【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
138 / 702
分岐・山ノ内瑛

サインボールの思い出

しおりを挟む
「すみません、乗せてもらっちゃって」
「えーねんえーねん、どーせ今日は応援行く気やったんや」

 光希さんが運転する車で、私は昨日と同じ体育館へ向かっていた。

「何時の新幹線乗るん?」
「えーと、さすがに遅くなると心配されそうなんで、15時くらいのには乗れたらなと」
「りょーかい」

 光希さんは笑って言って、ちょうどすぐに体育館の駐車場に着いた。

「あ、案外近いんですね」
「山抜けたらすぐなんや」

 駐車場で降りて、体育館へ向かう。グラウンドや野球場も併設されていて、すごく大きい。

「プロ野球の試合もあんねんで」
「へぇ」

 有名な選手も、国内で練習するときはこの近くの練習場まで来るらしい。
 テレビもインターネット環境もない私は、残念ながらなんとなくしかその人のことを知らなかったけれど。

「まだ日本でプレーしてた時、わたし小さくてあんまよお覚えてないねんけど、試合見に行ったらしいんやな」

 光希さんは、少し懐かしそうに話し始めた。

「したら、その選手、ボール投げてくれたらしいんや。わたしに。ま、わたしにやって母さんは言うねんけど、ちゃうかもしれんけど。したら父さんが取ろうとして弾いてしまって、ボール貰われへんかったんや。未だに母さんめっちゃ父さん恨んでるわ、ファンやったから」

 サインボールやったんや、と光希さんはちょっと惜しそうに言う。

「何年か前かなぁ、この話になってん。したらさ、瑛さ、100均で小さいバスケのボール買って来てサインして母さんにあげてん。その選手のより、絶対こっちのが高くなるから持っときやって。アホやろ」
「あは、アキラくんっぽいです」
「母さんも謎の人やからな、やけに感動したらしくてな、リビングに飾ってあるわ」
「え、気づきませんでした」
「ほなまた見たげて」

 光希さんは「2人ともアホやろ」なんて笑うけど、その笑顔からは2人のことが大好きなんだなっていうのが伝わってくる。その笑顔は、お母さんにも、アキラくんにも似ている。

(いいなー)

 あったかい家族だと思う。

(まぁ私だって、敦子さんも優しいし面白いし、圭くんは最高だし)

 家族自慢大会が始まっちゃいそうなので、それを言うのは自粛する。

「ふふふ」

 家族自慢大会を想像して、ちょっと笑ってしまうと、光希さんは不思議そうにこちらを見た。変な子だと思われちゃったかな。
 体育館の入り口で、アキラくんの学校の人たちが集まっているのが見えた。
 私を見て「アレ」って顔をする人たちがちらほら。あれ、昨日応援目立っちゃったかな? 隅っこにいたつもりなんだけど。
 ひょこっとアキラくんが顔を出して、嬉しそうに手を振って来るので微笑んで振り返す。がんばってねって思いを込める。

「なんでや」

 先輩っぽい人がそう言って、アキラくんは軽く小突かれている。アキラくんは「いやいやいや、俺のせいやないやないっすか、先輩がモテへんの」なんて言って笑っている。

「楽しそうやな」

 光希さんは笑って、自分もアキラくんに手を振ってから、私を連れて応援席へ向かった。

「華ちゃんてバスケ詳しいん?」
「や、全然……、最近なんとなくルール分かってきたくらいで。光希さんは詳しいんですか?」

 あんだけバスケやってるアキラくんが家にいるのだから、自然と詳しくなりそうなものだけど。

「や、ぜーんぜん」
「え、そうなんですか」
「なんとなーく応援してるわ毎回。なんとなーく。学校の授業程度のルールしか分からへん」
「へぇ」
「だいたいでええねん、だいたいで」

 光希さんはそう言って笑いながら、カバンからカメラを取り出した。

「一眼レフ?」

 ものすごい長いレンズも取り出して、カメラに取り付けている。

「せやねん、写真くらい撮っといてやらんと拗ねるやろあいつ」
「いや、はぁ」

 それにしても超本格的だ。

(なんやかんや、この人ブラコンなのかも)

 なんて、ちょっと思って笑ってしまう。

「あ。すみません、私お手洗いに」
「はーい、多分階段降りたとこやで」

 そう言われてトイレへ向かって……私はパタパタと応援席に戻った。

「あ、あの、光希さん、その、アレ持ってません?」
「アレ? あー、はいはい、持ってる持ってる、どーぞ」

 光希さんは笑ってポーチを貸してくれて、私はそれを片手にまたパタパタとトイレに戻る。

(ま、まさかのこのタイミングでっ)

 そういえばちょっとお腹痛かった。

(もう中2だもんなぁ)

 いつ来てもおかしくなかったのだ。
 とはいえ、中身は良い年なのでそこまでショックとかはない。ただ、またコレに振り回されるのかぁと思うと少し憂鬱。

(くそー、なぜ女にだけっ)

 ちょっと理不尽に思いつつ席に戻ると、光希さんは「大丈夫?」と少し心配そうに言ってくれた。

「お腹痛ない?」
「あ、はい、大丈夫です」

 ポーチを返しながらそう言うと「痛み止めあるからなんかあったら言うてや」と光希さんは微笑んでくれた。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...