【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・相良仁

不思議ちゃん(タイトル変更)

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 色々と混乱している、ます、です。

(え?)

 好き? 仁が? 前世、からずっと?

(なによそれー……)

 酷くない、私? すっごい恋愛相談とかしてたし、なんなら結構ナマナマしい話とかもしちゃってたような。
 ちらりと目線をあげると、運転してる仁もちらりとこちらを見た。

「……なんだよ」
「なんでもない」

 すっごいいつも通りのトーンで、私の混乱は深度を増す。うーん。ごちゃごちゃしちゃってるの、私だけ?
 その時、私のお子様ケータイが震える。

「と、あ。黒田くん」

(調べてくれるって言ってた件だ!)

 私は勢いよく通話ボタンを押す。

「もしもし!?」
『設楽か。さっきの件だけど』
「うん」
『見てたヤツいたわ。石宮といたらしい、昨日の放課後』
「石宮さん!?」
『どうする? 石宮に聞いてみるか』
「私も行く! すぐに戻るからっ」

 私は通話を切って、お子様スマホを握りしめたまま、仁を見上げた。
 仁は「はあ」とため息をつく。

「しょーがねーな。でも、そこまでだぞ。話を聞いて、万が一その"教団"とやらと繋がりありそうでも、お前が行く必要ねーんだからな。警察と鍋島兄に情報提供してオワリだ」
「わかってる、よ」

 ぎゅう、と私はお子様ケータイを握りしめた。

(千晶ちゃん、無事で)

 それだけを祈りつつ、私は念のため、に樹くんに電話をする。真さんと繋ぎを取ってもらえるといいんだけど。

(授業中かなぁ?)

 そう思ったけれど、案外すぐに出てくれた。

『華? どうかしたか』
「樹くんごめん、真さんと連絡とれる?」
『……鍋島の件か?』
「そうなの」

 私はざっと説明をする。転校生とトラブルになっていた、ということ。昨日の放課後、その子といるところを目撃した人がいるということ。

『分かった、すぐに伝える。華は学校か?』
「ええーっと、学校の先生といる」

 嘘ではないです。

『? そうか。危ないことはするなよ』
「はーい」

 揃いもそろって、みんな私が何か危ないことすると思ってるんだよなぁ。そんなに無鉄砲じゃないのに!

「いま五分休みだったか」
「? うん。多分」
「教室に乗り込むと話しづらいな、石宮、どっか呼び出すか……」

 仁はため息をひとつ(また)ついて、赤信号の間にスマホを触った。

「誰に頼んだの?」
「んー? ……秘密。てか、お前、俺がボディーガードだって知ってんの、絶対に気取られんなよ、俺クビになるから」
「……ほーん?」
「なんだよその顔……」

 私はほんの少し笑う。

(でも、そっか)

 私は車窓から流れる景色を見て考えた。

(クビになるリスクあっても、教えてくれたんだ)

 それは仁の真摯さの証明のようで、少しばかり面映ゆいなんて、思ってしまう。

(そーゆーとこ、真面目なんだよな)

 その辺りは、変わらない。
 学校の駐車場に停めて、昇降口に向かう。

(え、まじ)

 さっきの今で、もう到着したの!?
 真さんが手を振っていた。

「やっふー」
「……なんですか、やっふー」
「緊張の糸をほぐそうかと」
「不必要です」
「そ?」

 ちょっとふざけた風の真さんだけど、目元が赤い。

(寝てない、のかな)

 私服だし、登校もしてないんだと思う。

「さてさて、僕の妹におイタしちゃった子はどこかな?」
「えっと、その、まだ確定では」

 私たちは廊下を歩きながら話す。仁は真さんを掴みかねているみたいで、訝しげに見ていた。
 しかし、石宮さんはまだ豚さんとかにされると困るのだ……。千晶ちゃんのことを聞き出さなきゃ!

「失礼なことを考えてるね?」
「いやそんな」
「僕だって優先順位くらい考えるさ、そうだな、聞き出した後なら自動お掃除ロボットにしていい?」
「……、すみません、意味が」

 自動お掃除ロボット?

「ん? ほら、街中って結構汚れてるでしょ? 自動お掃除ロボットがいたらいいなぁ、って美化意識の高い僕なんかは思うわけ」
「はぁ」
「その子が道路をべろべろ舐めながら匍匐前進してくれたら、綺麗にならない?」
「なりませんっ! ていうか、なんていうか!」

 なにこれどう突っ込めばいいの!?

(千晶ちゃん、こんな大変な思いをいつも……)

「ふふ……さ、ウォーミングアップも済んだし行こうか」
「う、ウォーミングアップ?」
「そ!」

 真さんは笑う。

「ネタは上がってるんだよ! って机をバンと叩いてデスクライトを顔に向けたらいいんでしょ」

 なにその一昔前の刑事ドラマ!? と目をぱちくりさせた時だった。

「設楽!」

 廊下の反対側から黒田くんが駆けてくる。

「黒田くん」

 私が返事をすると、被せるように仁がにこりと微笑んで言った。

「おや、黒田君。授業はどうしました?」
「……なんでさがらん一緒なんだよ」
「まぁ色々ありまして」
「……へぇ?」

 黒田くんはちらりと仁を見上げて、それから「俺も付き合うわ」と私に言った。

「いいよ、授業行きなよ」
「なんでさがらんが決めんだよ、つか社会だよ、アンタいねーから自習だっての」
「む」
「俺だって鍋島が心配なんだ」

 黒田くんは堂々と言う。

「ダチの心配してなにが悪い」
「……わかったよ」

 そう言いながら見えてきたのは、社会科準備室。

「さーてさて、旧軍式拷問のお時間だよ」

 真さんは目を三日月のようにして言う。うわぁあ。

「や、やめてくださいっ」

 爪でも剥がすつもりか!

「冗談冗談」

 ケタケタ、と笑いながら真さんは扉を開けた。
 机に、ぽつん、と座っていたのはもちろん石宮瑠璃だ。

「え、えとあの、……っ、ま、真さんっ」
「んー? 僕のこと知ってた?」
「っ、あ、はいっ」

 背後にいる私たちは眼中にないのか、両手を組んで、夢見がちな瞳で石宮さんはうるうると真さんを見上げる。

「瑠璃のこと、を、好きな人……」
「……? "を"?」

 真さんもさすがに不思議そうだった。ふはは、見たか、これがアナタのヒロインですよ相当な不思議ちゃんですよ……。
 でもさすがは真さん、すぐに気を取り直したのか、にこりと美しく笑った。

「そうか、僕は君が好きなのか」
「っ、はいっ」
「知らなかったよ。ありがとう」
「いいえっ」

 石宮さんはにっこり笑う。

「運命的に決まっていることなのですからっ」
「運命的に、ねぇ」

 真さんは首を傾げて、その黒髪がサラリと揺れた。なんなら少しいい匂いがするぞ、なんだこの男子高校生……。逆に腹が立つなぁ。

「ところで瑠璃ちゃん、僕の妹知らないかな?」
「ち、千晶さんっ、ですかっ」

 石宮さんは何度か瞬きをして、その後首を振った。少しワザとらしい。

「し、知りませんっ。でも、」

 相変わらずのウルウルとした瞳で真さんを上目遣いに見る。捨てられた子犬のような瞳。

「ば、ばちが当たった、んじゃないでしょうかっ」
「バチ? どうしてだい?」
「えぅ、それは」
「教えて? 瑠璃」

 繊細な指の動きで、真さんは石宮さんの顎をくいっと上に向ける。

「ふ、ふぁあ、真しゃんっ」

 真っ赤になって、瑠璃は笑った。嬉しそうに。

「はいっ、教えますっ……千晶さんはっ、悪役令嬢ですから」

 ふと、目が冷たくなる。ひどく罪深い"罪人"を思い浮かべているような、そんな目。

「存在自体が、罪なのですっ。罪は、贖わなくては」
「なにを、言ってるの」

 思わず私は2人の間に割り込んだ。

「そんな目をして、千晶ちゃんを思い浮かべないでっ」
「……ああ、無事だった、の? 設楽華」

 私がここにいるのが心底不思議、という顔で、石宮さんは薄く笑った。

「ふしぎだねー? 瑠璃のお願いはなんでも叶うはずなのに」
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