6 / 16
6.リハビリの日々
目覚めてから三日が経った。
医師によると、コールドスリープから目覚めたばかりの体は予想以上に弱っているらしい。立ち上がることすらままならない。筋力が落ちて、少し動くだけで息が切れる。
「焦らず、ゆっくりリハビリをしていきましょう」
担当の理学療法士がそう言ってくれるけれど、情けなくて仕方なかった。
そんな僕のもとに、六人は毎日交代で見舞いに来てくれた。
「はる先生、今日の調子はどうですか」
月曜日、最初に来たのは怜央だった。スーツ姿で、手には書類の入ったバッグ。
「大学は?」
「午前中の講義だけ出てきました。午後はオンラインで受けられますから」
そう言って、椅子に座る。
「無理しないでね」
「無理なんかしてません」
怜央は首を振った。
「先生に会える時間のほうが、ずっと大切ですから」
その言葉に、胸が熱くなる。
「リハビリ、見せてもらってもいいですか」
「え、でも……」
「俺、見たいんです」
真剣な目で見つめられて、断れなかった。
理学療法士の指導のもと、ベッドの上で足を動かす簡単な運動をする。情けないくらい思うように動かない。
「すごい」
怜央が呟いた。
「少しずつ、動くようになってる」
「これが……すごい?」
「ええ。三日前は指一本動かすのも辛そうだったのに」
怜央は僕の手を取った。
「先生は頑張ってる。ちゃんと、前に進んでる」
その言葉が、嬉しかった。
火曜日。陽太が来た。
手には大きな紙袋。中身はお菓子の詰め合わせだった。
「はる先生! これ、俺が選んだんだ!」
「ありがとう。でも、こんなにたくさん……」
「先生、痩せちゃってるから。いっぱい食べて、元気にならなきゃ」
陽太は尻尾が見えそうな勢いで笑う。あの頃と変わらない。
「陽太は、相変わらず元気だね」
「当たり前! 俺、ずっと元気だよ!」
そう言って、陽太は僕の隣に座った。
「なあ、先生。リハビリ、一緒にやろうぜ」
「え?」
「俺も運動するから。先生も頑張れるでしょ」
そう言って、陽太はベッドの横で腕立て伏せを始めた。
「ほら、先生も! 足、動かして!」
「ちょ、ちょっと……」
笑いながら、僕も足を動かす運動を始めた。陽太のペースに巻き込まれて、気づけばいつもより多く動かしていた。
「すごい! さっきより動いてる!」
「ほ、ほんと?」
「うん! やっぱ俺といると、先生も元気になるよな!」
陽太が嬉しそうに笑う。その笑顔が、まぶしかった。
水曜日。奏が来た。
相変わらず無口で、静かに椅子に座る。手には小さな箱。
「……先生、これ」
「なあに?」
開けてみると、中には小さなオルゴールが入っていた。ゼンマイを回すと、優しい音色が流れる。
「……先生が、寝られるように」
「ありがとう、奏」
頭を撫でようとして、手を伸ばす。でも、奏の頭は高くて届かない。代わりに、奏が僕の手を取って、自分の頬に当てた。
「……先生の手、あったかい」
「奏……」
「……ずっと、さわりたかった」
奏は目を閉じて、僕の手に顔を寄せる。その仕草が、あの頃とそっくりで、でもどこか色っぽくて、胸がざわめいた。
木曜日。颯真と湊が一緒に来た。
双子は相変わらず息がぴったりで、交互に話しかけてくる。
「先生、今日の体調はいかがですか」
「うん、少しずつ良くなってるみたい」
「それは良かった」
颯真が微笑む。
「無理はしないでくださいね」
「でも、適度な運動は必要です」
湊が続ける。
「俺たちも手伝いますから」
二人は僕の体を支えて、ベッドから立ち上がる練習を手伝ってくれた。大きな手で、しっかりと支えてくれる。
「少しずつ、歩けるようになりましょう」
「焦らず、一歩ずつ」
二人の声が重なる。その声に励まされて、僕は一歩、足を前に出した。
金曜日。蒼が来た。
手には何冊かの本。
「先生、退屈かと思って」
「ありがとう」
蒼は椅子に座って、本を読み始めた。静かな時間が流れる。
「蒼」
「はい」
「ずっと、本が好きなんだね」
「ええ」
蒼は本から目を離さずに答えた。
「先生がいない間、本を読んで過ごしました」
「そうなんだ」
「先生のことを忘れないように」
蒼がページをめくる。
「本を読むたび、先生に読み聞かせてもらったことを思い出しました」
「覚えてるの?」
「全部、覚えてます」
蒼が本を閉じて、僕を見た。
「先生との思い出は、一つも忘れていません」
その言葉が、胸に沁みた。
土曜日、日曜日。六人全員が来た。
病室は賑やかで、あの頃の保育園みたいだった。陽太が騒いで、怜央がたしなめて、奏が静かに笑って、颯真と湊が仲裁して、蒼が冷静にツッコミを入れる。
「みんな、変わらないね」
僕がそう言うと、六人は顔を見合わせた。
「変わりましたよ」
怜央が言った。
「俺たち、もう子どもじゃありませんから」
「先生のこと、守れるくらいには大きくなりました」
颯真が続ける。
「これからは、俺たちが先生を支えます」
湊が微笑む。
「ずっと、そばにいます」
蒼が静かに言った。
「……先生の、隣」
奏が囁く。
「だから、安心して!」
陽太が元気よく笑った。
六人に囲まれて、僕は幸せだった。でも、どこか胸がざわついた。
「守る」「支える」「側にいる」――その言葉が、あの頃とは違う響きを持っていた。
あなたにおすすめの小説
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~
マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。
王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。
というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。
この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。
異世界オークションで売られた俺、落札したのは昔助けた狼でした
うんとこどっこいしょ
BL
異世界の闇オークションで商品として目覚めた青年・アキラ。
獣人族たちに値踏みされ、競りにかけられる恐怖の中、彼を千枚の金貨で落札したのは、銀灰色の髪を持つ狼の獣人・ロウだった。
怯えるアキラに、ロウは思いがけない言葉を告げる。
「やっと会えた。お前は俺の命の恩人だ」
戸惑うアキラの脳裏に蘇るのは、かつて雨の日に助けた一匹の子狼との記憶。
獣人世界を舞台に、命の恩人であるアキラと、一途に想い続けた狼獣人が紡ぐ、執着と溺愛の異世界BLロマンス。
第一章 完結
第二章 完結
第三章 完結
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
引きこもり魔法使いが魔法に失敗したら、ヤンデレ補佐官が釣れた。
零壱
BL
──魔法に失敗したら、脳内お花畑になりました。
問題や事件は何も起こらない。
だが、それがいい。
可愛いは正義、可愛いは癒し。
幼児化する主人公、振り回されるヤンデレ。
お師匠やお師匠の補佐官も巻き込み、時には罪のない?第三者も巻き込み、主人公の世界だけ薔薇色・平和が保たれる。
ラブコメです。
なんも考えず勢いで読んでください。
表題作、2話、3話、5話、6話再掲です。
(同人誌紙版需要アンケート実施中)
アルファ表紙絵は自力©️零壱