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2.絶対の約束
「はるせんせー、きょうはなにしてあそぶ?」
お昼ごはんを食べ終わった陽太が、僕の腕にぶら下がりながらキラキラした瞳で見上げてくる。
「そうだなあ……天気もいいし、お外で――」
「佐伯先生」
不意に背後から声をかけられて振り向くと、園長が立っていた。いつもの穏やかな表情ではなく、どこか硬い。
「少しよろしいですか」
「あ、はい」
子どもたちに「ちょっと待っててね」と声をかけて立ち上がる。怜央が僕の手を握って離さない。
「……すぐ戻るから」
そう言うと、ようやく手を離してくれた。でも、その目は不安そうで、胸が痛んだ。
園長室へ向かう廊下で、胸に妙な予感が走った。何か、よくないことが起きる気がする。
「実は、佐伯先生のお身内の方から連絡がありまして」
園長の言葉に、僕は首を傾げた。
「叔父さんですか?」
「ええ。少し……急なお話なのですが」
その日の夕方。叔父の運転手が迎えに来て、僕は叔父の会社へ向かった。
「はる、悪いな。急に呼び出して」
応接室で待っていた叔父は、いつもより少し疲れた顔をしていた。高級そうな革張りのソファに深く腰を下ろし、僕を見る。
「どうしたんですか? 何かあったんですか」
「いや、な。ちょっとした……頼みがあってな」
叔父は煙草に火をつけようとして、やめた。
「お前、明日から少し休んでくれないか」
「え?」
「数日でいい。ちょっと海外に行ってほしいんだ。俺の代わりに、な」
海外? 僕が?
「でも、僕、保育園……」
「大丈夫だ。園長には話を通してある。お前の代わりは手配する」
叔父の口調は、いつになく強かった。有無を言わせない雰囲気がある。
「あの、子どもたちが……」
「すぐ戻れる。一週間もかからん」
叔父は僕の肩に手を置いた。
「頼む。お前にしか頼めないんだ」
その言葉に、僕は頷くしかなかった。
翌日の朝。僕は六人を呼んで、教室の隅に集まってもらった。
「あのね、みんな。先生、少しだけお休みするね」
その言葉を聞いた瞬間、六人の顔が一斉に強張った。
「えー! やだ!」
陽太が真っ先に叫んだ。
「せんせ、いかないで!」
「……いつ、かえってくるの」
奏が無表情のまま、でも目を潤ませて聞いてくる。
「すぐだよ。一週間くらい」
「いっしゅうかんって、ながいよ!」
陽太が今にも泣き出しそうな顔で僕の服を掴む。
「僕たちを置いていくんですか」
怜央が、いつもの余裕を失って、僕の服をぎゅっと握りしめた。その手が震えている。
「置いていくんじゃないよ。ちょっと用事があるだけで、絶対に帰ってくるから」
僕は一人ひとりの頭を撫でた。
「約束する。絶対、すぐ帰ってくるから」
颯真と湊も、珍しく不安そうに僕を見ている。いつもは冷静な二人なのに。
「せんせ……本当に、かえってくる?」
湊が、計算高い瞳を揺らしながら聞いてくる。
「うん。約束」
蒼は何も言わずに、ただ僕の手を強く握りしめた。
「せんせい、うそつかない?」
陽太が涙目で見上げてくる。
「嘘つかないよ。先生、みんなのこと大好きだもん。絶対帰ってくる」
その言葉に、ようやく六人は少しだけ表情を緩めた。
「ぜったい?」
「絶対」
でも、その「絶対」が守れなくなるなんて。このときの僕は、まだ知らなかった。
帰り際、怜央が僕の袖を掴んで離さなかった。
「……行かないで」
小さく、本当に小さく呟いた声。いつもの威厳はどこにもなく、ただの五歳の男の子の声だった。
「すぐ帰るから」
僕はもう一度、怜央の頭を撫でた。そして、六人全員をぎゅっと抱きしめた。
「待っててね」
その夜、僕は荷物をまとめながら、なぜか胸騒ぎが止まなかった。
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