には手に取るように分かるんだ。
それは恐怖なのか、それとも。
「こんな展開なんか誰も期待なんかしてないってのにさw」
すかぽんたん男が目を見開いて、自身の手首を見た。
「おい。カエデ、これがついてたら! 俺、真っ先に死ぬモブ並みの可哀想な奴になっちゃんだけど!」
「大丈夫でしょ。お宅は」
ふぅううー~~と平静に、カエデが口から煙を吹いた。
「何でだよ! おちょっくってんのかァ?!」
「自分が、お宅をからかって遊ぶ趣味があるとでも?」
「ああ! そうだよ‼」
「大好きなのに?」
ぞわ。
ぞわぞわぞわぞわ‼
「――~~ッッ‼」
真剣なカエデの表情と。彼からの思わない告白にマサルの口が震えて。一歩と、足を引いてしまう。
そして、顔を曲げてスミタの方を見た。
「‼ む?? ぁ、ああー~~カエデ殿。やはり、解いた方がよいのではないか? その方が自身を守れるでござるし。カエデ殿も、自身の守りに専念せねばならない局面もあるでござろう」
スミタも、言葉を選びながら。カエデを説得するように言う。
言われたカエデは、煙草を咥え直して。
すぅううう~~……。
「嫌だね」
ふぅうう~~――……。
「戻っちゃうじゃない、性別が」
「おおお、女じゃなきゃダメなのかよ! グレダラスは、んなこたぁ、全く気にしてなかったってのに‼」
「――グレダラス。グレダラスって……」
ぱっきん!
「‼ ぅお゛」
カエデは煙草を真っ二つに折り、地面に放り。靴底で踏み込んだ。
ぎゅ! と力を籠めて。
「自分を怒らせたいの」
髪を掻きむしりながらカエデは低く吐き捨てた。
それにマサルのすかぽんたん男は。
「や。んな……――都築マサルを愛してくんなきゃ。グレダラスには勝てないなァー」
顎に手を当てて、口許を覆い隠して言った。
何を考えてんのかな?
えい!
(まぢで怖ェよ! こいつ! おおお、男に戻れられりゃあ、こっちのもんだ! 腕力では同格になっし! 負けて押し倒されるってこともねェ! っふ、ふふん! さぁ! 折れろ! この変態野郎‼)
必死過ぎる……腰が引けてるじゃないか。威勢だけはいいんだなァ。
それで。この提案? にカエデはどう応えるんだ?
「《全解除》」
カエデはマサルの手首の枷を消した。表情は無く。何を考えているのかも分からないし。
逆に、僕はこっちが怖くなったんだ。迫り来る――《屍》の群れよりも。
「お! ぉおお~~♡」
そんな彼を他所に、解放されたことに喜ぶマサル。
「話しが分かる奴で安心したぜ!」
「よかったね」
素っ気なく返したカエデに、
「やっぱ。女の俺にしか興味なんかなかったのねw」
マサルは口を突き出しながら、そう言い捨てた。
「あのさー~~そんな気色悪いショーとかしないでくれる?!」
ジノミリアが顔を青ざめながら言う。それに、
「いやいや。ジノミリア殿、2人の恋愛に口を挟んではならぬでござるよ」
スミタが腕を組み、感慨深く頷いた。
何か、うん。やっぱり、スミタもどこかズレてんだなぁ。
「恋愛じゃねェよ! スミタ、手前‼」
「いやいや。照れなくてもよいでござる。男色など、拙者の国にもあり。珍しくもないでござる」
「俺はホモじゃねぇしぃいい‼ ふざけんな! この童貞野郎‼」
指を指し、腕を振りながらマサルが叫んだ。だから! 大声を出すな‼
「む? 拙者は妻子持ちでござるよ。妻とは一緒に住んでは居らぬが。こっちに来る前に産まれ、その女児の椿姫と共に暮らして居るでござる」
「「「「え゛???」」」」
僕と、ジノミリアとカエデ。マサルの全員が声を上げた。
それにスミタが眉を顰めた。
「拙者の国では12歳で成人でござる。15歳の拙者が世帯を持つには遅いぐらいでござるよ」
国の話しをするスミタに、全員が口を閉口させたてしまう。
僕は頭が混乱しているし。ジノミリアは泣いているし。
マサルは頬を膨らませて涙を溜めているし。カエデは、そんなマサルを見ているし。
この年齢層が高い中、一番の大人は最年少のスミタというのが事実でしかないんだ。
「さて。そろそろ――本腰入れて。行かねばならぬでござるな」
辺りには濃霧が発生していた。
それは、あの爆弾の液体がもたらしたものに間違いはない。
それは緑色で徐々にではあるものの。
ここ――《グレース・セメタリー》を覆おうとしている。
その状況に三人も気づいていたんだ。
それによって起きた――《屍》の叫びが。
悪い方向へと、胸を騒がせていた。
もしも。生きている人間が、これを浴びたのなら? とかもだ。
◆
「しっかし! でもだ!」
マサルが声を上げた。いい加減黙っていられないのかな? すかぽんたんは。
ばさばさ、とカエデのコートをヒラつかせ、大きく胸を弾ませて。
「――……う゛」
それにカエデが鼻先を抑えた。
「如何したでござるか? カエデ殿」
「放ってて置いていいよ! そんな変態なんか!」
僕も、腹が立ってそうスミタに言った。心配に値しない連中だ。
「エドガー殿。辛辣な言い方でござるなぁ」
「だって! 変態なんんだよ? あいつ!」
「しかし。ものには言い方があってでござるよ?」
「いいんだよ! もう! 一刻の猶予もないのに!」
「む? どういう、意味でござるか? エドガー殿」
スミタがそう僕に訊き返したから。
僕も、
「蔓延しているんだよ? あの毒煙が至るところに! 全部言わなくたって分かるよね?! スミタは頭が回るんだから!」
スミタに言い返した。
顔を横にしてスミタも首を撫ぜながら、軽く頷いた。
「遺骸が甦り。化け物となっておるのでござろう」
「はぁ?! ッな、何なのよ! っそ、それは‼」
ジノミリアがやかましくも、話しに割り込んでくる。ちょっと、来ないでくれないかな?
「何か来てるって音とか! 声は! ここで埋葬されてる《屍》ってことなの??」
「ちょっと。考えたら分かることだと思うんだけど」
鼻先を抑えながら、カエデも話しに加わった。
袖口も赤くて、どこに血がついているのは見えない。
「鼻血は収まったの? 変態さん」
「ああ。なんとかね、エドガー君」
じじじ――……。
「‼ っひゃん‼‼ ぁづづづづぃ~~‼」
「!? かかか、カエデ殿‼ エドガー殿の貝に煙草の火を当てるのは止すでごっざー~~る‼」
制止してくれるスミタを他所に、カエデは僕を見下ろしながら。その行為を止めてくれない。大人げないにもほどがあるぅううう‼
「食べるなら焼かなきゃ無理だからね。自分は」
「「よっしゃ!」」
カエデの言葉によりにもよって! ぺちゃぱい女とすかぽんたん男が歓喜に声を同調させた‼
「人でなしでござるな!」
「ま。それは食料でもあるしね。ここの国のお宅には分からない台所事情ってやつよ」
「っし、しかし! しかしでござるよ!?」
「分かった! 分かったから! もう君の性格的欠陥を言わないし! 君の命令も訊くから! 家を焼かないでッッ‼ 僕も食べないで‼」
僕も必死にそう許しを乞った。ここまで言わないと、お願いをしないと。こういう頑固で、禁欲的な役所勤めの堅い職業の人間の雄は自身の根本的な意思は揺るがないし。
信念を貫くという、概念を崩すこともしないから。
あえて、その雄の弱みに付け込むんだ。それが生きるための手段だからだ。
ただね。その弱みが雄にとってどれだけの部分が、自身のグラフを占めているかにもよる!
「じゃ。食べるの保留するよw これからも宜しくね? エドガー君?」
意地の悪い笑顔を向けて。
また煙草を口に含んだ彼を、僕はスミタの懐から見ていた。
「お主も大概でござるよ? エドガー殿」
「もういい! 言っても無駄だもん!」
「無駄ではござらん。ほれ、申してみよ」
「「近い」」
僕の声と――すかぽんたん男の声が同調した。
「? む。マサル殿」
「ああ。かんなり近いんだよな、あいつらーほら? 外に出られないっぽいから。食料はお前らじゃん? あのゾンビ連中の食料ってさ」
へらっと微笑みながら耳に手を添えた。
目を細めて、ヤツは言う。
「ほら。たくさんの足音だw」
ヤツはにこやかにこう言った。
「ほら。たっくさんの足音だぜぇw」
耳に手を当てて、足音と息遣いを感じている。そして、額には汗が滲んでいるのも、心臓が高鳴っているのも、僕には手に取るように分かるんだ。
それは恐怖なのか、それとも。
「こんな展開なんか誰も期待なんかしてないってのにさw」
すかぽんたん男が目を見開いて、自身の手首を見た。
「おい。カエデ、これがついてたら! 俺、真っ先に死ぬモブ並みの可哀想な奴になっちゃんだけど!」
「大丈夫でしょ。お宅は」
ふぅううー~~と平静に、カエデが口から煙を吹いた。
「何でだよ! おちょっくってんのかァ?!」
「自分が、お宅をからかって遊ぶ趣味があるとでも?」
「ああ! そうだよ‼」
「大好きなのに?」
ぞわ。
ぞわぞわぞわぞわ‼
「――~~ッッ‼」
真剣なカエデの表情と。彼からの思わない告白にマサルの口が震えて。一歩と、足を引いてしまう。
そして、顔を曲げてスミタの方を見た。
「‼ む?? ぁ、ああー~~カエデ殿。やはり、解いた方がよいのではないか? その方が自身を守れるでござるし。カエデ殿も、自身の守りに専念せねばならない局面もあるでござろう」
スミタも、言葉を選びながら。カエデを説得するように言う。
言われたカエデは、煙草を咥え直して。
すぅううう~~……。
「嫌だね」
ふぅうう~~――……。
「戻っちゃうじゃない、性別が」
「おおお、女じゃなきゃダメなのかよ! グレダラスは、んなこたぁ、全く気にしてなかったってのに‼」
「――グレダラス。グレダラスって……」
ぱっきん!
「‼ ぅお゛」
カエデは煙草を真っ二つに折り、地面に放り。靴底で踏み込んだ。
ぎゅ! と力を籠めて。
「自分を怒らせたいの」
髪を掻きむしりながらカエデは低く吐き捨てた。
それにマサルのすかぽんたん男は。
「や。んな……――都築マサルを愛してくんなきゃ。グレダラスには勝てないなァー」
顎に手を当てて、口許を覆い隠して言った。
何を考えてんのかな?
えい!
(まぢで怖ェよ! こいつ! おおお、男に戻れられりゃあ、こっちのもんだ! 腕力では同格になっし! 負けて押し倒されるってこともねェ! っふ、ふふん! さぁ! 折れろ! この変態野郎‼)
必死過ぎる……腰が引けてるじゃないか。威勢だけはいいんだなァ。
それで。この提案? にカエデはどう応えるんだ?
「《全解除》」
カエデはマサルの手首の枷を消した。表情は無く。何を考えているのかも分からないし。
逆に、僕はこっちが怖くなったんだ。迫り来る――《屍》の群れよりも。
「お! ぉおお~~♡」
そんな彼を他所に、解放されたことに喜ぶマサル。
「話しが分かる奴で安心したぜ!」
「よかったね」
素っ気なく返したカエデに、
「やっぱ。女の俺にしか興味なんかなかったのねw」
マサルは口を突き出しながら、そう言い捨てた。
「あのさー~~そんな気色悪いショーとかしないでくれる?!」
ジノミリアが顔を青ざめながら言う。それに、
「いやいや。ジノミリア殿、2人の恋愛に口を挟んではならぬでござるよ」
スミタが腕を組み、感慨深く頷いた。
何か、うん。やっぱり、スミタもどこかズレてんだなぁ。
「恋愛じゃねェよ! スミタ、手前‼」
「いやいや。照れなくてもよいでござる。男色など、拙者の国にもあり。珍しくもないでござる」
「俺はホモじゃねぇしぃいい‼ ふざけんな! この童貞野郎‼」
指を指し、腕を振りながらマサルが叫んだ。だから! 大声を出すな‼
「む? 拙者は妻子持ちでござるよ。妻とは一緒に住んでは居らぬが。こっちに来る前に産まれ、その女児の椿姫と共に暮らして居るでござる」
「「「「え゛???」」」」
僕と、ジノミリアとカエデ。マサルの全員が声を上げた。
それにスミタが眉を顰めた。
「拙者の国では12歳で成人でござる。15歳の拙者が世帯を持つには遅いぐらいでござるよ」
国の話しをするスミタに、全員が口を閉口させたてしまう。
僕は頭が混乱しているし。ジノミリアは泣いているし。
マサルは頬を膨らませて涙を溜めているし。カエデは、そんなマサルを見ているし。
この年齢層が高い中、一番の大人は最年少のスミタというのが事実でしかないんだ。
「さて。そろそろ――本腰入れて。行かねばならぬでござるな」
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