BLゲームのヒロイン兄様を守りたい!

七瀬

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第一章

16.対決の結果



その日の夕方、兄様たちの帰りは普段より遅かった。

僕は図書室で本を読みながら待っていたが、全然内容が頭に入ってこない。ダミアンとの話し合いはうまくいったのだろうか。

「ノア様、アシェル様とレオン様がお帰りです」

エディが知らせに来てくれた。

急いで玄関に向かうと、アシェルとレオン兄様が疲れた顔で立っていた。

「おかえりなさい」

「ただいま、ノア」

アシェルが僕を抱きしめるが、いつもより力が強い。

「どうでしたか?」

「うーん…」

レオン兄様が困ったような顔をする。

「話はしたんだけど…」

「うまくいかなかったんですか?」

「まあ、居間で詳しく話そう」

三人で居間に移動した。

「それで、ダミアン先輩は何と?」

「最初は普通に話を聞いてくれたんだ」

アシェルが説明を始める。

「『ノアはまだ幼いから、もう少し距離を置いてもらえないか』って言ったら、『そうですね、配慮が足りませんでした』って答えてくれた」

「それなら良かったじゃないですか」

「そう思ったんだけど…」

レオン兄様が続ける。

「その後がいけなかった」

「その後?」

「『でも、ノア君への気持ちは変わりません』って言い出したんだ」

「気持ちは変わりません?」

「そう。『いつか必ず理解してもらいます』とか、『僕は諦めません』とか」

アシェルがため息をつく。

「結局、距離を置くとは言ったけど、諦めるとは言わなかった」

「そんな…」

「それどころか、最後にとんでもないことを言われた」

「とんでもないこと?」

「『ノア君が成人したら、正式にお付き合いを申し込みます』って」

「せ、成人したら?」

身の毛がよだつ。まだ6歳なのに、もう10年以上先のことまで考えているなんて。

「つまり、今は待つけれど、将来は絶対に諦めないってことだ」

レオン兄様が深刻な顔をする。

「これは予想以上に厄介だぞ」

「でも、10年以上も先の話でしょう?」

「ノア、それが問題なんだ」

アシェルが僕の手を握る。

「ダミアン先輩は本気だ。10年でも20年でも待つつもりでいる」

「そんなに長い間?」

「ストーカー体質の人間は、時間が経っても諦めないんだ」

レオン兄様が説明してくれる。
もしかして、レオン兄様の体験談なのか…?

「むしろ、時間が経つほど執着が強くなることが多い」

僕は背筋がぞっとした。10年以上もダミアンに付きまとわれ続けるなんて。

「でも、何か対策はあるでしょう?」

「うーん…」

二人とも困った顔をする。

「とりあえず父様に相談してみよう」

「そうですね」

その時、父様が部屋に入ってきた。

「お疲れさまでした。どうでしたか?」

僕たちが今日の経緯を説明すると、父様も深刻な顔をした。

「そうか…予想していた通りの反応だな」

「予想していた通り?」

「あぁ。ダミアン君のような人物は、簡単には諦めないからな」

父様が椅子に座る。

「実は、今日密かにクロウフォード伯爵と話をしてきてね」

「ダミアン様のお父様とですか?」

「あぁ。息子の行動について苦情を申し立てた。派閥争いに巻き込まれるのは御免だが、これ以上ノアが怖い思いをするのは見過ごせない」

「それで、どうでした?」

「伯爵も困っていたよ。ダミアン君の『趣味』については、家族も手を焼いているみたいだ」

「趣味?」

「美しいものへの異常な執着だよ。過去にも何度か問題を起こしているらしくてね」

父様の話に、僕たちは息を呑んだ。

「でも、伯爵は息子を厳しく注意すると約束してくれたよ」

「それなら安心ですね」

「いや、まだ安心はできない」

父様が首を振る。

「ダミアン君は表面上は従うだろうが、隠れて行動を続ける可能性がある」

「隠れて?」

「そうだ。直接的な接触は避けても、遠くから見張ったり、間接的に近づこうとしたり」

「そんなことが…」

「だから、しばらくの間はより一層注意が必要だ」

父様が僕を見つめる。

「ノア、申し訳ないが、当分の間は外出を控えてもらうよ」

「わかりました」

「それから、もし何か変わったことがあれば、すぐに報告しなさい」

「はい」

「私たちも、できる限りの対策を講じるよ」

父様の言葉に、少し安心した。

でも、同時に憂鬱な気持ちにもなった。

これから長い間、ダミアンの影に怯えながら生活しなければいけないなんて。


****


その夜、アシェルが僕の部屋を訪れた。

「ノア、大丈夫?」

「はい…でも、少し怖いです」

「当然だよ。こんな状況になって、怖くないわけがない」

アシェルが僕の隣に座る。

「でも、絶対にノアを守るよ」

「ありがとうございます」

本当は僕がアシェルを守るつもりなのに……

「僕も、レオンも、父様も母様も、みんなでノアを守る」

「はい」

「だから、一人で抱え込まないでよ」

「わかりました」

アシェルが僕を抱きしめてくれる。

「おやすみ、ノア」

「おやすみなさい、アシェル兄様」

いつものように、就寝時間の少し前になり、アシェルが部屋を出て行こうと、ソファを立ち上がる。

はぁ…今日もあの悪夢を見るのかな。思い出すだけでぞっとする。

なんてことを考えていると、僕の身体は無意識に動いていた。

「兄様…いかないで」

僕はアシェルの袖を力なく掴んでいた。
おやすみのキスをした時とは違い、引き止めるには弱々しい力だった。

ただ、涙目でアシェルを見上げ、言葉にできない気持ちを訴えていた。

6歳児の身体のせいだ。ほんの少し寂しくて、心細いだけ。

アシェルは立ち止まり、僕の小さな手を見下ろした。
少し困ったように目を細め、それからやわらかく微笑む。

「…ノア、怖い思いさせちゃってごめんね」

アシェルはしゃがみ込み、僕の目線まで顔を下げた。その瞳には、僕への愛しさと心配が混じっている。

「ノアがそんな顔をするなんて…もう、可愛すぎて反則だよ」

アシェルは僕の小さな手を包み込み、そっと額にキスを落とした。

「いいよ。今日は一緒に寝ようか?」

「……え?」

思わず目を瞬かせる。アシェルと一緒に寝るなんて、風邪をひいたとき以来だ。
そのときはレオン兄様もいたけど、アシェルと二人っきりで寝るなんて…。僕なんかでいいのだろうか。

「ノアが望むなら、僕はいつだって隣にいるよ。どんな夢だって、僕が追い払ってあげる」

そう言いながら、アシェルは僕を抱き上げて、ベッドに運んだ。6歳児の身体は小さいから、彼の腕の中で簡単に収まってしまう。

「ちょ、ちょっと恥ずかしいです…」

「恥ずかしい? ノアが可愛いからだよ。僕の弟は世界で一番愛らしいんだ」

アシェルはそう断言すると、僕を布団に寝かせ、自分も隣に潜り込む。
そして、迷いなく腕を回してきた。

「……っ」

胸の鼓動が速くなる。けれど、包み込むような温もりに、不思議と安心感が広がっていく。

「ノア、怖い夢を見ても大丈夫。僕が起きて、抱きしめて、全部忘れさせてあげる」

「……本当に?」

「本当。僕がノアを守りたいんだ」

アシェルの声は、少し誇らしげだった。

「アシェル兄様……」

「それにね、ノア。もし成人した後でも、誰かに取られそうになったら……」

アシェルは僕の髪に顔を埋め、小さな声で囁いた。

「絶対に渡さない」

「……え?」

「…ううん。なんでもないよ」

なにを言っているのか、よく聞き取れなかった。
けれど、ゲームとは違い、ちゃんと兄弟としての仲が深まっていることが確かに感じられる。

アシェルは僕の額にもう一度キスをして、優しく微笑んだ。

「安心して眠って。ノアの隣には、僕がいるから」

僕はその腕の中で、ようやく安堵のため息をついた。

──怖い夢を見ても、アシェルがいてくれるなら大丈夫。

そんな風に思いながら、ゆっくりとまぶたを閉じた。


****


翌朝、いつものように兄様たちを見送った。

「今日はカイルにも話をしてみる」

「よろしくお願いします」

「何かあったらすぐに連絡してね」

「はい」

二人が学園に向かった後、僕は図書室に向かった。

外出が制限されている以上、家の中で過ごす時間が長くなる。
読書でもして、時間を潰そう。
そう思って本を開いたが、やはり集中できない。
この先、どうなってしまうのだろう。
平穏な日常は、もう戻ってこないのだろうか。

そんなことを考えながら、長い一日が始まった。


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