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其の11 興奮*約束

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「何? 何か、エロいこと考えてないか??」
 そう、恵比寿がビトーに言う。
「?! 何がだい」

「なんか、目がそんなんだったぞ」

 ちゃぷん。

 あれからビトーも風呂の良さが分かった。
 確かに、極楽だと。
 ただ、それは。

「君に、僕の何が分かると言うんだい」
 素っ気なく言い返す。
「エロいっつ~~ことぐらいなら分かるぜ! ムッツリスケベ‼」
 ビトーも面白くない。
「僕は、そうそう欲情はしないんだよ」
 ボヤくも、
「嘘つくんじゃねぇよ」
 恵比寿に否定させてしまう。

 ジャバ!

「あ~~身体がざらつく~~!」
 そう吐き捨てて、恵比寿はお湯から上がった。
「とっとと、身体洗っちまおうっと」

 ここはとらと恵比寿が暮らす一軒家。
 恵比寿のマンションの風呂よりも、一周りも大きかった。
 前は一人がまず入って、二人目はその上だったが。
 二人で、いや、三人でも入れるほどに大きい。

「それにしても。大き過ぎではないのかい、この浴槽は」

 ビトーは、これが少し納得いかなかった。
 密着が出来ないことが、その理由だ。
 前の風呂場以上の肌の触れ合いがない。

「それなら、前のほぅが……」

 ◆◇

 恵比寿の言い方に、どう言う訳だか苛立った。
 だから、ビトーは。

「ぅ、あ! っび、トー~~??」

 恵比寿の腕を引っ張り。
「ゃ、止めてよ……こんな、ことは、さ」
「それは、出来ない」
 口づけをした。
 肩に顔を埋めたとき、石鹸のいい匂いが鼻先を擽った。
「その痣は、キスマークと言うものなんだよ」
「?? キス、マーク?? 服のブランドが、何??」
 胸が苛立つ。
「僕がつけたものじゃない」
「え?」
 そして、その痣に噛みついた。
「ぁ、った! ぃ、たいッッ‼ び、トー?? っひ! ぁ」
「許せない」

 血が滲むほどに、ビトーは噛みついた。

「ぁ゛、っだいよォ~~! ビトー~~‼」

 ジャブ、じゃぶ!
 お湯も大きく揺れる。
「も、痛いのヤダ!」
 大きく、恵比寿は泣き出してしまう。
「僕だって、泣きたいよっ!」
「? ビトー……?」
 歯を噛み締めたビトーに。
「俺が、俺が悪いなら……謝るよ。ゴメン」

 ふるふる。

「いい。謝らなくてもいいんだ」
「ビトー! じゃあ、これで仲直りだ!」
「?! お゛??」
 恵比寿はビトーの首に手を伸ばし、交差させる。

 そして、口づけをした。
 恵比寿、自ら。

 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ!

「ははは! ビトー、赤くなった~~!」

「大人を揶揄からかうんじゃないよ」

 ◇◆

「可愛いかったな」
 ビトーの口許が緩んだ。
「おい! ムッツリスケベ!」
 そんなビトーを、恵比寿は苦々しく呼んだ。
「なんだ、タカラ」
 また、小言で吐くのかと、目も吊り上がる。
 あどけない顔は変わっていない。
 なのに、少し態度が変わったように、ビトーは思った。

「背中! 流してやるっつ~~の!」

 一糸まとわない姿、恵比寿の身体には泡しかない。

「本当か、タカラ」
「約束しろよ?? 勉強期間は怪人をよこさないって!」
「ぁ、ああ。やってみよう」
「絶対だかんな?!」
「ああ」

 シャア――――‼

「お、おい!」
 恵比寿がシャワーを、ビトーに向けて放水した。
「にひひ! ほら、来いよ」
 ようやく、ビトーに笑顔を向けた恵比寿に。

 キュン。

「ぁ、ああ」

 ビトーの胸が甘く高鳴った。
 そんな風呂場の扉前。

「あーぁ」

 そのやり取りをしゃがんで聞いていたとらがため息を吐いた。
 表情は諦めに近いものとなっている。
 手にはバスタオルと変えの下着とパジャマを抱えていた。
 決して出刃亀をする為に来たとかではない。
「ビトーもビトーだと思ってたけどー案外、宝もかー」
 温かい眼差しでほくそくんだ。
 小さくため息を漏らして、腰も重く立ち上がった。

「ヤることヤってくれたら横から茶々なんか言わないさー」

 そして、バスタオルを置き、出て行った。

 ガラガラ――……ピシャン!
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