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其の97 気持ち*とら

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「っかっこ、悪いなぁ~~」

 鼻血の出た鼻に、ティッシュを丸めて入れる。

「はァ」

『とらと、ドロヌトクロトファー様。どちらを好きですか』

 カカカカカ。

 頭の中に、そう聞くビトーが鮮やかに、思い浮かべる。
「もー~~意味が分かんないしッッ!」
 顔をブンブン! と被り振る。
 
 と。

 同時に。

『大樹ー』

 とらが。

『貴様』

 ドロヌトクロトファーの顔が、脳裏に浮かんだ。
「好きって。よく分かんないのは事実だしなぁ」
 どっちとの関係を持ち、普通に接しているし。いつも、一緒に居るわけでもない。
「彼女、作ればいいのかな~~ぅンん゛ーー~~」
 ただ、言うならば。
 女の子にも、あまり興味が持てない。
 話したりはしてはいるものの。
 それ以上に、発展しない。

 《魔法少女》という仕事もあって、遊びにも行けないからだ。
 発展のしようもない。

 後。

 アダルト雑誌を知らない。
 抜き方も知らず、ヤリ方をすっとばして覚えてしまったのだ。

「寝よ」

 ◆

 ギシ。

 ギシ――……!

「てっきり、泥棒かと思いました」
「?!」

 リビングの明かりが点けられた。
 ソファーにはビトーが座っていた。
「え、っと。やぁーこんばんわービトーちゃん」
 苦虫を噛んだような表情をとらが向けた。
 少し、痩せている様子に、
「ダイエットですか。 それとも、どこぞの相手に、性も根も吸い取られてしまったんですか?」
 痛烈なビトーの言葉に。
「そんな相手ー居ないしー僕ー~~」
 にこやかにとらも答えた。
「ダイキ君は、違うんですか? 君にとっては」
 その台詞に、とらの表情が硬直する。

「ぃ、や……うん、うん。違うよーそんなんじゃないよー」

 ぎこちなく微笑みながら、両手を前で被り振る。
 その態度に、ビトーが歯軋りをする。
(どいつもッ! こいつもッッ‼)
 胸の中が、ドロドロとしたものが溜まっていくのが分かる。
「そうですか。分かりました」

 ギシ!

「おやすみなさい」

 パシ!

「ね。ちょっと、待って?!」
「何ですか。とら」
「だ、大樹に、その……誰か、デキたの?? 恋人とか」
 カカカカ!
 涙目でビトーに聞くとらに。
「僕が、言うべきことではないですね」

 っぴ!

 掴まれた腕から、手を離させた。
「ご自身で聞けばいいでしょう」
 淡白な言い方をし、ビトーはリビングを後にした。

 ばった――ん!

「聞くって……この僕がー~~?? んんん――~~?!」
 ソファーに腰かけ、頭を掻きむしった。
「無理だよ~~う」

 チックタック――……。

 チックタック――……。

 時間の経過とともに。
「でも。顔、見たいなぁー大樹ー」
 とらの頭の中も、三好のことでいっぱいになっていく。
 切なく。
 甘く。

 胸が高鳴ってしまう。

「ん。寝顔、見て来ようー」
 重い腰を上げるとらの表情は、嬉々としていた。
 足取りも軽く、二階へと向かって行く。

「大樹ー~~……♡」
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