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分岐・山ノ内瑛
サインボールの思い出
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「すみません、乗せてもらっちゃって」
「えーねんえーねん、どーせ今日は応援行く気やったんや」
光希さんが運転する車で、私は昨日と同じ体育館へ向かっていた。
「何時の新幹線乗るん?」
「えーと、さすがに遅くなると心配されそうなんで、15時くらいのには乗れたらなと」
「りょーかい」
光希さんは笑って言って、ちょうどすぐに体育館の駐車場に着いた。
「あ、案外近いんですね」
「山抜けたらすぐなんや」
駐車場で降りて、体育館へ向かう。グラウンドや野球場も併設されていて、すごく大きい。
「プロ野球の試合もあんねんで」
「へぇ」
有名な選手も、国内で練習するときはこの近くの練習場まで来るらしい。
テレビもインターネット環境もない私は、残念ながらなんとなくしかその人のことを知らなかったけれど。
「まだ日本でプレーしてた時、わたし小さくてあんまよお覚えてないねんけど、試合見に行ったらしいんやな」
光希さんは、少し懐かしそうに話し始めた。
「したら、その選手、ボール投げてくれたらしいんや。わたしに。ま、わたしにやって母さんは言うねんけど、ちゃうかもしれんけど。したら父さんが取ろうとして弾いてしまって、ボール貰われへんかったんや。未だに母さんめっちゃ父さん恨んでるわ、ファンやったから」
サインボールやったんや、と光希さんはちょっと惜しそうに言う。
「何年か前かなぁ、この話になってん。したらさ、瑛さ、100均で小さいバスケのボール買って来てサインして母さんにあげてん。その選手のより、絶対こっちのが高くなるから持っときやって。アホやろ」
「あは、アキラくんっぽいです」
「母さんも謎の人やからな、やけに感動したらしくてな、リビングに飾ってあるわ」
「え、気づきませんでした」
「ほなまた見たげて」
光希さんは「2人ともアホやろ」なんて笑うけど、その笑顔からは2人のことが大好きなんだなっていうのが伝わってくる。その笑顔は、お母さんにも、アキラくんにも似ている。
(いいなー)
あったかい家族だと思う。
(まぁ私だって、敦子さんも優しいし面白いし、圭くんは最高だし)
家族自慢大会が始まっちゃいそうなので、それを言うのは自粛する。
「ふふふ」
家族自慢大会を想像して、ちょっと笑ってしまうと、光希さんは不思議そうにこちらを見た。変な子だと思われちゃったかな。
体育館の入り口で、アキラくんの学校の人たちが集まっているのが見えた。
私を見て「アレ」って顔をする人たちがちらほら。あれ、昨日応援目立っちゃったかな? 隅っこにいたつもりなんだけど。
ひょこっとアキラくんが顔を出して、嬉しそうに手を振って来るので微笑んで振り返す。がんばってねって思いを込める。
「なんでや」
先輩っぽい人がそう言って、アキラくんは軽く小突かれている。アキラくんは「いやいやいや、俺のせいやないやないっすか、先輩がモテへんの」なんて言って笑っている。
「楽しそうやな」
光希さんは笑って、自分もアキラくんに手を振ってから、私を連れて応援席へ向かった。
「華ちゃんてバスケ詳しいん?」
「や、全然……、最近なんとなくルール分かってきたくらいで。光希さんは詳しいんですか?」
あんだけバスケやってるアキラくんが家にいるのだから、自然と詳しくなりそうなものだけど。
「や、ぜーんぜん」
「え、そうなんですか」
「なんとなーく応援してるわ毎回。なんとなーく。学校の授業程度のルールしか分からへん」
「へぇ」
「だいたいでええねん、だいたいで」
光希さんはそう言って笑いながら、カバンからカメラを取り出した。
「一眼レフ?」
ものすごい長いレンズも取り出して、カメラに取り付けている。
「せやねん、写真くらい撮っといてやらんと拗ねるやろあいつ」
「いや、はぁ」
それにしても超本格的だ。
(なんやかんや、この人ブラコンなのかも)
なんて、ちょっと思って笑ってしまう。
「あ。すみません、私お手洗いに」
「はーい、多分階段降りたとこやで」
そう言われてトイレへ向かって……私はパタパタと応援席に戻った。
「あ、あの、光希さん、その、アレ持ってません?」
「アレ? あー、はいはい、持ってる持ってる、どーぞ」
光希さんは笑ってポーチを貸してくれて、私はそれを片手にまたパタパタとトイレに戻る。
(ま、まさかのこのタイミングでっ)
そういえばちょっとお腹痛かった。
(もう中2だもんなぁ)
いつ来てもおかしくなかったのだ。
とはいえ、中身は良い年なのでそこまでショックとかはない。ただ、またコレに振り回されるのかぁと思うと少し憂鬱。
(くそー、なぜ女にだけっ)
ちょっと理不尽に思いつつ席に戻ると、光希さんは「大丈夫?」と少し心配そうに言ってくれた。
「お腹痛ない?」
「あ、はい、大丈夫です」
ポーチを返しながらそう言うと「痛み止めあるからなんかあったら言うてや」と光希さんは微笑んでくれた。
「えーねんえーねん、どーせ今日は応援行く気やったんや」
光希さんが運転する車で、私は昨日と同じ体育館へ向かっていた。
「何時の新幹線乗るん?」
「えーと、さすがに遅くなると心配されそうなんで、15時くらいのには乗れたらなと」
「りょーかい」
光希さんは笑って言って、ちょうどすぐに体育館の駐車場に着いた。
「あ、案外近いんですね」
「山抜けたらすぐなんや」
駐車場で降りて、体育館へ向かう。グラウンドや野球場も併設されていて、すごく大きい。
「プロ野球の試合もあんねんで」
「へぇ」
有名な選手も、国内で練習するときはこの近くの練習場まで来るらしい。
テレビもインターネット環境もない私は、残念ながらなんとなくしかその人のことを知らなかったけれど。
「まだ日本でプレーしてた時、わたし小さくてあんまよお覚えてないねんけど、試合見に行ったらしいんやな」
光希さんは、少し懐かしそうに話し始めた。
「したら、その選手、ボール投げてくれたらしいんや。わたしに。ま、わたしにやって母さんは言うねんけど、ちゃうかもしれんけど。したら父さんが取ろうとして弾いてしまって、ボール貰われへんかったんや。未だに母さんめっちゃ父さん恨んでるわ、ファンやったから」
サインボールやったんや、と光希さんはちょっと惜しそうに言う。
「何年か前かなぁ、この話になってん。したらさ、瑛さ、100均で小さいバスケのボール買って来てサインして母さんにあげてん。その選手のより、絶対こっちのが高くなるから持っときやって。アホやろ」
「あは、アキラくんっぽいです」
「母さんも謎の人やからな、やけに感動したらしくてな、リビングに飾ってあるわ」
「え、気づきませんでした」
「ほなまた見たげて」
光希さんは「2人ともアホやろ」なんて笑うけど、その笑顔からは2人のことが大好きなんだなっていうのが伝わってくる。その笑顔は、お母さんにも、アキラくんにも似ている。
(いいなー)
あったかい家族だと思う。
(まぁ私だって、敦子さんも優しいし面白いし、圭くんは最高だし)
家族自慢大会が始まっちゃいそうなので、それを言うのは自粛する。
「ふふふ」
家族自慢大会を想像して、ちょっと笑ってしまうと、光希さんは不思議そうにこちらを見た。変な子だと思われちゃったかな。
体育館の入り口で、アキラくんの学校の人たちが集まっているのが見えた。
私を見て「アレ」って顔をする人たちがちらほら。あれ、昨日応援目立っちゃったかな? 隅っこにいたつもりなんだけど。
ひょこっとアキラくんが顔を出して、嬉しそうに手を振って来るので微笑んで振り返す。がんばってねって思いを込める。
「なんでや」
先輩っぽい人がそう言って、アキラくんは軽く小突かれている。アキラくんは「いやいやいや、俺のせいやないやないっすか、先輩がモテへんの」なんて言って笑っている。
「楽しそうやな」
光希さんは笑って、自分もアキラくんに手を振ってから、私を連れて応援席へ向かった。
「華ちゃんてバスケ詳しいん?」
「や、全然……、最近なんとなくルール分かってきたくらいで。光希さんは詳しいんですか?」
あんだけバスケやってるアキラくんが家にいるのだから、自然と詳しくなりそうなものだけど。
「や、ぜーんぜん」
「え、そうなんですか」
「なんとなーく応援してるわ毎回。なんとなーく。学校の授業程度のルールしか分からへん」
「へぇ」
「だいたいでええねん、だいたいで」
光希さんはそう言って笑いながら、カバンからカメラを取り出した。
「一眼レフ?」
ものすごい長いレンズも取り出して、カメラに取り付けている。
「せやねん、写真くらい撮っといてやらんと拗ねるやろあいつ」
「いや、はぁ」
それにしても超本格的だ。
(なんやかんや、この人ブラコンなのかも)
なんて、ちょっと思って笑ってしまう。
「あ。すみません、私お手洗いに」
「はーい、多分階段降りたとこやで」
そう言われてトイレへ向かって……私はパタパタと応援席に戻った。
「あ、あの、光希さん、その、アレ持ってません?」
「アレ? あー、はいはい、持ってる持ってる、どーぞ」
光希さんは笑ってポーチを貸してくれて、私はそれを片手にまたパタパタとトイレに戻る。
(ま、まさかのこのタイミングでっ)
そういえばちょっとお腹痛かった。
(もう中2だもんなぁ)
いつ来てもおかしくなかったのだ。
とはいえ、中身は良い年なのでそこまでショックとかはない。ただ、またコレに振り回されるのかぁと思うと少し憂鬱。
(くそー、なぜ女にだけっ)
ちょっと理不尽に思いつつ席に戻ると、光希さんは「大丈夫?」と少し心配そうに言ってくれた。
「お腹痛ない?」
「あ、はい、大丈夫です」
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