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第五章 誘拐からの救出監禁
華は風に拐われる
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「エベリウム令嬢!ぜひ私の婚約者になっていただきたい!!」
「お断りします!」
翌日から始まったネイゼルの求婚は、アリスティリアの即答により、毎回玉砕していた。
社交界では、家族以外ではほとんど踊ることの無いアリスティリアが、エヴァンと踊ったため。
彼との婚約話が出ているので、婚約が発表される前ならばと、ネイゼルが申し込んでいるのだろう。
そう噂が流れている。
もちろん、噂の出処はエベリウム家の影達によるものだ。
勤務中のアリスティリアに、所構わず言い寄るネイゼルは、城内ではかなり傍迷惑な存在と化していた。
やんわりとグランディア王から苦情を言われたヘーゼルは、何度も何度もネイゼルを窘めていた。
しかし、彼は『恋をするのも自由なはず!』と言って話にならない。
対してレティーシアは、母国から急ぎ迎えを寄越すようにと進言していた。
日に日に笑顔に凄味の増していくエベリウム兄弟に、オーディルの側近達ばかりか、彼女の側近達も怯えてしまっているのだ。
「エベリウム令嬢。私も貴女をアリスとお呼びしてもよろしいか?」
「お断りします!」
行く先々で遭遇することに首を傾げていたアリスティリアは、ネイゼルが風の精霊達を使っていることに気づいた。
オーディルの執務室などの一部の場所には結界があるため精霊は入れないが、それ以外は見えないだけで何処にでも存在するのだ。
「…アリス。良ければこれを受け取ってもらえないだろうか?」
オーディルの執務室で、一息ついていたアリスティリアにエヴァンが細いチェーンの連なったアンクレットを手渡した。
「……これ、精霊の認識阻害が付いてますね……」
「ブレスレットが良いかと思ったが、仕事に響かぬ方が良いかと…」
渡されたのは高性能の魔導具で、アリスティリアは思わず兄達に目を向けた。
「僕達も付けてるから、アリスも身につけといて」
ラスティンが左手のブレスレットを見せると、オーディル達、室内にいた全員が同じ物を身に付けているのが分かった。
「アリスだけだと、精霊が認識できない場所にいると分かるだろうから、何ヶ所もあれば分かりにくいと言われたんだ…」
「あー。なるほど、確かにそうですね。ありがとうございます。これでちゃんと仕事ができます……」
受け取ったアンクレットを何気なく左足に付けた。
「それにしても、アリスの《守護》スキルは精霊には働かないのかい?」
「あー。多分、見られてるだけだからだと思います…」
「なるほど、害意がないために発動しないのか…」
納得するオーディルの前に、ドン!と書類が置かれた。
「どちらにせよ、殿下がこれを終わらせてくださるか、あちらの迎えが来るまでは、アリスが大変なのです。よろしくお願いしますね♪」
にっこり笑ったカインベルに、オーディルは頷くしかなかった。
※※※※※※※※
「…………」
「ほんっとーにごめんなさいっ!!」
階段の上から足を滑らせたらしき侍女の体を何とか支えたものの、上から降ってきた侍女が持っていたらしき香油の小瓶を避けそこねたアリスティリアは、頭のてっぺんから香る強さに、表情をなくしていた。
「……いえ。香油を被っただけですし…。貴女の方はお怪我ありませんか?」
「は、はいっ!!ほ、ほんとに、ほんとにごめんなさいっ!!」
侍女はそう言って、逃げるように走り去っていった。
「うーん。これは、今日は帰らせてもらった方がいいかも…」
変に甘ったるいその香りに、アリスティリアはとりあえずその場の後始末をしようと、近場にある道具を借りようと動いた。
「……やあ、やっと見つけたよ、アリスティリア嬢」
背後から聞こえた声に警戒するも、突然目の前を布で覆われた。
「っ!?」
布を剥ぎ取るよりも先に鳩尾に衝撃を受け、アリスティリアは意識を失いながらも、隠しポケットから落とした小瓶を気づかれないように踏みつけた。
「ははっ。さすがに【封印布】越しなら、スキルは使えなかったようだ…」
倒れたアリスティリアを見下ろすのは、満足そうに笑みを浮かべたネイゼル。
「あ、あの…。ほ、本当に私のこと、バレませんよね?」
先程逃げ出したはずの侍女が、物陰から姿を現す。
「…ああ、もちろん。さ、約束の報酬だ」
ネイゼルの言葉に喜んで近寄る侍女。
懐から小さな石のついたネックレスを取り出し、侍女の首に付けてやった。
「ネイゼル様、私。私は…」
「感謝するよ。これで我が国は今以上に繁栄する。君のおかげだ。だから、そのお礼に覚めない夢を贈ろう…」
「ネイ…ゼル…さ……???」
頬を染めてネイゼルを見上げた侍女の目がグルグルと回り始める。
「偉大なる『風の大精霊』の血を引く私に愛されるという身の程知らずな夢を見るがいいよ…」
グリンと白目を向いて、侍女の体が倒れ込んだ。
そこに残されたのは彼女の姿だけだったーーーー。
「お断りします!」
翌日から始まったネイゼルの求婚は、アリスティリアの即答により、毎回玉砕していた。
社交界では、家族以外ではほとんど踊ることの無いアリスティリアが、エヴァンと踊ったため。
彼との婚約話が出ているので、婚約が発表される前ならばと、ネイゼルが申し込んでいるのだろう。
そう噂が流れている。
もちろん、噂の出処はエベリウム家の影達によるものだ。
勤務中のアリスティリアに、所構わず言い寄るネイゼルは、城内ではかなり傍迷惑な存在と化していた。
やんわりとグランディア王から苦情を言われたヘーゼルは、何度も何度もネイゼルを窘めていた。
しかし、彼は『恋をするのも自由なはず!』と言って話にならない。
対してレティーシアは、母国から急ぎ迎えを寄越すようにと進言していた。
日に日に笑顔に凄味の増していくエベリウム兄弟に、オーディルの側近達ばかりか、彼女の側近達も怯えてしまっているのだ。
「エベリウム令嬢。私も貴女をアリスとお呼びしてもよろしいか?」
「お断りします!」
行く先々で遭遇することに首を傾げていたアリスティリアは、ネイゼルが風の精霊達を使っていることに気づいた。
オーディルの執務室などの一部の場所には結界があるため精霊は入れないが、それ以外は見えないだけで何処にでも存在するのだ。
「…アリス。良ければこれを受け取ってもらえないだろうか?」
オーディルの執務室で、一息ついていたアリスティリアにエヴァンが細いチェーンの連なったアンクレットを手渡した。
「……これ、精霊の認識阻害が付いてますね……」
「ブレスレットが良いかと思ったが、仕事に響かぬ方が良いかと…」
渡されたのは高性能の魔導具で、アリスティリアは思わず兄達に目を向けた。
「僕達も付けてるから、アリスも身につけといて」
ラスティンが左手のブレスレットを見せると、オーディル達、室内にいた全員が同じ物を身に付けているのが分かった。
「アリスだけだと、精霊が認識できない場所にいると分かるだろうから、何ヶ所もあれば分かりにくいと言われたんだ…」
「あー。なるほど、確かにそうですね。ありがとうございます。これでちゃんと仕事ができます……」
受け取ったアンクレットを何気なく左足に付けた。
「それにしても、アリスの《守護》スキルは精霊には働かないのかい?」
「あー。多分、見られてるだけだからだと思います…」
「なるほど、害意がないために発動しないのか…」
納得するオーディルの前に、ドン!と書類が置かれた。
「どちらにせよ、殿下がこれを終わらせてくださるか、あちらの迎えが来るまでは、アリスが大変なのです。よろしくお願いしますね♪」
にっこり笑ったカインベルに、オーディルは頷くしかなかった。
※※※※※※※※
「…………」
「ほんっとーにごめんなさいっ!!」
階段の上から足を滑らせたらしき侍女の体を何とか支えたものの、上から降ってきた侍女が持っていたらしき香油の小瓶を避けそこねたアリスティリアは、頭のてっぺんから香る強さに、表情をなくしていた。
「……いえ。香油を被っただけですし…。貴女の方はお怪我ありませんか?」
「は、はいっ!!ほ、ほんとに、ほんとにごめんなさいっ!!」
侍女はそう言って、逃げるように走り去っていった。
「うーん。これは、今日は帰らせてもらった方がいいかも…」
変に甘ったるいその香りに、アリスティリアはとりあえずその場の後始末をしようと、近場にある道具を借りようと動いた。
「……やあ、やっと見つけたよ、アリスティリア嬢」
背後から聞こえた声に警戒するも、突然目の前を布で覆われた。
「っ!?」
布を剥ぎ取るよりも先に鳩尾に衝撃を受け、アリスティリアは意識を失いながらも、隠しポケットから落とした小瓶を気づかれないように踏みつけた。
「ははっ。さすがに【封印布】越しなら、スキルは使えなかったようだ…」
倒れたアリスティリアを見下ろすのは、満足そうに笑みを浮かべたネイゼル。
「あ、あの…。ほ、本当に私のこと、バレませんよね?」
先程逃げ出したはずの侍女が、物陰から姿を現す。
「…ああ、もちろん。さ、約束の報酬だ」
ネイゼルの言葉に喜んで近寄る侍女。
懐から小さな石のついたネックレスを取り出し、侍女の首に付けてやった。
「ネイゼル様、私。私は…」
「感謝するよ。これで我が国は今以上に繁栄する。君のおかげだ。だから、そのお礼に覚めない夢を贈ろう…」
「ネイ…ゼル…さ……???」
頬を染めてネイゼルを見上げた侍女の目がグルグルと回り始める。
「偉大なる『風の大精霊』の血を引く私に愛されるという身の程知らずな夢を見るがいいよ…」
グリンと白目を向いて、侍女の体が倒れ込んだ。
そこに残されたのは彼女の姿だけだったーーーー。
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