【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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分岐・相良仁

突入(side仁)

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「なるほど、石宮瑠璃さんが」

 "教団"の案内係だという男は微笑んで言うから俺は少し拍子抜けする。正門から建物へと、その男は俺と鍋島兄を先導した。
 敷地内には、四階建ての一棟(なんか安く作られてそう)と、その横に教会。教会のほうは石造りで、きっちりと設計されている感じ……

(確か)

 長崎に似たような教会があるはずだ。あれをモデルにしたんだろう。

(なら……地下室があるな)

 地下室、というか地下聖堂?

(この安普請じゃ騒がれたらマズイと考えるだろ)

 そうなれば、おそらくーーあそこだ。
 
「石宮さん、来られていますよ」
「そうですか」

 鍋島兄は淡々と返事をした。

(こいつも読めねーな)

 腹も座っているみたいで、安心する。下手に騒がれても困るから。

(あいつら、大丈夫だろうな)

 華と黒田。一応、同僚に護衛は引き継いできているので滅多なことはないはずだ。

「彼女は、この教団について、何か?」
「いえ、詳しくはなにも」
「では簡単に」

 そう言って男は俺たちを応接室(?)のような部屋に通して、勝手に説明を始めた。簡素な応接セット。向かい合わせのソファ。

「じきに破滅が来るのはご存知ですね? ハルマゲドン」

 俺はゲンナリする。聞かなきゃダメかな?

「ヨハネの黙示録に、こうあります……"日の出る方から来る王たち"と。"東方の日出づる国"は、ヘブライ語で"ミズホラ"と呼ぶのです。日本の古名は、豊葦原瑞穂みずほの国。さらに"大和"は"ヤ・マト"であり、神の民をあらわすのです」

 マジかよヤッベ、と俺は乾いた笑みを浮かべそうになる。

(こういうの、信じちゃう人いるんだなぁ)

 しみじみと俺は男を見つめた。信じ切ってる目。

「このように、日本とは選ばれた地なのです。さらに、禁教時代に耐え忍び信仰を守った隠れキリシタンの裔たる我々の教祖さまは」
「すみませんお手洗い借りていいですか」

 "予定通り"に鍋島兄が微笑んで立ち上がった。

「……ならば案内を」

 話を遮られて鼻白む男に連れられ、鍋島兄は優美に微笑んで部屋を出て行った。

(さて)

 俺はいっそ堂々と部屋を出る。
 迷わず教会へ向かおうと建物から出て教会方面に目を向けて、俺は目を見開いた。塀をよじ登ってきたのだろう、華と黒田。

「「あ」」

 2人揃って目を丸くした。

「あ、じゃねぇ」

 俺は2人を睨みつける。

「何考えてんだ」
「……設楽のことは守るよ」

 黒田は塀から飛び降りて、まだ上にいる華に手を伸ばした。

「受け止めるから飛べ」
「あ、案外高いよ……」
「大丈夫だから」

 黒田が笑う。

「飛べ」

 華はひとつ頷いて、塀を飛び降りる。黒田が受け止める。俺は額に手を当てて「あー」と呟いた。

(何やってんだ)

 護衛の方の同僚は……、って俺は気づく。"華の行動に基本的には手を出さない"それが原則だ。

(いやでもこれは止めろよな)

 スマホには「そらちらに引き継ぎます」のメッセージ。建物から出る俺の姿が見えてたんだろう。チッ。

「あ、ありがとう」
「おう」

 横ではなんか青春してるし。はぁ、もうなんだこれ。

「出るぞ」
「え、やだ。千晶ちゃん探す」
「バカかお前ら、絶対車から出んなっつっただろーが」
「目の前にいるかもなのに!」

 睨みあげてくる華。

「ぜーったいダメだ」
「なんでっ」
「あなたたち何をしているんです!?」

 俺が出てきた建物から、数人の男たちが走ってきた。

「クッソ」
「なに見つかってるんですか先生~」

 いつのまにか鍋島兄も駆け寄ってきていた。

「作戦めちゃくちゃー」
「俺に言うな……とりあえず教会へ!」

 俺は華の手を引き、教会へ走る。鍋島兄と黒田も後ろに続いた。
 教会の重厚な扉を押し上け、中に飛び込む。扉を閉じて、閂のような鍵をかけてしまう。どんどん、と扉が叩かれた。知るか。
 磔にされたイエスの姿が刻まれた十字架、色とりどりのステンドグラスは聖母マリアと赤子のイエス。
 その光が落ちた祭壇の上に、鍋島はぽつんと座っていた。目隠しをされ、手を縛られてはいるが、特に大きなケガがある感じではない。

「千晶ちゃんっ!」

 華が転がるように走って、鍋島に抱きついた。

「は、華ちゃん?」

 華が目隠しを取ると、鍋島は目を見開いた。

「……お兄様」
「やあ千晶、少し顔色が悪いね」

 鍋島兄が肩をすくめる。

「ご心配を……って、華ちゃん! 助けて!」

 鍋島は顔面蒼白で華にしがみつく。

「え、なに、もう大丈夫だよ。すぐに逃げるよ?」
「アホか、逃げらんねーよ」

 扉の外では、怒号が響いている。

「警察に連絡だ」

 俺がスマホを取り出すと、鍋島兄が「僕が」と笑った。

「さすがにあのショチョーさんでも動くでしょ……もしもし?」

 俺はほんの少しだけ、安心した。あとほんの10分もすれば、ここに警察がなだれ込むだろう。

「違うの、石宮さんが危ないの!」

 鍋島はハッとしたように言う。危ない? 石宮が?

(利用されてるんだろうなとは思っていたけど)

 俺は鍋島を見つめた。

「え?」

 華も首を傾げて、聞き返す。
 鍋島は叫ぶように言った。

「このままだとあの子、殺されちゃう!」
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