迷い犬、ポチの涙

婆雨まう(バウまう)

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愛か死か!家族の絆、殺処分についてのお話。

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 大崎夫妻はお昼の煮魚定食を食べ終え、デパートのペットショップの前、ショーケース前で佇んでいた。
 透明なガラスケースの中には、生後間もないダックスフントが寝そべっていて、布でできた小さなボールで遊んでいた。
 ほかには鼻のつぶれたフレンチ・ブルドッグ。
 きれいに毛を刈りそろえられたヨークシャー・テリア。
 プードル。
 頭にピンク色したリボンをつけたメスのシーズー。
 ごはんをむしゃむしゃ食べているチワワ。
 白い体で左目の周りだけが黒いブルテリアがそれぞれケースに入れられ、時間をもてあましているかのような目で通り過ぎる買物客を眺めていた。
 白いマルチーズは眠っていて、大崎夫妻の問いかけにも応じないほど、熟睡していた。
 その中に1匹。
 見るからに人なつこそうなダックスフントがいた。 
 「あっ、かわいい。こっち見てる」
 祥子が言い、昇の顔をのぞき込んだ。
 大きな愛らしい瞳で祥子の瞳を見つめるダックスは、元気もりもりで寝転がって腹を上にして遊んでいた。
 「飼いたいな~」
 祥子がもう一度、昇の瞳をのぞき込む。
 「うちにはポチがいるだろ」
 昇がすかさず駄目出しをする。
 祥子は老犬のポチを頭に思い浮かべ、
 「ポチか。私、ポチきらい」
 何やらひとり言を言った。
 隣町の川原で拾ってきたこの老犬、ポチは、うちに来て既に15年経過していた。
 見るからに老いぼれていて、人間でいえば70歳くらいか。
 雑種で、人間の問いかけにも応じないほどもうろくしていた。
 「ねえ、あのダックスフント、飼おうよ。さっきからじっと私の目を見てる。なんか運命を感じるな」
 祥子は言い出したら聞かない性格をしている。
 大崎夫妻は結婚して20年を迎えた。
 子供はいなかった。
 「ポチの弟か。悪くないけど。犬、2匹もいらないんじゃね」
 昇はショーケースに貼られたプレートの情報から、ダックスフントがオスで、産まれて2ヶ月であることを知った。
 「私、ポチきらい。なんかちっともなつかないもの。飼うなら小型犬がいいって前から決めてたんだ」
 「そんなこといってポチどうするんだよ。老犬だぜ」
 祥子の言いたいことが昇には飲み込めなかった。
 「ポチが死ぬまで飼っちゃいけないっていうの? それまで大好きなダックスフントを飼えないなんて生き地獄だわ。こっちが、おばあさんになっちゃう。いい考えを思いついた。どこかにポチを放してあげない? 犬も死ぬ間際くらい自由を味わいたいんじゃないかしら。いつも鎖につながれて自由を奪われる生活なんて、かえって残酷じゃないかしら」
 その日はそれで終わった。
 翌週、昇と祥子は、懲りもせず、またペットショップのショーウインドウを眺めに行った。
 隣にいたコーギーは販売予約の札がついていて、お目当てのダックスフントは相変わらず布製のボールにじゃれて遊んでいた。
 「このままじゃ、マー君、売れちゃう。どうしたらいいの?」
 「マー君って誰?」
 昇が祥子に問いかける。
 祥子は小型犬ダックスフントに既に名前をつけていて、飼う気まんまんだった。
 「ポチはさあ、山に放してあげようよ。それがさあ、一番幸せだと思うよ。鎖につながれて自由を奪われて。こんなの幸せとは言えないんじゃないかしら?」
 昇はそれもそうだな、と半分納得して祥子の顔をのぞき込んだ。
 「で、どうしたいの?」
 うちにはお金もないし、昇は正直な感想を述べた。
 「残念だな。ペットを買うお金がない。こればっかりは」
 わっはっは~。
 昇がわざらとしく声に出して笑い、祥子を見た。祥子には挑発に思えた。
 祥子が表情を緩めた。
 「何を言っているのよ。こういうときのために、私のへそくりがあるんじゃないの。それを使わせてもらうわ。いいでしょ? これならみんなハッピーになれる」
 祥子はぺろっと舌を出し、来週買いに来てもしマー君が売れていなかったら、マー君を飼うつもりでいた。 
 あとは売れないことを願うばかりだ。
 1日過ぎ、3日過ぎ、祥子は毎日のように夕方、買い物のついでにマー君を眺めに行った。
 マー君は終始退屈していて、このところは布製のボールにも飽きたのか、寝てばかりいた。
 4日過ぎ。
 1週間が過ぎ。
 とうとう約束の日が訪れた。
 大崎夫妻はデパートを訪れ、ようやく念願のダックスフントを手に入れた。
 狂犬病の予防接種をしてから犬を昇夫妻に引き渡すため、受取りは3日後となった。
 祥子がレジで8万円をブリーダーに支払い、マー君はこうして大崎家の一員となった。
 物語はここからが始まりだ。
 ポチはとうとう用済みとなってしまい、3日後、丹沢のふもとに捨てられることになった。
 今まで食べたことのないようなステーキが3日3晩ふるまわれ、牛乳が毎日与えられた。
 ポチは異変を感じ取ったのか珍しく祥子になつく仕草を見せ、体にすりより、ふだん舐めたりしないのに祥子の頬を舌でなめようとした。
 「汚いわね。あっち行って」
 だが時既に遅かった。
 祥子の心はすでにマー君に傾いていて、ポチにつけいる隙はなかった。
 「誰か拾ってくれるわよ。心配いらないって。かわいそうだと言って、誰かがポチを拾ってくれるわよ。親切な人がきっと現れるわ」
 祥子はいやがるポチを無理矢理、車に乗せ、自宅から80キロ離れた丹沢に向かった。
 車は1時間かけて東名高速を走り、それから2時間、市道、山道をただひたすら走り、やがて丹沢のふもとに辿り着いた。
 時刻は夕方を回っていた。
 車を広場に停めた。
 「ポチおりなさい。今、エサをあげるからね。疲れたでしょ」
 鳥肉、豚肉を油で炒めた肉料理を皿の上にこれでもかというくらい盛りつけた。
 今まで見たこともないようなごちそうに、ポチは舌鼓を打った。
 何も知らないポチががっついてエサに食らいつく。
 むさぼるように食べるポチ。
 「さあ、行こう。ポチが我に返ったら行きづらくなる。行くなら今だ」
 昇が祥子の背中に声をかけ、車に乗り込んだ。
 祥子もさすがにかわいそうに思ったのか、
 「捨てるのやめる?」
 昇に言った。
 「今更、無理だよ」
 昇が車から降り、ポチの頭を数回なでた。
 「今までありがとう。元気に暮らすんだぞ」
 「元気でね、ポチ」
 こうして別れの日は訪れた。
 ポチは相変わらずエサをむさぼり食らっていて、状況が飲み込めずにいた。
 「これだけあれば3日は生きられる。悲しいけどこれも運命だ。オレ達を恨まないでくれよ」
 車に乗り込む昇。
 窓を開け、ポチを見おろす祥子。
 ポチを見たのは、これが最後だった。
 ポチは山盛りの肉を5分で平らげた。
 隣に盛られた山盛りのドッグフードに口をつけたとき、ポチはふと我に返り、昇と祥子がいないことに気付いた。
 何かいやな予感がして辺りを見回したものの辺りは暗く、他に誰もいなかった。
 30分待った。
 そして1時間が過ぎた。
 昇と祥子が戻ってくるものだとばかり思って、ポチは3時間を同じ場所で過ごした。
 その場にしゃがみ込み6時間待ったとき、自分が捨てられたことに初めて気付いた。
 ポチは山に向かって何度も遠吠えを繰り返したが、周りからの反応はなかった。
 その場で朝まで過ごしたポチは、翌朝、皿に盛られたドッグフードでお腹を満たし、とぼとぼと東へ向けて歩き出した。
 朝日が昇る方角を目指し、とにかく歩くことにした。
 ふだん歩き慣れないアスファルトの道路はとても路面が固くて、長距離を歩いたことがないポチは、すぐに肉球から出血した。
 でも歩くことをやめるわけにはいかなかった。
 進路を東に東に、ただ思いつくまま、気の向くまま進んだ。
 1日が過ぎ、2日目には雨が降り、とうとう3日が過ぎてしまった。
 ごはんに3日もありつけず、途中道ばたで見つけた犬のふんを食べて空腹をまぎらわせた。
 雑草でお腹を満たし、道路脇の水たまりの水を飲み、夜も昼も忘れてただひたすら東に向かって歩いた。
 犬の第六感で、こっちに歩けば昇の家に辿り着けるような予感がして、ただひたすら歩くことにした。
 自分を捨てた理由を聞くまでは、死んでも死にきれない。
 昇に逢いたい。
 祥子の目を見て、自分を捨てた理由を尋ねたい。
 心がはやって仕方なかった。

 1週間後、ポチは熱でうなされ、神社の境内にうずくまっていた。
 栄養失調と水分不足からくる脱水症状で、熱は平熱を5度も上回った。
 偶然ポチを見かけた近所の人が鳥の骨を持ってきてくれて、ポチはがつがつとそれを食べた。
 世の中には親切な人もいるものだ。もしかしたら自分を飼ってくれるのではないか。
 淡い期待は夢に終わった。
 こんなに薄汚れた老犬なんて、誰も見向きもしないだろう。
 そこにあるのは愛ではなく、情だ。
 お情けなのである。
 こんな老犬を飼ってもいいというほど、人は気持ちが優しくない。
 ポチはそのことにまだ気づけずにいた。
 ポチは3日後、ようやく元気を取り戻し、神社を出て旅を続けた。
 目指すは大崎夫妻の家だ。
 みんなでまた仲良く暮らしたい。
 もう一度、昇の腕に抱かれたい。
 思えば思うほど、老犬のポチはひもじくて空腹がこたえた。
 どうして自分を置いて行ったのだろう。
 もしかしたら自分を車に乗せるのを忘れて、車を発車させたんじゃないか?
 ドジな祥子のことだ。
 十分ありえる話だと思った。
 ポチは理由を探ろうとしたが、考えれば考えるほど、何やら楽しい思い出ばかりが浮かんできて涙がこぼれた。
 昇が自分を捨てるわけがないじゃないか。
 あんなに毎日、一緒に散歩をしてくれたのに。
 毎日、ごちそうを食べさせてくれたのに。
 それなのに……それなのに。
 なぜ。
 何かの思い違いだと思いたかった。
 勘違いだと言ってほしかった。
 15年来の家族なのに、姥捨て山みたいに自分を捨てることなんてありえるのだろうか?
 自問自答してみたけれど、やはり答えには辿り着けなかった。
 1週間が過ぎた。 
 畑が広がる集落に入り、ポチは危うくお百姓さんに鍬で殴られそうになった。
 エサをもらおうと近寄ったポチを見て、自分が襲われると勘違いした農家の長男は、ポチの頭めがけ、黒光りする鍬を思い切り振りおろした。
 「しっ。あっちいけ。しっしっ」
 泥で汚れた体は、いつしかばさばさの毛づやで、見るからに野犬の風貌をしていた。
 その頃には栄養失調から皮膚病にかかり、体の至る所から毛が抜け落ち、体調も最悪だった。
 ポチは首輪をしていたので野犬狩りにあうことはなかったけれど、相当ひどい身なりをしていたと思う。
 栄養失調。
 脱水症状。
 どこに行けば食べ物がもらえるのかもわからず、ただ歩くだけの日々。
 目はくぼみ、体からは異臭が発し、いつしか歩くのも困難になっていた。
 朝、散歩ですれ違う犬たちはみな幸せそうで、人に飼われることがいかに満たされていて平和なことか、ポチにもようやくわかり始めた。
 今までの自分は自由でないことをいつも嘆いていた。
 鎖につながれ。
 そしていつか鎖から解き放たれ、自由になりたい。
 そればかり願い、そして思いは現実になった。
 もう少し祥子になつけばよかった。
 もっと尻尾を振って、喜びを表現すればよかった。
 そう思ったけれど、あとの祭りだった。
 ポチはようやく念願の自由を手に入れた。
 でもそれは自由なんかじゃなかった。
 苦悩の始まりだった。
 飼い主から愛され、食べ物を与えられ、好きなだけ眠ることができたあの生活は、今から思えば天国のようなものだった。
 寝る場所に不自由することなく。
 食べるものの心配をすることもなく……。
 ポチは現状を嘆いた。
 人間の手から離れたい。
 犬だけのユートピアで暮らしたい。
 そう思い、何度脱走したいと思ったことか。
 実際に手に入れた自由というものは、それはもう残酷なまでに過酷で、すべてが不自由で、エサにありつくことさえ困難を極めた。
 ポチは、
 「これで終わりか。ここで死んでしまうのか」
 何度もそう思い、動くのをやめ、目を閉じようとした。
 けれどもう一度、もう一度だけ、自分を愛してくれた家族と暮らしたい。
 離ればなれになった理由を知りたい。
 その思いに強烈に駆り立てられた。
 その頃、大崎夫妻は、ダックスフントのマー君をお風呂に入れたり、ペットトリマーに連れて行ったりして、マー君を大層かわいがっていた。
 かわいくてかわいくて仕方なくて、犬をふとんの上で寝かしつけては、座敷犬として家の中で振る舞わせた。
 ポチと違ってよく甘い声をだして鳴くマー君は、おねだりするのも、人に甘えるのもとにかく上手だった。 
 子犬の成長はめまぐるしい。
 昨日まで赤ん坊みたいに思えた子犬が、半年もすれば成犬になり、表情も豊かになる。
 大崎夫妻は既にポチのことなんて頭になくて、ときどき思い出すものの、完全に過去の人(動物)となっていた。
 ポチはボロボロのぼろ雑巾みたいになってよたよたと夜の田舎道を歩いた。
 街灯もまばらな田舎道は、孤独を感じるのに十分な場所だった。
 森や川原で休み、昼間、明るいうちに距離を稼ぐ。
 見ず知らずの人はそんなポチをみてかわいそうに思ったのか、おにぎりを食べさせてくれたり、水を飲ませてくれた。
 3日ぶりのごはん。
 肉や魚が食べたいと思ったけれど、ぜいたくは言えなかった。
 あるとき、ポチは親切な村の人に出会った。
 「おまえ、まだいたのか? 行くところがないみたいだな。そう思って食べ物を持ってきてやったぞ」
 歳が50歳くらいの、にやついた中年は、ポチの前に盛大なごちそうを広げた。
 タマネギの炒め物。にんにく料理。ドライフルーツ。なす。銀杏。チョコレート。するめいか。
 犬が食べてはいけない物。
 NGフードばかりをポチに食べさせようとした。
 ポチはもう3日も何も食べていなかったので、なりふりかまわずそれらを腹にかき込んだ。
 そして1時間後、原因不明の食あたりで動けなくなった。
 畑にうずくまるポチ。
 動こうにも腰が抜けてしまい、身動きが取れなかった。
 そうこうしているうちに雨が降ってきて、泥の中で死んだようにうずくまった。
 ポチはその場所で3日過ごした。
 泥まみれになり、雨水に濡れ、ポチはその場を動けずにいた。
 体重が5キロ落ち、下痢が続き、ポチは今更とはいえ骨と皮ばかりになった。
 肋骨がすけ、みるからに不健康そうで、病み上がりの病人みたいになった。
 そんなポチをみかねたのか、畑の持ち主が犬用のゲージを作ってくれた。
 親切な人だったが、やはりこの人もポチを飼ってくれるわけではなかった。
 「おまえ自分の家を探しているんだろう? 元の飼い主に会いたいんだろう? だったらこんなところにうずくまってちゃいかんがな。はよ元気出せ」
 犬の心が不思議とわかる人だった。
 ポチはそこに1ヶ月居候し、日に日に元気を取り戻した。
 そうさ。人間は善なる生き物なんだ。
 愛にあふれた生き物だ。
 オレの飼い主様は、今頃どこで何をしているんだろう?
 オレがいなくて寂しいだろうな。
 ポチはこれから自分の身に降りかかる残酷な運命も知らず、心に太陽を思い描いた。
 さすらいの旅がまた始まろうとしていた。
 元気を取り戻したポチは今度は進路を南に取ることにして歩き始めた。
 体の調子もよくて、足並みも軽かった。
 5時間も歩くと、むかし車で訪れたキャンプ場に偶然辿り着いた。
 そのキャンプ場は、忘れもしない、昇がポチに鮎を5匹食べさせてくれたワンダホーな場所だった。
 ここにいればもしかしたら大崎夫妻と再会できるかもしれない。
 ポチは淡い期待を胸に抱いた。
 キャンプ場は連日連夜、夏休みということもあり、家族連れでにぎわっていた。
 バーベキューで食べきれなかった肉や魚、釣った鮎やニジマス。ヤマメをポチは何度も食べさせてもらった。
 食うに困らない日々が続き、ここで一生暮らすのも悪くないな。
 ポチはそんなことを考えるようになっていた。
 なんとか1ヶ月が過ぎた。
 しかしこの地区一帯では野良犬の権力闘争が起きていて、ポチをかわいがってくれたボス犬が群れを追われた。
 ポチもその影響を受けることになった。
 ポチはキャンプ場を追われた。
 酒池肉林のような生活は、いっときだから楽しいのかもしれない。
 それが毎日続くとなれば不思議と飽きてしまうから不思議だった。
 適度に不自由を感じ、適度に快適さを感じるから、生き物は溌剌とするのだ。
 天国みたいな生活だったけれど、こんな生活が未来永劫続いたら、痛風になってしまうだろう。
 ポチは老体にムチを打ち、またしても、とぼとぼと歩きだした。
 それからはやはり食べ物に困る日々が続き、体重は激やせしていた頃に戻った。
 1日30キロ歩くものの、かつて見慣れた風景には一向に巡り会えず、それでもポチはひたすら歩いた。
 ポチを飼ってもいいという人は一向に現れないばかりか、疲れ切った容姿から拒否反応を示す若者も多かった。
 毛が抜け変わる季節を迎えた。
 いつしか季節は夏から秋に変わり、木々も色彩を深めた。
 鳥がせわしなくさえずり、もうじき訪れる冬の準備をしているかのように、ポチの目には映った。
 もうじき冬が訪れる。
 雪降る冬が訪れれば、寒さで体が思うように動かなくなるだろう。
 今歩けるうちに距離を稼ごう。
 歩く距離を2倍に増やすことにした。
 ポチの現在地は大崎夫妻の家から50キロの距離まで迫っていて、そのまま北東にまっすぐ行けば、かつて知ったる集落が現れるはずだった。
 ポチは西に歩き東に歩きそして南に下り、時には北を目指し、大崎の家に少し近づき、そしてわずかばかり離れ、探り当てそうでできない場所をぐるぐると行ったり来たりした。
 冬が本格的にせまる11月の晩、またしても偶然、むかし行ったことのある大型スーパーに辿り着いた。
 かつて連れて行ってもらったことのあるその駐車場では、来場者にフランクフルトを振る舞っていて、ポチはおじいさんからフランクフルトを3本食べさせてもらった。
 「随分、人なつこい犬だな。どこから来たんだ? かなり汚れているけど一応首輪してるじゃないか。迷子にでもなったのか?」
 ポチはくんくんと声を出して鳴き、人間の言葉が話せないことを呪った。
 ポチがちぎれんばかりに尻尾を振る。
 《大崎という、40代の夫婦知りませんか? 大きなワゴン車に乗っています》
 何度もおじいさんに話しかけるけれど、おじいさんは一向に気にも留めず、フランクフルトを焼く手を休めなかった。
 「もっと食べたいのか? でももうやれないよ。もっと食べたいなら財布でも拾ってきな。ここ掘れわんわん言うてな。千両箱のありかでもオラに教えてくんな」
 おじいさんはポチに言った。
 ポチはお腹を満腹にして今来た道を舞い戻ることにした。
 右に曲がり左の急傾斜の坂道を上り、いつか見たことがあるような景色に辿り着いた。
 富士山が見え、かつて公園で見た景色と同じ光景が眼前に広がった。
 ここから大崎の家まで近いことが、なんとなくではあるけれどわかった。
 1ヶ月が過ぎ、そして12月に入り。
 状況は何も変わらず、ただ歩くだけの日々が続いた。
 放浪の生活にもようやく慣れ、1日のリズムがつかめるようになった。
 よし。
 あともう少しだ。
 今日もがんばろう。
 歩き疲れたポチは、その晩、小さな公園で野宿した。
 そして朝を迎えた。
 何やら予感めいた感情が胸の奥底から突き上げてきて、心がはやって仕方なかった。
 ポチは動物の第六感で、この町を中心とした10キロ四方に何かがあると確信した。
 これは予感なんかじゃない。
 予言みたいなものだ。
 ある確信めいた第六感が、ポチの心を突き動かした。
 そうだ。
 こうしちゃいられない。
 びんびん伝わってくるシグナルをもとに、ポチは再び走り出した。
 ポチはとりあえず進路を北に取り、そこでかつて知ったる散歩コースを目のあたりにした。
 近い。
 それもかなり近い。
 心がはやり、今にも昇、祥子に会えることを想い、駆けだした。
 たしかこっちの方角だと思うが思い出せない。
 30分も走ると、ようやく眼前に郵便局が現れた。
 ここから30メートル下れば、大崎の家に辿り着けるはずだ。
 息をするのも忘れて、ポチは走った。
 そうだ、この町並みだ。この風景だ。
 この壁の色。
 電柱。
 そしてとうとう念願の大崎の家。
 かつて自分が住んでいた犬小屋に辿り着いた。
 無我夢中だった。
 やった~。やっと辿り着いた。
 大きなため息と安堵の気持ち。
 犬小屋は既に廃墟となっていたけれど、なかにはあの日のままタオルが数枚敷かれていた。
 見慣れたアヒルのゴム人形……。
 そうだ、この町だ。この匂いだ。
 何もあの日と変わらない。
 そうだ、やっとオレは帰ってきたのだ。
 我が家に辿り着いたのだ。
 よかった。
 本当によかった。
 今日まで生きながらえたのは、このときを迎えるためだったのか。
 誰も使った形跡がない犬小屋を前に、ポチはへたれ込んだ。
 そしてくんくん鳴いて、安堵のため息をもらした。
 しばらくして、家の中から小型犬の鳴き声が聞こえた。
 今まで聞いたこともないようなキュートな声で、ポチの知らない犬の鳴き声だった。
 ポチは混乱した。
 きっと自分がいなくなって昇も寂しかったんだろう。
 寂しさを紛らすため、新たに犬を飼ったのかもしれない。
 ポチは、自分が捨てられることになった原因が、まさかこの犬にあろうとは夢にも思わなかった。
 今日は月曜日だ。
 祥子はパートの勤めに出てるはずで、昇は夕方7時を過ぎなければ帰ってこないはずだ。
 ポチはいままでの苦労も忘れ、勝手知ったる犬小屋で眠ることにした。
 うつらうつらしているうちに、やがてあたりは暗くなり、冷え込んできた。
 祥子が帰ってくる時間になり、ポチは犬小屋から出て、祥子の帰りを待った。
 自転車を15分こぎ、買い物袋を下げた祥子が、やがて電子機器メーカーの部品工場から帰ってきた。
 そしてポチを見つけ腰を抜かしそうになった。
 自転車を所定の位置に置く祥子。
 「あらやだ、びっくりするわね。ポチじゃないの? どうしてここがわかったの? どうしてここにいるのよ? 本当にポチなの?」 
 なにやら悲しげな瞳を向けた。
 ポチはうれしさと喜びで祥子の足元を何度も飛び回り、そして跳ね回り、素直に感情を表した。
 ポチが喜べば喜ぶほど、祥子の心は複雑だった。
 幼い子犬のようにはしゃぐポチをみて、祥子は困惑した。
 ポチの目を見て祥子は言った。
 「ポチ、よく聞いてね。私はあなたを飼うことができないの。わかるでしょ? 大人には大人の事情があるのよ。でも1週間だけ時間をあげる。あなたに家族団らんの思い出をあげましょう」
 しばらくすると祥子はいつもの祥子に戻っていて、牛肉を200グラム、そして好物の肉団子を焼いてくれた。
 ポチはがつがつと祥子の手料理を食べ、失った時間を取り戻そうと必死だった。
 これで家族団らん、しかも水入らずで過ごせる。
 牛肉でできた肉団子は祥子の手作りで、ポチの好物だった。
 なつかしい祥子の味。
 なれなれしいダックスフントが、ポチにじゃれて、足元にまとわりつく。
 そうこうしているうちに昇が帰ってきた。
 車のエンジン音に興奮して、ポチは失禁した。
 のどを鳴らすポチ。
 かつて聞いた犬の野太い鳴き声に、昇も興奮して、
 「ポチか。本当にポチなのか? サチ、どうしてポチがここにいるんだ?」
 状況が飲み込めず、昇が祥子に尋ねた。
 「ポチに聞いてくれる? 何がなんだか、私にもよくわからないの。家に帰ってきたらポチが犬小屋の前に座っていて……」
 昇が何度もポチの頭をなでた。
 喜ぶポチ。
 その優しさがポチをのちのち苦しめることになる。
 それから新しい家族、ダックスフントのマー君を囲い、家族の団らんが始まった。
 ポチはなんだか複雑な気持ちで、ダックスフントのマー君を眺めた。
 自分と比べてまだ若く、仕草も初々しくてたしかにかわいかった。
 「祥子、どうする? オレは2度も同じ犬を捨てには行けないよ。それでなくてもかわいそすぎる」
 ばさばさの毛づや、皮膚病で肌がむき出しになったポチの目を見て、昇が悲しい瞳を向ける。
 「そんなこと言って、マー君に病気が移ったらどうするの? あなた責任持てるの?」
 祥子は気のない素振りを見せた。
 「ポチがここに辿り着くまで、そりゃあもう悲しい日々を過ごしたと思うよ」
 言葉を遮り祥子が反論する。
 「そんなこと言って、ポチを飼えるほどうちは裕福じゃない。マー君を取るかポチを取るか。この際、はっきりさせましょう」
 ボロボロになった老犬とマー君。
 結果はおのずと知れていた。
 「ポチには1週間だけここで過ごしてもらい、1週間後、ポチを保健所に引き取ってもらいましょう」
 「かつての家族だぞ。おまえポチに死ねっていうのか?」
 昇が悲壮感漂う瞳で、祥子を見る。
 「ほかに方法がある? 生きていたっていいことが何もないのよ。どこにも行くあてがないなら、それも仕方ないでしょ。ポチには1週間の間にたくさん思い出をつくってもらいましょう。そしてさよならしましょう」
 昇もそれ以上、口にできなかった。
 ただならぬ雰囲気に、ポチは尻尾を丸めクンクンと鳴いた。
 2人がケンカしていると思ったポチは、まさか自分のことを話しているとは思わなかった。
 上目遣いで2人を見つめるポチ。
 こんな夫婦を見るのは、実に久しぶりのことだった。
 せっかく帰ってきたというのに、何かの理由で2人がケンカしてる。
 険悪な雰囲気の中、ポチの知らないところで話は大きく動こうとしていた。
 「おれには無理だよ。今度は保健所に連れて行けというのか」
 それでも祥子は頑として受けつけなかった。
 「もともとなつかない犬だったし。人に可愛がられないペットじゃ、ペットの意味なんてないでしょ?」
 悪いのはポチだと言わんばかりに、祥子が言う。
 次の日も次の日も、今まで食べたことのないようなごちそうが振る舞われた。
 いい加減おかしいと感じたポチも、まさか2度も家族から捨てられるとは思わなかった。
 悲しいことだがそれは現実になった。
 雨降る12月の、とある日曜日。
 ポチはお風呂に入れられ、体を清めてから保健所に連れて行かれた。
 そして犬用の50センチ四方のゲージに入れられ、再び自由を奪われた。
 そこはかつて知ったる病院のベッドとは少し趣が違っていて、野犬や捨て犬であふれかえっていた。
 泣き虫の犬。
 ノイローゼ気味の犬。
 統合失調症の犬。
 野犬の群れ。
 吠えたり、くんくんと飼い主を懐かしむ犬が所狭しとゲージに詰め込まれ、クソも味噌も一緒に飼い慣らされた。
 食事はドッグフードが少量。
 病気で死のうが精神が崩壊しようが、そんなことは知ったこっちゃあなかった。
 ポチは最初、何がなんだかわけがわからなかった。
 てっきりここが犬用の病院だとばかり思っていて、まさか保健所という、動物たちに恐れられている場所だとは思わなかった。
 ゲージから連れて行かれる犬が2度と同じ場所に戻ってこないことから、ここが死を受け入れる場所だということをポチは遅れて知るのである。
 毛並みの悪い、薄汚れた犬ばかりが、次の日も明くる日も保健所にやってきた。
 どこか獣くさい犬ばかりで、満足に食事を与えられていない、ガリガリにやせ細った犬も多かった。
 ポチはなぜ自分が大崎夫妻から疎まれ、あろうことか2度も捨てられることになったのか、そればかり考えて過ごした。
 自分に悪いところがあるなら教えてほしかった。
 改善するから僕を見捨てないでほしい、心からそう思った。
 大崎夫妻は、ポチを保健所に預ける際、ポチの頭を数回なで、ポチを抱きしめるそぶりをした。 
 今になってはそれが悲しくて、胸が張り裂けてしまいそうだった。
 ダックスフントのマー君を飼うため、仕方なく僕をお払い箱にしたのか。
 そうか。
 そういうことだったのか。
 せめてここで最期を迎えろというのなら、僕は愛されていたという証を胸に抱いたまま最期を迎えたい。
 ガス室に送られる日がいよいよ明日に迫った。 
 悲しんでも悔やんでも、不平不満を言ったところで、今まで過ごした日々が何一つ変わらないというのなら、ならばいっそのこと楽しかった思い出を胸に抱いて死のうじゃないか。
 そうか。
 自分はこの冬を越せないのか。
 ここで最期を迎えるのだな。
 色々な思いが頭をよぎった。
 何もどこも悪いところがないというのに、人間の一方的な都合で最後通告され、そしてお役御免となった。
 ポチは覚悟を決め眠ることにした。
 永遠の眠りにつくとはどういうことなのだろう?
 昨日までの自分が果たして幸せだったのか?
 自分は産まれてくるべきではなかったのではないか。
 自分を責めることで、何かの糸口をつかもうとした。
 自分は愛される資格がなかったのではないか?
 生きているだけで、息をしているだけで迷惑な存在だったのか。
 今まで大切に育ててくれてありがとう。
 たとえ一時でも、僕は幸せだったんだ。
 そう思おうとしたが、どこかで納得できない自分がいた。
 ポチは翌日、クリスマスを1週間後に控えた朝。
 ガス室へと送られた。
 「とうとうこの日がきちまったな。それにしてもなんて悲しい目をしていやがる。そんな目でおいらを見つめないでくれ。胸が張り裂けちまうじゃないか。頼むからオレを恨まないでくれよ。これも仕事なんだ。好きでやってるんじゃないからな」
 何も知らない、ただ尻尾を振り続けるポチを保健所の係員が誘導し、ポチは畳2枚分ほどの狭い個室に閉じ込められた。
 辺りには死臭が漂っていた。
 大型犬、小型犬。
 大小様々な犬が小さな一室に押し込められ、ここから出してくれとばかりに泣き叫ぶ。
 それでも懸命に尻尾を振り続けるポチ。
 もしかしたらここから出してくれるかもしれない。
 ポチは淡い期待を胸に最後の望みをつないだ。
 ポチが尻尾を振る。
 「今更、人間に愛嬌を振りまいたところで、どうにもならないんだ。それにしても人なつこい犬だな。オレを恨むなよ」
 係員が最後通告した。
 「おまえは捨てられたんだ。飼い主から見放されたんだ。だから明日まで生きる権利がない。これも運命だ。受け止めてくれ」
 悲しい、けれどとてもきれいな、澄んだ目をした、初老の係員が言った。
 ポチが最後に見た人間の瞳とは、このうえなくきれいな瞳だった。
 それだけがせめてもの救いだった。
 入り口の頑丈な鉄の扉が閉められ、犬たちは戸惑いを強めた。
 これから何が起きるのか。
 何が起ころうとしているのか。
 ただならぬ気配が漂った。
 きゃんきゃん鳴く子犬。
 遠吠えするドーベルマン。
 係員が静かに時計を見た。
 処置する時間まで、あと2分と迫っていた。
 犬がガス室に10匹くらい押し込まれ、やがて重くきしんだ音のする鉄の扉がもう1枚閉じられ、室内は完全に密室となった。
 四隅の上の方から、そして下の方から、やがて無色透明な、二酸化炭素のガスがもくもくと送り込まれ、犬たちは呼吸困難で、もがき苦しんだ。
 ぐぎ~。
 ぎゃ~。
 腹の底から響き渡る怒声が、狭い室内に響き渡った。
 犬たちが一斉に声を上げ、室内に阿鼻叫喚の連鎖が広まった。
 ここから出してくれ。
 息ができない。
 苦しい。
 あまりの苦しさに自分の舌を噛み切る犬たち。
 口から、だらだらと血を垂れ流し……。
 動物の鳴き声は扉が2重に閉められているため、外部には一切漏れなかった。
 ガラス張りののぞき窓から係員は室内をのぞき込んだ。
 毎回感じる、胸が張り裂けてしまうような、どこか息苦しくなるような情景が係員を苦しめた。
 苦しい。
 水が飲みたい。
 頭ががんがんする。
 5分経ち、動物たちはやがて鳴くのをやめ、どさっ。どさっ。
 1匹倒れ、2匹倒れ。
 透明のガラス窓に目線を向け、係員の行動を見ていたドーベルマンも、やがて地に伏した。もう誰も首をもたげていなかった。
 すべての犬が床にふし、足を硬直させ、痙攣を起こした犬もいた。。
 口から泡を吹く犬。
 大きな口を開け、舌をだらりと下げた犬。
 呼吸困難で過呼吸を起こした犬。
 白目をむいた犬が所狭しと床に重なる。
 アウシュビッツのむごたらしい光景が、犬の世界で再現された。
 苦しいのは一瞬のことで、やがて意識を失い、心地よい感覚に襲われるというものの、この光景を見た者は感じるものが強すぎた。
 体から抜き出た魂が狭い空間をさまよい、天上へと勢いよく浮き上がった。
 「もう少しの辛抱だ」
 係員は時計を見た。
 15分が過ぎた。
 9時58分。
 何匹犬を殺しても終わりなく。
 次から次へと犬が保健所に送り込まれ、そしてそのたびに機械的に犬は処刑された。
 ガス室での出来事は一瞬苦しみをともなうものの、痛みを感じることもなく、やがて静かな時間を取り戻した。
 ポチは午前9時58分。
 空に高く太陽がのぼっていることも知らず、風を感じることなく天国へと旅立った。
 次、産まれてくるときも、大崎夫妻の子供として産まれたい。
 それだけを願い、ポチは天国へと旅立った。
 羽根のはえた天使がポチを迎えにきて、天国へと連れて行った。
 ポチは離ればなれになった兄弟と、雲の上で再会した。
 「ポチよ、おまえは頑張った。もうどこへも行かなくていいんだよ。静かに雲の上で暮らすがいい。ここは楽園だ。もう誰にも気兼ねしなくていいんだよ」
 安らかな心の声が遠くから聞こえた。
 季節は巡った。
 春が訪れ、そして夏が訪れ、やがて秋を迎え、ポチが死んだ冬が巡ってきた。
 それでも保健所には相変わらず悲しい目をした犬やネコが連日連夜、飼い主によって運び込まれ保護期限を迎えた。
 里親になってくれる人はほんのわずかで、ケージに入れられた犬やネコたちは自分の運命を知ってか知らずか、みなどこか寂しそうだった。
 人だからという理由で死を免れ、犬やネコだからという理由で死を受け入れなくてはならない現実がある。
 それはある意味、人間社会なので仕方のないことなのかもしれないけれど、彼らにも心があり、感情があることをもっと人間は知るべきだと思う。
 ポチの死は無駄ではなかった。
 そう言える日が、いつか訪れるのだろうか?
 ポチは何を思い、どう死を受け入れたのだろうか?
 ポチは多くの疑問を人間社会に投げかけた。
 ポチがもし言葉を話せたのなら、何を大崎夫妻に語っただろう。
 どんな言葉を残しただろうか?
 虎は死んで皮残し、人間死んで名を残す。
 ポチは死に、けれど何も残せなかった。
 その心は大崎夫妻には遠く届かず、親から愛されなかった子供のように、ポチは最後にユダに裏切られた。
 ポチは何を伝えたかったのだろう?
 死にゆく瞳で、何を見つめていたのだろう。
 ポチは幸せだったのだろうか?
 愛とはなんなのか。
 家族とはなんであるのか。
 ポチが何かを語ろうとする。
 現代社会は、それでなくとも生きにくい、サバイバルゲームのようなものだ。
 《人間は命を奪われないだけ、まだましなんだよ》
 ポチならそう言うかもしれない。
 ポチは死に、そして人々の記憶から完全に消えた。
 季節は巡り、輪廻は転生する。
 ポチはあの日、この世を去った。
 それを知る人はごくわずかしかいない。
 人々はキリストを想った。
 ポチよ、もう一度、蘇れ。
 たとえそれが苦難へと続く道であっても。
 すべての生き物が幸福を迎えることは不可能なのだろうか?
 自問してみたものの答えはでなかった。

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