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7.新しい生活
「退院、おめでとうございます」
医師がそう言って、僕に退院許可証を渡してくれた。目覚めてから一ヶ月。ようやく一人で歩けるようになり、日常生活に支障がないレベルまで回復した。
「叔父さんが、マンションを用意してくれたって」
「ええ。すべて生活用品も揃っています。安心してください」
病室を出ると、六人が待っていた。
「先生!」
陽太が駆け寄ってくる。
「退院、おめでとうございます」
怜央が微笑む。他の四人も、それぞれ笑みを向けてくれた。
「ありがとう。みんなのおかげだよ」
「俺たち、荷物運びますから」
颯真が僕のバッグを持ってくれた。
「車、用意してあります」
湊が外を指差す。
病院の外には、大きな黒塗りの車が停まっていた。運転手付きの高級車。
「叔父さん、相変わらずだね……」
苦笑しながら車に乗り込むと、六人も一緒に乗ってきた。
「みんなも一緒に来てくれるの?」
「当たり前です」
怜央が即答した。
「先生の新居、確認しないと」
「……あんぜん、かくにん」
奏が小さくうなずく。
マンションに着くと、僕は言葉を失った。高層マンションの最上階。広いリビング、最新の家電、大きな窓から見える景色。
「す、すごい……」
「叔父様、張り切りすぎですね」
蒼が冷静にツッコミを入れた。
「でも、いい部屋だ」
怜央が部屋を見回す。
「セキュリティもしっかりしてる」
湊が玄関の鍵を確認している。
「キッチンも広いな! 先生、料理とか作れる?」
陽太が冷蔵庫を開けていた。
「う、うん。一応……」
「じゃあ、俺たちも手伝う!」
「え?」
「一人暮らしは大変でしょう」
颯真が優しく言った。
「俺たち、交代で来ますから」
「食事とか、掃除とか」
湊が続ける。
「……せんせいの、おせわ」
奏が僕の袖を掴んだ。
「でも、みんな大学があるし……」
「大丈夫です」
蒼が手帳を開く。
「シフトを組みました。月曜日は怜央、火曜日は陽太、水曜日は奏、木曜日は颯真と湊、金曜日は僕。土日は全員で来ます」
「え、ええ!?」
「問題ありません」
怜央が断言した。
「俺たち、先生のために時間を作ります」
「そんな、悪いよ……」
「悪くないです」
六人が口を揃えて言った。
その日の夕方。怜央が夕食を作ってくれた。
キッチンに立つ怜央の姿は、完全に大人の男性のそれで、手慣れた様子で料理をしていく。
「怜央、料理できるんだ」
「ええ。一人暮らしを始めてから覚えました」
「一人暮らし?」
「大学進学と同時に。実家を出ました」
怜央が皿に料理を盛り付ける。
「他のみんなも、それぞれ一人暮らしです」
「そうなんだ……」
「だから、家事には慣れてます。先生のこと、ちゃんとサポートできますよ」
怜央が微笑んで、僕の前に皿を置いた。
食べてみると、驚くほど美味しい。
「おいしい!」
「よかった」
怜央が嬉しそうに笑う。食事をしながら、怜央は色々なことを話してくれた。大学のこと、専攻のこと、将来のこと。
「先生は、これから何をしますか」
「え?」
「仕事、とか」
その質問に、僕は箸を止めた。
「わからない……保育士の資格は持ってるけど、十三年のブランクがあるし……」
「焦らなくていいです」
怜央が僕の手に手を重ねた。
「先生のペースで。叔父様が生活費は全部面倒見るって言ってましたから」
「でも……」
「まずは、体力を戻すことが先です」
怜央の手が、僕の手を優しく握った。大きくて、温かい。
「俺たちも、傍にいますから」
その言葉と、手の温もりに、胸がざわついた。
怜央が帰った後、一人になった部屋は静かだった。ベッドに横になって、天井を見上げる。
十三年。あの子たちは、こんなにも大きくなった。
「俺たち、もう子どもじゃない」
怜央の言葉を思い出す。
そうだ。もう、子どもじゃない。あの頃の、小さくて可愛い子どもたちじゃない。
でも、僕は――。
僕は、まだあの頃のままの気持ちでいる。保育士として、あの子たちを見ていた頃の。
「これから、どうなるんだろう」
そう呟いて、目を閉じた。
翌日、火曜日。約束通り、陽太が来た。
「はる先生! おはよう!」
玄関を開けると、満面の笑みの陽太が立っていた。手には買い物袋。
「朝ごはん、作りに来た!」
「ありがとう」
「先生、昨日ちゃんと寝た?」
「うん」
「よかった! じゃあ、いっぱい食べて元気出そうぜ!」
陽太は料理は得意じゃないらしく、簡単なトーストと卵焼きを作ってくれた。でも、それが妙に嬉しかった。
「陽太は、大学で何を勉強してるの?」
「スポーツ科学! 体育の先生になりたいんだ」
「先生!」
「うん。先生が保育士だったから、俺も教える仕事がいいなって」
陽太が照れくさそうに笑った。
「先生に憧れて」
その言葉が、胸に響いた。
水曜日、奏が来た。
相変わらず無口で、静かに家事をこなす。掃除、洗濯。丁寧な手つきで、一つ一つ片付けていく。
「奏、ありがとう」
「……先生のため」
奏が小さく微笑む。
「昔、先生がずっと僕たちの世話をしてくれたから」
奏が僕の隣に座った。その距離が、妙に近い。
「今度は、僕が」
そう言って、奏は僕の頭に手を置いた。優しく撫でられて、胸が締め付けられる。
「……先生、もう子ども扱いしないでほしい」
ふいに、奏が呟いた。
「え?」
「僕たち、もう大人です」
奏の瞳が、じっと僕を見つめる。その視線には、あの頃にはなかった何かがあった。
こうして、僕の新しい生活が始まった。六人に囲まれた、幸せで、でもどこかざわつく日々。
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