剣拳波

jino

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ラストバトル 前編

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暗闇を照らしていた月が太陽とバトンタッチする。日の出の訪れ。しかし光が差し込むわけでもなくまだギルド内は真っ暗だ。窓がないと朝の訪れがわからないのだ。
「。。ろう 。ス。よ 次郎朝ッスよ!」
「ん?ふぁあ」
重い瞼を開けると金髪の美少女が覗き込んでいた。朝に美少女が起こしにくるイベントなんて男の憧れのはずなのだが、次郎は生返事を返してまた眠りに就いた。
「あぁ、また寝たっス!起きるっスよ!今日は決勝戦っスよ!」
肩を揺らされて漸く起き上がり、眼を擦る。
次郎が寝不足気味なのは昨夜のことが原因だろう。まだ頬が痛む。
「あら、やっと起きたのね」
「昨夜はよく眠れましたか?」
先に起きていたミレイユとレイヴンが次郎の目覚めに気づく。
「ま、まぁな。よく眠れたほうだと思う」
次郎が苦笑いを浮かべる。
「ほらぼさっとしてないで早く準備しなさい」
「誰のせいだよ。。。」
「なんか言った?」
「なんでもありません!早く準備します!!」
こうして次郎たちは決勝の朝を迎えた。
少し寝不足なのだが。




闘技場へ向かう途中。。
ウィンドウを開いて考え込むレイヴンに次郎が声をかける。
「どうした、小難しい顔して」
「あぁはい、あのゼノという男の違和感について昨日考えてみたんです。そしたら。。」
そう言うとウィンドウに表示された動画を再生する。レイヴンが昨日撮影したゼノの試合だった。
「ん?なにか解ったの?」
さっきまで話していた二人が気になって覗き込む。
「はい。たぶん私の推理なんですが、彼の動きがパターン化していることから、彼は恐らく機械だと」
生気が感じられない眼。パターン化した攻撃。確かにレイヴンの推理は辻褄があっている。
「なるほどっスね。だとしたら何故機械がこの試合に参加してるんスかね」
ラムが首をかしげる。
「恐らく誰かが差し向けたものかと。ですがあくまで推理ですから他の可能性はありますよ?」
レイヴンは微笑して推理に保険をかけた。
「ありがとなレイヴン正直に言ってくれて」
「いえいえ、仲間ですから。そうこう言っている間に着きましたよ」
次郎は首肯した。
決勝戦がいよいよ始まる。。!



「はぁ、やべっ。ドキドキしてきた」
目の前には巨大なフィールドが広がっている。そして、次郎はフィールドの入場口であと五分後には始まるであろう試合を待っていた。そう、決勝戦。
本番に緊張しやすい次郎はどうも落ち着きがなかった。すると、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「なーに緊張してんのよ。次郎らしくないわよ」
振り返るとミレイユが腕組みをして壁に凭れていた。
「いや、俺こういう状況本当に苦手なんだよぉ」
ミレイユが呆れた表情を浮かべる。しかしその後クスクスと笑った。
「何がおかしいんだよ?」
額に汗を浮かべ次郎が問い詰める。正直、心に余裕がない。
「いやぁ、次郎にもそんな一面があるなんてね」
「あー、悪かったな豆腐メンタルで」
「でも、大丈夫。次郎なら絶対勝てるわ。私が保証する」
ミレイユには珍しく可愛らしげな笑みを浮かべる。
「お、おう。ありがとな」
見惚れてないといえば嘘になるが、それくらいミレイユの笑みは女神のようだった。
「じゃあ、私戻るから。頑張りなさいよ!」
そう言い残しミレイユは観客席に戻った。
「冷やかしにきたのか知らないがお陰で身体が弛緩してきた。ありがとなミレイユ」
呟くと最後の戦いへと一歩を踏み出した。




どっと沸く歓声。その観客の眼下で対峙する二人の能力者。
始まりのゴングと同時に地を蹴った。
(相手は最強だ。無闇に攻撃を仕掛けるのはやめたほうが良さそうだ)
刹那、ゼノが肉薄する。だが、次郎は防御に徹していたため。斬撃を身を翻してかわした、はずだった。
頬から血が流れ、じんじんと痛む。
(当たっただと?完全にかわしたはずだが。。まさか、二撃目!?)
頬の血を拭う。次郎の表情は戦慄していたが、何処か嬉しそうに見えた。
「全く二撃目が見えなかったな。こりゃ苦戦しそうだ」
次郎が呟くもゼノは人形のような表情で無口なままだ。
ヒュンっ。
ゼノが再び肉薄する。腕をクロスさせ十字の斬撃を生み出す。
次郎は振り返るも逃げる素振りを見せない。その様子に動じることなくゼノは肉薄したが、次郎は向かってきた斬撃をかわすことなく正面から殴った。
拳から血が滴る。一瞬顔をしかめるが痛みに伴う成果を得られた。
ピキピキっ
ゼノの腕(ナイフ)に罅が入る。
無表情だったゼノの眉がピクリと動き、後退した。
「俺と拳を合わせて耐えられるやつなんていないからな」
拳を合わせるといっても相手は刃物なのだが。筋が違ったかもしれないが、これが一番有効な策略だと思った。
次郎が挑発するもゼノは肉薄を続ける。
横振りの斬撃をかわす。しかし二撃目がすぐにやって来る。
だが、次はかわすことができた。なぜなら。。
(やはり、こいつの攻撃はパターン化しているな)
一撃目の攻撃は場合によって変わるが、二撃目からはパターン化していた。ゼノ唯一の弱点だ。
だが、その弱点はすぐに補われた。 
次郎とゼノとの間には距離があった。だが、斬撃が次郎の肩を切り裂いていた。
「くっ。ナイフが日本刀になるなんて聞いてないぜ」
出血する肩を押さえる。
ゼノが躊躇することなく攻撃を続ける。
斬撃をかわす、かわす、かわす。
そしてついに次郎は腕(刀)を掴んだ。そして、
ぱりん。
その握力をもって腕(刀)を粉砕し、すかさず蹴りをいれた。
ゼノが吹き飛ぶ。この程度ではくたばるとは思えなかった。だが、奴は魂が抜けたかのように動かなかった。




次郎は地面に突っ伏したままのゼノを見て、呆気からんとしていた。
「にしても早くないか?」
別に決勝で苦戦したいという願望があったわけではないが、だとしても不可解であった。そんな悪い予感は見事に的中した。
「っ。誰だ?」
背後から気配を感じ、入場口に視線を向ける。するとそこから人の影が浮かび上がった。
長身に深い緑色の髪をした怪しい男だ。人を蔑むような眼をしており、闇を擬人化したようだ。
「誰だ?」
突然の乱入者に次郎は身構える。
「名乗るほどの者ではございません。」
不敵な笑みを浮かべている。
観客がざわつきはじめる。
「次郎が優勝したかと思ったら、なんなのよあの人?」
ミレイユが少し不満げに言う。
「レイヴン、なんかやばくないスか?」
「あの人が黒幕かもしれませんね。ミレイユさん、ラム、分かりますね」
三人は眼を合わせると頷いた。




「次は自分が相手だとか言わないよな」
「まさか、私はなにもしませんよ」
相変わらず怪しさが滲み出ている。
男は俯くと手を挙げた。それが何を意味しているか次郎には分からなかった。
背後に迫るゼノ。次郎がそれに気づいた時にはもう遅かった。
(まずい!間に合わない)
咄嗟に眼を閉じる。しかし後からくるはずの痛みはこなかった。おそるおそる眼を開けるとそこには、風にたなびく桜色の美しい髪があった。ゼノのナイフを押さえている光の剣が煌々としていた。
「ミレイユ!ありがとな!」
「礼は後でたっぷり言いなさい」
首肯すると次郎は押さえられているゼノをアッパーをする形で吹き飛ばす。トドメが決まった。
「ふ、ふははははは」
男が可笑しそうに笑う。不気味さに次郎とミレイユが身構える。
「それで終わったと思ったら大間違いだ」
男が両手を広げる。すると、吹き飛ばされたゼノが再び肉薄する。
「まだ生きているとはね」
すかさずミレイユが押さえ込む。
そして、接近して次郎とミレイユは気づいてしまった。ミレイユは血の気が引く感覚がわかった。
「お前、関節が逆に曲がってるじゃねぇか」
次郎が震えた声で言うがゼノは攻撃をやめない。次郎とミレイユは後退した。
「どういうことだ説明しろよ!」
「答える義理はないが、教えてあげましょう」
男がゼノの頭に手を乗せる。
「私はマリオネットのネイレンと申します。こいつは元々人間の、私の操り人形です。なにも痛みを感じません」
笑みを浮かべて言うとゼノを思いっきり殴った。かわす素振りさえみせなかったゼノはまともに受けて顔面が血だらけになっていた。
「許せません。あなたは人の自由を奪ってまで何故そんなことを」
ミレイユは憤りを露にしていた。ネイレンはミレイユが大嫌いなタイプの人間だろう。
「私の操り人形は私のものだ。行け、ゼノ」
ネイレンが指し示すと、ゼノが地を蹴った。深紅の血が宙に浮くのがわかる。ゼノの表情は無だが、どことなく虚しさがあり、次郎は殴るのを躊躇ってしまった。
その躊躇をゼノは逃さなかった。迫り来るナイフに次郎が戦慄の表情を浮かべる。
(今度こそ間に合わない、、!)
額に汗がにじむ。だが、斬撃を喰らうことはなかった。なぜなら
「なにぼさっとしてんのよ!」
「すまん、また助けられちまったなミレイユ」
ギリギギギ
劔と劔が重なる音が鳴り響く。
ミレイユの表情は強ばっており長く持ちそうもなかった。
「こいつは私が止めておくわ。だから次郎はあのどうしようもない男を倒してちょうだい」
ミレイユが次郎をちらっと見る。
次郎は逡巡したがすぐに首肯し、ネイレンを睨んだ。
「ゼノは任せた。俺が絶対あいつを倒してみせる」
そう言い残し次郎は神速をもってネイレンを殴りにかかった。
ネイレンは不気味な笑みを浮かべた。







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