あやかし研究部

しらたき

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旅路[2]

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「えー、次は…」
ふと瞬くと、車掌の声が上から聞こえる。どうやら着いたようだ。栞を挟み、ぱたりと本を閉じる。と、横の先輩も同様に降りる準備を終えたらしい。鞄を背負い、瞳を開き直す。ここからは私の見知らぬ世界。どんな風景が広がっているのだろうか。期待に胸を膨らませ、開いたドアを潜った。

「到着!」
「お疲れ様です。少し休憩してから行くですか?」
「いや、お水だけ買っとく。」
スマホを取り出して自販機に触れようとするも、その自販機は現金専用だった。仕方がなく財布から硬貨を取り出し、容量の多い水を買う。
「まぁ、そう落ち込まないで下さいです。」
「べ、別に落ち込んでなんか…!」
むっ、と頬を膨らませると、隣から微笑が聞こえてくる。不貞腐れていても仕方がない、私は地図を取り出して改札を出た。

 さんさんと照りつける日差し。雲一つ無い晴天をこんなにも恨めしく思うのは私だけでは無いだろう。頬を汗が伝う。帽子か、或いは日傘でも持ってくれば良かったと今更ながらに後悔する。
「あついぃぃ…」
「ふふっ」
「何か、面白い事でも、あった?うぅ…」
隣を見ると、制服では無い涼しげな服装に身を包んだ響野先輩が、口元を抑えながら笑っていた。
「いや、昔を思い出してですね…。私と部長で旅をしていた時期があったのですよ。」
徒歩というのはこんなにも辛い物なのか。1人の人間としてこの文明のありがたさを実感する。勿論、今更感謝したところで何か良いことがある訳ではないが。
「っ、っ、ぷはーっ!」
鞄から取り出したペットボトルの水を飲む。この補給が出来るのはあと何回ほどであろうか。残りの距離は数えず、また足を踏み出した。
「…空間跳躍、だっけ。なんで移動中もこの札を使わないの?」
今まで思っていた疑問を投げかける。こんなにも暑いのにわざわざ歩くなんて馬鹿らしいとしか思えない。…とまではいかないが、とっても疲れちゃってしまった。足が重い。
「札を作るのも大変ですし、歩く方が楽ですよ。それに…」
先輩はまるで誰かの声を真似るように、普段よりも僅かに高い声色で話す。
「『それに、折角の旅なんじゃから景色も楽しまないと損じゃろ?』…と、部長も言っていたですから。」
…部長命令なら仕方がない。ふぅ、と息を吐いて、また少しずつ、足で歩む。
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