人類が滅亡しそうなのに恋しちゃいそうな俺の話(仮題)

そのだ

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エピソード.1

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エピソード.1   「特異体質」


「ふあ~あ…眠い」
木漏れ日が眩しく昼寝も出来ない昼下がりのベンチで大あくび噛ましながら時間を持て余している。
陽向と医薬品の香りで心が落ち着くほどにはこの場に長くいるから俺は、ぼんやり、それでも毎回ここでこう考えてしまう。
【生まれ変わった世界平和】
昔の書籍にならなんて書かれるだろうか、
安息を求めるが故に己に背を向けた世界
共存共栄を元に死を裏切った者
なんて、病んでるのかって聞かれそうなほどに毎日を退屈している。


「ミドリくん、そろそろ時間だよ」
呼ばれ振り返れば担当医である新島ツトミが立っていた。
「先生、今日はいよいよっすね」
そう言うと先生は影のある笑みを向けてゆっくり俺に手を差し伸べる。そしていつものようにしっかりと笑う。
「大丈夫だよ」を発さないのはこれからの未来が先生でも分からないからだろうな。

「今日で人間も終わりだって思うと…少し…なんか…」
歩き出す足が意外と軽いのも言葉の先が繋がらないのも先生にはバレてるに決まってる。
それでも何も言わずにラボに向かう俺に着いてくる。


[新人型更正ウイルス]
死にゆく人間を生かし、新しいモノへ作り替え人類の滅亡を救ったワクチン。
バイオテロで世界が困惑している最中、気づいたら人外の生命体に地球が侵略されていて、気づいたら数年の間に共存同盟が組まれ、そしてまた気づいたらこんなワクチンが開発されていた。

体内にウイルスが入ると数日の間に体が作り替えられる。
もはや性別の組み分けなんて関係ないこの世界では種別に振り分けされ、α、β、Ωの[階級]に属する。


「腕の力抜いて落ち着いて呼吸してね、すぐ終わるから」
いつもの診断室で人工の光のに照らされた俺の左腕に細長い針が打ち込まれていく。
痛くはない。

「2、3日は自室から出れないからね。体に大きな変化がある場合は痛みを伴うけど、モニター管理してるから何かあったら駆けつけるね」
「はい、ありがとうございます」

すっと針が抜かれ注射器は脇の机に置かれる。
刺した箇所に小さなガーゼを当てながら先生は辛辣そうに瞼に影を落としていた。

「ミドリくんがΩ型になる確率が90を越えてるのは聞いたよね」
「はい」
「Ω型は万に一の確率でしか誕生しない」
「それも聞きました、何度も」

今更驚きもしない。
このラボに連れてこられ受けた検査の数だけ、向けられる好奇心の目が特異体質になりうる可能性を持つ俺を見ていた。

「君の未来がどうなるか…俺には分からない…ごめんね、ミドリくん…」
先生はラボの中で唯一俺を検体ではなく人間として見てくれた。同じ人間として。
ガーゼが医療用テープで固定され、先生の手が離れていくのをそっと掴んだ。
貴重な黒の瞳同士が向き合うと、俺は薄く微笑んで、その表情が驚き変わるのを見た。

「俺は自分でこの道を選んだんです。安心してください先生、母さんが創立したこのラボを守るのが俺の役目ですから」

目が見開くと口も開くんだと片隅に思考が入り、それでもちゃんと改めて、お世話になった先生には自己紹介を告げなければならないと思った。

「先生、今までありがとうございます。ちゃんと言ってなかったから…今更だけど、俺は、元日本国が天皇家、鷺ノ宮翠。新類統率のために持力を尽くします」

ニカッと笑いを足せばシリアスにはならなかったなと後々後悔するだろう。それでも眼光で信念が伝わればそれでよかった。後ろ手に倒れる俺は仰ぎみる人工の光の下でも、眩い木漏れ日の下でも昼寝はできなかったのに今では落ちる瞼に抗いはしなかった。
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