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5.やっとの再会
Side:佐伯陽
「れ、お……?」
声を出すのが精一杯だった。目の前にいるのは、本当に怜央なんだろうか。
背が高い。ずっと高い。あの頃は僕の腰くらいだったのに、今は完全に見下ろされている。鋭い目つき、整った顔立ち。でも、その瞳の色は――。
「ずっと、待っていました」
怜央は、ベッドの脇にひざまずいた。低く落ち着いた声。あの頃の可愛らしい声はどこにもない。
「おかえりなさい、はる先生」
「怜央……本当に、怜央なの……?」
信じられなくて、震える手を伸ばす。怜央は優しく、その手を取った。大きくて、温かい手。
「はる先生!」
背後から声がして、振り向くと――陽太が飛び込んできた。いや、飛び込もうとして、颯真に止められている。
「陽太、先生はまだ体が弱ってる」
「で、でも! はる先生だよ! やっと会えたんだよ!」
陽太の声は、あの頃のまま元気いっぱいだった。でも、その姿は。背が高くて、がっしりした体つきで。
「陽太……?」
「はる先生! 俺だよ、俺! 覚えてる? 桜庭陽太!」
「え、ええ……」
声は同じなのに、見た目が全然違う。混乱する。
「……せんせい」
小さな声が聞こえて、怜央の隣を見ると――奏がいた。相変わらず小さな声。でも、その姿は。すらりと背が高くて、人形みたいに整った顔立ち。金髪が光に透けて、美しい。
「奏……?」
「……うん」
奏は静かにうなずいて、僕の手をそっと握った。冷たい手。震えている。
「先生、お久しぶりです」
穏やかな声で話しかけてきたのは、颯真と湊。二人は相変わらず並んでいるけれど、もう完全に大人の男性だった。長身で、引き締まった体つき。
「颯真、湊……」
「ええ。覚えていてくれて、嬉しいです」
湊が微笑む。その笑顔は、どこか計算されているような、でも温かい。
「先生」
最後に、静かな声で呼んだのは蒼だった。物静かな雰囲気は変わらないけれど、知的な眼鏡の奥の瞳は、鋭く僕を見つめている。
「蒼……」
「お帰りなさい」
蒼が小さく微笑んだ。
六人。六人とも、ここにいる。あの頃の子どもたちが、こんなにも大きくなって。
「み、みんな……どうして……」
言葉がうまく出てこない。医師が優しく説明してくれた。
「皆さん、ずっと佐伯さんの回復を待っていたんですよ。叔父様から連絡があって、今日目覚めると聞いて、朝からずっと待機されていました」
「ずっと……?」
「ええ。十三年間、ずっと」
十三年。その言葉が、ようやく実感として胸に落ちてきた。
「十三年……そんなに……」
「先生は、俺たちのことを忘れていませんでしたか?」
怜央が真剣な目で聞いてくる。
「忘れるわけない……ずっと、みんなのこと……」
思い出す。暗闇の中で、何度も六人の顔を思い浮かべた。約束を破ってしまったことを、何度も謝った。
「ごめんね……約束、守れなくて……すぐ帰るって、言ったのに……」
涙があふれてきた。止まらない。
「俺たち、待ってました」
陽太が僕の手を握った。
「ずっと、ずっと待ってた」
「……先生、帰ってきてくれた」
奏が、僕の手に顔を寄せる。
「先生が悪いんじゃありません」
颯真が優しく言った。
「事故だったんですから」
「そうです。先生を責める人なんて、誰もいません」
湊が続ける。
「先生が無事でよかった。それだけです」
蒼が静かに言った。
優しい。みんな、優しい。あの頃と変わらない。見た目は全然違うのに、優しさは変わっていない。
「ありがとう……ありがとう……」
涙が止まらなくて、嗚咽が漏れた。怜央が、僕の頭をそっと撫でた。大きな手。温かい手。
「もう大丈夫です」
「俺たち、ここにいますから」
陽太が笑う。
「……ずっと、いっしょ」
奏が囁く。
「これから、ゆっくり慣れていけばいいんです」
颯真が微笑む。
「焦らなくていい」
湊がうなずく。
「先生のペースで」
蒼が本を閉じるように、静かに言った。
六人に囲まれて、僕は泣いた。十三年分の涙が、溢れて止まらなかった。
「先生」
怜央が、僕の涙を拭ってくれた。
「これから、よろしくお願いします」
「これから……?」
「ええ。俺たち、もう子どもじゃありませんから」
怜央が微笑んだ。その笑顔は、大人の男性の笑顔だった。
どこか、意味深で。どこか、熱を帯びていて。
「ゆっくり、話しましょう。先生と、俺たちの、これからのこと」
その言葉の意味が、この時の僕にはまだわからなかった。
でも、胸の奥が、不思議にざわついた。
「れ、お……?」
声を出すのが精一杯だった。目の前にいるのは、本当に怜央なんだろうか。
背が高い。ずっと高い。あの頃は僕の腰くらいだったのに、今は完全に見下ろされている。鋭い目つき、整った顔立ち。でも、その瞳の色は――。
「ずっと、待っていました」
怜央は、ベッドの脇にひざまずいた。低く落ち着いた声。あの頃の可愛らしい声はどこにもない。
「おかえりなさい、はる先生」
「怜央……本当に、怜央なの……?」
信じられなくて、震える手を伸ばす。怜央は優しく、その手を取った。大きくて、温かい手。
「はる先生!」
背後から声がして、振り向くと――陽太が飛び込んできた。いや、飛び込もうとして、颯真に止められている。
「陽太、先生はまだ体が弱ってる」
「で、でも! はる先生だよ! やっと会えたんだよ!」
陽太の声は、あの頃のまま元気いっぱいだった。でも、その姿は。背が高くて、がっしりした体つきで。
「陽太……?」
「はる先生! 俺だよ、俺! 覚えてる? 桜庭陽太!」
「え、ええ……」
声は同じなのに、見た目が全然違う。混乱する。
「……せんせい」
小さな声が聞こえて、怜央の隣を見ると――奏がいた。相変わらず小さな声。でも、その姿は。すらりと背が高くて、人形みたいに整った顔立ち。金髪が光に透けて、美しい。
「奏……?」
「……うん」
奏は静かにうなずいて、僕の手をそっと握った。冷たい手。震えている。
「先生、お久しぶりです」
穏やかな声で話しかけてきたのは、颯真と湊。二人は相変わらず並んでいるけれど、もう完全に大人の男性だった。長身で、引き締まった体つき。
「颯真、湊……」
「ええ。覚えていてくれて、嬉しいです」
湊が微笑む。その笑顔は、どこか計算されているような、でも温かい。
「先生」
最後に、静かな声で呼んだのは蒼だった。物静かな雰囲気は変わらないけれど、知的な眼鏡の奥の瞳は、鋭く僕を見つめている。
「蒼……」
「お帰りなさい」
蒼が小さく微笑んだ。
六人。六人とも、ここにいる。あの頃の子どもたちが、こんなにも大きくなって。
「み、みんな……どうして……」
言葉がうまく出てこない。医師が優しく説明してくれた。
「皆さん、ずっと佐伯さんの回復を待っていたんですよ。叔父様から連絡があって、今日目覚めると聞いて、朝からずっと待機されていました」
「ずっと……?」
「ええ。十三年間、ずっと」
十三年。その言葉が、ようやく実感として胸に落ちてきた。
「十三年……そんなに……」
「先生は、俺たちのことを忘れていませんでしたか?」
怜央が真剣な目で聞いてくる。
「忘れるわけない……ずっと、みんなのこと……」
思い出す。暗闇の中で、何度も六人の顔を思い浮かべた。約束を破ってしまったことを、何度も謝った。
「ごめんね……約束、守れなくて……すぐ帰るって、言ったのに……」
涙があふれてきた。止まらない。
「俺たち、待ってました」
陽太が僕の手を握った。
「ずっと、ずっと待ってた」
「……先生、帰ってきてくれた」
奏が、僕の手に顔を寄せる。
「先生が悪いんじゃありません」
颯真が優しく言った。
「事故だったんですから」
「そうです。先生を責める人なんて、誰もいません」
湊が続ける。
「先生が無事でよかった。それだけです」
蒼が静かに言った。
優しい。みんな、優しい。あの頃と変わらない。見た目は全然違うのに、優しさは変わっていない。
「ありがとう……ありがとう……」
涙が止まらなくて、嗚咽が漏れた。怜央が、僕の頭をそっと撫でた。大きな手。温かい手。
「もう大丈夫です」
「俺たち、ここにいますから」
陽太が笑う。
「……ずっと、いっしょ」
奏が囁く。
「これから、ゆっくり慣れていけばいいんです」
颯真が微笑む。
「焦らなくていい」
湊がうなずく。
「先生のペースで」
蒼が本を閉じるように、静かに言った。
六人に囲まれて、僕は泣いた。十三年分の涙が、溢れて止まらなかった。
「先生」
怜央が、僕の涙を拭ってくれた。
「これから、よろしくお願いします」
「これから……?」
「ええ。俺たち、もう子どもじゃありませんから」
怜央が微笑んだ。その笑顔は、大人の男性の笑顔だった。
どこか、意味深で。どこか、熱を帯びていて。
「ゆっくり、話しましょう。先生と、俺たちの、これからのこと」
その言葉の意味が、この時の僕にはまだわからなかった。
でも、胸の奥が、不思議にざわついた。
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