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分岐・山ノ内瑛
銀杏の葉
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ちょっとずつ、肌寒い季節になってきている。
私とアキラくんは、やっぱり裏門近くの、人が来なくてあまり風の当たらないところにくっついて並んで、金色に光る銀杏の葉を眺めながら昼休みを過ごしていた。
秋の高い青空と濃い黄色のコントラストはとても綺麗で、ついボケーっと眺めてしまう。
「あんな」
「なに?」
アキラくんが口を開いて、私は首を傾げた。
「健クンがやな」
「うん?」
黒田くん?
「俺んとこ来たんや、こないだ。放課後に」
「え、なんで?」
「大事にせえ言われたわ」
「? なにを?」
私の質問には答えず、アキラくんはただ笑った。
「……大事にしとるわって答えたわ」
「ふうん?」
「華は気にせんでええよ。一応言っとこ思うただけ」
「ふーん?」
「ええねん」
アキラくんはただ笑って、私の手を握った。それから、また空を見上げる。
「せやけど、イチョウって漢字やと銀って入るけど、金色やんな」
全然違う話。もうさっきの話はおしまい、ってことなんだろう。
「あ、ほんとだね」
「謎やわ~。調べてみよ」
アキラくんはスマホをぽちぽちと触り、私はそれを覗き込む。
「あ」
「あー、なんや、ギンナンの方な」
「確かにあれは銀色、といえば銀色」
そして顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。ほんと下らないことしてると思うけど、アキラくんとなら何だって楽しい。
ふと検索サイトのニュース一覧を見て、私は首をかしげる。うちにはテレビも新聞もないので、ニュースをよく知らないのだ。
「女子中学生連続失踪事件?」
「あー。これな。おとんの話やと、九州から始まって関西、中部と来て神奈川らしいわ」
夏あたりから始まったらしい。
「なんでだろうね?」
「気をつけなあかんで華」
心配気なアキラくん。
「ん、大丈夫」
私は微笑む。
(だって、護衛の人たち、まだいるらしいからね)
圭くんいわく、だけど。
とはいえ、敦子さんとは、なんとなく普段通りの雰囲気になってきている。
ギスギスしてるのはやだし、敦子さんが私のことを思ってくれているのも、分かる。……分からないではない、くらいの感覚だけど。
情緒的には、なんだか中学生寄りな昨今だけど、それでも大人の分別はまだ、ちゃんとある。
真さんの話も合わせると、要は大人の世界のゴタゴタに巻き込まれちゃったわけか、と思う。
(駆け落ち、かあ)
アキラくんはそう言ってくれてる。今は現実感ないけど、……ほんとにそうしなきゃいけない日も、来るのかもしれない。
(巻き込んじゃっていいのかな)
好きだから、だからこそ離れなきゃいけないこともあるのかな、とも思う。傷つけたくないから。
ふと黙り込んだ私の手を、アキラくんがにぎる。
「? アキラくん」
「なぁ、華、俺のこと巻き込みたくないとか思うとらん?」
「え、あ」
「華」
アキラくんはその手を私の頬に添える。
「巻き込まれたいんや、俺は。部外者で指くわえて見てるより、華と一緒に傷つきたいんや」
おでこに唇を落とす。
「あかん? 俺、その方が幸せなんやけど」
「でも、アキラくんに傷ついて欲しくないってのは私の本心なんだよ」
「そんなんしらーん」
アキラくんの唇は色んなところに降ってくる。頬、こめかみ、頭、鼻。
「勝手だよ」
私は少し赤くなりながら言う。勝手なのは、巻き込んでおきながら、それに甘えてる私自身、なんだけど。
「勝手やで俺は。自分勝手なんや」
「そんなこと、ないと思うけど。勝手なのは、私の方」
「華、もうな、あんま抵抗すなや。無駄やで、俺は俺の好きなようにしかせえへん」
そう言った唇は、私の唇にふと触れて、すぐに離れた。
「……なぁ、その顔反則やで華」
「どうして」
「そんな寂しいって顔されたら、またちゅーしてまうやん」
そう言いながら、もう一度、アキラくんはそっと唇を寄せた。今度は、ほんの少しだけ深く。
「華の甘えたさん」
からかうように言う言葉に、私は笑って頷く。
「うん」
「ほんま可愛い」
こつん、とおでこを合わせてアキラくんと微笑みあう。
「俺も甘えたさんやから、甘えてええ?」
「うん」
頷くと、アキラくんはぎゅうっと私を抱きしめた。
「幸せなろうなぁ、華。今もじゅうぶん幸せやけど、もっともっと幸せなろうな」
「……うん」
私もぎゅうっとアキラくんを抱きしめ返す。
(こういうとこ、好きだな)
幸せにする、とかじゃなくて、幸せになろうなって言ってくれるところ。
うまく言葉じゃ表現できない。
アキラくんの肩越しに、銀杏が光る。
青空とのコントラストのせいだろうか。その葉は、やたらと眩しく光って見えて、あまりに綺麗で、私は目を離せなくなる。
私とアキラくんは、やっぱり裏門近くの、人が来なくてあまり風の当たらないところにくっついて並んで、金色に光る銀杏の葉を眺めながら昼休みを過ごしていた。
秋の高い青空と濃い黄色のコントラストはとても綺麗で、ついボケーっと眺めてしまう。
「あんな」
「なに?」
アキラくんが口を開いて、私は首を傾げた。
「健クンがやな」
「うん?」
黒田くん?
「俺んとこ来たんや、こないだ。放課後に」
「え、なんで?」
「大事にせえ言われたわ」
「? なにを?」
私の質問には答えず、アキラくんはただ笑った。
「……大事にしとるわって答えたわ」
「ふうん?」
「華は気にせんでええよ。一応言っとこ思うただけ」
「ふーん?」
「ええねん」
アキラくんはただ笑って、私の手を握った。それから、また空を見上げる。
「せやけど、イチョウって漢字やと銀って入るけど、金色やんな」
全然違う話。もうさっきの話はおしまい、ってことなんだろう。
「あ、ほんとだね」
「謎やわ~。調べてみよ」
アキラくんはスマホをぽちぽちと触り、私はそれを覗き込む。
「あ」
「あー、なんや、ギンナンの方な」
「確かにあれは銀色、といえば銀色」
そして顔を見合わせて、くすくすと笑いあう。ほんと下らないことしてると思うけど、アキラくんとなら何だって楽しい。
ふと検索サイトのニュース一覧を見て、私は首をかしげる。うちにはテレビも新聞もないので、ニュースをよく知らないのだ。
「女子中学生連続失踪事件?」
「あー。これな。おとんの話やと、九州から始まって関西、中部と来て神奈川らしいわ」
夏あたりから始まったらしい。
「なんでだろうね?」
「気をつけなあかんで華」
心配気なアキラくん。
「ん、大丈夫」
私は微笑む。
(だって、護衛の人たち、まだいるらしいからね)
圭くんいわく、だけど。
とはいえ、敦子さんとは、なんとなく普段通りの雰囲気になってきている。
ギスギスしてるのはやだし、敦子さんが私のことを思ってくれているのも、分かる。……分からないではない、くらいの感覚だけど。
情緒的には、なんだか中学生寄りな昨今だけど、それでも大人の分別はまだ、ちゃんとある。
真さんの話も合わせると、要は大人の世界のゴタゴタに巻き込まれちゃったわけか、と思う。
(駆け落ち、かあ)
アキラくんはそう言ってくれてる。今は現実感ないけど、……ほんとにそうしなきゃいけない日も、来るのかもしれない。
(巻き込んじゃっていいのかな)
好きだから、だからこそ離れなきゃいけないこともあるのかな、とも思う。傷つけたくないから。
ふと黙り込んだ私の手を、アキラくんがにぎる。
「? アキラくん」
「なぁ、華、俺のこと巻き込みたくないとか思うとらん?」
「え、あ」
「華」
アキラくんはその手を私の頬に添える。
「巻き込まれたいんや、俺は。部外者で指くわえて見てるより、華と一緒に傷つきたいんや」
おでこに唇を落とす。
「あかん? 俺、その方が幸せなんやけど」
「でも、アキラくんに傷ついて欲しくないってのは私の本心なんだよ」
「そんなんしらーん」
アキラくんの唇は色んなところに降ってくる。頬、こめかみ、頭、鼻。
「勝手だよ」
私は少し赤くなりながら言う。勝手なのは、巻き込んでおきながら、それに甘えてる私自身、なんだけど。
「勝手やで俺は。自分勝手なんや」
「そんなこと、ないと思うけど。勝手なのは、私の方」
「華、もうな、あんま抵抗すなや。無駄やで、俺は俺の好きなようにしかせえへん」
そう言った唇は、私の唇にふと触れて、すぐに離れた。
「……なぁ、その顔反則やで華」
「どうして」
「そんな寂しいって顔されたら、またちゅーしてまうやん」
そう言いながら、もう一度、アキラくんはそっと唇を寄せた。今度は、ほんの少しだけ深く。
「華の甘えたさん」
からかうように言う言葉に、私は笑って頷く。
「うん」
「ほんま可愛い」
こつん、とおでこを合わせてアキラくんと微笑みあう。
「俺も甘えたさんやから、甘えてええ?」
「うん」
頷くと、アキラくんはぎゅうっと私を抱きしめた。
「幸せなろうなぁ、華。今もじゅうぶん幸せやけど、もっともっと幸せなろうな」
「……うん」
私もぎゅうっとアキラくんを抱きしめ返す。
(こういうとこ、好きだな)
幸せにする、とかじゃなくて、幸せになろうなって言ってくれるところ。
うまく言葉じゃ表現できない。
アキラくんの肩越しに、銀杏が光る。
青空とのコントラストのせいだろうか。その葉は、やたらと眩しく光って見えて、あまりに綺麗で、私は目を離せなくなる。
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