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第四章 思惑は絡み合って成立する
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「はあああっ!!」
レオがかけ声と共に一気に剣を振り下ろすと、一直線に剣撃が大地を傷つけていく。
そして、その衝撃を受けて、こちらに向かって走っていた暗黒猫は、一部を残して吹き飛ばされた。
「《風の刃》!」
倒れなかった残りの猫達に、エレが魔法を放つ。
気を失って倒れている物は、騎士達が手分けしてトドメをさしていく。
いつも通りの『勇者』と『聖女』御一行様の討伐の様子を、依頼を出していた領地の兵達は呆気に取られて見ていた。
「も、もう終わったのか…」
「え?一瞬だったぞ?」
魔物達の襲撃に怯えた日々。
それが呆気ないほどに一瞬で終わったのである。
ーーえ?これ、夢じゃないよね?現実だよね?
兵達の心の中は、事実確認に忙しい。
「それでは、次に行くので失礼しますね♪」
にっこり笑ったエレが挨拶している間に、騎士達とレオは、移動の用意を済ませていた。
「穴は空けといたから、素材取ったら集めて焼いて下さいね」
指示を与えて、さっさと馬車に乗り込むレオ。
いつもと違う様子に、騎士達もエレも気づいていたが、敢えて指摘はしなかった。
実際、まだ幾つもの依頼が控えていたからだ。
「……何か機嫌悪いね……。何かあったの?」
「……別に……?」
動き出した馬車の中、心配して声をかけたエレに、キョトンとした顔で答えるレオ。
ーーあ、これ。無自覚だ……。
その後も休憩中にはボーッとしているし、話しかけても上の空なことが多く、けれども討伐はいつも通りにさっさと片付けていくレオに、周りは不安が募る。
「これは、あれかも知れません……」
夜営地でさっさと眠りについたレオを残して、騎士達と集まっていたエレは、護衛騎士オリクスの言葉に耳を傾けた。
「オリクス……。あれって、まさか……」
エレの言葉に全員が息を飲み、ジッとオリクスを見た。
「ずばり。『恋の病』です!」
キッパリ言い切ったオリクスに、グッと拳を握りしめて叫ぶのを堪える者。両手で顔を覆って天を仰ぐ者。ガシッと互いを抱きしめ合って肩を叩き合う者。
それを見てしまったエレは、正直ドン引いた。
姉の色恋沙汰がそこまで心配してされていたことは喜ばしいのだが、余りの喜ばれように本気でドン引きした。
流石にまだ討伐依頼に向かってる最中だというのに、宴会が始まりかけたのには、慌てて引き止めた。
「みんな、落ち着いて!本人はまだ自覚してないんだからね!」
エレのその言葉に、周囲は凍りついた。
「ああ。自分が何に悩んでるのかまでは、自覚してないと…」
グランの言葉に頷くと、全員がガックリと肩を落とした。
宴会から一転、葬式のような空気になった。
「そもそも、何が原因でああなったのか……」
エレの呟きに、一人の騎士が手を上げた。
「……もしかしたらなのですが、出発前の訓練の時に殿下と話されてまして……」
全員の視線が彼に向き、先を促すようにエレが頷く。
「最近、貴族の子息の間で流行っている話になりまして……」
「あ。それはオレも聞いてた。確か、婚約者や気になる令嬢の髪か瞳の色の宝石を、自分の髪や瞳の色の台座で飾った装飾品を身につけるってやつ……」
「そうそう。恋人や婚約者同士だと、揃いで身につけるってやつな。それを殿下がレオに切り出したんだ…」
ザワっとどよめく騎士達。
「…殿下が切り出しただと…」
「お披露目用に、銀の台座に黒の石を嵌めた装飾品を身につけるって言ってたんだ……」
『…………』
ーーそれ、殿下の髪色と、レオの髪色じゃないか……。
「……それ、絶対に自分の髪色だって理解してなかったのに一票……」
あからさまな魔族の王子の想いに騎士達が感心する中、エレは確実にレオに伝わっていないことを理解したのであったーーーー。
レオがかけ声と共に一気に剣を振り下ろすと、一直線に剣撃が大地を傷つけていく。
そして、その衝撃を受けて、こちらに向かって走っていた暗黒猫は、一部を残して吹き飛ばされた。
「《風の刃》!」
倒れなかった残りの猫達に、エレが魔法を放つ。
気を失って倒れている物は、騎士達が手分けしてトドメをさしていく。
いつも通りの『勇者』と『聖女』御一行様の討伐の様子を、依頼を出していた領地の兵達は呆気に取られて見ていた。
「も、もう終わったのか…」
「え?一瞬だったぞ?」
魔物達の襲撃に怯えた日々。
それが呆気ないほどに一瞬で終わったのである。
ーーえ?これ、夢じゃないよね?現実だよね?
兵達の心の中は、事実確認に忙しい。
「それでは、次に行くので失礼しますね♪」
にっこり笑ったエレが挨拶している間に、騎士達とレオは、移動の用意を済ませていた。
「穴は空けといたから、素材取ったら集めて焼いて下さいね」
指示を与えて、さっさと馬車に乗り込むレオ。
いつもと違う様子に、騎士達もエレも気づいていたが、敢えて指摘はしなかった。
実際、まだ幾つもの依頼が控えていたからだ。
「……何か機嫌悪いね……。何かあったの?」
「……別に……?」
動き出した馬車の中、心配して声をかけたエレに、キョトンとした顔で答えるレオ。
ーーあ、これ。無自覚だ……。
その後も休憩中にはボーッとしているし、話しかけても上の空なことが多く、けれども討伐はいつも通りにさっさと片付けていくレオに、周りは不安が募る。
「これは、あれかも知れません……」
夜営地でさっさと眠りについたレオを残して、騎士達と集まっていたエレは、護衛騎士オリクスの言葉に耳を傾けた。
「オリクス……。あれって、まさか……」
エレの言葉に全員が息を飲み、ジッとオリクスを見た。
「ずばり。『恋の病』です!」
キッパリ言い切ったオリクスに、グッと拳を握りしめて叫ぶのを堪える者。両手で顔を覆って天を仰ぐ者。ガシッと互いを抱きしめ合って肩を叩き合う者。
それを見てしまったエレは、正直ドン引いた。
姉の色恋沙汰がそこまで心配してされていたことは喜ばしいのだが、余りの喜ばれように本気でドン引きした。
流石にまだ討伐依頼に向かってる最中だというのに、宴会が始まりかけたのには、慌てて引き止めた。
「みんな、落ち着いて!本人はまだ自覚してないんだからね!」
エレのその言葉に、周囲は凍りついた。
「ああ。自分が何に悩んでるのかまでは、自覚してないと…」
グランの言葉に頷くと、全員がガックリと肩を落とした。
宴会から一転、葬式のような空気になった。
「そもそも、何が原因でああなったのか……」
エレの呟きに、一人の騎士が手を上げた。
「……もしかしたらなのですが、出発前の訓練の時に殿下と話されてまして……」
全員の視線が彼に向き、先を促すようにエレが頷く。
「最近、貴族の子息の間で流行っている話になりまして……」
「あ。それはオレも聞いてた。確か、婚約者や気になる令嬢の髪か瞳の色の宝石を、自分の髪や瞳の色の台座で飾った装飾品を身につけるってやつ……」
「そうそう。恋人や婚約者同士だと、揃いで身につけるってやつな。それを殿下がレオに切り出したんだ…」
ザワっとどよめく騎士達。
「…殿下が切り出しただと…」
「お披露目用に、銀の台座に黒の石を嵌めた装飾品を身につけるって言ってたんだ……」
『…………』
ーーそれ、殿下の髪色と、レオの髪色じゃないか……。
「……それ、絶対に自分の髪色だって理解してなかったのに一票……」
あからさまな魔族の王子の想いに騎士達が感心する中、エレは確実にレオに伝わっていないことを理解したのであったーーーー。
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