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到着
しおりを挟む「あ~,ほんっと気持ちいいところ。まずは,チェックインしてご飯だね」
車の中から大自然にはしゃぎっぱなしで,初めて海を見る子どものように壮大な山々に感動していた。不慣れな運転で一時も気を緩めることも出来なかったのだが,花音はそんなおれの運転すらも楽しそうに同乗してくれた。
「長い運転お疲れ様! 客室露天風呂も付いているんだって」
嬉しそうにおれの手を引く花音に引きずられるようにして,旅館のフロントへと向かった。
一か月分ぐらいのアルバイト代をつぎ込んだだけあって,暖簾をくぐるまでの間に旅行者の気分を大いに盛り上げた。
「いらっしゃいませ。白峯花音様ですね? 遠方からお疲れさまでした」
「ネットで調べて,ここの温泉と食事は間違いないって評判でした。とても楽しみにしています」
受付カウンターで手続きを済ませたわけでもないのに,手際のいい女将さんと感じのいい対応をする花音に関心をしていると,いつの間にか手続きは済んでいた。金を使うと自分の空間の質が上がるのだと感じ,社会人になったらしっかい稼いでやろうと意気込む。モチベーションが高まると体の筋肉量にも影響を与えるらしい。持っていた旅行カバンが,まるで宇宙に放り出されたように重みを感じなくなった。
「お疲れさまでした。お部屋までご案内致しますね。」
まさか隣に人立ってるとは思わずに,ひゃおうっ,と間抜けな声を出してしまった。同い年に見える浴衣を着たスタッフは,美しいたたずまいで顔を傾けて微笑んでいる。手にはおれの荷物を提げているので,荷物が軽くなったのはどうやらおれの筋肉量の問題ではなかったようだ。
浴衣で抑え込んでいるにもかかわらず,体のラインは妖艶さ醸し出している。おまけに,かわいい。
黒目の大きな彼女を見つめていると,わき腹に重たい衝撃が走った。唸りながら横を見ると,花音が一瞬鬼のような形相でおれを睨んだ。かと思うと,何でもなかったかのように華やかな笑顔を振りまいて,スタッフと向かい合う。眉毛の横に,深いしわが寄っているのをおれは見逃さなかった。
「あら,ごめんなさいね,荷物なんて持たせてしまって。部屋までは勝手に行きますから,鍵を渡していただけますか?」
「とんでもございません。お疲れでしょうから,部屋までお持ちします」
「いいのよ。勝手にするから。貸してちょうだい」
「部屋の設備の説明や,施設の案内も兼ねますので。そういう訳にはいきません」
さっきまでの温和な雰囲気はどこに行ったというのだ。ゲリラのように二人の間には激しい火花が散っている。
「まあまあ,じゃあ,せっかくだし案内よろしくお願いします」
「もちろんでございます。わたくし,お二人を案内させていただきます,青山さえかと申します」
そう言うと,さえかさんはおれの手を取って丁寧にお辞儀をした。柔らかい皮膚に触れて,思わず顔が熱くなる。
花音の咳払いで我に返る。そして,「さっさと行きましょう」と鉄の仮面をかぶったように冷ややかな花音と,どこか楽しそうなさやかさんの後ろを小走りで追いかけた。
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