【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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悪役令嬢は先生を叱る

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 翌朝は晴天。

「うわぁ華ちゃん見て、駅まで可愛いっ」
「あ、ほんと」

 伏見稲荷駅は駅からして千本鳥居っぽくなっている。朱色の柱が並んでいて、すごく雰囲気があった。

「京都感すごい~」

 ひよりちゃんは大はしゃぎだ。秋月くんもスマホでぱしゃぱしゃ撮ってるし(さりげなくひよりちゃんを入れている角度なのは見逃してないぞお姉さんは)黒田くんも面白そうな顔でみている。

 修学旅行2日目の今日、終日(と言っても、17時にはホテルに戻らなくてはいけない)自由行動の日なのだ。
 清水寺は明日みんなでまわるので、今日はそれ以外、ということで伏見稲荷大社。

(見てみたかったんだよねー、千本鳥居)

 ガイドブックとか見てもきれいだし、いなり寿司美味しそうだし、ひよりちゃんが喜ぶと思われる「お願いが叶う石」的なのもあり。

(あとは美味しいスイーツでもあれば、……ん?)

 改札を出たところで、手を振る相良先生がいた。
 誰かと電話をしていたらしいが、すぐに何かを言って通話を切っていた。

「あれ、相良先生」
「俺たちが先に出たのに」

 不思議そうなひよりちゃんと秋月くん。
 相良先生は少し笑った。

「君たち、地下鉄からの乗り換えで迷ってたでしょ? その時に追い抜いたんだ」
「えー、言ってくれたらスムーズに来れたのに」

 口を尖らせるひよりちゃん。

「だめだめ、迷うのも自由行動の醍醐味」

 そう言って笑う相良先生は、相変わらずビジネスバッグを持っている。個人情報満載の、マズイやつ。

(今日は肩にかけないのかな?)

 私の視線に気づいたのか、相良先生は眉を下げて「や、これ、金具が壊れちゃって」と言い訳するように言った。

「あ、ほんとだ」

 ショルダーベルトを付ける部分が、折れていた。

「ほんと気をつけてくださいね?」
「うんうん、大丈夫大丈夫」

 にこにこと笑う相良先生。

「てか、なんで先生ここに?」
「あは、秋月くん聞いてませんでしたね?」

 先生は指をぴんと立てて言った。

「生徒さんたちが多く訪れるスポットは、先生たちが見回ってますからね、って言ったでしょ」
「あ、そういえば」

(やっぱり先生ってたいへん)

 改めてそう思いなおした、その時。
 改札から出てきた男の人が、先生にぶつかった。少し蒸し暑いくらいなのに、きっちり三つ揃いのスーツ、それにサングラス。
 2人のカバンが地面に落ちる。どちらも似たようなビジネスバッグ。

「あ、すみません」
「や、こちらこそ失敬」

 急いでいたらしく、男の人はサッとカバンを拾い上げて行ってしまった。

「え、先生大丈夫? パソコンでしょ中身」

 私は少し慌てて言った。

「大丈夫大丈夫、丈夫なケースにいれてあるから」
「一応中身確認したほうがいいんじゃないスか」

 黒田くんも少し心配そうだ。

(何せ、ほんとに先生っておっちょこちょいだからなぁ)

「そう? じゃあまあ、一応」

 先生はカバンを開けて、それから目をこれでもかと見開いて、男の人が行ってしまったほうを見て、またカバンの中身を見た。

「え、先生……?」

 その時、私は気づいてしまった。

(カバンの金具、壊れてない!)

 つまり。

「カバン……入れ違っちゃった、みたい」

 先生は呆然としながら言った。

「ウッソだろおい、俺追いかけてくるわ」

 黒田くんが駆け出す。秋月くんも慌てたように続いた。

「……何が入ってたの?」

 ひよりちゃんは不思議そうに私と先生を交互に見た。
 相良先生は、しばらく目をぱちくりしたあと「やっちゃったなぁ……」とのんびり呟いた。

(まったくこの人は!)

 一度はっきり言ってやらないと、と手を腰に当て先生に向き直る。

「先生」
「……はい」
「今回は、おっちょこちょいじゃ済まされませんよ」
「せやせや」
「だいたい、管理の仕方にも問題がありましたよね?」
「ほんまやで、何か知らんけど」
「個人情報を……ん?」
「どないしたんや華」
「どないした、て」

 声の方を振り返る。

「……、アキラくん?」
「せやで! よっしゃ、気づかんかったやろ!?」
「なんで!?」
「いや、みかけたから。地下鉄の三条で。付いてきてん」
「えぇ……!?」
「ビックリさせよ思て」

(そもそもなぜ神戸市民のはずのアキラくんが京都に……!?)

 色々と混乱して二の句が継げない私に、ひよりちゃんが「何このイケメン、華ちゃんの友達!?」と少しばかりテンションを上げて聞いてくる。

「え、あ、うん。神戸の友達……って、なんで京都に!?」
「ばあちゃんちが京都や言うたやろ。ばあちゃんち、商売やってんねんけど、今日の夜でっかいイベントみたいなんやんねん。その手伝いでガッコ休んで来てん」
「え、あ、そうなの」

 呆然と返事をする。

「あの、こんにちは?」
「おう、華の友達さんめんそーれ京都」
「それ沖縄……って、ひよりです。大友ひより。よろしくね」
「ひよりちゃんか、華の友達なだけあって美人さんやなー、やっぱ」
「単刀直入に聞きます。何年?」
「5年」
「あー、年下かぁっ」

 ものすごく悔しそうに頭をかかえるひよりちゃん。

「なに、年下あかんの?」
「うん、同じ歳か上じゃないとダメなのわたし」
「えー、そうなん、そら残念やわ」

 ジーンズのポケットに親指だけを突っ込んで、からからと笑うアキラくん。

「華は?」

 それから私の方を見て少し首を傾げた。

「なにが?」
「年下、あかん?」
「? ううん、別に。好きならいいんじゃない」
「せやんなー、愛があればええやんなー」

 アキラくんはものすごく嬉しそうに笑った。

「あ」

 ひよりちゃんがぽん、と手を叩く。

「そういうこと?」
「そーゆーことやで」

 謎に会話が成り立っている。

(え、なにが?)

 私が首をひねってる間にも、2人は会話を進めていく。

「協力してくれへん?」
「残念、先約済み」
「まじか。健クン?」
「あ、タケル知ってんの? イトコ、あいつ」
「まじかー、そらあかんわ。しゃあない」

 アキラくんは肩をすくめて私を見て、「一人やけど諦めんと頑張るわ、俺」と笑った。
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