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・失敗報告 緑の人は白き大狼を討たない
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宿屋街に戻った頃には夕方だった。
俺はシペラスを連れて難破した鯨亭に戻ると、店主ベアにクエスト失敗の報告を行った。
包み隠さずに全てを伝えた。
するとベアから返ってきたのは不満ではなく納得だった。
「イキュケル様が人喰いなど、俺はおかしいと思っていた」
「誰それ?」
「お前が見た白い大狼だ。この地方では守り神とされている」
「いやそれ先に言えよっ!」
「……確実に討伐してほしかった。郊外の娘たちを喰らったのは、その黒いやつだろう。イキュケル様に化けていた、と見るべきか」
という見解らしい。
確証はないが、否定する理由もない。
何よりあの白くてでかくてかわいいやつは、人なんて喰わない。
ベアはさっきから、俺が証拠として持ち帰った銀のサークレットを手に取り眺めていた。
「まあとにかく、そういうわけでクエストは失敗だ。頼まれても俺はあの白いのを狩る気はない」
そう伝えるとベアがサークレットから顔を上げた。
「……いや、気に入ったよ。ギルドの仕事ってのは、額面通りにこなすだけがベストじゃねぇ。臨機応変に対応しねぇと、かえって面倒を引き起こす。若いやつらはこれがなかなかわからねぇ……」
「そりゃどうも」
そこには信頼の笑みがあった。
人から信頼を勝ち取ることがこんな気持ちいいなんて、俺は知らなかった。
これまで面倒ごとは全部オケヤとカキシマさんがやってくれていたしな。
「手記の場所を教えてやる」
「本当か!」
「よかったですね、ミフネ様!」
いやお前はさ、その手記の獲得を防がなければならない神殿側の立場だろ……?
「あの手記なら20年ほど前、俺が冒険者をやっていた頃に、フッサール鉱山・第一坑道に封じた」
「あの、確か、第一坑道は廃坑になっているはずでは……?」
「さすがに詳しいな、テンプルナイト。そうさ、あのクエストの相棒も、アンタと同じ神殿側の人間だった」
昔を懐かしむように彼が言う。
「んな大事なことを人に教えちゃっていいのか?」
「かまやしねぇよ。その相棒っていうのが、このサークレットの持ち主なんだからな」
「な、なんですって……っ!?」
「これも神様のお導きだろう。と、あの女なら言っただろうな。とにかくこれを取り返してくれたお前たちは、信用できる」
ベアの口から当時の冒険譚を聞いた。
それは神殿からフッサール鉱山への、追っ手を避けてのお忍びの旅だった。
クエストは数人の重傷者を出して無事達成された。
その重傷者というのがベアとサークレットの持ち主だった。
「んじゃ、日も暮れてきたしもう帰るわ」
「おい、何言ってやがる。好きな物をいくらでも注文してけ、今日の俺は気分がいいんだ」
「おっ、マジでー!?」
奢りなら話は別だ!
ただでさえ美味い鯨亭の飯が、奢りならさらに美味くなること掛け合いだ!
しかし今日はノリが少し重かったかな。
ここからは軽くいこう、軽く。
「町の守り神を救ってくれたんだ。そのくらいはさせろ」
タコのマリネ。タイのカルパッチョ、アクアパッツァ。イワシの肉団子の海藻スープ。
美味い飯を綺麗なシペラスとたらふく食べてから、ちょっと酒場の連中と大騒ぎして夜もふけたところで、満員の賑いとなった鯨亭を出ることになった。
・
店を出て、夜の街を歩くと、シペラスが付かず離れずで俺の隣を歩く。
なので足を止めて、俺は見ないようにしていた彼女に振り返った。
「俺は宿に帰る。お前は?」
「はい、お供します!」
「いやいやいやっ、『お供します!』じゃねーよっ!?」
「この町の問題は解決しましたが、私たちの問題は解決していません。ですので、お供します」
「お、俺に、女を宿に連れ込めと……?」
「その権利は私にだけにあると信じています」
重いところ以外は魅力的なんだけどなぁ、こいつ……。
酒も飲まされたしもう寝たいんだが、問題を片付けないわけにもいかないか……。
俺はシペラスを連れて難破した鯨亭に戻ると、店主ベアにクエスト失敗の報告を行った。
包み隠さずに全てを伝えた。
するとベアから返ってきたのは不満ではなく納得だった。
「イキュケル様が人喰いなど、俺はおかしいと思っていた」
「誰それ?」
「お前が見た白い大狼だ。この地方では守り神とされている」
「いやそれ先に言えよっ!」
「……確実に討伐してほしかった。郊外の娘たちを喰らったのは、その黒いやつだろう。イキュケル様に化けていた、と見るべきか」
という見解らしい。
確証はないが、否定する理由もない。
何よりあの白くてでかくてかわいいやつは、人なんて喰わない。
ベアはさっきから、俺が証拠として持ち帰った銀のサークレットを手に取り眺めていた。
「まあとにかく、そういうわけでクエストは失敗だ。頼まれても俺はあの白いのを狩る気はない」
そう伝えるとベアがサークレットから顔を上げた。
「……いや、気に入ったよ。ギルドの仕事ってのは、額面通りにこなすだけがベストじゃねぇ。臨機応変に対応しねぇと、かえって面倒を引き起こす。若いやつらはこれがなかなかわからねぇ……」
「そりゃどうも」
そこには信頼の笑みがあった。
人から信頼を勝ち取ることがこんな気持ちいいなんて、俺は知らなかった。
これまで面倒ごとは全部オケヤとカキシマさんがやってくれていたしな。
「手記の場所を教えてやる」
「本当か!」
「よかったですね、ミフネ様!」
いやお前はさ、その手記の獲得を防がなければならない神殿側の立場だろ……?
「あの手記なら20年ほど前、俺が冒険者をやっていた頃に、フッサール鉱山・第一坑道に封じた」
「あの、確か、第一坑道は廃坑になっているはずでは……?」
「さすがに詳しいな、テンプルナイト。そうさ、あのクエストの相棒も、アンタと同じ神殿側の人間だった」
昔を懐かしむように彼が言う。
「んな大事なことを人に教えちゃっていいのか?」
「かまやしねぇよ。その相棒っていうのが、このサークレットの持ち主なんだからな」
「な、なんですって……っ!?」
「これも神様のお導きだろう。と、あの女なら言っただろうな。とにかくこれを取り返してくれたお前たちは、信用できる」
ベアの口から当時の冒険譚を聞いた。
それは神殿からフッサール鉱山への、追っ手を避けてのお忍びの旅だった。
クエストは数人の重傷者を出して無事達成された。
その重傷者というのがベアとサークレットの持ち主だった。
「んじゃ、日も暮れてきたしもう帰るわ」
「おい、何言ってやがる。好きな物をいくらでも注文してけ、今日の俺は気分がいいんだ」
「おっ、マジでー!?」
奢りなら話は別だ!
ただでさえ美味い鯨亭の飯が、奢りならさらに美味くなること掛け合いだ!
しかし今日はノリが少し重かったかな。
ここからは軽くいこう、軽く。
「町の守り神を救ってくれたんだ。そのくらいはさせろ」
タコのマリネ。タイのカルパッチョ、アクアパッツァ。イワシの肉団子の海藻スープ。
美味い飯を綺麗なシペラスとたらふく食べてから、ちょっと酒場の連中と大騒ぎして夜もふけたところで、満員の賑いとなった鯨亭を出ることになった。
・
店を出て、夜の街を歩くと、シペラスが付かず離れずで俺の隣を歩く。
なので足を止めて、俺は見ないようにしていた彼女に振り返った。
「俺は宿に帰る。お前は?」
「はい、お供します!」
「いやいやいやっ、『お供します!』じゃねーよっ!?」
「この町の問題は解決しましたが、私たちの問題は解決していません。ですので、お供します」
「お、俺に、女を宿に連れ込めと……?」
「その権利は私にだけにあると信じています」
重いところ以外は魅力的なんだけどなぁ、こいつ……。
酒も飲まされたしもう寝たいんだが、問題を片付けないわけにもいかないか……。
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