惑星監視官、魔王になる - 助けて魔王様って言われてもそりゃ銀河条約違反だっての! 勘弁してくれよ、ったくしょうがねぇなぁ!? -

ふつうのにーちゃん

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・惑星監視官、古のインフラを復旧させる

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 その日、遺物都市アルテマからの使者がやってきた。交易についての商談は先日まとまったはずなのだが、緊急という話なので俺は寝床を飛び出し、朝一で謁見の間にて使者を迎えた。

「恭順……? そりゃ願ってもねぇ話だが、話、なんか話早かねぇか……?」

 その使者は恭順を条件に思わぬ依頼をしてきた。

「噂によると貴方様は、星の世界からいらっしゃったとか」

「おう、それがどうした? 確かに俺っちは星の世界で暮らしてたぜ」

「おお……っ、なればっ、なれば機械に詳しいのでございましょうっ!? どうか偉大なるその御手で、我らの遺跡を修復していただけないものでしょうか!?」

 アルテマの遺跡は祖国が命じた研究対象のうちの1つだ。

「ああ、アレか……アレは俺っちも興味があるが……」

「よかった、主がお喜びになられます!! 最近、水の出が悪く、明かりもチカチカとちらついておりまして……皆、ひどく不安にかられているのです……」

「俺っちは水道屋さんじゃぁねぇんだけどな、ま、一応見てみるぜ。直せそうなら直してやるよ」

 立ち上がると背後に控えていたデスが隣に立った。

「早速行かれるのですな。後の些事はこのデスにお任せを」

「助かるぜ。……ん、そのボタンは……?」

 上着の一番上のボタンがシルバークリスタルの輝きを放っていた。

「パイアが工面してくれましてな。パパがくれたから、デス様にもお裾分けだと」

「パ、パパ……?」

 同様に俺の声は上擦った。

「魔王様も隅に置けませんな」

 親が恋しいなら俺がパパになってやってもいい。ただどうも、援助交際をしているスケベオヤジっぽく聞こえるのは俺の気のせいだろうか。

「おいデス、誤解すんじゃねぇぞ……? ありゃアイツが気まぐれで言い出したことだからな……?」

「……フフフ、冗談でございますよ。パイアは親と死に別れておりましてな、貴方の父性に惹かれたのでしょう。どうかご容赦を」

「そうか、ならパパになってやるのもやぶさかじゃねぇな。うしっ、それはともかく行ってくるぜっ!」

 俺は謁見の間の窓から飛び出すと、銀晶の地下隧道からアルテマ市に移動した。あの後、隧道には2度の拡張工事が加えられて、馬車が3台行き交うことができる道幅に拡張されていた。

「うわっ!? い、今っ、空飛ぶおっさんが横切らなかったか!?」

「な、なんだ、あのおっさんはっ!?」

「は、速い……速すぎるっ、ついていけない……っ!」

 飛行能力を持つ種族をぶっちぎるのは爽快だった。
 ともかく向こう側についた俺はアルテマ市の上空にやってきた。アルテマ市は水路の水深を保てなくなり、ゴンドラを使った交通網が麻痺していた。

 電力供給の方もよろしくない。電圧不足を起こした電灯が明転をしている。放置すれば優良な取引相手の衰退を招く事態だった。

 俺は地上に降り、アルテマの支配者が暮らす屋敷を訪ねた。屋敷の者はすぐに俺を中に通し、主に会わせてくれた。

「まさかこんなに速くきて下さるとは……!」

 交易都市の領主というのだから貫禄のある男を想像していた。だが応接間で俺を待っていたのは、小柄で線の細い少年だった。

「もしかして、お前さんがここの領主様か……?」

「はっ、僕はアルテマの領主カリストレスと申します、魔王バーニィ・ゴライアス様!」

 髪は青。ハキハキとした賢そうな子だ。彼は好奇心を隠しきれない目でこちらを見て、どうやらこちらの出方をうかがっているようだった。

「驚いた。歳とか聞いちゃ失礼かね……?」

「13です!」

「わ、若ぇな……?」

「3つの時から領主をしております。それであのっ、僕っ、星が好きなんです!」

「ほぅ、そりゃ気が合いそうだ。俺なんて星が好き過ぎて、若い頃は星から星へと渡ってたりしたんだぜ」

 冗談のつもりで本当のことを言った。

「わぁ……すごい……っっ、本当に星の世界からきた人なんですねっ!」

「あ……? お、おう……?」

 だが領主カリストレスは冗談をそのまんま信じた。

「貴方が魔王となった日から、百を越える流星が貴方のウンブラに降り注ぎました。僕、その時に見たんです」

「お前さん、もしかして天文学者か何かか?」

「はいっ、そうです!」

「そうか、いい嗜みをしている」

 趣味を褒めると少年は目を大きく広げて、それはもう嬉しそうに笑った。この時代に天文学者への理解者はそういないだろうからな。

「あのっ、それで僕、望遠鏡で見たんです! 貴方の秘密を!」

 俺は向かいのイスに腰掛けた。ちょうどいいタイミングでメイドがやってきて、薫り高い紅茶を入れてくれた。

「まあ落ち着けや。いったい何を見たってんだ?」

「はいっ、それは――」

 美味い茶だった。宇宙で暮らしていた頃はとても飲めないような高級品の味がした。話が落ち着いたらお代わりをさせてもらおう。

「貴方の宇宙船です!!」

「ブフゥゥゥゥーッッ?!!」

 茶吹いた。危うくいたいけな少年に茶をぶっかける寸前に顔を背け、事なきを得た。

「わっわあっ、ご、ごめんなさいっっ!!」

「ゲホッゲホッ?! い、いやこちらこそ悪ぃ……っ!」

 俺はこの星の文明レベルを侮っていた。衛星軌道上のコルベット船を観測できる望遠鏡なんて、こいつらに作れないとばかり思っていた。

「あ、あの……バーニィ様は、宇宙人船に乗ってやってきた、宇宙人様なんですよね……?」

「アリストレス、お前さん――」

「あ、ごめんなさいっ、失礼があったら何とぞご容赦を……っ!」

「すげぇな……? 本当に地上から俺っちのコルベット船を観測できたのか?」

「はい? こるべっと、ですか……?」

「おう、87年式レーザーコルベット改装研究船ニナ号。それがお前さんが見たかもしれねぇ小型宇宙船だぜ」

 軍船を買い上げて、俺単独で動かせるように改装したものだ。俺は残りの人生をニナと一緒にファンタジアを見下ろして過ごすつもりだった。

「ニナ……彼女さんの名前ですか?」

「いや、この星に憧れていた知り合いの名だよ」

「あの、その人はどんな人ですかっ!? 僕、宇宙の人たちのことが知りたくて……!」

 ニナもこの子のように宇宙に憧れていた。
 病で身体が自由に動かないあの子は、俺が語る冒険の話が好きだった。

「ニナは空想が好きで、好奇心の強い子だった。お前さんほどじゃぁないかもしれないけどな」

 気付くと目の前の少年の頭を撫でていた。撫でてから相手が領主であることを思い出し、手を引っ込めた。

「それよりアルテマの復旧はいいのか?」

「あっ、そうでした……そっちが本題でした……! ど、どうしましょう……」

「悪いが俺っちに直せるかはわかんねぇぜ。惑星ファンタジアには、俺っちの世界の理屈や常識が通用しねぇ」

 素直に答えると少年は不安そうに目線をテーブルに落とした。かと思えば顔を上げてテーブルに身を乗り出す。

「お見せします! この屋敷の地下に施設がありますので、直せるかどうかのご判断をいただけると……!」

「屋敷の地下に、施設だって……?」

「驚きでしょうが、このアルテマは巨大遺跡の上に建てられた町なのです!」

「いや、だが……」

 それはおかしい。アルテマの古代遺跡は町の中心を除く環状に存在しているはずだ。地質調査ドローンに何度スキャンをかけさせても、中心部には何もないとデータを示している。

 だがもし、この話が本当だとしたら……。

「そりゃ興味深ぇっ、ぜひその遺跡、見せてくれよっ!」

「ありがとうございます! ではこちらへどうぞ! あ、ええと、星の世界では、どのような肩書きされていたのですか……?」

「惑星監視――いや、俺っちはコモンウェルス星団・深宇宙探検隊のリーダー! 騎士ヨアヒムだ!」

 おっさんっていうのはよ、男の子の前ではカッコ付けたいもんなんだろうな。
 俺は親指を立てて自分を指さし、できればイケオジに見えるようにキリッと笑って見せた。

「わっ、わぁぁぁーっっ!!」

 対してカリストレスは素直な少年だった。憧れの視線を受けて俺はさらに調子に乗った。

「この星を発見し、ファンタジアと名付けたのだって実は俺っちなんだぜ!!」

「すごいっ、かっこいいっ!! 宇宙の探検隊のリーダー……僕っ、小さい頃からそうお話に憧れてて……っ!!」

 立ち上がると少年は俺の右腕に抱き付いて、今ではただのおっさんに過ぎない男に憧れてくれた。

「あ、こっちです……っ! この奥の噴水に隠しエレベーターがありまして……っ」

「マジか、ドローンでの探索じゃわかんねぇわけだ」

「どろーん……ですか?」

「ああ、ドローンってのはな、要するに……」

 俺もまた一介の研究者。カリストレス少年の気持ちがよくわかる。別に隠す理由もないのでドローンの話もしてやった。すると――

「すごいすごいっ!! 星の世界の人ってすごいです!!」

 素直に賞賛してくれるのだから、星の世界の人冥利に尽きた。
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