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【高校編】分岐・山ノ内瑛
金髪少年の目論見
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「たしかに! 校則にはありませんが、不文律として色味は抑えておくというルールが」
「フブンリツの意味が分からへんわ、高等部の風紀委員サン」
金髪になっちゃったアキラくんはニヤニヤしてる。ほんとにもう!
「せやったら校則に書いといてや」
「それは今問題にすることではありません!」
私は心の中で苦笑いする。
アキラくんのお陰で、他の人の服装チェックしないで済んだ。
「とにかく、明日までに少し色を抑えて」
「校則に書いてくれたらな?」
アキラくんは私の髪をさらりと梳いた。
耳元でそっと言う。
「また説明するわ」
何か理由があるのかな、と見上げるとちょうど予鈴が鳴った。
「ほなね、風紀委員サン」
「ちゃんと染め直すように!」
赤くなってた頬を誤魔化すように、厳しい声で告げる。アキラくんは後ろ手で手を振って、さっさと中等部方面に歩いて行ってしまった。
「すごい子がいたねー」
委員会の先輩に話しかけられた。
「あ、はぁ」
「明日も声かけお願いできるかな? 一応、最初に声かけた人が担当みたいになる仕組みだから」
「……わかりました」
喜びをぐっとこらえて、低い声で返事をする。やった! 水曜日以外でもアキラくんと話せる。
(それも、人前で堂々と)
「しかし、設楽さんハッキリしてていいね! 怯まないあの男子が凄いよ」
「え」
私は頬を抑えた。そ、そんなに怖かったでしょうか、私は……。
「今後も頼むよ」
ぽん、と肩を叩かれて私は曖昧に笑った。
その日の昼休みには、今年の風紀委員はかなりコワイのがいる、なんて噂が回ってきていた。
私は机に突っ伏す。
「……、誤解なの」
「設楽さん、ドンマイだよ」
大村さんが背中を撫でてくれた。
「なんかね、設楽さんが朝注意してた男の子って、中等部女子どころか高等部にもファンの女の子がいるくらいの選手で……あ、バスケ部らしいんだけど」
「……うん」
ごめんなさい、知ってます、と思いながら返事をする。
「その子たちが話してるうちに、話に尾ひれがついちゃったみたいだよ」
「……まぁ、まぁまあまあ、いいんだよ、別に。私は私の仕事をするだけです」
考えようによっては、これはラッキーなのだ。
私とアキラくんが対立しているように見えることは、付き合ってるのがバレないで済むということだし。
なんなら、今後2人で話しているところを少し目撃されても「髪について話していた」で誤魔化せるようになるんじゃないかなとも思う。
(でも、他のクラスの人にチラチラ見られるのは居心地悪いなぁ)
移動教室の途中、クラスの男子、こないだいっしょにご飯食べた子、が苦笑いして話しかけてくれた。
「目立っちゃってんな」
「うー、まぁ悪いことしたわけじゃないし」
ふん、と息を吐いて胸を張る。
「堂々としておく」
「お、いいね」
にやりと男子くんが笑ってくれて、私も笑い返す。
のが悪かったのか、というかどこで高等部の移動教室の様子を見ていたのか、私は放課後、またもや図書館の地下の隅っこで、アキラくんに耳を噛まれていた。
「笑うくらいする、でしょっ」
舐めないでほしい、耳。
赤くなって見上げると、不機嫌そうな目とかち合う。揺れる金髪。
「俺はせぇへん」
「う、そ、それくらい」
「せんもんはせん」
アキラくんは私の頬をうにょんと掴む。
「華は自分がカワイラシーこと自覚しとらん」
「自覚、んんんっ」
今度は唇を噛まれた。
「もう」
噛まれた唇は舐め上げられて、アキラくんはニヤリと笑った。
「こんなもんにしといたるわ、お仕置き」
「お、お仕置きだったの」
「せやで」
アキラくんは目を細める。
「もっとされたいん? 華は」
「い、いえいいですっ、てか、それ、これ」
私はアキラくんの髪を指差す。
「どーいうこと」
「話逸らされたなぁ」
アキラくんは金髪を摘みながら言った。
「目立と思って」
「目立つ?」
おう、とアキラくんは言う。
「できれば大学もアメリカのがええよな思って」
「うん」
「スカウトに手っ取り早く目ぇつけてもらおうと」
「うまくいく?」
「サッカー選手とかはやるらしいで」
わざと髪派手にしてな、とアキラくんは言う。
「やっぱりチーム競技やし、プレイで目立つにも、そもそも見ててもらわなあかんからな」
「でも、金髪、怒られない?」
「結果出せばええ言われとる」
カントクにはな、とアキラくんは言った。
「そもそも校則にないやんけ」
「あるとかないとかじゃないんだけどね」
私は少しかがんでもらって、その金髪に手を通す。綺麗な金色。太陽みたいな色。
「きれい」
「……せやろ」
アキラくんは私のおデコに優しくキスをした。
「せやけど、いっぱい怒りに来てな? 風紀委員サン」
「もう毎日怒りに行くよ」
クスクス、と私は笑う。
「というか、普通に染め直して。ダメなものはダメ」
「なんでや校則にないやん」
「ないけどさー、私もなんで怒ってんのか良くわかってないんだけどさ~」
私はぷうと頬を膨らませてまたもやグチる。
「女子だけやたら厳しいし。男子は髪染めても良くて、女子はポニテさえ禁止って訳わかんない」
「女子の方変えたらええやん」
「そうできたらラクだけど、そうもいかないっぽいんだよなぁ」
私は軽く首をひねって考える。
(せめて女子の方の、前時代的な校則だけでも変えられたらなぁ)
なんですか、うなじを見せてはいけないというのは……。
「あ、てかっ!」
私はハタと思い出す。
「アキラくんのせいで私、コワイ人だと思われてるんだからね!」
それは怒ってるんだから! と言うとアキラくんはニヤリと笑った。
「ラッキーや、そしたら華につく虫が減るわ」
「虫て」
そもそもそんなもの、付かない。
そう言ったけど、アキラくんは渋い顔で黙ってしまって、私の髪をぐちゃぐちゃにして、トドメにデコピンまでお見舞いしてきた。
「ブサイクになーれー」
「なにその呪い!」
唯一の悪役令嬢スペックが奪われてしまうではないですか……。
そんな風に思いながら、私はおデコを押さえてアキラくんを見上げるのでした。
「フブンリツの意味が分からへんわ、高等部の風紀委員サン」
金髪になっちゃったアキラくんはニヤニヤしてる。ほんとにもう!
「せやったら校則に書いといてや」
「それは今問題にすることではありません!」
私は心の中で苦笑いする。
アキラくんのお陰で、他の人の服装チェックしないで済んだ。
「とにかく、明日までに少し色を抑えて」
「校則に書いてくれたらな?」
アキラくんは私の髪をさらりと梳いた。
耳元でそっと言う。
「また説明するわ」
何か理由があるのかな、と見上げるとちょうど予鈴が鳴った。
「ほなね、風紀委員サン」
「ちゃんと染め直すように!」
赤くなってた頬を誤魔化すように、厳しい声で告げる。アキラくんは後ろ手で手を振って、さっさと中等部方面に歩いて行ってしまった。
「すごい子がいたねー」
委員会の先輩に話しかけられた。
「あ、はぁ」
「明日も声かけお願いできるかな? 一応、最初に声かけた人が担当みたいになる仕組みだから」
「……わかりました」
喜びをぐっとこらえて、低い声で返事をする。やった! 水曜日以外でもアキラくんと話せる。
(それも、人前で堂々と)
「しかし、設楽さんハッキリしてていいね! 怯まないあの男子が凄いよ」
「え」
私は頬を抑えた。そ、そんなに怖かったでしょうか、私は……。
「今後も頼むよ」
ぽん、と肩を叩かれて私は曖昧に笑った。
その日の昼休みには、今年の風紀委員はかなりコワイのがいる、なんて噂が回ってきていた。
私は机に突っ伏す。
「……、誤解なの」
「設楽さん、ドンマイだよ」
大村さんが背中を撫でてくれた。
「なんかね、設楽さんが朝注意してた男の子って、中等部女子どころか高等部にもファンの女の子がいるくらいの選手で……あ、バスケ部らしいんだけど」
「……うん」
ごめんなさい、知ってます、と思いながら返事をする。
「その子たちが話してるうちに、話に尾ひれがついちゃったみたいだよ」
「……まぁ、まぁまあまあ、いいんだよ、別に。私は私の仕事をするだけです」
考えようによっては、これはラッキーなのだ。
私とアキラくんが対立しているように見えることは、付き合ってるのがバレないで済むということだし。
なんなら、今後2人で話しているところを少し目撃されても「髪について話していた」で誤魔化せるようになるんじゃないかなとも思う。
(でも、他のクラスの人にチラチラ見られるのは居心地悪いなぁ)
移動教室の途中、クラスの男子、こないだいっしょにご飯食べた子、が苦笑いして話しかけてくれた。
「目立っちゃってんな」
「うー、まぁ悪いことしたわけじゃないし」
ふん、と息を吐いて胸を張る。
「堂々としておく」
「お、いいね」
にやりと男子くんが笑ってくれて、私も笑い返す。
のが悪かったのか、というかどこで高等部の移動教室の様子を見ていたのか、私は放課後、またもや図書館の地下の隅っこで、アキラくんに耳を噛まれていた。
「笑うくらいする、でしょっ」
舐めないでほしい、耳。
赤くなって見上げると、不機嫌そうな目とかち合う。揺れる金髪。
「俺はせぇへん」
「う、そ、それくらい」
「せんもんはせん」
アキラくんは私の頬をうにょんと掴む。
「華は自分がカワイラシーこと自覚しとらん」
「自覚、んんんっ」
今度は唇を噛まれた。
「もう」
噛まれた唇は舐め上げられて、アキラくんはニヤリと笑った。
「こんなもんにしといたるわ、お仕置き」
「お、お仕置きだったの」
「せやで」
アキラくんは目を細める。
「もっとされたいん? 華は」
「い、いえいいですっ、てか、それ、これ」
私はアキラくんの髪を指差す。
「どーいうこと」
「話逸らされたなぁ」
アキラくんは金髪を摘みながら言った。
「目立と思って」
「目立つ?」
おう、とアキラくんは言う。
「できれば大学もアメリカのがええよな思って」
「うん」
「スカウトに手っ取り早く目ぇつけてもらおうと」
「うまくいく?」
「サッカー選手とかはやるらしいで」
わざと髪派手にしてな、とアキラくんは言う。
「やっぱりチーム競技やし、プレイで目立つにも、そもそも見ててもらわなあかんからな」
「でも、金髪、怒られない?」
「結果出せばええ言われとる」
カントクにはな、とアキラくんは言った。
「そもそも校則にないやんけ」
「あるとかないとかじゃないんだけどね」
私は少しかがんでもらって、その金髪に手を通す。綺麗な金色。太陽みたいな色。
「きれい」
「……せやろ」
アキラくんは私のおデコに優しくキスをした。
「せやけど、いっぱい怒りに来てな? 風紀委員サン」
「もう毎日怒りに行くよ」
クスクス、と私は笑う。
「というか、普通に染め直して。ダメなものはダメ」
「なんでや校則にないやん」
「ないけどさー、私もなんで怒ってんのか良くわかってないんだけどさ~」
私はぷうと頬を膨らませてまたもやグチる。
「女子だけやたら厳しいし。男子は髪染めても良くて、女子はポニテさえ禁止って訳わかんない」
「女子の方変えたらええやん」
「そうできたらラクだけど、そうもいかないっぽいんだよなぁ」
私は軽く首をひねって考える。
(せめて女子の方の、前時代的な校則だけでも変えられたらなぁ)
なんですか、うなじを見せてはいけないというのは……。
「あ、てかっ!」
私はハタと思い出す。
「アキラくんのせいで私、コワイ人だと思われてるんだからね!」
それは怒ってるんだから! と言うとアキラくんはニヤリと笑った。
「ラッキーや、そしたら華につく虫が減るわ」
「虫て」
そもそもそんなもの、付かない。
そう言ったけど、アキラくんは渋い顔で黙ってしまって、私の髪をぐちゃぐちゃにして、トドメにデコピンまでお見舞いしてきた。
「ブサイクになーれー」
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