あやかし研究部

しらたき

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ありふれた入学式[3]

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 結局、入学式には間に合わず、途中から入る事になった。おかげで目立ってしまった。それも嫌な方向に。その後校長の死ぬほどありがたい話を聞いて今に至る、という訳である。
「はい、それじゃあ解散。各自、部活動には目を通す様に。」
この学校は色んな部活でそこそこ賞を上げてたりもする、いわば凄めの学校らしい。私は凄めでは無いので、今年も帰宅部か、あるいは文芸部にでも入ろうかと部活一覧をぱらぱらとめくる。
「サッカー部、バト部、バスケ部…。っ⁉︎」
そこの写真の一つに、今朝の人が乗っていた。青髪で、うちの制服を着ている。えぇっと、部活名は…
「…あやかし研究部?」
せめて、命の礼だけでも伝えないと。私はプリントを鞄に入れ、教室を飛び出した。

「なーんで部室が倉庫なの、それも遠めの…。」
5分程歩くと、目的地へ到着する。よく見る程よい大きさのコンテナ倉庫。精々2人でくつろげる程度だろうか。入り口には『あやかし研究部 部室』と堂々と記してあった。
「あの、失礼しまーす。」
こん、こん。
こんこんこん。
…返事がない、ただの倉庫のようだ。
「えと、お邪魔します…。」
扉を潜ると、そこには倉庫とは似つかない、“部室”が広がっていた。まず、広さが違う。教室を一つ分くらいの大きさの部屋で、天井は最も高い。なのにここ以外の扉が他の壁にもある。室内は木造建築で、所々に歴史か家庭科の授業で習うような紋様が刻まれていた。中央には四角いテーブル、そしてその奥にはロッキングチェアが置いてあった。
「おや、やっと来たのか。待ちくたびれておったのじゃ。」
室内には私の他に2人。1人は今朝の人。部屋の横の方、制服姿でただ佇んでいる。もう1人は黒髪の幼い少女。身長からして、中学生程などでは無いのだろうか。先程述べた椅子に座っている。そして―
「…どうした?何か顔にでも付いているか?」
その黒髪の少女の頭には猫の耳が、そして椅子の裏からは尻尾が3本も生えていた。

 …まずはスルーして、目的を果たしてしまおう。あやかし研究部、と銘打つくらいなのだから、あれくらいのコスプレは日常茶飯事なのだろう。
「あ、あの。今朝は助けて頂いて、ありがとうございました!」
ぺこりと頭を下げると、ふふふと笑いながらその人は答える。
「いやいや、別に感謝なんて要らないですよ。それに、あれはただの『前払い』ですし。」
…ん?なんだろう、背筋が少し冷えた気がする。
「いや、『前払い』というより、『前祓い』ですね!あっはっは。」
どうしよう、なんだかまずい人かもしれない。まずは引き換えそう。
「えっと、それじゃあ私はこれで…」
「待つのじゃ。」
帰ろうとドアの方を向くと、後ろから呼び止められる。
「わしらは今朝、お主を助けた。その対価を払わずに逃げるというのかの?」
「その、今は待ち合わせがあまり無いというか…。」
私が親に“何かあったらこれを差し出せ”と言われて渡された小切手に片手を構えると、その少女は笑いながら答える。
「違う違う、わしらの要求は金銭なんかでは無いのじゃ。」
こほん、と咳払いして、少し声を低くして言う。
「その条件とは、お主、つまり真白滝乃が『あやかし研究部に入部する』事じゃ。」
え、嘘。私の華々しい帰宅部ライフは?―じゃなくて、どうして私の名前を?
「…まあ、どうせ帰宅部の予定でしたし。」
そう言って、私は差し出された書類に必要事項を記入し、そして目の前で承認された。
「これで、お主も今日からこの部の仲間入りじゃな。」
あっさりと、でも着実にこれからの生活のレールが勝手に引かれていくような感覚。
「それじゃ、これからよろしく、部長。」
私は微笑み返す。一体ここがどんな所だか、なんならまだ彼女らの名前すら知らないのに。なんだが胸が少し高鳴ってしまったのは気のせいだと願うばかりだ。
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