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閑話 9
とある魔導具師の話
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その男は働き者の妻を愛していた。
魔導具作りに夢中になっては寝食を忘れて倒れる自分を、叱ったり呆れたりしながらも支えてくれていた幼馴染が今では彼の妻だ。
「少し休憩してみたら?一旦、考えを落ち着かせれば、いい考えが浮かぶかもよ?」
そう言って用意される妻の茶菓子はいつも美味しくて。
ある日、彼女が汗だくになりながらも、茶菓子を作る姿を見てしまった。
「…なぜ、そんなに汗だくになってるんだ?」
「ああ。掻き混ぜるのが、けっこう大変なの。お菓子作りって、かなり力も使うのよ♪」
何でもないように言った妻の手から、道具を取り上げてやってみる。かなりの重労働に彼は驚いた。
こんな疲れることをしながら、いつも茶菓子を作ってくれてたのか……。
そんな妻に感謝をし、彼女が少しでも楽になるようにと作り出されたのが、〘愛の立ち回り〙と名付けられた魔導具である。
またある日。料理の材料を計る妻の姿に気づかず、完成した魔導具を見せようと腕を引いたため、計り直しになってしまった。
天秤の片方に乗せた材料と釣り合うように少しずつ少しずつ乗せていく姿に、彼はまた新たな魔導具を思いついた。
それが〘愛情の重さ〙と呼ばれる魔導具である。
さらにとある冬の日。指が冷えているだろうと、買い物帰りに繋いだ指先の荒れように、彼は冬場の洗い物が原因だと気づいた。
そうして、季節が一回りする前に間に合わせたのが〘聖なる愛〙と名付けた魔導具であった。
男が妻を思って作り上げた魔導具は、瞬く間に女達や料理人達に広まっていった。
そして、妻の体に待望の新たな命が芽生えた時、彼は産まれてくる新たな命と愛する妻のためにと、ある魔導具を作ることを決めた。
子供が生まれれば、今まで以上に妻が忙しくなる。そして、自分は恐らく魔導具の開発に夢中になると、気をつけていても子育てを手伝うことも忘れないとは言い切れない。
男は子供のいる女達に話を聞いていった。
そうして、出来上がったのは〘愛の輝き〙という魔導具になるはずだった。
「……これ。丁寧に手で洗わないと破れてしまうのよ!酷いわ、大切にしていたのに……」
妻が小さな頃に着ていた服を、産まれてくる我が子に着せようとしていたのを知っていた男は、綺麗になったその服を着せれるようにと、魔導具を使った。
だが、古くなっていた服は脆くなっていて、干せる状態ではなく、もはやボロ切れと化していた。
普段、滅多に泣かない妻を泣かせてしまったため、男は魔導具を〘愛の空回り〙と名を変えて売り出した。
悲しいことに、今までで一番の売れ行きとなってしまった。
それからも男は、妻のため。子供のために魔導具を開発し続けていた。
そんなある日。
神殿での礼拝の最中。彼の体に上から降りてきた金色の光の玉が入り込んだのだ。
「…今のは一体……?」
それを見ていた神官に呼ばれ、《鑑定》を受けた男は、自身の職業が変化していることを教えられた。
『魔導具師の匠』
彼はそれから死ぬまでの間。家族のためになる魔導具を作り続け、〖始まりの魔導具師の匠〗として歴史に名を遺すこととなったーーーー。
※※※※※※※※※※
「ディアルーーーーーッ!!」
神界では今日も御影の怒鳴り声が響き渡っていた。
「だあってぇ!あんなすごい物作るんだもん!これくらいなら良いかなぁって思ったんだよぉ~っ!!」
「言い分は分かるけど、勝手にするなって言ってんでしょーがっ!!」
パシコーン!と、ハリセンの音が響き渡る中、三人は頭を抱えていた。
「やべぇ、これ。職人系だけかと思ったら、全部に付く可能性あんだけど……」
「え?それって、下手したら〖勇者の匠〗とか〖聖女の匠〗とかって、早々に付きそうじゃない?」
「……おかしすぎっだろ。職人系だけの限定に設定しなおそうぜ。ユメ。悪いけど直してる間に、付かないように〖職業の凍結〗オンにしといてくれ…」
今日も神界は通常運転であったーーーー。
魔導具作りに夢中になっては寝食を忘れて倒れる自分を、叱ったり呆れたりしながらも支えてくれていた幼馴染が今では彼の妻だ。
「少し休憩してみたら?一旦、考えを落ち着かせれば、いい考えが浮かぶかもよ?」
そう言って用意される妻の茶菓子はいつも美味しくて。
ある日、彼女が汗だくになりながらも、茶菓子を作る姿を見てしまった。
「…なぜ、そんなに汗だくになってるんだ?」
「ああ。掻き混ぜるのが、けっこう大変なの。お菓子作りって、かなり力も使うのよ♪」
何でもないように言った妻の手から、道具を取り上げてやってみる。かなりの重労働に彼は驚いた。
こんな疲れることをしながら、いつも茶菓子を作ってくれてたのか……。
そんな妻に感謝をし、彼女が少しでも楽になるようにと作り出されたのが、〘愛の立ち回り〙と名付けられた魔導具である。
またある日。料理の材料を計る妻の姿に気づかず、完成した魔導具を見せようと腕を引いたため、計り直しになってしまった。
天秤の片方に乗せた材料と釣り合うように少しずつ少しずつ乗せていく姿に、彼はまた新たな魔導具を思いついた。
それが〘愛情の重さ〙と呼ばれる魔導具である。
さらにとある冬の日。指が冷えているだろうと、買い物帰りに繋いだ指先の荒れように、彼は冬場の洗い物が原因だと気づいた。
そうして、季節が一回りする前に間に合わせたのが〘聖なる愛〙と名付けた魔導具であった。
男が妻を思って作り上げた魔導具は、瞬く間に女達や料理人達に広まっていった。
そして、妻の体に待望の新たな命が芽生えた時、彼は産まれてくる新たな命と愛する妻のためにと、ある魔導具を作ることを決めた。
子供が生まれれば、今まで以上に妻が忙しくなる。そして、自分は恐らく魔導具の開発に夢中になると、気をつけていても子育てを手伝うことも忘れないとは言い切れない。
男は子供のいる女達に話を聞いていった。
そうして、出来上がったのは〘愛の輝き〙という魔導具になるはずだった。
「……これ。丁寧に手で洗わないと破れてしまうのよ!酷いわ、大切にしていたのに……」
妻が小さな頃に着ていた服を、産まれてくる我が子に着せようとしていたのを知っていた男は、綺麗になったその服を着せれるようにと、魔導具を使った。
だが、古くなっていた服は脆くなっていて、干せる状態ではなく、もはやボロ切れと化していた。
普段、滅多に泣かない妻を泣かせてしまったため、男は魔導具を〘愛の空回り〙と名を変えて売り出した。
悲しいことに、今までで一番の売れ行きとなってしまった。
それからも男は、妻のため。子供のために魔導具を開発し続けていた。
そんなある日。
神殿での礼拝の最中。彼の体に上から降りてきた金色の光の玉が入り込んだのだ。
「…今のは一体……?」
それを見ていた神官に呼ばれ、《鑑定》を受けた男は、自身の職業が変化していることを教えられた。
『魔導具師の匠』
彼はそれから死ぬまでの間。家族のためになる魔導具を作り続け、〖始まりの魔導具師の匠〗として歴史に名を遺すこととなったーーーー。
※※※※※※※※※※
「ディアルーーーーーッ!!」
神界では今日も御影の怒鳴り声が響き渡っていた。
「だあってぇ!あんなすごい物作るんだもん!これくらいなら良いかなぁって思ったんだよぉ~っ!!」
「言い分は分かるけど、勝手にするなって言ってんでしょーがっ!!」
パシコーン!と、ハリセンの音が響き渡る中、三人は頭を抱えていた。
「やべぇ、これ。職人系だけかと思ったら、全部に付く可能性あんだけど……」
「え?それって、下手したら〖勇者の匠〗とか〖聖女の匠〗とかって、早々に付きそうじゃない?」
「……おかしすぎっだろ。職人系だけの限定に設定しなおそうぜ。ユメ。悪いけど直してる間に、付かないように〖職業の凍結〗オンにしといてくれ…」
今日も神界は通常運転であったーーーー。
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