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幼き修行 4
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ある日の夕方、いつものように祖父の家に行ってくると告げ、颯玄は出かけた。雨が降っていたし、前回のことがあるので、本当に祖父のところに行っているのかを確認するため、両親は颯玄の後を付けた。
方向的には間違いなく祖父の家の方だ。ちゃんと行っていることは確認できたが、家に入るわけではない。いつものように門のところに正座した。
天気が良ければこれも祖父のしつけかと思い、そのまま見ていたかもしれないが、この日は雨だ。おかしいと思い、すぐに颯玄のところに行った。
「颯玄、何をしているんだ」
思わぬ状況に颯玄は驚いた。両親はすぐに颯玄を立たせ、祖父の家に入ろうとした。
その時、祖父は戸を開け、外に出た。実は祖父は颯玄がいる間中、ずっとその様子を見ていたので、この日は両親が後ろにいたことは知っていたのだ。
外は雨が降っているので、すぐに全員、家の中に入った。
「お父さん、何をしているんですか」
父親は開口一番、祖父に詰問した。その形相は険しかった。自分の子供の様子を見て、心配と怒りのような感情が込み上げていたのだ。
颯玄は祖父が説明しようとする前に父親に言った。
「俺が悪かったんだ。最初、おじいさんから教わっていた空手の稽古から逃げ出した。もう一度教えてもらいたくて、その気持ちを示したくて、許してもらえるまで門のところで待っていたんだ」
必死に親を説得しようという思いが伝わる表情だった。
「颯玄、そうは言っても物事には限度がある。何故、私たちに相談してくれなかった」
父親は颯玄を諭すように言った。その後、祖父に対しても言った。
「お父さん、颯玄はまだ子供ですよ。なのに何てことをさせるんですか。この前も雨の中ずぶ濡れになって帰ってきましたが、あの日も同じだったんですね。風邪を引いて、肺炎でも起こしたらどうするんですか」
怒りの口調で言う言葉は、親としては当然の心配だ。
「確かにお前の心配は当然だ。わしもお前の親だからな・・・。だが、同時に武術家でもある。残念ながらお前はその道を進まなかった。だから分からないこともあると思うが、颯玄は一度修行を挫折した。子供だから、と言ってしまえばそれまでだし、普通の子供が空手をやりたいというくらいの軽い気持ちならば何も思わなかったかもしれない。しかし颯玄はわしの孫で、武門の血筋である久米の家を絶やしたくないという気持ちもある。その上でもし颯玄が今後、本気でこの道を進もうと思えば筆舌に尽くしがたいことを経験するだろう。雨の日の正座などそれに比べれば些細なことだという場合はいくらでもある。わしは以前、稽古している颯玄を見て、武術家としての天分を見た。だからきちんと育てようと思っていたが、わしの手から離れた。もう一度稽古したいと戻ってはきたが、以前と同じような考えではまた逃げ出すかもしれない。お前も知っての通り、久米家は先祖代々琉球王家に武士として仕えてきた家柄だ。わしはそのことに誇りを持っている。何事にも向き・不向きがあるのでお前に空手の稽古を強要しなかった。わしの代で久米の家も終わりにしても良いとも考えていた。そこに颯玄という逸材に巡り合った。だが、途中で止めてしまえば素質は関係ない。途絶えてしまうのだ。そうならないようにするためには颯玄をしっかり鍛えなくてはならない。今回のことはその見極めをするためのことだったのだ。今日もまた雨の日になったが、もし今日も前回と同じように、門のところで正座して待っているようだったら、その気持ちは本物なのだろうと考えることにしていた。まさか今日、お前たちも一緒とは思わなかったが、再入門のための試験と考えてもらえば良い」
祖父は颯玄と両親に目を向けながら淡々と話した。
3人は祖父の言葉にすぐに反応できなかったが、心の中ではそれぞれの思いが湧き上がっていた。
父親のほうはこれまで颯玄や祖父の考えを知らなかったため、話を聞いても言い訳のような気持ちでいた。だから、祖父の言葉に対して何か言いたげな顔になっていた。
だが、父親が口を開く前、颯玄の方から祖父に言った。
「じゃあ、また稽古をつけてもらえるんだね」
その表情は大変嬉しそうだった。父親は颯玄のその顔を見て、次の言葉が出なかった。子供の気持ちを知らず、一面からだけ言っても意味が無いことを感じていたのだ。
「あぁ、明日、天気が良ければ再開だ。いつもの時間に来なさい」
颯玄の顔は、先ほどにも増して輝いていた。3人はその言葉を聞き、祖父の家を後にした。
方向的には間違いなく祖父の家の方だ。ちゃんと行っていることは確認できたが、家に入るわけではない。いつものように門のところに正座した。
天気が良ければこれも祖父のしつけかと思い、そのまま見ていたかもしれないが、この日は雨だ。おかしいと思い、すぐに颯玄のところに行った。
「颯玄、何をしているんだ」
思わぬ状況に颯玄は驚いた。両親はすぐに颯玄を立たせ、祖父の家に入ろうとした。
その時、祖父は戸を開け、外に出た。実は祖父は颯玄がいる間中、ずっとその様子を見ていたので、この日は両親が後ろにいたことは知っていたのだ。
外は雨が降っているので、すぐに全員、家の中に入った。
「お父さん、何をしているんですか」
父親は開口一番、祖父に詰問した。その形相は険しかった。自分の子供の様子を見て、心配と怒りのような感情が込み上げていたのだ。
颯玄は祖父が説明しようとする前に父親に言った。
「俺が悪かったんだ。最初、おじいさんから教わっていた空手の稽古から逃げ出した。もう一度教えてもらいたくて、その気持ちを示したくて、許してもらえるまで門のところで待っていたんだ」
必死に親を説得しようという思いが伝わる表情だった。
「颯玄、そうは言っても物事には限度がある。何故、私たちに相談してくれなかった」
父親は颯玄を諭すように言った。その後、祖父に対しても言った。
「お父さん、颯玄はまだ子供ですよ。なのに何てことをさせるんですか。この前も雨の中ずぶ濡れになって帰ってきましたが、あの日も同じだったんですね。風邪を引いて、肺炎でも起こしたらどうするんですか」
怒りの口調で言う言葉は、親としては当然の心配だ。
「確かにお前の心配は当然だ。わしもお前の親だからな・・・。だが、同時に武術家でもある。残念ながらお前はその道を進まなかった。だから分からないこともあると思うが、颯玄は一度修行を挫折した。子供だから、と言ってしまえばそれまでだし、普通の子供が空手をやりたいというくらいの軽い気持ちならば何も思わなかったかもしれない。しかし颯玄はわしの孫で、武門の血筋である久米の家を絶やしたくないという気持ちもある。その上でもし颯玄が今後、本気でこの道を進もうと思えば筆舌に尽くしがたいことを経験するだろう。雨の日の正座などそれに比べれば些細なことだという場合はいくらでもある。わしは以前、稽古している颯玄を見て、武術家としての天分を見た。だからきちんと育てようと思っていたが、わしの手から離れた。もう一度稽古したいと戻ってはきたが、以前と同じような考えではまた逃げ出すかもしれない。お前も知っての通り、久米家は先祖代々琉球王家に武士として仕えてきた家柄だ。わしはそのことに誇りを持っている。何事にも向き・不向きがあるのでお前に空手の稽古を強要しなかった。わしの代で久米の家も終わりにしても良いとも考えていた。そこに颯玄という逸材に巡り合った。だが、途中で止めてしまえば素質は関係ない。途絶えてしまうのだ。そうならないようにするためには颯玄をしっかり鍛えなくてはならない。今回のことはその見極めをするためのことだったのだ。今日もまた雨の日になったが、もし今日も前回と同じように、門のところで正座して待っているようだったら、その気持ちは本物なのだろうと考えることにしていた。まさか今日、お前たちも一緒とは思わなかったが、再入門のための試験と考えてもらえば良い」
祖父は颯玄と両親に目を向けながら淡々と話した。
3人は祖父の言葉にすぐに反応できなかったが、心の中ではそれぞれの思いが湧き上がっていた。
父親のほうはこれまで颯玄や祖父の考えを知らなかったため、話を聞いても言い訳のような気持ちでいた。だから、祖父の言葉に対して何か言いたげな顔になっていた。
だが、父親が口を開く前、颯玄の方から祖父に言った。
「じゃあ、また稽古をつけてもらえるんだね」
その表情は大変嬉しそうだった。父親は颯玄のその顔を見て、次の言葉が出なかった。子供の気持ちを知らず、一面からだけ言っても意味が無いことを感じていたのだ。
「あぁ、明日、天気が良ければ再開だ。いつもの時間に来なさい」
颯玄の顔は、先ほどにも増して輝いていた。3人はその言葉を聞き、祖父の家を後にした。
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