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【二部】侯爵令嬢は今日もあざやかに断罪する

38.

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「あぁ……、クリューセルか。大事ない……」

ヒルシェールの身体は、半月の間に半分近くまで細くなっていた。

「ど、毒ですか!?病気なのですか、叔父上っ!!」

場合によってはリネットに苦情を申し立てねばと、クリューセルは尋ねた。

「まあ、クリューセル様ではありませんか」

エマールの言葉に顔を上げると、彼女は手に杯を持っていた。

「………それは?」

「こちらですか?リネット様お手製の食欲減退剤ですわね。ヒルシェール様のお体から、余分な老廃物を出し終わったとかで、お体に必要な最低量の食事に慣れるまでは、こちらを飲んで食事を減らせるようになさっておりますわ」

「老廃物?出し終わった?」

意味が分からず首を傾げると、

「まあ、急激に痩せてもいけないとのことなので、同時に運動もなされているのですわ」

要は腹の中に溜まっていた老廃物を毎日少しずつ出す薬を飲みつつ、決められた運動量をこなす。
食事の量や内容も、決められたものを摂る。
この半月、毎日がその繰り返しらしい。

そんな馬鹿なと共にした食事の量は、自分と変わらない量で、むしろこの量ということは、以前はどれだけ食べていたのかと聞くのも恐ろしくなった。

「……最初は空腹とかが辛くてな…。逃げようとしたことも数回あるのだが……」

フッと手を止め、遠い目をする。

「逃げ込んだ場所に必ずエマールが先にいてな……」

「そういう事もあるだろうからと、アディエル様が影をお一人お貸しくださってますの」

「は?」

あっさりとネタばらしをされて、クリューセルは固まった。

「経過報告もその方に渡せば、すぐにあちらに着きますので、助かっておりますわ♪」

物凄くいい顔をされて、クリューセルは答えようもない。

「ヒルシェール様。明日からはこちらのお薬も飲むようになりますわ」

「それは?」

「なんでも、筋肉を付きやすくする成分の入ったお薬だそうですわ…」

「筋肉……」

クリューセルは自分の腕を見た。
それなりに力はあるのだが、自分的にはもう少し筋肉を付けたいと考えていた彼は、しばらく黙り込んでいた。

「……エマール嬢。リネット嬢に、我にもその薬は使えるか尋ねてもらえるか?」

「「…………」」

そんな彼に、二人は生暖かい視線を向けていた。

そうして、半年後。

見事に様変わりをしたヒルシェールがエマールと並んで現れた夜会では、そのまま二人の婚約が発表され、ヒルシェールの変わりっぷりに悔しがる令嬢が多数見られた。
さりげなく逞しさの増したクリューセルにも、の視線が集まった。

効果確認としての数がまだ足りていないから、販売は決まっていないと伝えたところ、自分で試してくれという申し出が殺到し、その対応にやってきたリネットと、彼女の暴走を止めようとするエイデンの姿が、夜会の度に見られるようになったのである。

「なるほど。この為のあの馬車達か…」

どれだけの時間短縮になるのかと、リーゼンブルクに向かう際に体験していたクリューセルは、帰りは自国の馬車で帰国した。

あのような速さで走る馬車など、一つ間違えば即死ではないか?

そんな物に平然として乗ってくるリネットには恐れを抱き、真っ青な顔になりながらも、しっかりと婚約者に付きそうエイデンに、ひたすら感心するクリューセルだったーーーー。




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