元アンティーク修復家の異世界転生 - 人質として帝国に差し出された俺がチート能力【アイテム転生】で、皇女と釣り合う男に成り上がるまで -

ふつうのにーちゃん

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・ソーミャ皇女と俺の、子供同士のただの遊び

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 連れ合って社交界を歩けば歩くほどに、皇太子・ベルナディオ・ガラド・アザゼルには驚かされた。
 剣を握れば負け知らず。科学にも精通し、多くの学者と懇意にしている。さらに話術にも長け、街角を馬車が通りがかるだけでご夫人方が黄色い悲鳴を上げる。

 まさにカリスマ、まさに選ばれし超人だ。
 しかし皇太子殿下の超人性の最たるものは、他でもない彼の【気力】だった。

 この帝都では毎日のように何かしらの祭典、食事会、舞踏会、武道会、討論会、辞任叙任の催しが行われている。
 皇太子殿下は己の役職を果たしながらも、それらの催しに毎日ハシゴをして出席していた。

 通常ならただ1回の催しに出席するだけで気力と体力を使い果たしてしまうのに、皇太子殿下は『これが私の日常だ』と言って、疲れを見せる素振りすら見せない。

 世界中の者が羨む超特権階級に生まれながらも、ベルナディオ皇太子殿下は堕落することなく、日々精力的に働き続けていた。

 そんな皇太子殿下を知れば知るほどに、不遇の王子に時間を割いてくれるやさしさに感動しながらも、同時に疑問を抱いた。

 こんなに立派な方が、どうして属国の王子ごときにここまでよくしてくれるのだろう。俺も周囲の人々も、とにかくそこが不思議でならなかった。

「舞踏会にはソーミャも出席している。すまないがアレの相手を頼む」

「はい、俺でよろしければぜひお任せ下さい」

「頼む。母も私も、スピーチの代行を任されてしまってな……。あの子を任せたぞ」

 皇太子殿下は今月の俺のスケジュールを社交界漬けにした。連日のようにアルヴェイク王子を有力者たちに紹介して回って、様々な誤解や偏見を解いていってくれた。

 俺は舞踏場のはずれにソーミャ皇女を見つけて、明るく声をかけた。

「まあ、アル様。またお会いできるなんて、わたくし感動でむせび泣いてしまいそうです。……その後、どうですか?」

 連日式典漬けの生活は子供にはつらかった。けれど式典でソーミャ皇女と会えるかもしれないと淡い期待を胸に抱くと、馬車に乗り込む足取りも軽くなっていた。

「どうって、もしかしてあの力の話ですか?」

「はい……わたくしがこの世界に投げ込んだ一石が、この先どういった波紋をもたらすか、わたくしワクワクの興味津々のソワソワでございまして」

 ソーミャ皇女は好意を隠しもしない。会場でアルヴェイク王子の姿を見つけると、黒い髪をなびかせて駆けてきて、まっすぐな目でこちらを見つめて大人びた言葉づかいをする。

「俺なりの計画はあります。けど、最近あまりにも忙しくて、何も進んでいません……」

「計画……! いえ、野望と言い換えましょう、詳しくお聞かせ願えますか……!?」

 国中の男の子の憧れソーミャ皇女に、舞踏会の会場で手を取られ、一度も踊らずに舞踏場から中庭に出た。
 ソーミャ皇女の手は小さくてやわらかかった。俺にはその指先一つまで高貴に感じられた。

「ふふ、かわいらしい方……。お顔が赤くなっておりますわ」

「それは、突然こんなことをするからですよ……」

「わたくし、少年愛に目覚めてしまいそうにございます」

「そっちこそ今では立派な少女ではないですか。俺がロリコンになったらどうしてくれるんですか」

 12歳の少年目線から見て、ソーミャ皇女は惹かれてやまない美貌の持ち主だった。
 首を傾げたり、身を揺すったり、己の唇を撫でたりと、その一挙一動がたまらなく愛らしい美少女だった。

「謹んで、責任を取らせていただきたく存じます」

「あまり俺をからかわないで下さい……。では、これからの計画をお話をしますね」

「はい、一言一句欠かさずにご静聴いたしましょう」

「なっ、ちょ……っ。こ、困りますよ、こういうの……っ」

 夜の庭園でソーミャ皇女は耳を寄せてきた。会場からは哀愁のある弦楽器の旋律と、大勢の人の声が庭園までザワザワと響いている。

「さあ、さあさあ、どうぞ……! わたくしの耳に、貴方の思いの丈を叩きつけて下さいませ……!」

「では、簡潔に説明しますね……」

 ソーミャ皇女にこれからの計画を説明した。彼女は本当に一言一句欠かさずに、俺の計画を聴いてくれた。

「まあ、なんと徳深い……! やはり貴方はわたくしが思った通りの方でした……!」

「他にないだけです。俺は人質、自由には動けません」

 魂のある物品を転生させる能力【リィン・サイクル】の力は強力無比だ。俺は一晩にして、あらゆる物を吸い込むポーチと、体格差を覆してくれるバンテージを手に入れた。

 けれどそれは、父上があの剣と古着を与えてくれたからだ。これからは自分で、あの赤いオーラを放つ特別な物品を手に入れなくてはならない。

「あの後、護衛の人に無理を言ってバザーを回らせてもらったのですが、赤いオーラを放つ物は1つも見つかりませんでした」

「ええ、そうでしょう。わたくしも審判を司る天使の端くれ、よく存じ上げております」

「その時、緑のオーラを放つ燭台を見つけました。赤いオーラと比べると迫力に欠けていましたが、ぜひ欲しくて値札を見ました」

「まあ、それは素晴らしい実験体になりそうな予感にございます。して、おいくらで?」

「大金貨2枚……。高すぎて、買えなかったんです……」

 物価が違いすぎるのでなんとも言えないけれど、帝国大金貨1枚で20万円の価値がある。
 両親が俺に持たせてくれたお金は大金貨2枚と金貨5枚。祖国は貧しい国だ、ムダづかいなんて絶対に許されない。

「1年……わたくしの犬になるとお約束いただければ――」

「嫌です」

「そんな……わたくし、徳深き貴方を犬扱いする背徳に、奇妙な愉悦を覚えた矢先ですのに……」

 ソーミャ皇女は変人だ。こんなにかわいいのに、時々とんでもない感性のズレを感じる。

「話、進めますね。貴女がくれたこの力ですが、どうやらとても、お金がかかるようなんです」

「ですからわたくしがパトロンになると、そう名乗り出ているではございませんか?」

「いいえっ、12歳の若さでヒモになる気はないですっ!」

「まあっ、ヒモ! 妙なる響きにございます! 『女なら 一度飼いたい それはヒモ』で、ございますね」

 憧れている皇女殿下の犬になってみたいかと言われたら、1日だけならなってみたい。
 けれどそれは人間関係を取り返しの付かない状態に変えてしまうだろう。

「人の思い入れが物品に魂を与える。貴女が言うことが本当なら、人が大切なその品を手放すでしょうか?」

「はい、通常、困難でしょう。何かしらの事情が相手にあれば、話は別となりますが」

「そう、人は大切な物を手放さない。バザーを巡っても1つしかオーラを放つ品が見つからなかったのは、そういうことです」

「ですから【中古修理屋】でございますか!」

 聴くに徹していられなくなった彼女は、無意識なのかグイグイとこちらに迫ってきた。
 俺が後ずさって逃げても、彼女は少年の顔を間近でのぞき込むのを止めなかった。

「あの、近いです……もう少し、離れ――」

「ええ、皆まで言わなくともわかります! リサイクルショップのように、壊れた品や捨てられた品を仕入れ、修復しながら、オーラを放つ宝が手元に入ってくるのを待つのですね!」

 ソーミャ皇女はミルクのような甘い匂いがする。それに花の香りが混じり合って、少年の嗅覚を刺激する。
 あと10センチもしない距離に皇女様の唇があった。

「まあっ!? わたくしったら興奮のあまりに、こんなはしたない……」

「は、離れて……」

「夜の庭園……思春期の女の子と男の子……何もないわけもなく……」

「君に手を出したら皇太子様に合わせる顔がないんです……っ!」

「はぁ……やれやれにございます……。わたくしより、お兄様の方がお好きなのですね……」

 ソーミャ皇女は自分の立場をわかっていない。もし本気で好きになったら痛いでは済まないことになる。
 上手くいっても必ず引き離され、方々に迷惑をかけることになるだろう。

「わかりました、見ればわたくしの唇にご執心のご様子……」

「ち、違いますよ……っ!?」

 唇に指先を当てて、皇女様は小悪魔のように笑った。否応なく、俺の中の思春期が暴れだした。

「アルヴェイグ様、わたくし、生前から殿方と唇を重ねたことがございません」

「な、なぜ、今そんな話を……?」

「どんな感じか、試してみませんか……? 愛がなくとも結構です。これは無邪気な子供同士の、ただの遊びでございます。さあ……どうかお願いします……」

 少女の誘惑に俺は負けた。食い入るようにその薄く小さな唇を見つめて、気付くと衝動任せの行動を取っていた。

 ソーミャ皇女と俺は夜の庭園で、初めてのキスを交わした。
 まるで、自分の人生ではないような、夢の世界に迷い込んだような感覚にとらわれた。
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