蜘蛛神様

鷹夜月子

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第1話 災い来たりけり

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「ここが雲隠れ村か。」
1人の女性が言う。
髪はボサボサで眼鏡はずれていて、いかにも身だしなみに気を使ってないかが伺える。
「先生、村に入る前にきちんとしてくださいよ!」
女性がもう1人。
その女性は逆にスーツをピシッと着こなしていて清楚感が伺える。
「ただでさえこの村は余所者に厳しいんですから、見た目をまず整えて行きましょう!」
「凛は頭固いな。真面目か。」
「真面目ですよ、先生よりは。」
凛と呼ばれた女性は蒼井凛(あおいりん)。ショートカットの紺色の髪に瞳は深い緑色。爽やかな雰囲気が特徴的だ。
一方、先生と呼ばれた女性は宇宙乃(そらの)のどか。黒い長い猫っ毛の髪を一つ結びにし、紫の瞳を眠たげに揺らしている。
先生ことのどかはルポライターで、凛はアシスタントである。
2人がこの村に来た訳、それはとある伝承の噂を確認する為だった。
「この村入ったらまず、村役場に挨拶をしてそれから待ち合わせの時計台のとこに行くぞ。」
「はい、先生。」
2人は村へと足を踏み入れた。
その時だった。
『いらっしゃい』
「え?声??」
しかしあたりには2人以外の人影はない。
「どうした?」
「今、誰かがいらっしゃいって言いましたよね?」
「誰が言うんだ?聞き間違いだろ。」
「だと良いですけど…」
「ほら、行くよ。」
聞こえた声は気のせいにされ、2人は村の中へ進む。

役場に着くと村への滞在手続きがあり、それを済ませると名札の様なものを渡された。
「村を歩く際は付ける様に。」
それだけ言われ役場を追い出された。
「た、態度悪すぎじゃないですか!」
「普通だろ。説明したじゃないか、この村は余所者を嫌っていると。」
「そうですけど…。」
「ほら、早く待ち合わせ場所へ行くぞ。」
そう言って手を差し出すのどか。
「文句言っても仕方ないですしそうしましょうかね。」
凛は悪態をつきながらも差し伸べられた手が嬉しくて強く握った。
待ち合わせ場所に着くと女性が1人立っていた。
黒くふわふわの髪を横に結び、上品な雰囲気が漂っている。まさに美人な淑女にふさわしい出で立ちである。
「悪い、待たせてしまったかな?ルポライターの者だが、小説家の太刀花茉夜(たちばなまや)先生で間違いないだろうか?」
「ええ、私が太刀花ですわ。」
「良かった。私はルポライターの宇宙乃のどかだ。こっちは私の助手の蒼井凛だ。今回は世話になる。」
「かしこまらないでください。私は好きでしているのですから。」
そう微笑む茉夜に凛は思わず見惚れる。
「美人な上性格まで良いとか反則じゃないですか。のどか先生も太刀花先生見習ってしゃんとしてくださいよ。」
「君はこの村に来てからお母さんみたいなことばっかだな。おかんか?」
「こんなでっかくてだらしない子ども嫌ですよ。てか、そもそも産んでないです。」
などと一通り漫才をした後、太刀花が口を開く。
「とりあえず、行きたいところを教えてください。案内の為に私はいるのですから。」
「そうだな…蜘蛛神様についての情報が欲しいな。私の知っている情報はこの村の神様で守り神ってことくらいだ。あと、ちゃんと崇拝しないと祟られるから村の老人達はピリピリしてるってことくらい。」
「それなら石版はいかがかしら?」
「石版?」
「蜘蛛神様の話の石版。あと、絵本も公民館にあるから通り道で石版を見て、それから公民館の書庫へ行きましょう。」
「なるほど、興味深いな。早速案内して欲しいが頼めるか?」
「ええ、では早速参りましょう?」
そう言って茉夜は優雅な動きで踵を返す。
「…素敵だなあ。」
「どうした?素敵ってあいつみたいなやつに憧れるのか?」
「少なくとものどか先生よりは。」
「君…この村に来てから辛辣だな。」
「そうですか?まあでも、好きなのはのどか先生ですよ。」
「…君は悪女だな。」
「は?」
のどかはスタスタと歩き少し先を歩いていた茉夜の隣へ行く。
「気をつけろ、私の助手はハニトラを無自覚に仕掛けてくるぞ。」
凛に聞こえるようにわざと大きめ声で言う。
「しませんよ、そんなこと!!」
「あら、私は貴女の様な可愛い子なら引っかかってもいいですわ。」
「いや、しませんて…。」
そう会話していると、苔の茂った大きい石版が見えてきた。
「これか?ふむ、しかし…苔が茂り過ぎて途中途中が読めんな。」
「とりあえず撮影します?」
「ああ。何枚か頼む。」
凛は鞄からカメラを取り出す。
「これには何て書いてあるんだ?太刀花先生は知っているんだろう?教えてくれないか?」
「ちょっとお待ちください。」
茉夜は服のポケットから手帳を取り出す。
それは結構ボロボロで年季が入っていてかなり使い込まれているのが分かる。
その手帳をペラペラとめくっていく。
やがて手の動きが止まる。
「あったわ。読み上げるけれどメモします?」
「あ、はい。ま、待って下さい。」
凛が慌ててメモ帳とボールペンを鞄から出す。
用意できたことを確認すると茉夜は読み始める。
ーこの村は蜘蛛神様のご加護を受けている。蜘蛛は神の化身、大事にせよ。
蜘蛛神様を崇め、奉れよ。さすれば村は加護を受け続け安泰であろう。
しかし、危害を加えたり、敬わない者には祟りが降りかかるであろう。
それがこの村のしきたりである。
破る者は罪人。罰を祟りを。
崇める者にはご加護を…。ー
「…以上ですわ。参考になったかしら?」
「は、はい!ありがとうございます。」
「助かったよ。それにしても、太刀花先生は一体どうやって調べたんだ?」
「…私、実はこの村の出身でして。まあ、小さい時に言い聞かされていたのです。」
「なるほど。それで…。と、言いたいがそれなら“頭で”覚えている筈。なのに貴女はわざわざ“手帳を見た”。それが気になってね。」
「ちょっと、のどか先生、失礼ですよ!せっかく教えてもらってるのに。」
「いいのよ。私が胡散臭いのは本当ですから。私がここにいたのは本当に幼い頃で…私はその時から本を作りたいって思って、小さいながらに蜘蛛神様の話を書きたいって、拙い字で話をメモを残していたのです。…見ます?」
「いや、大丈夫だ。すまんな、こういう性格なんだ。それに、ここは危険な場所だ。私のワガママで来たからな。助手を巻き込んでまで、な。だから彼女の安全第一で仕事をしようと思っている。」
「のどか先生…。ワガママな自覚あったんですね。」
照れ隠しに悪態をつきながら笑う凛。
「ふふ、良い先生に恵まれましたね。」
優しく笑うと茉夜は足を進める。
「ではそろそろ公民館へ入りましょう?」
「ああ。」
3人は公民館へと入って行った。


🕷
「村長、余所者が村に。しかもこの村のことを嗅ぎまわっているようで。如何しますか?」
「放っておけ。もし余計なことをしたらその時は…ー。」


🕷
「ありました。はい。」
茉夜は一冊の本を差し出す。
「…これは、絵本じゃないか。」
「中を読んで頂けたら分かりますわ。」
半信半疑に、のどかは絵本を開く。

🕷
ーある所に、小さな村がありました。村は貧しいながらも幸せと呼べる生活を送っていました。
ところがある日、山賊が村へ来て、村は阿鼻叫喚になりました。
少年は両親が殺されて泣きました。
悔しい!僕にもっと力があれば守れたのに!
少女は泣きました。
村が守れなかったのは巫女として自分の力が不十分だったから…。
少年に謎の声が言いました。
『力が欲しいか?』
少年は欲しいと答えると、突然身体が熱くなり、その姿は大きな蜘蛛へと変わり果てた。
「蜘蛛神様、お許しください!私が悪いのです!だから!」
少女の声が聞こえます。
しかし、次第に意識は薄くなってきて…。
少年が気付いた時には少女が蜘蛛の巣の中で蜘蛛に喰われている姿で…。
「う、うわあああああああ!!!」
後に少年は知る。
自分は怒った蜘蛛神様に乗っ取られていたのだと。
少年は知ってしまった。
少女は自分を救う為、人柱となって死んだのだと…。
それから少年は決意する。
二度と同じ惨劇を繰り返さないように…。


🕷
そこでページが破ってあって読めなくなっていた。
「ページがないようだが?」
「…そこのページは村長が管理してますの。だから、見せて貰うのは厳しいですわ。」
「どうして村長が?」
「…それは分かりません。お力になれずごめんなさい。」
「いや、謝ることはない。しかし困ったな。」
 「教えてあげましょうか?」
1人の少年が現れてそう言う。
この少年との出会いを引き金に、災いがふりかかるともつゆ知らず…ー。
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