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本編

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......。

「おはよう、目が覚めた?」

......。

「まだ寝ぼけてるのかな?」

目が覚めて知らない部屋にいることにプチパニックを起こしている私(佐藤絵愛)さとうえめをよそに目の前の男は私の髪を梳きながら声をかけてくる
この男を知っている。だってさっきテレビ越しにみたもん。

「....えっと。ここはどこで。今は一体どういう状況なのでしょうか.....」

「寝ぼけてるのもかわいいなぁ
ここは俺たちの家で昨日出しに行ったでしょ?」

「は?」

「もう、そろそろいい加減怒るよ?
早く起きて式場の下見に行かないといけないんだから」

なにそれ聞いてない。え?まって。なに?私昨日婚姻届なんて出してないし、そもそも会ったこともないよね⁉︎

「あの......今日は一体何月何日ですか?」

「本当にどうしたの?急に敬語だし、今日は4月10日だよ。昨日誕生日だったでしょ?だから婚姻届も出しに行ったんじゃん」

「ごめんなさいっ。自分のこと以外全く記憶がないんですっ。........あなたが俳優だってことしか知らないんですっ、会ったこともないはずなんですっ........」

やばい。自分の置かれている状況が飲み込めない。心は冷静になりつつあるのに身体は言うこと聞かなくてもう涙が出てくる。私は声を震わせながら必死に答えると目の前の男(人気俳優大神颯人おおがみはやと)は私が泣き出したのを見て涙を拭いながら慌ててるし、どうなってんの。

『あの、すみません。ぼくのせいなんです
ちょっとお時間よろしいですか』

頭の中に言葉が流れてくる。目の前の大神颯人は私を見てまだあたふたしてて、聴こえた声はちょっと幼い感じの声だった。

ーあなたのせいならちゃんと説明してよ

『わかりました。ちょっと精神お借りします』

私が心の中で反発すると急に目の前が真っ白になった。

「....ぃ。起きてください」

声が聞こえて目を開いた。そのには10歳くらいの男の子が目をうるうるさせながら座ってる。

「ごめんなさい。ぼくのせいなんです」

「えっと、さっきの声のぼくだよね?説明してもらえるかな」

なんか私がいじめたみたいじゃない、そんな顔して。言いたいことはたくさんあったけど優しい口調で聞いた。

「はい。説明させていただきます。ぼくはこの世界の神といわれる存在なんです。ぼくの仕事は魂の天界逝きをサポートすることなんですが、そのための力が信仰心という名の神力なんです。ただ、最近、現世の人々の信仰心が薄れてて....。本来の霊魂が天界逝きの直前であなたの魂と間違えられたみたいです。本当は間違いがあった場合その記憶は無くしてなかったことにするんですが、その力さえもなく......すみませんでした。」

ーいや、土下座されて謝られても。じゃあ代わりに死んだってこと?あれ?でもさっき生きてたよね?私には身に覚えのない場所(ドラマの世界)だったけど。

「謝るしかできなくてすみません。現世の貴女は死んでいるということになっています。ただ........」

「........」

「ぼくの不注意が原因なので貴女の好きなドラマのパラレル世界に転生という形をとりました。.....気に入りませんでしたか?」

ーはぁ、パラレルって本当に存在してるんだ。....待って、いま声に出してないよね?

「はい。一応神なのでそのくらいはできるんです。ごめんなさい」

私はもう驚かない。色々ありすぎて驚けない。とりあえず、理解はした。納得はしてないけど。

「じゃあ、あたしはいまどんな状況なの」

「貴女自身のステータスはほぼ変わりません。幸い、ヒロインは貴女と同じ年齢、仕事環境だったため、大神颯人との出会いから結婚まではドラマからそのまま拝借したので、大神さんは俳優ではなく貴方の会社の社長ということになります。大神さんは名前だけ現世のままですが、ステータスはドラマの社長と同じものです。要するに、貴女はドラマのヒロイン(大神絵愛)として生きてもらいます」

「......は?」

なんて前言撤回。あのドラマから拝借したってご都合主義にもほどがありませんか。

「あの....気に入りませんでしたか?」

あーほら、またうるうるしちゃったよ。

「ただ驚いたというか.....整理させて」

「はい。本当に申し訳ありませんでした。」

私の頭はすでにキャパを超えてるんだけど、とりあえず落ち着こう。

ー私は神様の手違いで死んじゃって、そのお詫びに私の好きなドラマの世界のヒロインにしてもらっていると。

チラッと神様の方を見ると物凄い勢いで首を縦に振っている。

ーで。大神颯人は主人公として存在していて、現状は私がドラマで見ていた回まで関係が進んでいると。

神様は目に涙を溜めてこちらを見ている。心を読まれてるんだからもう言わなくてもわかってるんだよね。私がどう思ってるか。

「ねぇ、質問いい?」

「はいなんなりと」

あーあー。土下座してるよ。もはや土下寝だよそれ、他の人が見たら私が悪者じゃんかぁ。はぁ。

「私がこの状況を拒んだら?」

「転生ならば、早急に現世以外の望む世界へ、ただどのような条件で転生するかは僕にもわかりません」

「それ以外の選択肢は?」

「.....あることはあるのですが」

「何?」

「ぼくのもとで一生お手伝いを。
もしくは現世を霊魂の形で彷徨うことになります」

だいたいわかった。要は、今の転生が1番平和らしいことが。というか、人として存在できるのは転生これしかないじゃん。

「そうです。ぼくのせいでごめんなさい。記憶を消さなかったのはこのことをきちんとお話しするためでもありました。もしこのままの状態を続けるのであれば、次に目覚める時にはほぼここでの記憶はなくなると思ってください。」

「え、じゃあ今までの記憶を無くしてヒロインとしての記憶に塗り替えられるってこと?」

「えぇ、その通りです。
望まれるのであれば記憶は残したままでも」

「ドラマの展開はわからないし、そのままでも支障はないのよね?」

「はい」

「じゃあもうこのままでいいじゃない」

思い出がなくなるとか嫌だし、もう半分ヤケクソだ。

「わかりました。ではこのまま記憶を継続させて頂きます。なにか困ったことがあったらまた知らせてください」

「神様、色々文句言ってごめなさい。とりあえずもう会わないことを願うわ」

「いえ、ぼくとしても精一杯のことはさせて頂きたいと思っていましたので。理解していただけただけでもありがたいです。では精神を戻させて頂きます」

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