目覚めたら成長した園児たちに囲まれる話

七瀬

文字の大きさ
2 / 16

2.絶対の約束


「はるせんせー、きょうはなにしてあそぶ?」

お昼ごはんを食べ終わった陽太が、僕の腕にぶら下がりながらキラキラした瞳で見上げてくる。

「そうだなあ……天気もいいし、お外で――」
「佐伯先生」

不意に背後から声をかけられて振り向くと、園長が立っていた。いつもの穏やかな表情ではなく、どこか硬い。

「少しよろしいですか」
「あ、はい」

子どもたちに「ちょっと待っててね」と声をかけて立ち上がる。怜央が僕の手を握って離さない。

「……すぐ戻るから」

そう言うと、ようやく手を離してくれた。でも、その目は不安そうで、胸が痛んだ。

園長室へ向かう廊下で、胸に妙な予感が走った。何か、よくないことが起きる気がする。

「実は、佐伯先生のお身内の方から連絡がありまして」

園長の言葉に、僕は首を傾げた。

「叔父さんですか?」
「ええ。少し……急なお話なのですが」

その日の夕方。叔父の運転手が迎えに来て、僕は叔父の会社へ向かった。

「はる、悪いな。急に呼び出して」

応接室で待っていた叔父は、いつもより少し疲れた顔をしていた。高級そうな革張りのソファに深く腰を下ろし、僕を見る。

「どうしたんですか? 何かあったんですか」
「いや、な。ちょっとした……頼みがあってな」

叔父は煙草に火をつけようとして、やめた。

「お前、明日から少し休んでくれないか」
「え?」
「数日でいい。ちょっと海外に行ってほしいんだ。俺の代わりに、な」

海外? 僕が?

「でも、僕、保育園……」
「大丈夫だ。園長には話を通してある。お前の代わりは手配する」

叔父の口調は、いつになく強かった。有無を言わせない雰囲気がある。

「あの、子どもたちが……」
「すぐ戻れる。一週間もかからん」

叔父は僕の肩に手を置いた。

「頼む。お前にしか頼めないんだ」

その言葉に、僕は頷くしかなかった。

翌日の朝。僕は六人を呼んで、教室の隅に集まってもらった。

「あのね、みんな。先生、少しだけお休みするね」

その言葉を聞いた瞬間、六人の顔が一斉に強張った。

「えー! やだ!」

陽太が真っ先に叫んだ。

「せんせ、いかないで!」
「……いつ、かえってくるの」

奏が無表情のまま、でも目を潤ませて聞いてくる。

「すぐだよ。一週間くらい」
「いっしゅうかんって、ながいよ!」

陽太が今にも泣き出しそうな顔で僕の服を掴む。

「僕たちを置いていくんですか」

怜央が、いつもの余裕を失って、僕の服をぎゅっと握りしめた。その手が震えている。

「置いていくんじゃないよ。ちょっと用事があるだけで、絶対に帰ってくるから」

僕は一人ひとりの頭を撫でた。

「約束する。絶対、すぐ帰ってくるから」

颯真と湊も、珍しく不安そうに僕を見ている。いつもは冷静な二人なのに。

「せんせ……本当に、かえってくる?」

湊が、計算高い瞳を揺らしながら聞いてくる。

「うん。約束」

蒼は何も言わずに、ただ僕の手を強く握りしめた。

「せんせい、うそつかない?」

陽太が涙目で見上げてくる。

「嘘つかないよ。先生、みんなのこと大好きだもん。絶対帰ってくる」

その言葉に、ようやく六人は少しだけ表情を緩めた。

「ぜったい?」
「絶対」

でも、その「絶対」が守れなくなるなんて。このときの僕は、まだ知らなかった。

帰り際、怜央が僕の袖を掴んで離さなかった。

「……行かないで」

小さく、本当に小さく呟いた声。いつもの威厳はどこにもなく、ただの五歳の男の子の声だった。

「すぐ帰るから」

僕はもう一度、怜央の頭を撫でた。そして、六人全員をぎゅっと抱きしめた。

「待っててね」

その夜、僕は荷物をまとめながら、なぜか胸騒ぎが止まなかった。


あなたにおすすめの小説

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした

うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。 獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。 怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。 「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」 戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。 獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。 第一章 完結 第二章 完結 第三章 完結

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

私の庇護欲を掻き立てるのです

まめ
BL
ぼんやりとした受けが、よく分からないうちに攻めに囲われていく話。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)