【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢と美意識

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 その後は近くの大きい神社にもお参り(ここにも恋愛関係の有名なスポットがあって、ひよりちゃんは大喜びしていた)して、そのまま一路京都へ戻る。
 そののバスはさすがに皆疲れていて、大半の生徒が夢の中、って感じだ。
 私はなんだか目が冴えていて、ガイドブック片手に明日の自由行動でいただくスイーツ、そして買って帰るお土産チェックに余念がない。

(抹茶パフェは欠かせない……、でもこのほうじ茶ゼリーも捨てがたい。このカフェ、店名は銀閣寺だけど、でも銀閣寺から結構哲学の道を歩くのか)

 私の煩悩(食欲)だけで皆を振り回すわけにもいかない。スムーズなプランを決めて、今日の夕食後までに先生に提出しなくてはならない……。

 うんうんと頭を働かせていると、すぐに京都市内へ戻ってきた。有名な五重塔が左手に見えて「おー、京都っぽい」と妙に感心してしまう。
 そのまま京都駅の横を通り過ぎ、しばらく同じ通りを直進した大きなホテルに、バスは入っていく。

「はーい。みなさん起きて」

 そう言う相良先生も、眠そうな声。

「荷物を持ってロビーに集合! その後部屋割り通りに移動してもらいます」

 はーい、と少しバラバラに返事をして、ロビーで班ごとに並ぶ。
 相良先生に「大友、設楽~」と呼ばれ、眠い目をこするひよりちゃんと先生から鍵を受け取った。

「部屋に行ったら荷物を整理して、風呂入ってから7時15分に"りんどう"に集合。わかったか?」

 りんどう、とはこのホテルの2階にある広間らしい。そこで夕食だ。夕食だー!

「はぁい」

 2人で返事をして、エレベーターに並ぶ。エレベーターの前でも、別の先生がスムーズに皆が乗れるよう誘導していた。

「先生も大変だよねぇ」

 大人目線で、つい口から出た。

「だよねぇ」

 ひよりちゃんは頷いた後「でもね」とこっそり笑った。

「わたし、学校の先生になりたいんだよね」
「え、そうなの?」

 ひよりちゃんを少し見上げて聞く。

「えへ。学校ってさ、わたし、楽しくて。だから大人になっても、生徒みんなが楽しいって思えるクラスとか、作りたいなって」

 そう照れ臭そうに言うひよりちゃんは、本当に嬉しそうで。

(……中学である、って"いじめ"絶対に阻止しなきゃ)

 微笑み返しながら、私は強く心に誓う。

(こんな子が、学校嫌いになるようなこと絶対あっちゃいけない)

 絶対阻止! な思いを新たにしつつ、「ひよりちゃんいい先生になりそう」と返す。

「え、そうかな? 華ちゃんは将来の夢とかあるの?」
「……夢、夢かあ」

 私は少しだけ、ぽかんとした。

(そうだ、破滅エンド回避のために勉強は頑張ってたけど……、そっか)

 私、まだ子供なんだ。

(何にでもなれる、んだ)

 そう思うと、じわじわと心に何か喜びというか、感動に似た感情が湧いてきた。

(子供って、可能性のカタマリなんだ)

「華ちゃん?」

 一人で感動にひたっていると、不思議そうに顔をのぞきこまれた。いけないいけない。

「えと、まだ決めてない」
「そうなんだー。勉強とかすごい頑張ってるし、何か目標あるのかなって」
「大学へは行きたいなぁ、くらいかな」
「そっかぁ。あ、エレベーター来た」

 ちょうどエレベーターがやってきて、私たちはそれに乗り込む。
 ホテルの部屋は普通のツインで、ユニットバス付き。でもシャワーは使っちゃいけなくて、皆で大浴場へ行くしくみ。

(前世の頃の修学旅行とは全然違うなぁ)

 小学校の修学旅行なんか、大部屋みたいなとこで雑魚寝させられたけど。
 まぁ学校による、だけなのかもしれない。

「いちいちめんどくさーい。部屋のお風呂でいーじゃんねぇ?」
「え、おっきいお風呂楽しみじゃない?」
「そりゃ家族旅行とかならね。でもほら、みんなにカラダ見られたりすんの、恥ずかしいじゃん」
「あ」

(すっかり忘れてた)

 身体を見られる、ってことじゃなくて、身体を見られるのが恥ずかしい、って感覚、すっかり忘れてた。

(アラサーともなると、温泉地とかにもすっかり慣れきってましてね……)

 いやいつまでも恥ずかしい、って人もいると思うんだけど、まぁ周りを見てみても年齢を重ねるごとに堂々となっていきますよねっていう……いいんだか悪いんだか。まぁ生きやすくはなるかな?

「ま、華ちゃんほっそいしスタイルいいもん、そんなに気にならないか」
「え、スタイルいいのはひよりちゃんのほうじゃん」

 背が高くて、細くて。羨ましい。

(ま、私たち悪役令嬢だもんね。そこそこスペック高めよね、見た目は)

 こっそりとそう思う。まだ体型維持にそう努力が必要な年齢じゃないし。

「そういえば、わたし華ちゃんと裸のお付き合いって初めて」
「はだか?」
「や、ほら去年、華ちゃん転校してくる前に林間学校とかあったからさ。こういうお泊まりアリの行事初めてだなって」
「あ、そういやそうだね」
「お手柔らかにね」
「あは、なにそれ」

 笑いながら大浴場へ向かう。
 大浴場の入り口、脱衣所にそれぞれ女の先生がジャージ姿で立っていた。おそらく浴場にもいる。

(やっぱ先生って大変)

 いつお風呂入るんだろ、と脱衣所で服を脱ぎつつ考えた。

(自分が小学生の時は考えもしなかったなぁ)

 いや他の子は考えてたのかもしれない、とちょっと反省しつつ、とりあえず上の服を脱ぐ。

「え、てか設楽さん、やばい」

 ぼけっとしていると、隣で服を脱いでいた、同じクラスの女の子に話しかけられる。

「服着てたらさぁ、目立たないけど。胸、でかっ」
「あ、ほんとだ」

 ひよりちゃんも驚いたようにこちらを見る。とりあえずタオルで隠してみた。

「え? あ」

(てか、そ、そうなの?)

 考え方が大人基準なので、まだそうでもないと思っていたお胸、そうか君は小6にしては発達していたのか……。
 ちょっとアワアワとしていると、何人かの子が集まってきた。

「設楽ちゃんさ、スポブラ?」
「あ、うん」

 その内のひとりが首を傾げて聞いてきた。サバサバしてる、ちょっとみんなのお姉様タイプの子。

「じゃあもうそろそろ、普通のブラにした方がいいよ。あたしも同じくらいだけど、下着屋さんのおねーさんに形崩れますよって脅された」
「か、かたち」

(そ、そうなの!? 若いのに!)

 前世は平均的だったので、小学生でそこまでとは考えがつかなかった。

「知らなかったー。帰ったら買いに行くよ。ありがとう」

 微笑んでお礼を言うと「とりあえずスポブラでもちゃんと付けるやり方教えてあげる」とキリッとした目で言われた。

「え、い、いいよ」
「ダメ。垂れる」

(び、美意識……)

 女子小学生の美意識に圧倒され、言われるがままにもう一度スポブラを付け直す。

「そう、そこ寄せて。えとね、ごめんちょっと触るね」

 ぐいー、と胸をあげられる。

「とりあえずこれで」
「おお」
「すごい」

 私を囲んでいた何人かからか、拍手が出る。

(うわぁ)

 小学生ながら、ささやかな谷間ができている。

「すごい」
「これがちゃんと支えられてる状態だから! 気をつけてね! 設楽ちゃん素材は一級品なのに損してるから。色々と」
「そ、損」
「それは美に対するボートクだから」
「冒涜」

 誰かの受け売りなのだろうか、しかしその子はキリッと告げて「じゃ、お風呂入ろっか」と笑った。
 私はもう一度スポブラを脱いで、残りの服も脱ぎ、身体をしっかり洗ってから湯船につかる。
 ふうー、と温かいお湯に癒しを感じながら「女子小学生おそるべし……」とぽつりと呟いた。
 だって前世の私、完全に美意識、小学生に負けてるもんな……。切なっ。
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