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第7話 望美の危機

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 恐怖に息が上がる。
 足も、身体も震える。

 桜木に至っては、顔面蒼白だった。

「ののの、のなかちゃん……のなかちゃん!」
 涙声で、希美の名前を呼ぶ。
「振り向いちゃだめよ!? まどか!」
「ぅ、うん!」
 希美の持っている携帯の明かりも。
 激しく揺れる。

 っか、っか、っか、っか!

(どこかに! どこかに隠れないと!)
 希美の心拍数も上がっていく。
 バクバク! と。

「! あそこに行くわよ!」
「ぇ、うん!」

 希美は桜木と一緒にハンガーの下に入った。
「少し、ここに隠れて居ましょう」
「うん」
 
 バサバサーー……。

 上から飛ぶ、羽根の音が聞こえる。
(大きな羽根でしょうね)
 希美は唇をへの字にさせた。
 その様子に。

「ののの、のなかちゃ、のなかちゃん!」

 桜木が声を出した。
 勇気を出した。
「? まどか、どうかしたの??」
「っわ、私が居るから! 弱いけど……私も一緒だよ!」
「……まどか」
 はにかんだ笑顔を希美はした。
「ええ。そうね」

 桜木に心配されたことに。
 希美は自身の顔をなぞっていた。

(駄目じゃない。まどかに心配させては)

 ぎゅ。

 唇を噛み締めた。
「も。大丈夫かしーー……」

 はた。

 店内に顔を出した瞬間。
 それと視線がかち合ってしまった。
 声も出せない。
「の、のなかちゃ、ん??」
 まどかからは見えない。
「っし! まどか‼」
 冷汗が顔を伝った。

 瞬間。

「---~~~ッッ‼」

 ズルルルルルルルルーー……。
 希美の肩に爪が食い込み。
 引きずられるように。

 ハンガーの下から出されてしまう。
 
 希美は桜木を間一髪のところで。
 押し込んでいた。

(まどか! あなたは逃げるのよ‼)

 桜木はしりもちをついてしまう。
「っきゃ!」
 そして、前を見た。

「ぁーー……っふ!?」
 慌てて口許を抑えた。
 声を漏らしてはいけないと悟ったからだ。
(のののの、のなかちゃん?!)
 涙が零れ落ちた。

 ボタ、ボタタターー……。

 真っ暗だというのに。
 赤い光りが見える。

 大量の数ものそれが。

(何だろう、あれは??)

 その赤い何かの中心に。

「離しなさい! この化け物‼」

 もがく、希美の姿があるようだった。
 全く、状況が見えない。
 そのことが余計に。

 桜木は恐怖した。

(ののの、のなかちゃ、ん)

 腰も抜けてしまう。
 ガクガクーー……。
 膝も痙攣してしまう。

 びり。

 ビリビリリーー……。

 真っ暗な空間の中で。
 何かが切り裂かれる音が響いた。

「きゃああアああアあッッ‼」

 その音の正体に気づくのが数秒遅れた。
 だが、その音は。

 間違いなく。

「止めなさい! 退きなさいッッ‼」

 希美の制服が破かれた音に他ならなかった。

「私に触らないで‼ 止めてッッ‼‼」

 桜木の顔が。
 顔面蒼白、以上になっていく。

「の、なか……ちゃんーー」
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