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2章 いざ王都。そして学園へ
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「今年のトップ3は、特に抜きん出ていますな」
「えぇ。プラチナ家とボトム家のご子息は予想しておりましたが、シュナイゼル…君でしたか?」
「どうやら南のデイリア出身のようですぞ」
「ほぅ…。確か、デイリアと言えば最近新しいミスリル鉱脈が見つかったところ、でしたか。辺境と言えど、資源も人材も揃っているとは…。これは今後が期待ですね」
「本当に…。ここのところ、暗い話ばかりでうんざりでしたが、まだまだローズガーデンも捨てたものではないということ。我々も、あの若い芽達を大事に育てていかねばなりますまい」
会場の職員達がそんな会話をしている頃、決勝戦の始まりを告げる審判の声が会場内に響き渡った。
審査員から参加者の子達まで全員、固唾を飲んで中央の二人を見つめる。
後に同期の間では、一歩も譲らぬ大接戦だったと言われるこの試合だが…実際は、ルドルクの繰り出す攻撃は全てスレスレで避けられ、打つ手がなくなってきたところを一瞬で終わらされるという一方的なものだった。その実力差は、試合直後に満身創痍だったルドルクに比べ、息ひとつ乱れていないデューク君を見れば明らかだ。
(ルドルク…)
審判が勝敗を告げてからもフィールドから動かないでいるルドルクに、何て声をかければいいか分からない。そんな私に、無表情でフィールドを降りていくデューク君が、視線だけこちらに向ける。それは、15才の少年とは到底思えないくらい機械的な冷たいものだった。何かを見透かすような目に胸の辺りがゾワリとする。でも彼はすぐに視線を外し、会場を後にしていった。
一瞬遠退いていた周りの音がゆっくりと戻ってくるような感覚に、ルドルクへ目を戻すとこちらに向かって歩き出しているところだった。
『………』
言い淀んでいると、ルドルクは顔を上げてにぱっと笑ってみせた。
「あーあ!負けちまった!もうちょいイケるかと思ったんだけどなぁ~。てかこの後、表彰式あんだよな。俺その前に小便行ってくるわ!ジオはここで待っててくれな」
そう言って開場外へ駈けていく。今はそっとしておくことしか出来ない。
(私が…本当の男の子だったら、もっとうまく接することができたのかな…)
もどかしい気持ちのまま、ルドルクが駈けていった方向を見つめるのだった。
その日、ボトム家に銀メダルと銅メダルを持って帰った私たちを、マリーさんは満面の笑みで出迎えてくれた。でも、家には一人しかいないことに気づくとちょっとだけ眉を下げる。
「お父さん、仕事が立て込んでるみたいなの…。こんな立派な二人のことを出迎えてあげれなくって、きっと今頃悔しがってるはずよ。帰ってきたら思いっきり自慢してあげなさい!」
正式な合格通知は一週間後とのことだったが、それまでルドルクが1日も修練を欠かすことはなかった。
▪▪▪
それから日にちが経ち、私とルドルクは再びあの学校の門をくぐることとなる。胸に門と同じ剣の交わるエンブレムがついた制服を身にまとい、大きな鞄を抱えながら。ついに今日から、この学園での生活が始まるのだ。
身の回りに必要な物は、例の水金貨で買ってみたのだがあまり砂金が減った感覚はなく、リンデバームさんたちがどれだけ持たせてくれているのか心配になる。これも血液で個人識別出来るらしいので、早々に登録しておいた。これで、最悪盗られたり無くしたりしても全額保証してもらえるそうだ。
そんな感じで準備万端の私は、まずは寮に荷物を置く為、一年生寮に向かう。今期は私たちが受けた日に28人、別日の試験で10人、合計38人の合格者がこの寮で一緒に生活することになっていた。
寮は全部で18部屋。2階の10部屋は個室で貴族出身の子が主に使うことになっていて、下の階が4人部屋7部屋、空き部屋が一つ、それに共同スペースという造りになっている。
私とルドルクは一階の4人部屋で同室となり更に、少し気の弱そうなリビア君と、今年3回目の試験で合格し2つ年上のマックさんが、残りのルームメイトだ。この2人もいい人っぽくて一安心する。
「ま、まさか準決勝で、すごい戦いをしたお二人と一緒の部屋になれるなんて…こ、光栄ですっ」
少しオドオドしながらも、リビア君はキラキラした眼差しを向けてくる。
「準決勝、ということは二人は特待生枠か…すごいね。今年の15才はレベルが高いと聞いてるよ。二浪した分、知識だけはあるつもりだから座学とか困ったことがあったらなんでも聞いてくれ。どうぞよろしく」
爽やかなお兄さん風のマックさんは、2個しか年が違わないなんて思えないほど落ち着いた雰囲気だった。
『リビア君、マックさん、これからどうぞよろしくお願いします』
「俺のことは呼び捨てで構わねーから!よろしく!」
4人で挨拶をしていると、始業式が始まる時間が近くなっていた。
「あぁ、もうこんな時間だね。さ、3人とも講堂に行こうか。今年挨拶する最上級生代表はすごい人物なんだよ。彼に憧れてここに入学した人もいるくらいだからね」
校内の地図が頭に入っているというマックさんに連れられて、余裕で講堂に到着出来た。そこで驚いたのは、あのナビル君が生徒としていたことだ。少し裏口入学の香りがしたけど、マックさん曰くここでは結構当たり前のことらしい。ただ、カリキュラムの厳しさに進級前に辞めてしまうのもよくあることだそうで…。
「結局は、実力と騎士になる為の信念がないとここにはいられないんだよ」
そう語るマックさんの言葉に納得するのだった。
「えぇ。プラチナ家とボトム家のご子息は予想しておりましたが、シュナイゼル…君でしたか?」
「どうやら南のデイリア出身のようですぞ」
「ほぅ…。確か、デイリアと言えば最近新しいミスリル鉱脈が見つかったところ、でしたか。辺境と言えど、資源も人材も揃っているとは…。これは今後が期待ですね」
「本当に…。ここのところ、暗い話ばかりでうんざりでしたが、まだまだローズガーデンも捨てたものではないということ。我々も、あの若い芽達を大事に育てていかねばなりますまい」
会場の職員達がそんな会話をしている頃、決勝戦の始まりを告げる審判の声が会場内に響き渡った。
審査員から参加者の子達まで全員、固唾を飲んで中央の二人を見つめる。
後に同期の間では、一歩も譲らぬ大接戦だったと言われるこの試合だが…実際は、ルドルクの繰り出す攻撃は全てスレスレで避けられ、打つ手がなくなってきたところを一瞬で終わらされるという一方的なものだった。その実力差は、試合直後に満身創痍だったルドルクに比べ、息ひとつ乱れていないデューク君を見れば明らかだ。
(ルドルク…)
審判が勝敗を告げてからもフィールドから動かないでいるルドルクに、何て声をかければいいか分からない。そんな私に、無表情でフィールドを降りていくデューク君が、視線だけこちらに向ける。それは、15才の少年とは到底思えないくらい機械的な冷たいものだった。何かを見透かすような目に胸の辺りがゾワリとする。でも彼はすぐに視線を外し、会場を後にしていった。
一瞬遠退いていた周りの音がゆっくりと戻ってくるような感覚に、ルドルクへ目を戻すとこちらに向かって歩き出しているところだった。
『………』
言い淀んでいると、ルドルクは顔を上げてにぱっと笑ってみせた。
「あーあ!負けちまった!もうちょいイケるかと思ったんだけどなぁ~。てかこの後、表彰式あんだよな。俺その前に小便行ってくるわ!ジオはここで待っててくれな」
そう言って開場外へ駈けていく。今はそっとしておくことしか出来ない。
(私が…本当の男の子だったら、もっとうまく接することができたのかな…)
もどかしい気持ちのまま、ルドルクが駈けていった方向を見つめるのだった。
その日、ボトム家に銀メダルと銅メダルを持って帰った私たちを、マリーさんは満面の笑みで出迎えてくれた。でも、家には一人しかいないことに気づくとちょっとだけ眉を下げる。
「お父さん、仕事が立て込んでるみたいなの…。こんな立派な二人のことを出迎えてあげれなくって、きっと今頃悔しがってるはずよ。帰ってきたら思いっきり自慢してあげなさい!」
正式な合格通知は一週間後とのことだったが、それまでルドルクが1日も修練を欠かすことはなかった。
▪▪▪
それから日にちが経ち、私とルドルクは再びあの学校の門をくぐることとなる。胸に門と同じ剣の交わるエンブレムがついた制服を身にまとい、大きな鞄を抱えながら。ついに今日から、この学園での生活が始まるのだ。
身の回りに必要な物は、例の水金貨で買ってみたのだがあまり砂金が減った感覚はなく、リンデバームさんたちがどれだけ持たせてくれているのか心配になる。これも血液で個人識別出来るらしいので、早々に登録しておいた。これで、最悪盗られたり無くしたりしても全額保証してもらえるそうだ。
そんな感じで準備万端の私は、まずは寮に荷物を置く為、一年生寮に向かう。今期は私たちが受けた日に28人、別日の試験で10人、合計38人の合格者がこの寮で一緒に生活することになっていた。
寮は全部で18部屋。2階の10部屋は個室で貴族出身の子が主に使うことになっていて、下の階が4人部屋7部屋、空き部屋が一つ、それに共同スペースという造りになっている。
私とルドルクは一階の4人部屋で同室となり更に、少し気の弱そうなリビア君と、今年3回目の試験で合格し2つ年上のマックさんが、残りのルームメイトだ。この2人もいい人っぽくて一安心する。
「ま、まさか準決勝で、すごい戦いをしたお二人と一緒の部屋になれるなんて…こ、光栄ですっ」
少しオドオドしながらも、リビア君はキラキラした眼差しを向けてくる。
「準決勝、ということは二人は特待生枠か…すごいね。今年の15才はレベルが高いと聞いてるよ。二浪した分、知識だけはあるつもりだから座学とか困ったことがあったらなんでも聞いてくれ。どうぞよろしく」
爽やかなお兄さん風のマックさんは、2個しか年が違わないなんて思えないほど落ち着いた雰囲気だった。
『リビア君、マックさん、これからどうぞよろしくお願いします』
「俺のことは呼び捨てで構わねーから!よろしく!」
4人で挨拶をしていると、始業式が始まる時間が近くなっていた。
「あぁ、もうこんな時間だね。さ、3人とも講堂に行こうか。今年挨拶する最上級生代表はすごい人物なんだよ。彼に憧れてここに入学した人もいるくらいだからね」
校内の地図が頭に入っているというマックさんに連れられて、余裕で講堂に到着出来た。そこで驚いたのは、あのナビル君が生徒としていたことだ。少し裏口入学の香りがしたけど、マックさん曰くここでは結構当たり前のことらしい。ただ、カリキュラムの厳しさに進級前に辞めてしまうのもよくあることだそうで…。
「結局は、実力と騎士になる為の信念がないとここにはいられないんだよ」
そう語るマックさんの言葉に納得するのだった。
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