【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・山ノ内瑛

銀杏の葉

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 ちょっとずつ、肌寒い季節になってきている。
 私とアキラくんは、やっぱり裏門近くの、人が来なくてあまり風の当たらないところにくっついて並んで、金色に光る銀杏の葉を眺めながら昼休みを過ごしていた。
 秋の高い青空と濃い黄色のコントラストはとても綺麗で、ついボケーっと眺めてしまう。

「あんな」
「なに?」

 アキラくんが口を開いて、私は首を傾げた。

「健クンがやな」
「うん?」

 黒田くん?

「俺んとこ来たんや、こないだ。放課後に」
「え、なんで?」
「大事にせえ言われたわ」
「? なにを?」

 私の質問には答えず、アキラくんはただ笑った。

「……大事にしとるわって答えたわ」
「ふうん?」
「華は気にせんでええよ。一応言っとこ思うただけ」
「ふーん?」
「ええねん」

 アキラくんはただ笑って、私の手を握った。それから、また空を見上げる。

「せやけど、イチョウって漢字やと銀って入るけど、金色やんな」

 全然違う話。もうさっきの話はおしまい、ってことなんだろう。

「あ、ほんとだね」
「謎やわ~。調べてみよ」

 アキラくんはスマホをぽちぽちと触り、私はそれを覗き込む。

「あ」
「あー、なんや、ギンナンの方な」
「確かにあれは銀色、といえば銀色」

 そして顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。ほんと下らないことしてると思うけど、アキラくんとなら何だって楽しい。
 ふと検索サイトのニュース一覧を見て、私は首をかしげる。うちにはテレビも新聞もないので、ニュースをよく知らないのだ。

「女子中学生連続失踪事件?」
「あー。これな。おとんの話やと、九州から始まって関西、中部と来て神奈川らしいわ」

 夏あたりから始まったらしい。

「なんでだろうね?」
「気をつけなあかんで華」

 心配気なアキラくん。

「ん、大丈夫」

 私は微笑む。

(だって、護衛の人たち、まだいるらしいからね)

 圭くんいわく、だけど。
 とはいえ、敦子さんとは、なんとなく普段通りの雰囲気になってきている。
 ギスギスしてるのはやだし、敦子さんが私のことを思ってくれているのも、分かる。……分からないではない、くらいの感覚だけど。
 情緒的には、なんだか中学生寄りな昨今だけど、それでも大人の分別はまだ、ちゃんとある。
 真さんの話も合わせると、要は大人の世界のゴタゴタに巻き込まれちゃったわけか、と思う。

(駆け落ち、かあ)

 アキラくんはそう言ってくれてる。今は現実感ないけど、……ほんとにそうしなきゃいけない日も、来るのかもしれない。

(巻き込んじゃっていいのかな)

 好きだから、だからこそ離れなきゃいけないこともあるのかな、とも思う。傷つけたくないから。
 ふと黙り込んだ私の手を、アキラくんがにぎる。

「? アキラくん」
「なぁ、華、俺のこと巻き込みたくないとか思うとらん?」
「え、あ」
「華」

 アキラくんはその手を私の頬に添える。

「巻き込まれたいんや、俺は。部外者で指くわえて見てるより、華と一緒に傷つきたいんや」

 おでこに唇を落とす。

「あかん? 俺、その方が幸せなんやけど」
「でも、アキラくんに傷ついて欲しくないってのは私の本心なんだよ」
「そんなんしらーん」

 アキラくんの唇は色んなところに降ってくる。頬、こめかみ、頭、鼻。

「勝手だよ」

 私は少し赤くなりながら言う。勝手なのは、巻き込んでおきながら、それに甘えてる私自身、なんだけど。

「勝手やで俺は。自分勝手なんや」
「そんなこと、ないと思うけど。勝手なのは、私の方」
「華、もうな、あんま抵抗すなや。無駄やで、俺は俺の好きなようにしかせえへん」

 そう言った唇は、私の唇にふと触れて、すぐに離れた。

「……なぁ、その顔反則やで華」
「どうして」
「そんな寂しいって顔されたら、またちゅーしてまうやん」

 そう言いながら、もう一度、アキラくんはそっと唇を寄せた。今度は、ほんの少しだけ深く。

「華の甘えたさん」

 からかうように言う言葉に、私は笑って頷く。

「うん」
「ほんま可愛い」

 こつん、とおでこを合わせてアキラくんと微笑みあう。

「俺も甘えたさんやから、甘えてええ?」
「うん」

 頷くと、アキラくんはぎゅうっと私を抱きしめた。

「幸せなろうなぁ、華。今もじゅうぶん幸せやけど、もっともっと幸せなろうな」
「……うん」

 私もぎゅうっとアキラくんを抱きしめ返す。

(こういうとこ、好きだな)

 幸せにする、とかじゃなくて、幸せになろうなって言ってくれるところ。
 うまく言葉じゃ表現できない。
 アキラくんの肩越しに、銀杏が光る。
 青空とのコントラストのせいだろうか。その葉は、やたらと眩しく光って見えて、あまりに綺麗で、私は目を離せなくなる。
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