BLゲームのヒロイン兄様を守りたい!

七瀬

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第一章

18.伝える想い



二日目の朝、ダミアンが朝食を持ってきた。
この環境にも少し慣れてしまった。
アシェルたちがきっと助けに来てくれる。わかってはいるけれど、なんだかやるせないきもちだ。

「おはよう、ノア」

「…おはようございます」

もう抵抗するのも疲れてしまった。

「今日はどんな話をしようか?」

ダミアンが僕の向かいに座る。

「君の好きな本の話でもしない?」

「…」

「それとも、君の描く絵について聞かせて?」

ダミアンは毎日こうやって、僕の趣味や好きなことを聞いてくる。まるで僕のことを理解しようとするように。

でも、僕が本当に大切にしているものを、この人に教えたくない。

「ノア?」

「すみません、あまり気分が…」

「そうか。無理しなくていいよ」

ダミアンが優しく微笑む。

「でも、君がここにいてくれるだけで僕は幸せだ」

僕がここにいることで幸せだなんて。それは僕の意志ではないのに。

アシェルなら、僕が嫌がることは絶対にしない。僕が悲しんでいたら、一緒に悲しんでくれる。

レオン兄様なら、僕を無理やり引き留めたりしない。僕の選択を尊重してくれる。

「ノア、何を考えてるの?」

「何でもありません」

「そんな寂しそうな顔をして」

ダミアンが僕の頬に手を伸ばしてくる。

「僕がいるのに、どうして寂しがるの?」

あなたがいるから寂しいんです。そう言いたかったけれど、言葉にはできない。

「家族のことを考えてるの?」

「…」

「もう彼らのことは忘れなさい」

「忘れるなんて、できません」

思わず声に出してしまった。

「どうして?」

「だって、家族ですから」

「僕だって、君の家族になれるよ」

「違います」

「何が違うの?」

「家族は、お互いを大切にし合うものです。一方的に束縛するものじゃありません」

僕の言葉に、ダミアンの表情が少し暗くなる。

「束縛?僕は君を愛しているんだ」

「愛とは言えません」

「なぜ?」

「本当に愛しているなら、相手の気持ちを尊重するはずです」

アシェルはいつもそうしてくれる。僕が嫌がることは絶対にしない。

「君は子どもだから、まだわからないんだ」

「子どもでも、嫌なことは嫌だとわかります」

「でも、いずれ理解してくれる」

「理解できません」

僕ははっきりと答えた。

「絶対に、理解できません」

ダミアンが立ち上がる。いつもの優しい表情が消えている。

「そんなに頑固だったかな、君は」

「頑固ではありません。当たり前のことを言っているだけです」

「当たり前?」

「はい。人は自由でいる権利があります」

「自由なんて幻想だよ」

「違います」

僕も立ち上がる。

「家族と一緒にいる時、僕は本当に自由でした」

「それは君が子どもだからだ」

「子どもでも、心は自由です」

ダミアンが僕を見下ろす。

「君は僕のものになるんだ」

「なりません」

「いずれは諦めてくれる」

「諦めません」

僕たちはしばらく見つめ合っていた。
ダミアンの目には、怒りと困惑が混じっている。
僕の目には、揺るがない決意があった。

「…そうか」

ダミアンが深く息を吐く。

「君は思った以上に強い子だね」

「家族が強くしてくれました」

「家族、家族って…そんなに大切か?」

「はい、世界で一番大切です」

僕の答えに、ダミアンが苦笑いする。

「参ったな。こんなに小さいのに、こんなに意志が強いなんて」

「小さくても、心は大きいです。家族の愛で満たされているから」

「愛…」

ダミアンが呟く。

「僕の愛じゃだめなのか?」

「それは愛ではありません」

「では何だ?」

「執着です」

僕ははっきりと言った。

「ダミアン兄様は僕を愛しているのではなく、執着しているだけです」

「執着と愛の違いなんて…」

「違います」

僕が遮る。

「愛は相手の幸せを願うものです。執着は自分の欲望を満たすものです」

ダミアンが黙り込む。

「アシェル兄様は、いつも僕の幸せを考えてくれます」

「アシェル…」

「レオン兄様も、お父様も、お母様も、みんな僕の幸せを願ってくれています」

「でも僕だって…!」

「ダミアン兄様は、ご自分の欲望を満たそうとしているだけです」

僕の言葉に、ダミアンが顔を歪める。

「君は…君は僕を否定するのか?」

「否定しているのではありません。ただ、間違いを指摘しているだけです」

「間違い?」

「はい。人を監禁するのは間違いです」

ダミアンが拳を握る。

「君のためを思って…」

「僕のためではありません。貴方自身のためです」

「そんな…」

「本当に僕のためを思うなら、家に帰してください」

長い沈黙が続いた。
ダミアンは複雑な表情で僕を見つめている。
僕は真っ直ぐに彼を見つめ返した。

「…少し頭を冷やす」

「はい」

「昼にまた来る。そのときに話をしよう」

「わかりました」

ダミアンが部屋から出て行く。

一人になってから、僕は大きく息を吐いた。
怖かった。でも、言わなければいけないことは言えた。
家族への愛が、僕を強くしてくれる。
アシェルの優しさ、レオン兄様の頼もしさ、お父様の厳格さ、お母様の温かさ。
みんなの愛が、僕の心を支えてくれている。

「みんな、僕を探してくれているよね」

小さく呟く。
きっと今頃、必死に僕を探してくれているはずだ。
特にアシェルは、自分を責めているかもしれない。


****


数時間後のお昼、ダミアンが昼食を持って部屋に入ってきた。様子が少し変わった気がする。

「おはよう、ノア」

「おはようございます」

「さっきは…少し言い過ぎたかもしれない」

珍しく、ダミアンが謝るような口調だった。

「いえ」

「君の言葉を考えていたんだ」

「はい」

「執着と愛の違いについて」

ダミアンが窓を見る。

「もしかすると、君の言う通りかもしれない」

「ダミアン兄様…」

「でも、僕の気持ちは本物だ」

振り返って僕を見る。

「君を大切に思う気持ちは、嘘じゃない」

「それは信じます」

「でも、方法が間違っていたと?」

「…はい」

「そうか」

ダミアンが深いため息をつく。

「君は本当に賢い子だね」

「家族が教えてくれました」

「またその家族か」

でも、今度は嫌味ではなく、どこか寂しそうな口調だった。

「君にとって、彼らはそんなに特別なのか?」

「はい、世界で一番特別です」

「僕にも、そんな風に思ってくれる人がいればよかったのに」

ダミアンの表情が、少し幼く見えた。

「ダミアン兄様にも、きっといらっしゃいますよ」

「いないよ。僕はいつも一人だった」

「そんなことは…」

「両親も、僕の美しさしか見てくれなかった」

ダミアンが苦笑いする。

「だから、僕も美しいものにしか興味を持てなくなった」

「でも、それは…」

「間違っていたんだろうね」

ダミアンが立ち上がる。

「君と話していると、それがよくわかる」

「ダミアン兄様」

「少しだけ時間をくれ」

「時間?」

「あぁ。僕の話し相手になっておくれ。すぐに戻ってくるよ」

そう言って、ダミアンは部屋から出て行った。

もしかすると、ダミアンも変わってくれるかもしれない。




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