【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
356 / 702
【高校編】分岐・山ノ内瑛

図書館

しおりを挟む
 無事に青百合に入学して、1週間ほどが過ぎた。

「あ、華ちゃん」
「ひよりちゃん」

 廊下でひよりちゃんとすれ違った。お友達もいたけど、なぜか驚いたような顔で私とひよりちゃんを交互に見ている。

(?)

 私は不思議に思いつつも会釈する。

「やほー」
「今から実技?」

 ひよりちゃんの持ってる楽譜を見て私は聞く。ひよりちゃんは音楽科なのだ。楽譜見せてもらったことあるけど、よく指がもつれちゃわないなぁって思う。

「そだよー」

 ちらり、と見せてくれた楽譜はやっぱり指が両手でも足りなさそうで、そう言うとひよりちゃんは笑った。

「練習すれば弾けるよ」

 これくらいなら、とひよりちゃんは言う。

「絶対ムリだぁ、私リズム感もないし」
「あは、ないよねー」

 からかうようなひよりちゃんに、私は「もー」と言いながら苦笑いする。

「どうするの、イースターにあるダンパ」
「眺めとくよ、分かんないもんワルツなんか」

 復活祭イースターのダンスパーティー。

("ゲーム"では最初の方で1番大きなイベントだったなぁ)

 その時1番好感度高いキャラクターとイベントが発生する。(華の妨害を避けつつ)花が咲き誇る庭園で、2人きりでダンスできるという、なんか良くある感じのイベント。

(ぜぇぇったいアキラくんとそんなイベント発生させないもんねっ)

 来年の話だけど。

(未来に嫉妬するって、ほんとバカらしいけど)

 妙な顔をしている私を見て不思議そうなひよりちゃんに、私は誤魔化すように笑った。

「じゃあ頑張ってー。また聞かせてね」
「うん」

 手を振って別れる。お友達さんもぺこりと会釈してくれたので、微笑んで会釈し返した。
 昼休み、ここの学校はお昼ご飯の選択肢が結構ある。お弁当、学食、カフェ。私はいつも学食を選ぶ。学食は、中等部と共通だから。
 入学式で話しかけられて以来、なんとなく仲がいい女の子、大村さんと並んで座った。大村さんも高校からの入学組。

「美味しそうだね日替わりランチ」
「親子丼も美味しそう」

 私が日替わりランチで、大村さんは親子丼。

「でも量、多くない……?」
「……あは」

 日替わりランチは基本的に男子向けっていうか、全体的に量が多め。

(で、でも食べておかないと放課後まで保たないんだもん)

 あんまり食べない子たちの燃費ってどうなってるんだろう……。

「なんか」

 ふふ、と大村さんは笑う。

「設楽さんって色々意外」
「え、そ、そう?」
「ごめんね、入学式の時はなんかつめたそーな子だなって勝手に」
「ああ」

 私は苦笑いした。

(悪役令嬢的な?)

「ちょっと目つき悪いもんね、私」

 もっと可愛らしい顔つきが良かったな、なんて言うと大村さんは驚愕の表情を浮かべた。

「えぇ、そのカオでまだ不満が……!?」
「な、なに!?」
「だって美人じゃん設楽さん」
「や、」

 否定しようとして、やめた。唯一の悪役令嬢スペック、整った顔面はさすがに否定できない。謙遜したらイヤミなレベルだ。全然生かせてないけど。

「……でも強そうすぎない?」
「大丈夫、話したらユルイの分かるから」
「ゆ、ゆるい」

 まぁ中身はゆるゆるな人なんですけども。うん。

「ここいい?」
「あ、どうぞ」

 向かいに座ったのは、同じクラスの男子2人。

「さっきの化学、いけた?」
「モル?」

 話しかけられて、答える。

「なんか急に"化学"ってかんじだよな」
「わかる」

 私と大村さんは苦笑した。一気に難しくなる、やっぱり。

「1モルが6.02かける1023個?」
「だからさ、1ダース12個みたいなかんじだろ」
「大雑把だな」
「あは、それわかりやすいね」

 私が言うと、男子たちも笑う。

「設楽さん、なんか意外だよな」
「わかる」
「あ、その話してたんだよ」

 大村さんもくすくす笑う。

「意外にとっつきやすい」
「え、そんなに第一印象悪い……?」

 私は目尻に手を当ててマッサージした。少しはタレ目になれ。

「……なにしてるの?」
「や、目つきがキツイせいかなって」
「だとしてもマッサージしても意味なくない!?」

 3人に笑われて、「もう」と頬を膨らませていると、軽く椅子に誰かがぶつかった。

「あ、さーせん」
「いえ」

 私はその人と目を合わせる。

(……ご機嫌ななめ?)

 私は首を傾げた。

「わ、関西弁だ」
「ここスポーツ留学とかけっこうあるみたいだもんな」

 男子がもぐもぐとカレーを食べながら言った。

「何部だろ。結構背ぇ高いな、中等部なのに」
「うらやましーな」
「な!」

 そう言い合う男子に、私は心の中で少し笑う。あの人はバスケ部で、とっても努力家で、とてもバスケが上手なんだよって。

「ん、そ、そう思ったんだって」
「んー、褒めてくれて嬉しいけどやな華」

 放課後、図書館。水曜日がミーティングだけのアキラくんとこっそり会う、地下の書庫。
 多分ほかに人はいなさそうだけど、小声でひそやかに話す。

「俺にヤキモチやかせてどうにかしたいん? 華は」
「ん、だから」

 たまたま同じテーブルに、って言う声はキスでかき消された。降り注ぐキス。

「あんな可愛いカオ、他のやつに見せよって」
「、そんなカオしてないよ」
「もおオトコと飯なんか食うたらあかんで?」
「でも、クラスの」
「クラスのでもあかん」

 アキラくんは私の耳を軽く噛む。

「シットで死にそう」
「それは」

 私もむう、と口を尖らせた。

「私のセリフだよ。キャーキャー言われて」
「勝手に寄ってくんねん、知ってるやろ?」

 アキラくんは私の手首をとって、そこにもキスを落とす。

「俺には華だけやって」
「私もだよ」

 ほとんど鼻が触れあうような距離でお互いを見つめて、ほとんど同時に吹き出した。

「アホやな俺ら」
「ね、ほんと」

 クスクス笑いあう。

「こっそり練習観に行こうかな」
「俺は嬉しいけど、華目立つで」
「目立つかなぁ」
「自覚ナシかい」

 アキラくんは私の頭をくしゃくしゃにした。

「毎日会いたい」
「俺も」

 私たちは静かに抱き合う。アキラくんの心臓の音だけが聞こえる。
 時間なんか進まなければいいのに、と私は強く思った。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...