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4章 女性の愛し子
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沙耶もといジオが女神のいる空間に転送された少し後──。
パッシャパッシャと足元の沼地をものともせず、楽しげに歩く一匹のネコ…のぬいぐるみと、付き添うように歩く黒マントとフードを被った小柄な人物。ローズガーデンを囲む森の一角、魔女門近くはこうした沼地が木々の間に点在していた。
所々からカエルの鳴き声が聞こえてくる。
「にゃ~えるのうーたーがぁ♪聞こえてくるにょ~♪にゃー♪にゃー♪にゃー♪にゃー♪うにゃうにゃうにゃうにゃ、にゃ、にゃ、にゃ~♪」
《それ、もはやカエルじゃねーだろ》
「うにゃ?たしかにそーにゃ。流石ご主人様!キレのあるつっこみにゃ!惚れ惚れするにゃ~」
自分のご主人と通信で繋がっている魔法石を掲げて、パペットのネコはゴロゴロ喉を鳴らす。
《てか、テメーはうるせーんだよ。今日はただのオマケなんだから黙ってろ》
「うにゃん!ただ森を歩いてる映像にゃんてつまんにゃいだろーにゃと思って…ごめんにゃさい。…あ!よーやく来たにゃ!」
立ち止まったパペットの横から、ガサガサと草をかき分ける音がする。
「何故私がこんな目にっ!信じられませんわっ全く…」
グチグチと文句を言いながらグロッグ・ベネディクドが現れた。
「あぁ!やっと来たのね……な、何故セブンスの姿がないのですっ?」
興奮したまま声を荒げるグロッグに、パペットは毛を逆立てる。
「ご主人様を呼び捨てにするにゃ!でっかいにゃえるのくせしてっ」
激昂し、パペットに向かって反論しようとしたグロッグは、パペットの側にいた黒マントの人物からただならぬ殺気を感じ、言葉を詰まらせる。
「にゃっ!先に約束のもにょ出すにゃ。急に呼び出しといてにゃいとは言わせないにゃ」
フンッと鼻を鳴らし、バラバラと大粒の魔石をローブの中なら落としていく。
「うにゃ~!大っきいにゃ!いっぱいにゃ!」
《…へぇ。中々の量じゃん?》
「ほほ、私を見くびらないでくださる?まだこれで全部でなくてよ?さぁ、予定は少し早まりましたけど、私をギムレットへお招きいただけますこと?ローズガーデンなんてもう懲り懲りですわ!さぁさ早く!」
《ホント、予定より早かったな。もう魔石持ってこれねーならいらねーよ、お前》
「なっ!?何を言ってますのっ?私が今までどれだけ…」
《やれ》
魔石から指示が下った直後、黒マントの人物が素早くグロッグに詰め寄る。
「くっ!?」
咄嗟に反応したグロッグが、一撃目のナイフを腕に装備していた防御の魔法具で防ぐ。キィンっと甲高い音を立ててナイフが折れたのを目視したグロッグの背中から、別の短剣が心臓を貫いた。
「がはっ!?」
黒マントからいくつもの関節がある腕が伸び、背後からグロッグを突き刺さしていたのだ。
柄まで刺さっていた短剣をずるりと引き抜く。力なく倒れこもうとするグロッグの頭を掴んだ黒マントは、絶命寸前のグロッグの首を容赦なく切り裂いた。飛び散る血飛沫。
「にゃっ!?こらっ汚いにゃ!にゃーが血で汚れちゃったらどーするにゃ!」
パペットの声には見向きもしない黒マントは、動かなくなったグロッグから残りの魔石を取り出していく。
「うにゃ、お使いは済んだにゃ。さっさとご主人様のとこ帰るにゃ!」
首元の魔石に触れると一瞬で、森から暗い洞窟のような場所へ転移する。
「ごっ主人様~!ただいまにゃ~」
飛んでくるパペットを、一人の青年はひらりとかわす。無言で近づいてきた黒マントから魔石を受け取ると、その内の一個をパペットに投げた。
「おら、これでも喰っとけ」
「にゃっ!ぅにゃ~、他人にょはあんま美味しくにゃいのにゃ…。ご主人様~、久しぶりにご主人様のが食べたいにゃぁ」
猫なで声に、セブンスと呼ばれたパペットのご主人は冷たく言い捨てる。
「テメーにやる分はねーよ。おら、こいつを見てみろ?文句言わず喰ってんじゃねーか」
セブンスの指す場所では、小さく盛られた魔石の山を黒マントが一心不乱に貪っていた。胸焼けがするような光景に、ふいっと目を反らす。
「にゃーはあんにゃ大食らいじゃにゃーよ…」
手元の魔石をスンスンと嗅いだパペットは、こてんと首を傾げる。
(んにゃ?この匂い…どっかで?)
疑問に思いながらも、ちびちびと魔石から魔力を舐めとるのだった。
その頃森では、既に絶命しているグロッグの体にひらひらと白いものが飛んでくる。くるくると回りを舞うそれは、白い紙で折られた折鶴だった。
♢♢♢♢♢
転移魔法時のような浮遊感の後、急激に重力を感じ、バランスを崩す。
『ぅわっ!?』
「っと!大丈夫ですか?」
隣のユーリさんに支えてもらい、なんとか体制を立て直す。
『すみません…ありがとうございます。ちょっと体が重く感じちゃって』
「いえ。恐らく体に魂が戻ってすぐだからでしょう。あまり無理はされないでください」
確かに、私はジオである男の子の体に戻っていた。体に力が入るのを確認して、離してもらっても大丈夫だと伝えようとした矢先、男性の咳払いが聞こえた。
「ゴ、っゴホン!お、おかえりユーリ。その少年が言ってた子かい?…そろそろ、離れてもいいんじゃないかな?」
「ただいま戻りました、アルフォンス王子」
『っえ?王子…様?』
ユーリさんに王子と呼ばれた、少し線の細いイケメンさん(たぶん二十歳くらい)は一歩歩み寄る。
「ローズガーデン国第2王子 アルフォンス・ムーン・ローズガーデンだ。今、君が抱きついているユーリは、僕の専属騎士、なんだけど?」
離れろ、と無言の圧力を感じ、慌ててユーリさんから距離を取る。
(え?なにこの状況?何がどーなってるのっ??)
この国の王子に睨まれるという、突然置かれた状況に戸惑うしかないのだった。
パッシャパッシャと足元の沼地をものともせず、楽しげに歩く一匹のネコ…のぬいぐるみと、付き添うように歩く黒マントとフードを被った小柄な人物。ローズガーデンを囲む森の一角、魔女門近くはこうした沼地が木々の間に点在していた。
所々からカエルの鳴き声が聞こえてくる。
「にゃ~えるのうーたーがぁ♪聞こえてくるにょ~♪にゃー♪にゃー♪にゃー♪にゃー♪うにゃうにゃうにゃうにゃ、にゃ、にゃ、にゃ~♪」
《それ、もはやカエルじゃねーだろ》
「うにゃ?たしかにそーにゃ。流石ご主人様!キレのあるつっこみにゃ!惚れ惚れするにゃ~」
自分のご主人と通信で繋がっている魔法石を掲げて、パペットのネコはゴロゴロ喉を鳴らす。
《てか、テメーはうるせーんだよ。今日はただのオマケなんだから黙ってろ》
「うにゃん!ただ森を歩いてる映像にゃんてつまんにゃいだろーにゃと思って…ごめんにゃさい。…あ!よーやく来たにゃ!」
立ち止まったパペットの横から、ガサガサと草をかき分ける音がする。
「何故私がこんな目にっ!信じられませんわっ全く…」
グチグチと文句を言いながらグロッグ・ベネディクドが現れた。
「あぁ!やっと来たのね……な、何故セブンスの姿がないのですっ?」
興奮したまま声を荒げるグロッグに、パペットは毛を逆立てる。
「ご主人様を呼び捨てにするにゃ!でっかいにゃえるのくせしてっ」
激昂し、パペットに向かって反論しようとしたグロッグは、パペットの側にいた黒マントの人物からただならぬ殺気を感じ、言葉を詰まらせる。
「にゃっ!先に約束のもにょ出すにゃ。急に呼び出しといてにゃいとは言わせないにゃ」
フンッと鼻を鳴らし、バラバラと大粒の魔石をローブの中なら落としていく。
「うにゃ~!大っきいにゃ!いっぱいにゃ!」
《…へぇ。中々の量じゃん?》
「ほほ、私を見くびらないでくださる?まだこれで全部でなくてよ?さぁ、予定は少し早まりましたけど、私をギムレットへお招きいただけますこと?ローズガーデンなんてもう懲り懲りですわ!さぁさ早く!」
《ホント、予定より早かったな。もう魔石持ってこれねーならいらねーよ、お前》
「なっ!?何を言ってますのっ?私が今までどれだけ…」
《やれ》
魔石から指示が下った直後、黒マントの人物が素早くグロッグに詰め寄る。
「くっ!?」
咄嗟に反応したグロッグが、一撃目のナイフを腕に装備していた防御の魔法具で防ぐ。キィンっと甲高い音を立ててナイフが折れたのを目視したグロッグの背中から、別の短剣が心臓を貫いた。
「がはっ!?」
黒マントからいくつもの関節がある腕が伸び、背後からグロッグを突き刺さしていたのだ。
柄まで刺さっていた短剣をずるりと引き抜く。力なく倒れこもうとするグロッグの頭を掴んだ黒マントは、絶命寸前のグロッグの首を容赦なく切り裂いた。飛び散る血飛沫。
「にゃっ!?こらっ汚いにゃ!にゃーが血で汚れちゃったらどーするにゃ!」
パペットの声には見向きもしない黒マントは、動かなくなったグロッグから残りの魔石を取り出していく。
「うにゃ、お使いは済んだにゃ。さっさとご主人様のとこ帰るにゃ!」
首元の魔石に触れると一瞬で、森から暗い洞窟のような場所へ転移する。
「ごっ主人様~!ただいまにゃ~」
飛んでくるパペットを、一人の青年はひらりとかわす。無言で近づいてきた黒マントから魔石を受け取ると、その内の一個をパペットに投げた。
「おら、これでも喰っとけ」
「にゃっ!ぅにゃ~、他人にょはあんま美味しくにゃいのにゃ…。ご主人様~、久しぶりにご主人様のが食べたいにゃぁ」
猫なで声に、セブンスと呼ばれたパペットのご主人は冷たく言い捨てる。
「テメーにやる分はねーよ。おら、こいつを見てみろ?文句言わず喰ってんじゃねーか」
セブンスの指す場所では、小さく盛られた魔石の山を黒マントが一心不乱に貪っていた。胸焼けがするような光景に、ふいっと目を反らす。
「にゃーはあんにゃ大食らいじゃにゃーよ…」
手元の魔石をスンスンと嗅いだパペットは、こてんと首を傾げる。
(んにゃ?この匂い…どっかで?)
疑問に思いながらも、ちびちびと魔石から魔力を舐めとるのだった。
その頃森では、既に絶命しているグロッグの体にひらひらと白いものが飛んでくる。くるくると回りを舞うそれは、白い紙で折られた折鶴だった。
♢♢♢♢♢
転移魔法時のような浮遊感の後、急激に重力を感じ、バランスを崩す。
『ぅわっ!?』
「っと!大丈夫ですか?」
隣のユーリさんに支えてもらい、なんとか体制を立て直す。
『すみません…ありがとうございます。ちょっと体が重く感じちゃって』
「いえ。恐らく体に魂が戻ってすぐだからでしょう。あまり無理はされないでください」
確かに、私はジオである男の子の体に戻っていた。体に力が入るのを確認して、離してもらっても大丈夫だと伝えようとした矢先、男性の咳払いが聞こえた。
「ゴ、っゴホン!お、おかえりユーリ。その少年が言ってた子かい?…そろそろ、離れてもいいんじゃないかな?」
「ただいま戻りました、アルフォンス王子」
『っえ?王子…様?』
ユーリさんに王子と呼ばれた、少し線の細いイケメンさん(たぶん二十歳くらい)は一歩歩み寄る。
「ローズガーデン国第2王子 アルフォンス・ムーン・ローズガーデンだ。今、君が抱きついているユーリは、僕の専属騎士、なんだけど?」
離れろ、と無言の圧力を感じ、慌ててユーリさんから距離を取る。
(え?なにこの状況?何がどーなってるのっ??)
この国の王子に睨まれるという、突然置かれた状況に戸惑うしかないのだった。
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女→男って。
真っ先にトイレが大変そうって、思ってしまった自分w
色々頑張って下さい、主人公。
中身OLさんなら、文書処理とか重宝されそうですねぇw
読んでいてテンポが良くて楽しいです〜
作者様頑張って下さいね(≧∇≦)ノシ
感想ありがとうございます!私もトイレ・お風呂問題は書くか否か悩みました…。
中々、タイトルの内容まで辿り着けず悪戦苦闘しております(汗 頑張りますので今後も読んでいただけたら幸いです!