転生陰陽師は男装少女!?~月影の少女と神々の呪い~(ライト版)

水無月 星璃

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第7章: 常世の囁き、初恋の残照

第3話:男装の陰陽師は母神の願いを継ぐ2

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辺りには、いつの間にか再び敵が群がり始めていた。
さっきよりは数が減ったみたいだけど、油断してたらまた増えそうだ。

「よっしゃ、行くか!」

真白が気合を入れて霊符を取り出す。

「はいはい、こっちはこっちで、やらせてもらうわよ!」

一陣の風みたいに、雅姐さんが軽やかに僕の隣をすり抜けていった。
彼女が得意の歌と舞で、幻術を仕掛ける。

「幻術――“万華鏡の夢”!」

高らかな声と共に、淡い桃色の光が四方に降り注いで、空間全体があっという間に幻想的な光景に包まれる。
天井が歪んで、母様の背後に神様の軍勢が現れた。
幻の神々に怯えた妖魔たちは動きを止め、混乱と恐怖に陥っていく。

「……なに!?」

予想外の出来事に、母様も一瞬戸惑って動きを止めた。
その隙を、竜胆丸が見逃すはずがない。

「姐さん、さすが!」

声と共に飛び出した竜胆丸は、得意の隠遁術で姿を隠すと、煙玉を片手に瘴気の隙間に滑り込んだ。

「朔夜様に手出しなんてさせないんだからな!」

母様の足元に狙いを定めて、煙玉を投げつける。
床に叩きつけられて割れた玉の中から緑色の煙が上がって、瘴気と反応して激しく反発し合った。
それは毒の霧となって母様を襲う。

「がっ……!? この童めっ……我が瘴気を利用するとは……!」

母様が苦痛に顔を歪めた。

「姐さん、竜胆丸、やるじゃん!」

そう言いながら、真白も獅子奮迅の活躍で妖魔の数をどんどん減らしていく。

「負けてはいられませんね」

夜刀も、いつも以上に気合の入った様子で刀を振るっている。

「うおりゃあああ!!」

狗が雄叫びと共に戦斧を振るい、妖魔を一掃。
狛の張った結界に守られながら、さらに高く跳び上がって敵を打ち砕いた。

「痛ってー! 手がしびれた~!」
「もう! 狗兄、無茶しないでください!」

狛はすぐに、お兄ちゃんを治癒する。

いつも以上の見事な連携に、僕も気合が入る。

「──神気招来……六根清浄、急急如律令!」

僕は叫ぶと、再び神気を解放した。
月光がキラキラと輝いて、仲間たちの身体を包み込み、傷を癒して力を与える。

「……くっ、このままでは……」

劣勢だと判断した母様は、ついに最後の手段に出た。
常夜宮の方へ掌を向けて、素早く呪文を唱える。

「……常闇に微睡みし我が神核よ。時は満ちた。さあ……目覚めよ!」

すると、常夜宮の地下深くから、恐ろしいほどの力の塊が飛んできて、母様の身体にスッと溶け込んでいった。
永い眠りの間に力を蓄えていた神核は、融合によってツクヨミの力を得て、さらに輝きを増している。

「な、なんだよ!?」

驚く真白たちに、僕は答えた。

「……あれは、たぶんイザナミ様の神核、その本体だ」

強烈な神気が放たれ、母神イザナミは完全な覚醒を遂げる。

「ちょっと、マジで勘弁してほしいんだけど……」

雅姐さんが引きつった顔で呟いた。
他の仲間たちも、そのとんでもない神気にただただ圧倒されている。

「現世を鎮めたか、ツクヨミ。だが、その程度で我は止められぬぞ」

母様の声が、常世全体をビリビリと震わせた。

「やってみなくちゃわかりませんよ……みんな、行くよ!」

僕の号令を皮切りに、仲間たちが一斉に仕掛けた。
真白の霊符が光の矢になり、竜胆丸の毒煙が視界を奪い、雅姐さんの幻術が五感を惑わせる。
狛の結界がみんなを守り、狗が戦斧を振るって突進した。

「我が刃に宿りし光よ、汝の敵を穿て!」

夜刀の剣から放たれた光の衝撃波が、母様に迫る。

でも、すべての攻撃は、母様の周りに渦巻く瘴気の壁に阻まれて、あと一歩が届かない。

「無駄なことを。人の子の力など、我には……届かぬわ!」

母様が手をかざすと、仲間たちは見えない力で弾き飛ばされ、壁や床に叩きつけられた。

「くっ……!」

真白が血を吐いて、その場に倒れ込む。

「真白! みんな……!」

他の仲間たちも、それぞれ怪我を負っているみたいだ。

その中でただ一人、とっさにツクヨミの力を発動させた僕だけが、無傷で立っていた。
やっぱり、完全に覚醒した母様に対抗できるのは、僕しかいないのか……。

(ごめん、みんな。後で必ず助けるから!)

僕は剣を下ろして、まっすぐに母様を見据えた。

夜刀が意識を取り戻して、こっちに来ようとしてたけど、僕はそれを制止した。

「夜刀、下がってて。これは、僕が向き合わなきゃいけないことだから」

凛とした、でも逆らうことを許さない僕の声に、夜刀は不満そうにしながらも、剣を収めてくれた。

他の仲間たちも、少しずつ意識を取り戻し始めている。
それを確認してほっと息をつき、僕は一人、母様に向き直った。

「母様。あなたは、誰よりも優しかった……。なのに、父様に裏切られた悲しみと怒りが、あなたをこんな姿に変えてしまったんですね」

僕の言葉に、母様の瞳が激しく揺れた。

「黙れ! イザナギの元でぬくぬくと育ったそなたに、我の孤独がわかってたまるものか!」

母様の怒号と共に、常世の瘴気が竜巻になって僕に襲いかかる。
僕はとっさに結界を張って、その攻撃を防いだ。

「ぐっ……!」

瘴気の圧倒的な力に、結界がミシミシと軋む。

「朔夜!」
「朔夜様!」

仲間たちが慌てて駆け寄ろうとしてくれるけど、僕はそれを手で制した。

「大丈夫! みんなは手を出さないで!」
「で、でもよ……」

戸惑う真白に、僕はふっと微笑んでみせる。

「稀代の陰陽師様を、信じなって!」
「……!」

ちょっとおどけたつもりだったけど、神気まとってるから、ピカッて後光が差した感じになちゃってたっぽい。
真白が眩しそうに眼を細めながら、息を呑んでいた。
でも、それで自分の出る幕じゃないと思ってくれたのか、真白は力強く頷いてくれた。

「……ああ。任せたぜ、“稀代の陰陽師様”!」
「当然」

僕はそう言うと、印を結び、素早く結界を張り直した。

「我が絶望を知るが良い!」

母様が両手を振り上げると、黒い蔦が床を這い、僕の足元を狙って迫ってくる。
僕は後ろに跳び、印を結びながら、右手の剣で蔦を斬り払った。
でも、斬られた蔦はすぐに再生して、さらに数を増やして襲いかかってくる。

「もう止めてください!」

僕は剣を振りながら、必死に言葉を投げかけた。

「母様は、本当はただ愛されたいだけなんでしょう!」
「ほざけ! そんな想いはとうの昔に捨てたわ!」

母様が天を仰ぐと、常夜宮の天井が砕け散って、そこから無数の亡者が降り注いできた。

「主!」

夜刀が堪えきれず駆け寄ろうとするのを、僕は振り返らずに叫んで、再び止めた。

「夜刀、大丈夫だから。ここからは、私たち神々の戦いだ」

僕は月光を全身に纏い、亡者の軍勢に立ち向かう。
破邪の力を宿した剣が舞い、一体、また一体と敵を浄化していく。
でも、その数は無限に思えた。

「これが我が統べる常世の軍勢! このまま現世を飲み込んでくれるわ!」
「そんなこと......させない!」

僕は剣を天に掲げ、ありったけの力を込めて叫んだ。

「神核に宿りしツクヨミの力よ! 今こそ我に応えよ! 遍く闇夜を照らす、静謐なる光を!」

僕の身体が眩い光に包まれ、常世全体が優しい月光に照らされる。
その光は、亡者たちを一瞬で浄化して、安らかな眠りへと導いていった。

「ぐっ......やはり、そなたの力は侮れぬ......」

母様は一歩後ずさったけど、瞳の怒りは衰えていない。

「我は負けられぬ! 我が復讐のためだけではない。哀れな我が子ら……死人たちの無念を晴らしてやらねば、気が収まらぬのだ!」
「母様、もう止めてください!」
「まだ言うか! ならば、そなたも味わうがよい。我の、我らの絶望を!」

母様が胸を掻きむしると、血みたいな赤い光が溢れ出して、僕を包み込んだ。
僕の意識は、過去へと引きずり込まれる。

見せられたのは、母神イザナミの、最も深い傷。
愛する夫に醜い姿を見られ、拒絶された絶望の記憶だった。

『やめよ、イザナミ! そんなおぞましい姿を見せるな!』
『待って……お願い、行かないで……!』

変わり果てた妻に恐怖と嫌悪を浮かべた父様は、追いすがる母様を捨てて、逃げていく。

『イザナギ……なぜ……私を見捨てた……』

母様の慟哭だけが、常世に響き渡っていた。

次々に、常世の死人たちの悲しい過去が流れ込んでくる。
裏切られ、罵られ、愛が憎しみに変わっていく記憶。
死人たちの苦しみを追体験した僕は、堪らず涙を零した。
幻が消え、目の前に母様の狂気が映る。

「我が死者に向ける愛こそが唯一無二。それ以外に、真の愛などありはせぬ……」
「そんなことはありません……!」
「我はイザナミ。愛の化身──すべてを慈しみ愛する、偉大なる母神よ!」

叫びと共に、巨大な黒い瘴気の渦が、周りのすべてを巻き込んで広がっていく。
ついに、常世そのものを現世に侵食させる禁術──『黄泉返り』が発動してしまったんだ。
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