龍皇伝説  壱の章 龍の目覚め

藤堂慎人

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出稽古 13

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 そう言うと、知念はまた一口お茶をすすった。2人にはそれすらも長い時間に感じたが、同じ掛け試しと言っても昔と今の違いを感じていた。

「久米先生もわしのことは知っておられた。だから攻撃の時に片足になる蹴りではなく、突きだった。誘い技には乗らないと思われたのか、その一撃に全てを込めてといった感じの鋭く深い追い突きだった。わしはそれまでもその後も、あれほどの突きは見たことが無い。それほどの技だったので、それを受けようとか捕ろうという感じではなかった。思わず下がって躱すしかなかった。初めて打突系の技の怖さが分かった気がした。わしが下がり、何の反撃もできなかったことで2人の間はまた最初の状態になった。そこで久米先生も考えたのだろう、単発の攻撃では見切られれば当たらないので、極めの技を連続して放つということを。さっきも言ったが、当時の掛け試しは相手のことよりも勝負にこだわり、その後のことには気を遣わなかった。だからかもしれないが、久米先生の次の技はわしの膝関節を狙って下段足刀蹴りが飛んできた。ここを狙われたらなかなか捕れるものではない。もちろん、大したことが無い技ならば捕れるが、久米先生の技はそんなに生易しくない。だが、わしも最初の突きで久米先生の間合いは何となく掴んでいた。わしのような戦い方の場合、間合いの読みは大切だ。突きや蹴りの場合も同じだが、技の種類によりそれぞれ要諦がある。だから、下段足刀蹴りについては前足を後ろに下げることで躱すことができると踏んだ。果たしてそれはその通りになったが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。蹴り足が着地したと思った瞬間、久米先生は右の上段裏拳打ちをわしの顔面の右側から放ったんだ。気持ちが下半身のほうに向いていたのか、一瞬裏拳打ちが視界から消えたが、これまでの経験から技の様子を読み、右の前腕で受けた。こうなるとわしのほうが有利だ。当たった感触を感じた瞬間、その時の状況が反射的に頭に浮かび、すぐさま反応した。こういう時、軽い技であればできなかったと思うが、重い技だったから接触している時間は周りで見ているよりも長い。時計で図れば大したことは無いかもしれないが、戦っている者同士の時間は時計で図れるものではない。こういうことは2人も経験があるんじゃないのか?」

 知念は戦いの様子を話しつつ、尋ねてきた。2人とも知念の顔を見ながら首を縦に振っている。こういう様子は体験を通じ、何かを教えているような状態でもある。ただこの時、2人はそこまで気付くことは無く、戦いの様子そのものに興味を持っていた。

「わしの技の場合、そういうところが大切で、その瞬間は動きが静止している状態になるが、そういうところを待っていたんだ。わしはすぐに久米先生の右腕の肘関節に左手を巻き付けた。そしてすぐに自分のほうの引き寄せつつ、地面のほうに落とした。さっき接触した前腕のほうはそれに合わせて折り曲げるように動かし、状況によってはそのまま肘関節を極め、負けを認めさせるか、認めなければ腕が使えなくなるようにすることも考えた。だが、さすがは久米先生だ。これまで戦った相手なら、それで肘関節が極まったところだろうが、極めの前に自分から地面に倒れ込まれた。関節技というのは相手の反射的な動きを利用するところがある。この場合、倒れないように頑張ってもらう方が良かったのだが、自分から倒れ込まれたのでは極めの機会を失う。しかも自分から倒れ込むような場合、仕方なく倒れる場合よりも余裕がある。久米先生は自ら倒れることによりその機会を得たのだ。そして、倒れと思った瞬間、左足でわしの顔面に対して蹴りが伸びてきた。わしの両手はふさがっていたし、間合い的に当たる状態だ。瞬間的に顔を横に向けたが、完全によけきることはできず、わしの左目の下付近に当たった。幸い眼球に当たることは無かったが、それでも完全に大丈夫というわけではない。わしは後退し構えたが、久米先生を見た時の感じは最初の時とは違っていた。左右の目の調子が違うことになれば、距離感が掴めない。それは武術としての戦いでは技の質が大きく減じることになる。それを読まれたかどうかは分からなかったが、直後に左右から揺さぶられるような攻撃をされれば、きちんと対応できたかどうか分からない。だが、久米先生は次の攻撃までに少し時間を空けられた。わしの目のことを気遣われたからかどうかは分からないが、それで助かったところがあるのは事実だ」

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