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8.それぞれの想い
退院してから二週間が経った。
六人は約束通り、交代で僕のマンションに来てくれる。料理を作ってくれたり、掃除を手伝ってくれたり。本当に助かっている。
でも、最近気づいたことがある。
六人の視線が、あの頃と違う。
怜央が僕を見つめる時の目。陽太が僕に触れる時の手。奏が僕に囁く時の声。颯真と湊が僕を気遣う時の距離感。蒼が僕と話す時の間。
全部、どこか――熱を帯びている気がする。
「考えすぎかな」
そう思いながら、リビングでコーヒーを飲んでいると、チャイムが鳴った。
「先生、怜央です」
今日は月曜日。怜央の日だ。
ドアを開けると、スーツ姿の怜央が立っていた。
「お疲れ様」
「ええ。今日は講義が長引きました」
怜央が靴を脱いで上がってくる。いつもの手慣れた様子で、キッチンに向かう。
「今日は何が食べたいですか」
「えっと、何でもいいよ」
「それは困ります」
怜央が振り返って微笑む。
「先生の好きなものが作りたいんです」
その言葉に、胸がざわついた。
「じゃあ、パスタとか……」
「わかりました」
怜央が料理を始める。その背中を見ながら、僕はソファに座った。
「なあ、怜央」
「はい?」
「怜央は、将来何になりたいの?」
怜央は手を止めずに答えた。
「父の会社を継ぐ予定です」
「そうなんだ」
「ええ。そのために、経営学を学んでいます」
怜央がパスタを茹でながら続ける。
「俺は長男ですから。小さい頃から、そう決まっていました」
「大変だね」
「いえ」
怜央が首を振った。
「俺は、それでいいと思っています。力をつけて、守りたいものを守れるようになりたいから」
「守りたいもの?」
「ええ」
怜央が振り返った。その目が、まっすぐに僕を見つめる。
「大切な人を、守れるだけの力が欲しいんです」
その視線から、目が逸らせなかった。
料理ができて、二人で食卓に向かい合う。怜央の作るパスタは相変わらず美味しくて、つい笑顔になる。
「美味しい」
「よかった」
怜央が嬉しそうに微笑む。食事をしながら、他愛もない話をする。大学のこと、友達のこと。でも、ふと怜央が箸を置いた。
「先生」
「うん?」
「一つ、聞いてもいいですか」
怜央の声が、いつもより低い。
「先生は、俺たちのことをどう思っていますか」
「え?」
「俺たち六人のこと」
怜央が僕を見つめる。
「先生にとって、俺たちは何ですか」
その質問に、僕は戸惑った。
「それは……大切な子たちだよ。昔、担当していた子どもたちで……」
「子ども」
怜央が僕の言葉を遮った。
「やはり、そうですか」
「怜央?」
「先生は、俺たちをまだ子どもだと思っている」
怜央が立ち上がって、僕の隣に座った。距離が近い。
「でも、俺たちはもう子どもじゃない」
怜央の手が、僕の頬に触れた。
「俺は十八歳です。大学生で、成人まであと二年。もう、先生と生徒の関係じゃない」
「で、でも……」
「先生」
怜央の顔が近づく。
「俺は、先生が好きです」
心臓が跳ねた。
「昔から、ずっと。保育園の時から、先生のことが好きでした」
「怜央……」
「それは、子どもの憧れじゃない」
怜央の目が、真剣だった。
「恋です。ずっと、先生に恋していた」
息ができなくなる。
「十三年間、待ちました。先生が目覚めるのを。そして、先生にこの想いを伝える日を」
怜央の手が、僕の手を握った。
「俺は、先生を愛しています」
その言葉が、胸に突き刺さった。
「待って、怜央。俺は……俺はあの頃、怜央たちの先生で……」
「今は違います」
怜央が首を振る。
「今は、対等な大人同士です」
「でも……」
「先生が戸惑うのは、わかっています」
怜央が優しく微笑んだ。
「だから、今すぐ答えをくださいとは言いません」
怜央が僕の手を離して、立ち上がった。
「でも、覚えていてください。俺は、ずっと先生を待っていた。そして、これからも待ち続ける」
怜央が玄関に向かう。
「おやすみなさい、はる先生。また明日」
ドアが閉まる音がした。
一人残された部屋で、僕は呆然としていた。
怜央の告白。あれは、本気だった。
「どうしよう……」
混乱する頭を抱えた。
****
翌日、火曜日。陽太が来た。
「はる先生、おはよう!」
いつもの元気な声。でも、僕は昨日のことが頭から離れなくて、うまく笑えなかった。
「先生、どうしたの? 元気ないよ」
「あ、ううん。大丈夫」
「嘘だ」
陽太が僕の顔を覗き込む。
「先生、顔色悪いよ。何かあったの?」
心配そうな顔で見つめられて、言葉に詰まった。
「怜央から、聞きました?」
陽太が静かに言った。
「え?」
「告白したって」
心臓が跳ねる。
「み、みんな知ってるの?」
「うん。俺たち、話してるから」
陽太が僕の手を取った。
「先生。俺も、言わせてください」
陽太の目が、真剣になった。
「俺も、先生が好きです」
またその言葉。
「ずっと、ずっと好きでした。保育園の時から」
陽太が僕の手を握りしめる。
「先生がいなくなった時、俺、毎日泣いた。先生に会いたくて、会いたくて。でも会えなくて」
陽太の目が潤む。
「やっと会えた。やっと、この想いを伝えられる」
「陽太……」
「俺、先生のこと守りたい。傍にいたい。ずっと、ずっと一緒にいたい」
陽太が僕を抱きしめた。大きな体。温かい腕。
「好きです、はる先生」
その声が、耳元で震えた。
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