目覚めたら成長した園児たちに囲まれる話

七瀬

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6.リハビリの日々


目覚めてから三日が経った。
医師によると、コールドスリープから目覚めたばかりの体は予想以上に弱っているらしい。立ち上がることすらままならない。筋力が落ちて、少し動くだけで息が切れる。

「焦らず、ゆっくりリハビリをしていきましょう」

担当の理学療法士がそう言ってくれるけれど、情けなくて仕方なかった。
そんな僕のもとに、六人は毎日交代で見舞いに来てくれた。

「はる先生、今日の調子はどうですか」

月曜日、最初に来たのは怜央だった。スーツ姿で、手には書類の入ったバッグ。

「大学は?」
「午前中の講義だけ出てきました。午後はオンラインで受けられますから」

そう言って、椅子に座る。

「無理しないでね」
「無理なんかしてません」

怜央は首を振った。

「先生に会える時間のほうが、ずっと大切ですから」

その言葉に、胸が熱くなる。

「リハビリ、見せてもらってもいいですか」
「え、でも……」
「俺、見たいんです」

真剣な目で見つめられて、断れなかった。
理学療法士の指導のもと、ベッドの上で足を動かす簡単な運動をする。情けないくらい思うように動かない。

「すごい」

怜央が呟いた。

「少しずつ、動くようになってる」
「これが……すごい?」
「ええ。三日前は指一本動かすのも辛そうだったのに」

怜央は僕の手を取った。

「先生は頑張ってる。ちゃんと、前に進んでる」

その言葉が、嬉しかった。

火曜日。陽太が来た。
手には大きな紙袋。中身はお菓子の詰め合わせだった。

「はる先生! これ、俺が選んだんだ!」
「ありがとう。でも、こんなにたくさん……」
「先生、痩せちゃってるから。いっぱい食べて、元気にならなきゃ」

陽太は尻尾が見えそうな勢いで笑う。あの頃と変わらない。

「陽太は、相変わらず元気だね」
「当たり前! 俺、ずっと元気だよ!」

そう言って、陽太は僕の隣に座った。

「なあ、先生。リハビリ、一緒にやろうぜ」
「え?」
「俺も運動するから。先生も頑張れるでしょ」

そう言って、陽太はベッドの横で腕立て伏せを始めた。

「ほら、先生も! 足、動かして!」
「ちょ、ちょっと……」

笑いながら、僕も足を動かす運動を始めた。陽太のペースに巻き込まれて、気づけばいつもより多く動かしていた。

「すごい! さっきより動いてる!」
「ほ、ほんと?」
「うん! やっぱ俺といると、先生も元気になるよな!」

陽太が嬉しそうに笑う。その笑顔が、まぶしかった。

水曜日。奏が来た。
相変わらず無口で、静かに椅子に座る。手には小さな箱。

「……先生、これ」
「なあに?」

開けてみると、中には小さなオルゴールが入っていた。ゼンマイを回すと、優しい音色が流れる。

「……先生が、寝られるように」
「ありがとう、奏」

頭を撫でようとして、手を伸ばす。でも、奏の頭は高くて届かない。代わりに、奏が僕の手を取って、自分の頬に当てた。

「……先生の手、あったかい」
「奏……」
「……ずっと、さわりたかった」

奏は目を閉じて、僕の手に顔を寄せる。その仕草が、あの頃とそっくりで、でもどこか色っぽくて、胸がざわめいた。

木曜日。颯真と湊が一緒に来た。
双子は相変わらず息がぴったりで、交互に話しかけてくる。

「先生、今日の体調はいかがですか」
「うん、少しずつ良くなってるみたい」
「それは良かった」

颯真が微笑む。

「無理はしないでくださいね」
「でも、適度な運動は必要です」

湊が続ける。

「俺たちも手伝いますから」

二人は僕の体を支えて、ベッドから立ち上がる練習を手伝ってくれた。大きな手で、しっかりと支えてくれる。

「少しずつ、歩けるようになりましょう」
「焦らず、一歩ずつ」

二人の声が重なる。その声に励まされて、僕は一歩、足を前に出した。

金曜日。蒼が来た。
手には何冊かの本。

「先生、退屈かと思って」
「ありがとう」

蒼は椅子に座って、本を読み始めた。静かな時間が流れる。

「蒼」
「はい」
「ずっと、本が好きなんだね」
「ええ」

蒼は本から目を離さずに答えた。

「先生がいない間、本を読んで過ごしました」
「そうなんだ」
「先生のことを忘れないように」

蒼がページをめくる。

「本を読むたび、先生に読み聞かせてもらったことを思い出しました」
「覚えてるの?」
「全部、覚えてます」

蒼が本を閉じて、僕を見た。

「先生との思い出は、一つも忘れていません」

その言葉が、胸に沁みた。

土曜日、日曜日。六人全員が来た。
病室は賑やかで、あの頃の保育園みたいだった。陽太が騒いで、怜央がたしなめて、奏が静かに笑って、颯真と湊が仲裁して、蒼が冷静にツッコミを入れる。

「みんな、変わらないね」

僕がそう言うと、六人は顔を見合わせた。

「変わりましたよ」

怜央が言った。

「俺たち、もう子どもじゃありませんから」
「先生のこと、守れるくらいには大きくなりました」

颯真が続ける。

「これからは、俺たちが先生を支えます」

湊が微笑む。

「ずっと、そばにいます」

蒼が静かに言った。

「……先生の、隣」

奏が囁く。

「だから、安心して!」

陽太が元気よく笑った。
六人に囲まれて、僕は幸せだった。でも、どこか胸がざわついた。

「守る」「支える」「側にいる」――その言葉が、あの頃とは違う響きを持っていた。


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