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【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する

31.

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ヒルシェールは今、皇帝、皇妃、皇太子も呼び出され、用意されていた部屋の中央に座らされている。
リーゼンブルクの集団の中、何故か眉をへにょんと下げたエマールがいるのを不思議に思いながら見ていた。

「これは何事だ?」

皇帝夫妻は息子から秘密裏に緊急事態と呼び出されただけで、その内容を知らなかったため、ヒルシェールが何かしたらしいとしか予想出来なかった。

「……叔父上が、アディエル殿の湯殿に忍び込みました…」

「「は?」」

息子の口から告げられた内容が、衝撃すぎて耳を通り抜けていく夫婦。

「幸いアディエル嬢ではなく、殿が入浴中だったため、大事には至っておりません……が…」

「「……が?」」

息子の発言に口を揃えて言葉を発する皇帝夫妻に、息がピッタリだなぁ…とエイデンは奥の方で思っていた。

「……色々と口にしては不味い事を仰ってしまいまして……」

両手で顔を覆った息子の姿に、夫妻はゆっくりとカイエンの方に顔を向けた。

「……………」

ニコニコ笑っているのに、背後には何か恐ろしい物が見える気がする。

……あ、これ。滅んだ……。

皇帝夫妻の脳裏には皇国滅亡の姿が即座に浮かんだ。

ヒルシェールがアディエルに固執していたのは知っていた。
忠告もされたので、言い聞かせた。その後はあまり口にしなくなったので、諦めたものとのが間違いだったと気がついても、後の祭りである。
かの国の王太子は、敵対する物にかける情けを持たないことが、各国首脳陣の常識だった。
そんな彼の最愛アディエルに手出しをして、無事でいられるはずがない。

「……ヒルシェール。お前、なんということを……」

皇帝は頭を抱えて座り込み、皇妃は慌ててその体に寄り添った。

ヒルシェールは未熟児として生まれたせいか、母親の溺愛がすごかった。
動けば直ぐに寝込むことが多かったので、母親は甘いものを食べさせては気を逸らして、部屋の中に閉じ込めていたのだ。
そんな生活を母親が死ぬまで続けていたから、ヒルシェールは『肉饅頭』などと陰で呼ばれるような容姿になった。

優しかった弟は、悪意ある言葉で歪んでしまったのだ。
歪んでしまったヒルシェールだが、アディエルの真っ直ぐな言葉が彼を救った。
ヒルシェールのアディエルへの執心は、情愛ではなく狂信だった。
その事に気づけなかったのが全ての敗因だろう。

よろよろと顔を上げた皇帝クリシューアは、そこで初めてカイエン以外の王族の存在に気づいた。

「……エイデン殿下が何故ここに?」

やってきた一行の中に見かけなかった三人の姿に、彼は首を傾げた。

「……父上。エイデン殿達は、前もって我が国に来られていたのです。叔父上のなさった事を確認されるために……」

その言葉にクリーシュアは隣で気を失った妻を羨ましく思っていたーーーー。

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